念には念を
噴水広場に着いたはいいものの、いまだに事情が呑み込めていないリュートは目をぱちくりさせている。
「あ、あの、どうしてここに?」
「リュートに用事があって。ちょっと待っててね」
説明もそんなに長くかからないし、みんな揃ってからでいいだろう。
「分かったよ」
何だろう?リュートが落ち着きないなぁ。もしかして孤児院でやり残したことがあったとか?
「ごめん。まだ用事あった?」
「ううん、そっちは大丈夫だけど…」
言いたいけど言い出せないそんな感じだ。何だろうな?
「お~い、アスカ。いたか?」
「あっ、ジャネットさん。無事見つけましたよ!」
「あれ、ジャネットさんにノヴァも!?」
「どうしたんだよリュート。アスカから何も聞いてないのか?」
「えっ、うん…」
「揃ってから改めて話そうと思って。それじゃ、街の東に行きながら話すね」
「はいよ。ちゃんと説明してくれよ」
「は~い」
こうして、いまだによく事情が分かっていないリュートを含めて、私たちは東門まで歩き出した。
「で、どういうことなの?」
「んとね。この前、シャスさんに聞いたんだけど…」
私は歩きながら、エヴァーシ村で出会った鍛冶屋のシャスさんの話を紹介する。
「へぇ~、随分前に廃村になった場所なんてあったのか。そんな話、聞いたことないけどねぇ」
「エヴァーシ村の人でも、あんまり知られてないみたいですね。シャスさんは前の村長さんが生きていた時に、お酒の席で聞いたって言ってました」
「でも、それってただの言い伝えだろ?ほんとにあんのかそんなとこ」
「そう言われると、そればっかりは行って見ないと…」
実際、私もワクワクしているけど、何もないって可能性もあるもんね。
「で、なんでそれで今日は集めたんだい?」
「その村を目指すとしてですね。やっぱり野宿の回数が増えると思うんですよ。そうなった時用に以前作ってみたこのグリーンスライムの魔石を使ったバリアが役に立つと思いまして」
「でも、アスカ。それってもう出来上がってるように見えるけど…」
「リュートの言う通りだぜ!俺たちには作れないんだから、当日説明で良くないか?」
「ダメダメ。みんなにどのぐらいの強度があるか知ってもらわないと!そしたら、夜も安心して眠れるでしょ?」
「アスカの言う通りだけど、それなら、次に集まる機会でよかったんじゃ…」
「ダメですよ!そんなことじゃ、他のパーティーに先を越されちゃいますよ。決めたらすぐに準備しないと」
「よく言うぜ。そんな話、今までしなかったじゃん」
「それは良いタイミングがなかったの。それに、長旅の後にすぐにまたなんて難しいでしょ?」
「そう言われるとそうかも。今だと宿の方も結構安定してきてるし」
「ほらね」
「それはたまたまだろ。リュートも騙されんなよ」
むぅ、いつもと違って珍しく風当たりが強いなぁ。ここはひとつ…。
「それにね。シャスさんが言うには、失われたものがあるかもだって!」
「なんだよそれ?漠然としてんなぁ」
「まあそうだけど、この周りでも数百年前から未知の場所なんてないじゃない?それがそこにはあるんだよ。珍しい鉱石とか、昔の人が使ってた武器とかあるかもしれないよ!」
「ほんとか!それなら一度行ってみるのもいいかもな」
うんうん、そうでしょう。未知の文明がもたらすロマン!これに勝てない冒険者はいないもんね。その横で小声でリュートとジャネットさんがひそひそ話している。ちょっと風の魔法で音を拾ってみよう。
「あんなこと言ってますけど、そんなの本当にあるんですか?」
「まあ、冒険者の歴史の中でない訳じゃないよ」
「それじゃあ、本当に?」
「リュートも落ち着きなよ。そんなのがあったら、村が壊滅すると思うかい?魔物なんぞ一蹴しただろうね。滅びたってことは基本そんなもんはないよ。大体、そんな文明があったら発展しててしかるべきだろ?うまい話ばかり信じちゃだめだよ」
「…そうですよね。冷静にちょっと考えればわかることでした。すみません」
何と失礼な会話だろうか。それじゃあまるで、シャスさんに話を聞いてからいつ話そうかと待っていた私がバカみたいじゃない。ここは2人にはセオリー通りな事ばかりじゃないって、知ってもらおう。世の中には未知の物事があふれかえってるんだよ。私だって、神様がいるなんて最初は疑ってたんだから。
「この辺でいいですかね」
門を通って、ちょっと南側に着いた。ここは何度か戦闘訓練をした場所で、今でも目立ちにくい場所だ。魔道具の効果を測るにはいい場所だろう。
「で、バリアの魔石の強度を測るんだったね。どうやるんだい?」
「まずは私が壊れない程度の魔法を撃ちこみます。その後、リュートには風魔法と槍で、ノヴァとジャネットさんには剣で一撃入れてもらいます。そうやって、ひとりひとりに強度を確認してもらおうかと」
「途中の攻撃で壊れたら?」
「その時は違う魔石で試します。数はあるので、重要なのはみんなに強度がどのくらいか理解してもらえればいいので」
「自信の程からすると、結構なもんみたいだね。ちょっと楽しみになって来たよ」
「ジャネットさんは最後ですよ。一撃で壊されそうですから」
「はいよ。んじゃ、楽しみに待っとくかね」
ジャネットさんは伸びをしてから、木の根元に座り込む。最初が私で次がリュートなので、ノヴァも草の上に座って出番を待つ。私はというと準備だ。バリアの中に分かりやすくするためにボロ布を1つ入れておく。そうすれば、攻撃が貫通したかが一目でわかるということだ。
「それじゃ、行きますね~」
「はいよ」
皆に合図をしてバリアを発動させる。そして、いよいよ実験開始だ。
「まずは、ファイアボール」
火球をバリアに向かって放つ。威力もちょっと抑えているので当然貫通することはない。それでも、ぶわっと燃え広がろうとするぐらいには強い火力だ。
「すげぇ、ほんとに防いでるな」
「まだまだ、今度はこっちだよ。ウィンドブレイズ」
今度は無数の風の弾丸を撃ちつける。当然これもバリアが防いでくれる。
「さらに、アースグレイブ!」
物質系でも難なく防げることを示すため、最後に土魔法を放つ。がんっ!と音が響くが当然バリアは貫通しない。これで大体のことが分かってもらえたかな?
「思ったより、頑丈なんだね」
「そりゃもちろん、みんなの安全にかかわることだし。さっ、リュートもやってみて」
「トラウマにならなきゃいいけどね。まあ、とりあえず見とくかねぇ」
「それじゃあ、まずは魔法だね。ウィンドカッター」
ヒュンヒュンヒュンと連続して風の刃が襲い掛かる。しかし、バリアはものともせずそこに張られたままだ。
「ほんとに硬いなぁ。それじゃ、次は魔槍で…」
魔槍を出すリュートだけど、やや様子見といった感じで突きを繰り出す。
カンッ
音とともに槍がはじかれる。
「う~ん。思ったより硬いかも?それじゃあ…」
ガンッ
今度は確実に力を入れて突き出した。
パリッ
一瞬、穴が開いたけれど、残っている魔力を頼りにバリアを修復する。
「あっ、塞がっちゃった…」
「もうリュートは良いだろ?俺がやってやるぜ!」
ノヴァはリュートの攻撃を見て最初から全力のようだ。
「うりゃ!」
カン カカン
しかし、ノヴァの一撃ではバリアに変化は見られない。おっかしいなぁ、切れ味も威力も見た感じ同じぐらいだと思うのに…。
「何で俺のだけ効かないんだよ!」
「こりゃ、相性だね。リュートの魔槍が曲りなりにでも魔力を帯びているのに対して、あんたのその剣は切れ味は良いものの、魔力はほぼ感じられない。風魔法のバリアってところで魔槍の方がやや有利なんだろうね。遠目からでも2人の攻撃に威力の違いはほとんど見られないよ。勢いを考えたら、ノヴァの方があるぐらいだ」
「じゃあ、俺には無理ってことか?」
「今の装備じゃね。という訳で真打登場と行くかい」
ジャネットさんが立ち上がり、バリアの方へ向かう。そしてまずは一閃。
キィン
甲高い音とともに、剣がはじかれた。
「へぇ?確かに、相手の不意を突いたりするには十分すぎる性能だね。人気が出る訳だ」
「売ってるのより、出力高くなってますけどね」
「んじゃ、いっちょいきますか」
剣を持ち替えて、ジャネットさんが構えなおして再び一閃する。
「はぁっ!」
パリン
バリアは当たったところから音を立てて崩壊する。うう~ん、これは間違いなく耐えられる以上の攻撃だね。
「流石に今の一撃は防げないみたいです」
「でも、貫通して中に一撃入ってる訳でもないみたいだし、十分だね。魔物がさっきみたいな魔法と物理の合わせ技をそうそう放って来る訳もないしね」
「じゃあ、合格ですか?」
「ああ。十分、野営時に役に立つよ。というより、いちいち見張りを立てなくても、レディト周辺ぐらいなら大丈夫そうだね」
「なら、これでロマンを追求しに行けますね!」
「結局そこになるのかよ!まあいいや。今回ので属性ってのを嫌って程味わったから、行く前にちょっと魔法込めてみてくれよ」
「前に言ってた折れた剣の分?」
「そうそれ。半分ぐらいになっちまってるけど、刀身は残ってるから、柄だけ付ければまだいけると思って持ってるんだ」
「わかった。うまくいくか分かんないけど、一度やってみるね」
「ほら、その前に費用の話をしときな」
「あ、はい。え~っと、金貨1枚で。ただし、失敗してももらうよ。魔力とスクロールが必要だから」
「分かったよ。折角、うやむやにしようと思ってたのによ」
「アスカ。こういう商人が良くいるから注意するんだよ」
「は~い」
それじゃ、旅に出る前にノヴァに魔法剣を作ってあげないとね。バルドーさんたちと別れた私はこうして次の出会いを求めて、新たなる旅に出るのだった。