残身は大事、でも短めに
「まずは弓の構えからですが、構えてみて貰えますか?」
「分かりました。まずは肩幅くらいに開いて、次は矢をつがえて弓を掲げて引っ張る動作まで…」
私は前世で見様見真似の構えをする。
「ふむ、あまり見たことのない動きですが、最終的な構えは悪くないですね?後はこの肘の部分を上に、それともう少し気持ち上向きでしょう」
「上向きですか?」
「多分ですが前に使っていた弓は大きかったのでは?大きい弓はまっすぐ飛びますし、飛距離も長いですが、この弓だとそこまで真っすぐには飛びませんから、やや上向きに構えるのです。こんな感じですね」
フィアルさんが私から弓を取って構えて見せる。動作もすごく滑らかだ。持ってからすぐにスッと構えてる。
「思った通り結構いい弓です。引く力は要らないですがぶれませんし、癖がないから長く使えますね」
「やっぱり良し悪しってあるんですか?」
「一概には言えないですが。冒険者として未熟なうちは粗悪品になりますから、まっすぐ飛びにくい。逆に慣れた頃に買い替えると今度は当たらなくなります。軌道の修正が不要になりますからね」
「じゃあ、弓使いって買い替えが大変じゃないですか?」
「そうですね。だから、一番いいのは最初に良い弓を買うことですが、多くは諦めて安い弓を買うか短剣等の安い武器でお金を貯めます」
苦労してるんだなぁみんな。
「では、今のを踏まえてもう一回持ってみて下さい」
「はい!」
言われた通りにもう一度弓を持ってみる。それから足を開いて…。
「やはり構えはいいですよ。後はその構えにすぐ移れるようにしないといけませんね」
「すぐにですか?」
「戦場になれば弓はすぐ撃てないといけません。気を引くためでもとどめを刺すためでも。毎回きちんと構える余裕はありません。ただ、自分が命中を重視するのか連射するのかは考えないと後々困りますよ。戦い方が変わりますから」
「なるほど…」
私の場合だったら力がないし、連続して撃ったらすぐにでも腕が上がらなくなりそうだなぁ。素早く構えて一回一回正確に撃つ。これかな?
「じゃあ、正確に撃つ方で!」
「では、急がなくてもいいですが、さっきの構えを素早く行えるように練習ですね」
私はフィアルさんに言われた通り、構えを素早くできるように練習する。弓を引くところまで行くと力を使うのでふりだけだ。
「フィアル!説明終わったか?」
「さわりは。こちらも練習しますか?」
「そうだね。腕はなまってないかも心配だからな」
奥で何を始めるのかと思いきや、ジャネットさんとフィアルさんが直線状に距離を取る。そしてフィアルさんが弓を構えたと思ったら、ジャネットさんに向かって矢を放った―――。
「えっ!?」
放たれた矢はジャネットさんの少し横の木に刺さる。
「フィアルさん何を!」
「ああ、アスカには言ってなかったっけ?こうやって、ゴブリンや他の奴らに襲われた時の対策をしてるんだよ。へたくそなやつだと周りに当たって迷惑かかっちまうからたまにだけどな」
「そうだったんだ…」
「すみません驚かせて。私たちの間では結構、常識的にやっていたので」
「他のパーティーの方もしてるんですか?」
「仲の悪いとことか利害でつるんでるとこでこれやったら即、解散だね。あんまり見たことないな」
「そうですね。ああ、アスカさんは練習を続けて下さい」
「あ、はい…」
当たったら痛そうだなと思う反面、信頼してるんだとも感じた。やっぱり、前のパーティーはすごく気に入ってたんだろうなぁ。そんなことを考えながら、私は次第に弓を構えることにのめりこんでいった。
一時間ぐらいたっただろうか?ふと気が付くと、フィアルさんとジャネットさんは木陰で休んでいた。
「ああ、ようやく気付いたか。結構、集中力高いんだねぇアスカは」
「見どころがありますよ。普通は矢も撃たずに持つのは20分ぐらいですから…」
「前からのめりこむ癖があって。この前も細工してたらすっごく時間経ってたんです」
「ほう、細工ができるのですか。それはいいですね。ギルドに持って行かなくても自分で矢を作れるようになれば、時間は取られますが安く済みますからね」
「フィアルさんも自分で作るんですか?」
「ええ、気に入った矢じりの大きさや場合によって使い分けるのにいいですから。本当は魔力付与できたら尚よかったんですけどね。魔力矢は高いので…」
「へぇ~作った後に付与するんですか?」
「魔石を埋め込んで作るそうですよ。1本あげますよ」
そう言ってフィアルさんがくれたのは緑色をした矢だった。
「これってグリーンスライムの魔石ですか?」
「そうです。よく知ってましたね。あの魔石を加工して矢にするみたいです。まあ、質の悪いものばかり使いますが」
「なら、私できるかも!前にこの魔石で髪飾り作ったんです」
「それは素晴らしい!…ですが内緒にしておいた方がいいですよ」
「あっ…」
また、情報を漏らしてしまった。このうかつさ、隠ぺいのスキルがあってほんとによかった。
「でも、矢の作り方は知らないでしょう?材料がそろって暇な時があれば矢の作り方は教えますよ。都合が悪いなら武器屋のゲインさんも知っていますよ」
「ほんとですか?でも、私はお返しとかできませんけど…」
「大丈夫です。お店に客として来ていただければそれで結構ですよ」
確かにあのお店で食べたらそれなりに儲けが出るよね。フィアルさんもしっかりしてるなあ。
「んじゃ、休憩も終わりってことで、実際に矢を撃ってみるか?」
「そうですね」
「それではまずは好きなところに下がって弓を構えて下さい」
私は目の前の木から10メートルほど離れる。すると、フィアルさんが木に茶色い皮をセットした。
「では、これ目がけて矢を撃って下さい。この距離だとやや上向きですね」
「はい!」
私は矢を抜き取り、弓につがえて引っ張る。そして的の皮を狙って…ヒュン。
「うう~」
矢は木を外れ奥へと飛んでいった。
「アスカさん。きちんと外れたこと以外にもどう外れたかを覚えておいて下さい。高さも大事です」
「は、はい!」
続けて2射3射と撃っていく。結局は10射のうち的に当たったのは3射のみ。
「全然当たりません…」
「最初だから仕方ないですよ。それより撃つごとに腕の動きがバラバラなのでそれを直して下さい」
「はい!」
フィアルさんにそう言われ、今度は腕の動きに注意する。ちょっと窮屈だけど慣れるまでと思い我慢だ。
ヒュンヒュン
今度は5射のうち2射が当たった。それに他の矢も木をかすめるぐらいには近づいてきていて安定してきている様だ。
「その調子です。次からは当たった時の感触を思い出すようにやって下さい」
「分かりました」
次は10射、射ってみる。すると半分の5射が的の皮に当たり、残りもすべて木に当たった。
「その調子です。もう少し練習すればコツがつかめますよ」
「そうなんですか。でも…」
「どうしたんだいアスカ?」
「…ごめんなさい。ちょっと腕が」
「なんだい、もう限界か。アスカあんた一体どれぐらい力低いんだい?」
「何なら見ます?」
教えてもらってるし、これから討伐依頼の時に実力を知ってもらいたいと言うのもあるので勧めてみる。
「いや、ですが…」
「なんだい?フィアルは気にならないのか。じゃあ、あたしだけでも…っと」
「いえ、教えるのにちょうどいい値もありますしね」
そういえば、ギルドを出る時にホルンさんからステータスも更新しておいたわって言われてたな。いつでも見られるから意識してなかったけど。私は裏のステータス画面を開いて2人に見せる。
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:Eランク冒険者
HP:68
MP:260/260
力:15
体力:26
早さ:28
器用さ:70
魔力:90
運:50
スキル:魔力操作、火魔法LV2、風魔法LV3、薬学LV2、細工LV1、魔道具使用LV1
「おおっ!アスカすげえじゃん。魔力操作持ちか!滅多にないんだよこれ。それにしても魔力方面に偏ってんなぁ。もうちょっと力と体力つけろ」
「へへっ」
これでも力は初期値の3倍なんですけどね。そんなこと言ったら呆れられるだろうけど。
「確かに魔法関連に偏ってますが、器用さも高いですよ。駆け出しのレンジャー志望でもせいぜい50がいいとこですよ」
「それじゃあ私らのも見せてやるよ」
そう言ってジャネットさんもフィアルさんもカードを裏返しにして見せてくれる。
名前:ジャネット
年齢:19歳
職業:Cランク冒険者/剣士
HP:425
MP:30/30
力:178
体力:126
早さ:182
器用さ:130
魔力:15
運:30
スキル:剣術LV4、投擲LV2、調理LV1、格闘術LV3、解体LV1
名前:フィアル
年齢:21歳
職業:Cランク冒険者/弓使い
HP:381
MP:186/186
力:135
体力:149
早さ:200
器用さ:206
魔力:64
運:28
スキル:弓術LV4、投擲LV3、調理LV3、索敵LV2、短剣LV2、水魔法LV2、解体LV2
「うわ~、やっぱり二人とも強いですね」
2つもランクが離れるとここまで違うんだな。というか私の力ってジャネットさんの10分の1以下なんだけど…。
「おや、フィアル。あんた解体のLV、私と一緒の1じゃなかったっけ?」
「それが、料理中に魔物の肉の解体をしてたら上がったんですよ。調理スキルも上がりましたよ。ジャネットこそ苦手だった投擲のLVが上がってるじゃないですか」
「いつまでも、当てられないようじゃ依頼も狭まるってもんでね」
なんかこうやって久しぶり合った仲間がお互い成長してるシーンっていいなあ。
「でも、思ったよりアスカが強くてびっくりしたね」
「ええ、まさか風魔法もLV3とは。Dランク冒険者にもそれほどいませんよ」
「あはは、普段から生活で使ってるんで…」
そういえば洗濯する時に風を使って手と同じ動きが出来てたけど、弓でも出来たりするのかな?ふと気になったので弓をもう一度持って手に風の魔法をまとわせる。矢を持って引く時に手ではなくて風の魔法を引く感じで…。
「おおっ!簡単に引ける!」
しかも腕もぶれない。これこそ理想の構えかも。
「それじゃあ、的を狙って…えいっ!」
放たれた矢は少しだけ風の魔法の影響を受け一直線に進んでいく。そのため、残念ながら的の少し上に刺さった。
「残念、外れちゃった…」
「アスカあんた今…」
「えっ?」
振り向くとそこにはびっくりした顔のジャネットさんと何やら難しい顔をしているフィアルさんの顔があった。