バトル!
依頼がないから仕方なく訓練をしていた私たちだったが、リュートとノヴァの動きに満足できないジャネットさんが私を指名してきた。流石に訓練と銘打ってるし、私も参加しないとなんだけど。
「痛くないといいなぁ」
訓練といっても、ノヴァやリュートはあざぐらいは平気で作る。なんせ、さやに入っていても剣は金属の塊だ。
「でも、アスカの戦い方で参考になんのか?」
よく言ったノヴァ。ナイスアシスト!
「後衛だろうが前衛だろうが戦いってのは要は、相手にスキを見せず、相手のスキを突く。これが出来れば勝ちなんだ。それに関しちゃあんたらはまだまだだよ。まあ見てなって!」
そんなに自信満々に言われると緊張しちゃうなぁ。まあ、戦いは避けられないし、弓を構えていざ勝負だ。
「ああ、そうそう。逃げられたりしても困るから、あの木からそっちの木の間で動きなよ」
「えっ、そんなぁ」
「魔法訓練じゃないんだから、一方的に遠距離から攻撃するのは無しだよ」
「うぐっ」
「アスカまさか…」
だって、遠距離からウィンドカッター連発したらさしものジャネットさんといえど、何とかなるんじゃないかなって。しかし、先にその手は封じられてしまった。こうなったら、決められた範囲内で戦うしかない。
「んじゃ、合図を」
「はじめ!」
リュートの声で訓練が始まる。まずはちょっと距離を置くため、すぐに風の魔法で跳ぶ。そしてその瞬間に弓を構えて…シュート!
「チッ!相変わらず、決めたら早いね」
カン
1本目の矢は直ぐに弾かれてしまった。まあ、流石に期待はしてなかったけど、あっさりだなぁ。続けて2の矢を放つ。
「無駄だよ!うわっ!」
ヒュンっと放った矢は実はちょっと特殊な持ち方で2本射っていた。フィアルさんに教えてもらったやり方で、2矢目の威力が落ちる代わりに避けにくく、特に対人戦で有効だとのことだ。
「面倒な手を…。今度はこっちからだ!」
「ウィンドブレイズ!」
ジャネットさんが近づいてくるところに、風の弾丸を乱射する。狙いをつける必要はなく、牽制の攻撃だ。
「はっ!」
しかし、剣を取り出したジャネットさんが一振りすると、弾丸は全て弾かれてしまった。
「魔法剣…」
これじゃ牽制にならない。すぐに火魔法に切り替えて、正面にファイアウォールを作る。ジャネットさんの魔力ならここを突撃はできない。
「チッ!なら!」
風の動きに変化があった。すかさず実体のない火を消し、即座に地面に降りる。降りる頭上をナイフが飛んで行く。
「痛いどころじゃないよ~」
「どうせ避けるだろ?」
まあ、そうだけど。とりあえず、地上に降りた私は直ぐに弓を構えつつ、足元に集中する。
ヒュン
弓を射るとともにすぐに魔法を発動させる。
「アースグレイブ!」
練習して、何とか過剰に意識を向けずとも、使えるようになったのだ。するとジャネットさんが、剣を真横に向けて矢を弾いた後に地面に剣を突き刺す。
「アースグレイブ!」
「うそっ!?」
確かに、所持属性ではないけど、まさかジャネットさんの魔法で相殺される何て…。
「ほら、集中しな!」
「はっ!」
気付くとジャネットさんは正面に来ていた。やばっ!とっさに弓を投げて魔法を詠唱する。
「遅い!」
ガン
ジャネットさんの剣の腹が私の頭に当たる。かなり力は抜かれてたけど、それでもちょっと痛い。
「アスカは驚いた時、絶対にびくって一瞬止まるね。その癖は治さないとね。せめて、後ろに下がるとかね」
「はぁい」
「まあ、Cランク先輩の戦い方を見て分かっただろ?出来るだけ、相手の攻撃を封じたり、不意を突きながら戦えってことさ」
「でも、アスカは魔法使うじゃんか」
ガン
「いてっ!」
「アスカはあんたたちと違って、普段から戦闘訓練をしてないから、さっきの戦い方もとっさのものだよ。最初に考えてた戦い方でもないしね。つまり、即興のパターンってこと。それでも、不意を突いたり、自分が有利になるようにすぐに判断してるんだ。あんたらは、普段から同じ得物使ってるんだから、もっと戦略を練るんだね」
「確かに、宿で弓を射るときも普通に射ってるだけだし、色々普段から考えてるわけじゃなさそうですね」
「それでもあれだけやれるんだから、あんたらはもっと頑張らないとね。せめてあたしが魔法剣を出すぐらいにはね。言っとくけど、アスカが魔法使いだから出したわけじゃないよ。使わないと危ないと思うから使ってるんだ」
「そ、そうですか」
褒められてちょっと嬉しいかも。
「でも、たまには戦い方も考えときなよ。離れようとするのは良いけど、接近した時の対処がまるでなってないよ」
「はい…」
折角、褒められたと思ったらすぐに怒られてしまった。まあ、確かに慌てて弓放り投げちゃったし、しょうがないかぁ。
「まあ、自分の得意武器が相手と違うなら、何とかそこに持ち込む。一緒なら、隙を作る戦法を考えることだね。自分優位でない状況を考えなよ」
その後は3人とも入れ替わりで色んな戦い方を考えていた。私?ほら、結局メインは後衛だし格闘技とか出来るわけじゃないからね。手加減とかに慣れてないから危ないって言われちゃったのだ。買取を考えて急所を狙うことは慣れてるけど、逆に致命傷を避けつつ攻撃することが難しくなっていて、ついそこに打ち込もうとしてしまうので、あまり弱い相手と戦わないようにだって。
「ふっふっふっ。強さゆえの孤独…。何て言っててもしょうがない。寂しいけど、練習でもしておこう」
一緒には動けないので、ちょっと離れて弓を射る。魔法はいろんな場面で使ってるけど、弓は戦い以外ではほぼ使わないので、こういう時に練習しておかないとね。的を描いてそこを狙う。
「う~ん。4分の1でちょっと外れちゃうな。もうちょっと、腕の動きを考えよう」
今は狙う時間も十分あるから、こういう場合には外さないのが鉄則だ。狙えるのは最初だけで、乱戦になってくるとすぐに射らないと、相手に接近されちゃうしね。
「もう一度、修正してと」
再び4射を試みる。今度はほぼ同じ場所に当たった。
「よしっ!いい感じだ」
結局この後もしばらく稽古は続いていたけど、お昼ご飯を食べたところでお開きとなった。まあ、実際に依頼を受けてる最中でも戦ってる時間はそこまで多くないし、ほどほどにしないとケガにも直結しちゃうからね。
「んじゃ、解散するけどあんたたちもしっかり練習しておくんだよ」
「は~い」
結局、リュートたちはジャネットさんに魔法剣を使わせることが出来ずに終わっていた。リュートも遠慮なく途中から魔法を使っていたんだけど、それでもうまくかわされてしまっていた。そんなに普段魔法を前面に出さないから、タメが出来てしまっていると言われてたな。
「それじゃあ、またねアスカ」
「うん、リュートたちもちゃんと休みなよ」
「おう!今日はしごかれたからな。しっかり休むぜ!」
「じゃあね」
皆と別れて宿に戻る。ジャネットさんはというと、依頼がなかったから午後から発生した依頼が何かないか見に行くとのことだ。流石に週に一度も受けないのは気持ち悪いって言ってたっけ。
「う~ん。私も見習った方がいいのかなぁ?でも、今は細工を進めないと」
まだ、バルドーさんに渡すものは1つ残っている。これをまずは完成させてしまわないとね。宿に帰ったら早速、細工道具を広げて作業を開始する。まずは水晶を丸くしたものとくりぬいたものを2セット。今日のところはこれが完成すれば作業完了だ。明日以降に本格的な細工をすれば、明後日には完成するだろう。
「それじゃ、作業開始!」
こうして、午後から作業を開始した私は予定通り、翌々日の午前中に細工を完成させたのだった。
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「よし、後はこれをはめ込めば…」
カチッ
きれいにはまった音がする。特に欠けも発生していないみたいだし、出来栄えは上々だ。
「ちょっと柄は面白みないけど、こういう基本的なものが好かれることもあるだろうし」
何より、在庫が確保できたのが大きい。頑張って力作に挑戦して、期日に間に合わなかったら意味がない。
「これで、バルドーさんに渡すイヤリングはと…。バラが1つに図形を組み合わせたのが2つ。3重にしたのが1つに小さい花のやつが2つか」
合計で6つ。最初の出来栄えを思えばかなりの数が出来たと思う。
「これだけあったら流石にいいかな?とりあえず、お昼過ぎにでもバルドーさんに伝えよう」
宿の場所は前に聞いていたので。そこに向かう。
「こんにちわ~」
「あら、アスカちゃんね。バルドーさんならちょっと出かけてるわ」
「そうなんですね。それじゃあ、依頼が終わったって言っといてもらえますか?」
「はい、伝えておくわね」
受付にいた人はたまにお昼にパンを買いに来る人だった。私のこともバルドーさんから聞いているみたいで、伝言をお願いして宿に戻る。
「それじゃあ、後は待つだけだしゆっくりしよう」
それから夕方までは、アルナやミネルたちと一緒に宿の庭で遊んだ。
「おう、アスカ居るか?」
「バルドーさん、伝言聞きました?」
「ああ。そんで物はどこだ?」
「部屋にありますから待っててくださいね。行こう、みんな」
チッ
ミネルたちと一緒に部屋に戻る。バルドーさんたちは食堂にいるとのことなので、細工を持って食堂に集まることにした。