番外編2 フィーナの大冒険
折角、ギルドにカードを作ってもらったのにそれがすごいのかわからなかったから、おっさんに聞いてみる。
「なあ、カードは作れたんだけどこれってすごいのか?」
「あん?どれどれ…。こいつは底辺だな。運だけはいっぱしだが、他は見るも無惨だ。まあ、栄養も取ってないし仕方ないか」
「魔物と戦えたりは?」
「スキルもないし、弱ってる奴と相討ちが良いとこだな。絶対、手を出すなよ」
「そっか…。でもこれからどうするかな。折角、出入りできるようになったのにな」
「まずは、今回の戦利品をきっちり売ることだな。まだ、残ってんだろ?」
「え~と、木とかがちょっとだけな」
「なら、市場で売ってくるこった。残してても荷物になるぞ」
「はいよ。じゃあ、行ってくる!」
おっさんと別れ、市場の責任者のところへ行く。2時間だけなら銅貨7枚で店が出せる。
「おっちゃん、店出させてくれ!」
「お前か。身なりを…今日はまだきれいだな」
「だろ?いいよな?」
「はいよ。銅貨7枚だ」
「これな!そんじゃ行ってくる!」
「おい、許可証!…まあ、連絡しとくか。にしても売るもんがあるのかねぇ」
許可もとったし、早速店を出す。シートだけは晴れの日は区画に置いてあるから、それを借りる。
「えっと、木が5本と薬草が6個束で2個。後はキノコの残りか…売れるといいな」
じっと店を出して客を待つ。薬草と木はそれぞれ2つ売れたけど、まだキノコと木が残ってる。
「う~ん。残りは食いつき悪いなぁ。だけどもう金は払ってるし…」
とりあえず、時間までは頑張ってみるか!そう思ってると何かちっこいのがやって来た。お使いか何かの帰りだと思うけど、結構いい服を着てるな。
「なにか探し物か?」
「細工に何か使えないかなって」
細工?やっぱ親父のお使いか。まあ、適当に相手しとくか。話してるとちょっと変わったやつだ。大人とも違うけど、まるっきり子どもでもない。
「その木が気になるのか?」
「うん。どこで見つけたの?」
「ちょっと街の西側でな。お前、どっかの村から来たのか?」
「ううん。今はアルバに住んでるよ」
やっぱそうか。何か金持ちって感じなんだよな。嫌な感じはしないけどな。更に話すと、目をつけていた木を高値で買ってくれるらしい。値段も教えてくれるし、いいやつだな。
「でね。相談なんだけど、外に行くときに犬の散歩をしてくれないかな?」
犬の散歩?まあ、別にいいけど流石にただって言うのはなぁ。こいつにはいい社会勉強だな。
「何か駄賃でくれよ!」
といっても親の作る細工なんだろうけど。
「うん、いいよ」
ほんとに大丈夫かなぁ。とりあえず、今日紹介だけでも済ましとくか。時は金なり、チャンスには敏感でなくちゃな。そろそろ、店じまいの時間だし、ちょちょっと片付けを済ます。
「そういえば、名前まだだったな。あたいはフィーナって言うんだ」
「私はアスカ。よろしくね」
連れだってアスカの宿を目指す。というか宿に住んでんのか?親は商人なのか?親みたいな人が出てきたと思ったら宿の女将だった。
「お前が飼ってるんじゃないのか?」
「最初はそうだったんだけど、今は面倒見てもらってるんだ」
「ちゃんと面倒見なきゃだめだぞ」
お金持ちだからって人に任せて世話しないのはダメだ。きちんと責任は持たないとな。それで実際に散歩に連れていく犬に会わせるっていうから行ってみると…。
「ま、魔物じゃねぇか!」
「大丈夫。おとなしいから」
大人しいとかいう問題じゃねぇ。大丈夫なのかこいつ?宿のやつも噛まれたりしてないだろうな。念を押して大丈夫だというので、ちょっと触ってみる。外にいるし獣臭いと思ったけど、毛並みもいいしふわふわだ。それに人懐っこいみたいで、あたいにも警戒する感じはない。
「あたいはフィーナっていうんだ。よろしくな!」
わぅ
扱いやすそうだし、思ったより楽かも?その日は顔合わせだけで、後日に散歩に行くことになった。そして、実際に散歩に行くというか、ものを取りに行く日になった。
「本当に魔物の散歩なんて出来んのか?」
「大丈夫だって。大人しいやつだったし」
おっさんは心配性だな。約束通りアスカの宿に向かう。
「こんちわ~」
「あら、今日が初日ね。頑張ってね。はい、ご飯」
「いいのか?」
「ええ、私たちもあまり外出できないから、助かるもの」
「そんじゃ、遠慮なくもらうぜ」
宿の女将さんから昼飯のパンをもらって、リンネを連れていく。西門に来たところで衛兵に呼び止められた。
「おい、身分証なしで外に出てもいいのか?」
「ちゃんと持ってるよ」
「ん?確かに。それとそいつは宿のやつか?」
「知ってんのか?」
「知っているというか、街に来た頃に何度か見に行った。街の人間も心配していたからな」
「で、どうだった?あたいは今日が初日だから、よくわかんねぇんだ」
「まあ、無視というか相手にされなかったな」
「役に立たねぇなぁ」
「うるさいな。それより、ちゃんと面倒見ろよ」
「はいはい。んじゃな!」
わぅ~
あたいが挨拶するのを真似るようにリンネも挨拶する。変なところでこいつは律儀だな。門を出るとそこは街道と草原だ。といっても、この辺には何もないから無視して進む。リンネはと…ちゃんとついて来てるな。
「というかお前、外に出たらはしゃいだりするのかと思ったら、まんまなんだな。大丈夫かそんなんで?」
わぅ!
何か思うところがあったのか、そういうとパッと駆け出した。
「は、はぇぇ…ってちょっと待て!」
走ったと思うとすぐに小さくなる。あんなに足が速いなんてな。魔物って言っても、狩りもろくに出来ないのかと思ったけど、そうじゃないみたいだ。
「お前がいれば安心だな。ギルドのねえちゃんに言われた通り、ちょっと良い袋も奮発したし、今日は頑張んなきゃな」
まずは水辺だな。飲料代わりに取るのももちろんだけど、水辺に何か映えてないかな?ちょっと歩いて、水辺をよく見てみる。
「う~ん、この辺じゃよくわかんないな。仕方ない、まずは水を汲むとするか」
帰りにも寄るので、今は昼飯までの量だけだ。重いとあんまり物が運べないからな。
わぅ
バシャーン
急にリンネが吠えたと思ったら、水に突っ込んでいった。
「な、何だ?」
わぅ~
上がってきたリンネは、魚をくわえていた。しかも、結構大きい。くわえた魚をこっちに持ってくる。
「なんだ、くれんのか?でも、歯形があると売れないんだよなぁ」
しょんぼりとしっぽを下ろすリンネ。やべっ、悪いこと言っちゃったかな。そう思った次の瞬間さらに水に飛び込む。
バシャーン
また、上がってきたリンネは今度は爪をえら近くに突き刺して、持って上がってきた。
「おおっ!これなら、ナイフみたいな傷だし、買取もOKだ!やるなリンネ!」
わうわぅ~
今度こそどうだと高らかに吠えるリンネ。だけど、こんなに簡単に魚ってつかまるもんなんだな。あたいには全然見えないけどな。2匹とも結構なサイズだし、慣れてないと大変だと思うんだけど。
「ま、とりあえずこっちは貰ってと。リンネ、そっちは一緒に食うか?」
わぅ
昼飯もあるけど、あんまり昨日も飯は食べてないし、早速切って焼く。火おこしも慣れたもので、そんなに時間はかからない。
「お前は生を食うか?」
わう
ちょっとだけ、生をかじって後は残すリンネ。どうやら、焼いたのも食べたいらしい。
「誰に似たのか知らねぇけど、お前贅沢なやつだな」
生も焼いたのもどっちも食べたいなんてな。とりあえず、ちょっとだけ塩を振って焼いていく。リンネの方はあんまり味付けが濃くてもいけないので、ちょっとだけだ。
「ん~、もうそろそろかな?食べてみな」
わぅ~
あたいが言い終わるとすぐにかぶりつく。なんだかこの辺はちょっと野性味を感じるな。さて、あたいも食うか。
「は~、食った食った。しかし、お前きれいに食うなぁ」
リンネは骨の間の身も牙と爪を巧みに使って、食べきっていた。しかも、その後は水で爪を洗うおまけつきだ。
「こういうのもしつけっていうのか?慣れてんな。んじゃ、目的の場所へ行くか」
魚でちょっとお腹が重たいけど、目指すはあの林だ。日にちが経ってないから、あんまり多くは期待できないけど、前は直ぐに帰っちまったからな。そこそこめぼしいものが残ってるんじゃないかと思ってる。
「ふぃ~、つかれた~。あれから1時間近く歩き詰めだもんな。だけど、あんまりゆっくりしてると時間来ちまうからな」
リンネを連れて歩けるのは最大でも5時間。大体は4時間だ。じっくり探したいところだけど、こいつがいないと危ないしな。ちゃんと時間は守らないと。
「さて、林だな。先に飯と行きたいけど、さっき食べたし後にするか。リンネ、そこの草あんまり倒すなよ」
わぅ
了解といわんばかりにシュタシュタと4つの足を束ねて飛び跳ねながら移動する。
「お前ってほんとに器用なやつだな。あたいも負けないようにしないとな」
草むらを倒さないようにかき分けつつ進んでいく。そこから林に入ると、やっぱり最初に取った薬草のところは、まだ生え揃っていなかった。だけど、反対側にも薬草があることに気が付いた。
「おっ!これこれ。確かムーン草だっけ?おっさんに読んでもらった本に載ってたやつだ。アスカがそういやなんか言ってたな。確か根元を優しく取るか、ナイフでさっと切るんだったよな。でもナイフはないし、そっと取るか」
わぅ
「ん?」
薬草を取ろうとすると、リンネが吠えてきた。なんか変な動きだな。
「えっと、薬草の上を持ってろって?」
わう
そうだと頷くリンネ。なんかやりたいらしい。まだ薬草はいっぱいあるし、好きにさせてみるか。
ヒュッ
一瞬、リンネがぶれて見えた。
「何したんだ?って、薬草が切れてる!」
あたいが持っていた薬草の根っこ近くを爪で切り裂いたらしい。ご丁寧に手前だけ切っている。
「言葉も分かるみたいだし、実は人間だったりしないよな。とりあえず他のも頼む」
あたいがつかんで、リンネがスパッと薬草を切って行く。切ったらすぐに袋に入れる。これを繰り返して、生えていた薬草を7割ぐらい刈り取った。
「前の薬草より、すごくきれいだ!やったな」
リンネの頭を撫でてやる。最初はうれしそうだったけど、ちょっと続けたら嫌そうにしたので止めた。すごいけど、やっぱ変なやつだ。
「よしっ!結構取れたな。んじゃあ帰るぞ」
しかし、リンネが帰ろうとしない。どうしたんだと言おうとしたら、先に行けと首を振ってきた。
「ちゃんと帰って来いよ。草むら出たところで待ってるからな」
それから林を出ると、数分後にはリンネも戻ってきたので食事を取って帰った。しばらくは取れないと思うけど、かなりの収入になった。
「おっさんや、みんなに土産でも買って帰るか。じゃあ、またなリンネ!」
わぅ
リンネと別れて、住処に戻る。
「お~い、おっさん。これやるよ。体にいいキノコだぞ!」
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「後をつけていたけど、最後なんで残ってたのリンネ?」
わぅ
(帰り際に絡まれそうだったから掃除してきた。縄張りを主張しといたから次は大丈夫だろ)
「背中の血って返り血だったの?ちゃんと流してこないとみんなびっくりしちゃうよ」
わぅわぅ
(時間があったらな。アスカこそ、変な格好してつけてくるなよ)
「変かなぁ?普通の村人の姿なんだけど…」
わぅ~
(村人が普通にひとりでそこらへん歩くわけないだろ…)
折角、変装までしたのにリンネに怒られた私だった。もちろんティタに通訳してもらってだけどね。