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再会の約束

今日はバルドーさんに会う日だ。細工のおじさんの店に行くように伝えないと。


「おう、昨日ぶりだな」


「はい!」


「んじゃ、長々としてても仕方ないからさっさと済ませるぞ」


そう言ってバルドーさんがカードの読み取り機を出す。レンタルだけど、商人ギルドに入ると一定の条件を満たせば借りられるものだ。


「ん~」


「どうした?」


「いえ、本当に商人なんだなって」


「これのことか?結構手続きが面倒だったぞ」


「数に限りもあるし、信用も必要だものね」


「資産公開で何とか借りられたんだぞ。それじゃ…」


ピッとカードを読ませて、残高が変わる。これで、先日の支出は賄えただろう。


「ありがとうございます。後、細工屋のおじさんが作ったやつを見たいって言ってました」


「ああ、じゃあ今から寄ってくる。明日には出るからな」


「そんなに早くですか?」


「早いって言っても、結構滞在してるから。お父さんも心配だし」


ジェシーさんが心配そうに答える。確かに、こっちへの渡航日数とかも考えれば、3か月は家を離れてるんだもんな。あんまり旅に出てる感じでもないし、きっとこの旅のことで話したいことも山のようにあるんだろう。


「という訳なんでな。俺も知らない仲じゃないし、やっぱり姿を見せて安心させてやらないとな」


「バルドーの姿を見ても、ものを見せろっていうだけだろうけどね」


「まあ、その方がおやっさんらしくて安心するがな。心配なんぞされたら気持ち悪くてかなわん」


昔からの知り合いだけあって、バルドーさんも人となりはよくわかってるみたいだ。だからこそ、心配もあるんだろうなぁ。


「そんじゃ、俺たちはおっさんの店に行ってくるな。アスカはどうするんだ?」


「ちょっとギルドに用事があるので、出かけます」


「そうか。そんじゃこいつを渡しとく」


そう言って、綺麗な紙をバルドーさんが渡してきた。こんな上質な紙は高いのに何が書いてるんだろう?


「えーっと、バルジ商会。本拠・グラントリルご用命あらば、商人ギルド連携し、伺います?」


「よく出来てるだろ?お得意様向けに奮発して作ったんだぜ。アスカも旅に出ていない時も商人ギルドへ寄ってくれたら、時間はかかるが連絡が付くからな。マメにとは言わんがよろしくな」


「は、はぁ。でも、私商人ギルドには所属してませんよ?」


「その辺は大丈夫だ。旅に出る前にはきっちりなってるだろうからな」


「まあそういうことなら…」


「頼むぞ。1か月ぐらいで在庫が切れたりしないと思うが、こっちでも人気の細工師になる可能性もあるんだからな」


「またまた、バルドーさんたら。商人になってお世辞がうまくなっちゃって」


「まあ、依頼したくなったらギルドを通じて依頼するから、よろしくな」


「来年の春まではいますから、それまではアルバで大丈夫です」


「よーし、楽しみにしてろよ」


「数は加減してくださいね」


そんな冗談を言いあいながら、バルドーさんと別れた。出発は朝早いっていうし、今回の出会いはここまでなんだなぁ。


「次に会う時にはもっとびっくりさせよう!」


冒険者の時は冒険者なりに、商人になった今は商人として驚かせてあげよう。その為には今回作った細工を、もっといいものに仕上げていかないとね。


「そんじゃ、細工をしていこうかな」


材料はたんまり仕入れたし、このテンションのままいいもの作るぞ~。


「とまあ作り始めたものの…。この水晶、割れちゃうね」


当たり前のように仕入れて使っていたんだけど、そういえば前はティタに目利きしてもらったんだった。やっぱり、私の目利きではまだまだ見たいだ。


「ティタ、この水晶見てもらえる?前みたいに固いやつね」


「これ?う~ん。これとこれはだめ。こっちはだいじょぶ」


ティタがすぐにより分けていく。私が目で見ても何も思わないけど、一体何が基準何だろう?ティタが仕訳けてくれた後には使える水晶が5つと、使えないものが3つだった。今割れたのが使えなかったとすると、五分五分ぐらいか…。


「ある意味品質が安定しているってことかな?」


でも、脆いっていうものはなかったので、ものとしては悪くはないとのこと。まあ、前回は良品ばっかり抜いちゃった形になるし、こればっかりは仕方ないよね。


「でも、こうなった以上は使い道を考えないとね。3つとこのちょっと小さくなった奴は、新しい細工には使えないから、別の使い道を考えないと」


水晶の魔道具にするには小さいのが2つだし、そっちは新しい何かを作らないとね。一つは丸くしちゃったし、ブレスレットの玉にでもしようかな?そうなるとあと一つはと…。形は長細いなぁ、ナイフとか?いやいや、そんなに固くないし、使い道がないよね。他に何があるかなぁ。


「う~ん、時計はどうだろう?でも、文字盤とか透けて見えないかぁ。色塗っちゃったら一緒だしね。水晶ならではのもの…ガラスの靴。いやいや、実際にああいうのを履いたら、足とか丸見えだし冷たいよね」


足から冷えたら体調崩しちゃうよ。何かいいものないかなぁ。何でもいいんだけど、透明なことを生かせるのだと一番いいんだけどな。そこが他のものと違うところだしね。


「その長いことを生かせるとしたら、コップかなぁ?」


コップなら内容量はちょっと少なくても、見栄えが良くなるし、そこまで強度は必要ないだろう。後は柄のところをちょっと焼成して欠片がこぼれないようにすれば出来そうだ。丸く、くり抜くのは無理でも円筒形ならいけることを期待して作業をしてみる。ガンガン削ってひび割れが入らないように慎重に。特に下に行くほど周りをちょっと厚くして、衝撃で割れないようにする。


「まあ、ここにあとで細工も入れるんだから、ぶ厚いに越したことはないよね」


「アスカ、どこでつかう?やど?」


「流石に宿は無理かなぁ。誰が使うか分かんないし、酔った人だと落として割っちゃいそうだし」


それにあんまり宿みたいに大衆向けのお店で特別なグラスを使っちゃうと、何だってなっちゃうしね。気安さが良いのに変に堅苦しくなっちゃうし。清潔感を出すために制服を採用してはいるけど、やっぱりそこに食器持ってなると窮屈だろうし。


「となると、第一号はフィアルさんの店かなぁ。あそこ以外にそういうグラスが似合いそうな店他に知らないし」


もし、使ってもらうとすると後はレディトの喫茶店なんだけど、次に行く時に試してって言っても、まだ数日先だし、人気が出るか分かんないからすぐに反応が見れるアルバの店が良いしね。


「それじゃ、あの店に合う細工にしないとね」


レディトの喫茶店なら、ウイスキーとかお酒も似合うデザインなんだろうけど、フィアルさんの店ならカクテルかなぁ。


「じゃあ、果物はダメだね。それにしか使えなくなっちゃいそうだし」


あれこれ考えたけど、複雑な模様とかを入れないスッキリした方がいいと思い、流線型のデザインを右端から逆側までふわっと描いて底にサインをするだけにした。追加で細工は施せるし、これぐらいシンプルな方がアレンジが利くと思ったのだ。


「でも、こうなっちゃったら細工というより、成形だよね。まあ、お酒のことはあんまりわかんないからこれ以上しようがないんだけど…」


ひとまず、使い道が出来たことを喜ぶとしよう。無駄になることも在庫として残ることもなかったことが今は大事だ。旅を始めたら、必要以上の材料を抱え込むことも出来ないだろうから、こうやって消化することが出来たことで良しとしよう。


「それじゃ、そろそろご飯の時間だし、片付けよう」


切りのいいところで終わっちゃわないと、いつまで経ってもしちゃうからね。それから、ちょっとしてご飯を食べて、その日の作業は終了した。



-----


あれから2日ほどは細工に費やして、再び2重の水晶の作品を1つと、グリーンスライムの魔石を使ったバリアの魔道具を4つ完成させた。こっちは自分たちで使うようだから、きっちり効果も確かめないといけないし、ちょっとみんなに集まってもらおうと思ったんだけど…。


「そっか、今日はリュートは休みの日かぁ。孤児院にいるかなぁ」


効果を見るだけだから、昼終りにでもちょっと休憩がてら抜けてもらおうと思ったんだけど、休みの日だったとは。ノヴァは休日も結構、親方さんの家にいることが多いし、簡単につかまるんだけど、リュートの休日がどうなのかよく知らないから困ったな。


「まあ、あたしとノヴァだけでも出発の時に口頭で説明すりゃいいだろ?」


「それはそうですけど、やっぱり直に見てもらった方がいいかなって」


「んじゃ、30分ぐらい探してみるか。あたしは念のためノヴァと合流して、心当たりを探してこの噴水広場に来るから、アスカは孤児院の方を頼んだよ」


「了解です。それじゃまた!」


ジャネットさんと一度別れて孤児院の方へ向かう。


「こんにちわ~。リュート来てますか?」


「あら、アスカちゃんいらっしゃい。久しぶりね。リュートならちょっと買い出しを手伝ってもらっています」


「こんにちわ院長先生。買い出しですか?」


「ええ、男手も少ないしたまに手伝ってもらっているのです。最近はリンネのお陰で、そこそこ助かっていますが、大きいものというとなかなか難しく…」


そういえば、院長先生って腰痛めてたっけ。リュートも言ってくれれば私が魔法で運ぶのにな。そこから15分ほど待つとリュートが帰ってきた。


「あれ?アスカどうしたの。珍しいね、ここで会うなんて」


「リュートを探してたの。この後予定ある?」


「べ、別にないけど…」


「なら、院長先生。リュートお借りしますね」


「はいどうぞ。リュート、ありがとう」


「いえ」


こうしてよくわからない顔をしているリュートを引っ張って、噴水公園まで連れていく。後は、ジャネットさんたちと合流するだけだ。



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