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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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市場での出会い


 バルドーさんに紹介してもらった店の食事も堪能して、再び市場を見て回る私たち。


「工芸品はあらかた見終わったし、屋台も堪能したし、お菓子はまだまだ先だから今度はどこに行こっかな?」


 食べ物エリアから離れて、ちょっと別の場所に行ってみる。ちょっと回って見たらこの辺は特に何も決まっていないみたいだ。食べ物も置いてあるし、細工物とかも売っていて結構雑多だ。

 店の人に聞いたら一番出店料が安い場所らしい。他の区画は問屋とかジャンル別に欲しい人のためのもので、こっちはフリーマーケットのような場所だ。


「でも、一番掘り出し物とかありそうだよね~」


 こういう雰囲気は割と好きだ。こういうところから掘り出し物を見つけるのって楽しいよね。早速、色々なお店にお邪魔する。ただ、食べ物系は今はお腹いっぱいなので後で見ることにする。


「じゃあ、まずはこの辺りからだね~。こっちは木の細工であっちは木自体を売ってるんだ。まあ、日曜大工ぐらいならここで買った方が安いのかな?」


 ちょっと興味が出たので、木を見てみる。案外細工で使えたりなんて思っちゃったのだ。


「これはオーク材。こっちはよく森に生えてる奴だ。でも、ちょっと中がスカスカっぽいから細工には向いてないな。あれ? こっちは……」


「ん? あんたこれを何かに使うのか?」


「はい。細工をしてます」


「へぇ、そんななりで珍しいな。どっかの村から来たのか?」


「確かに村から来てますけど、今はアルバに住んでますよ」


「そっか、何かあったら買っていってくれよな!」


 元気な……女の子かな? 最初に思ったより若そうだ。でも、髪もぼさぼさだし詳しい年齢までは分からないな。だけど、この木は……。


「それ気に入ったのか? 町の外で見つけたんだけど、よく分かんなかったんだよね」


「そ、そう。危ないから林の方は行かない方がいいよ。ちなみにいくら?」


「よく場所分かったね。でも、あそこら辺まで行かないと、木だけじゃなくて薬草とかも最近は取れないんだよ。ん~、大銅貨一枚かな? 結構新しい木だし」


 大銅貨一枚か……これって間違いなくシェルオークなんだよね。他の人に場所を知られるのはしょうがないけど、あそこはウルフも出るし本当に気を付けて欲しい。でも、この調子だとまた行くんだろうなぁ。シェルオークを拾えるぐらいだし、いい子なんだろうけど。


「せめて安全に過ごしてくれればな……」


 身なりを見るに暮らしは裕福でもなさそうだし、今日は木を売ってるけど、他にも色々なものを集めに行ってるみたいだ……。身体の線も細いし、物持ちで冒険者って言うのも出来なさそうだなぁ。何よりさっきから話してて思ったけど、戦いとかに向いてそうな性格でもなさそうなんだよね。


「ティタ、ふくあんある」


「本当?」


 こそこそとティタと話す。不思議な顔でこっちを見てるけど、今は気にしないでおこう。


「このままはなして、なかよくなる。てきとうにりゆうつけて、リンネをおくりこむ」


 何とティタの案はこの子と仲良くなり、外に出て行く時に散歩の名目でリンネを同行させることだった。確かにあの辺りの魔物でリンネにかなう魔物なんていないけど、大丈夫かなぁ。この子が人見知りしないといいけど……。


「ものは試しだよね。他に案もないことだし、ちょっと頑張ってみよう! ね、ねぇ、その……林とかにはよく行くの?」


「ん~、この前初めて行ったかなぁ。でも、ちょくちょく行こうとは思ってる。なんでか知らないけど、この木の周りは色々落ちてたりするからな」


 あ~、うん。シェルオークの意志というか恩恵というか、あの辺は結構いいものがあるんだよね。キノコしかり薬草しかり。


「へ、へぇ~、そうなんだ。そ、それじゃあ、一緒に私の飼ってる犬も散歩させてもらえないかな? 実は細工とかをしてて、忙しくてあんまり散歩してあげてないの」


「そうなのか? 別にいいけど、動物とかはちゃんと遊ばせてやんないと駄目だぞ。それにしても細工か~。なんか駄賃でもらえたりするか?」


「別にいいよ。簡単な物とかになっちゃうけど」


「交渉成立だな! んじゃあ、いつにする?」


「え、えっとね。とりあえず、明日は駄目だから……」


「じゃあ、今からとかどうだ?」


「いいの? ここってお金かかるんでしょ?」


「そうなんだけど、実はあんまり金がないからさ。ここに店を出せるのも鐘一個分なんだ。だからもうすぐ店じまいってわけ」


 へ~、ここの出店の単価って鐘一つの二時間からなんだ。機会があったら出してみようかな? 即売会は今のところおじさんの店を借りてるけど、こういうのも一回経験しておくといいかもしれない。旅先の町だとどんなルールか分からないしね。


「それなら、お店が終わったら行こうか。とりあえず、その木は貰うよ。え~と、確かこのサイズだと大銅貨八枚ぐらいかな?」


 古木じゃないから、魔力量は少なめだけど、細工ならこのぐらいの木の方が使いやすいんだよね。


「こんなにいいのか?」


「ちょっと特別な木だし、知り合った記念にね」


「おまえ、いい奴だな! これからよろしくな!」


 デデーン! アスカは信頼を勝ち取った。な、効果音が頭に響く中、とりあえず第一目標は達成した。


「でも、リンネはうんって言ってくれるかなぁ」


「だいじょうぶ。こどもすきだから」


 そうなんだね。リンネと仲のいいティタが言うんだから間違いないな。安心してこの子の店じまいを手伝いながら、この後のことを考える。


「そういえば名前まだだったな。あたいはフィーナってんだ」


「私はアスカ。よろしくね」


 お互い自己紹介をして、宿に帰る。


「ただいま~、ミーシャさんとリンネいる?」


「お母さんとリンネ? どっちもいるけど……ちょっと待っててね」


 珍しい組合わせにエレンちゃんもちょっと驚いてたけど、呼びに行ってくれた。


「アスカちゃん、用事ってどうしたの?」


「あの人がお前の母親か?」


「違うよ。リンネ……うちで飼ってる犬の飼い主さんだよ。ちょっと待っててね」


 まずはミーシャさんに事情を説明する。


「確かに、うちにリンネがいてもらうのは助かるけど、その子も心配ね。でも、どのぐらいの頻度で出かけるの?」


「話した感じだと週に一、二度ぐらいみたいなんです。それで、行き帰りの三時間ほどならって思って……」


「それぐらいなら大丈夫ね。昼前からちょっとお昼も取って、十五時ぐらいに帰ってくるぐらいかしら? そのぐらいに年少の孤児院の子たちも帰るし、ちょうどじゃないかしら?」


「分かりました。わがままを聞いてもらってありがとうございます」


「いいえ、この町のことだもの。私たちも無関係ではないから」


 飼い主の許可ももらえたし、これで話しが進められる。後は待ってもらっていたフィーナちゃんのところへ戻ってリンネと会わせるだけだ。


「話は終わったのか?」


「うん、ちゃんと許可ももらえたよ」


「お前が飼ってるんじゃなかったのか?」


「最初はそうだったんだけど、今は宿の人にご飯をもらったりしてるから、そっちに懐いちゃって」


「ちゃんと世話しないと駄目だぞ」


「はい……」


「それで、そいつはどこにいるんだ? 後は言ってなかったけどあたしは戦いとかできないからな。散歩の途中で何かあっても知らないぞ!」


「そこは大丈夫。リンネ、出ておいで~」


《わぅ》


 この時間はお昼寝していることも多いのでのそっと出てくるリンネ。


「わわっ!? なんだこいつ魔物じゃないか!!」


「そうだけど、リンネは大人しいよ?」


「そ、そういう問題じゃねぇよ! ひ、人を襲ったりするんだろ?」


「リンネは賢いからそんなことしないよ。それにほら、大人しいし」


《わぅ~》


 やっぱり、寝ていたみたいでなんだ騒がしいとあくびをするリンネ。


「ほ、ほら! 牙とか爪とか出てるじゃん!」


「まあ、そこはウルフだし……」


 肉食の生き物って爪とか牙はとても重要なんだって理科の先生も言ってたし。さすがにそこは譲れないよ。


「ほ、本当に襲わないんだろうな?」


「大丈夫だよ。ほらリンネ、お手」


《わふぅ》


 なんでそんなことしないといけないんだと、呆れて再びあくびをするリンネ。ちょっと、ここで言うこと聞いてくれないと信用が……。


「リンネ、お手」


《わ、わぅ》


 その時、ポケットからひょこっと顔を出したティタがフォローしてくれる。しょうがないなぁといった感じだったけど、ようやくきちんとお手をしてくれるリンネ。


「ほ、本当に言うこと聞いてんのか? まぐれじゃなくて」


「大丈夫だって、フィーナちゃんも言ってみて」


「お、お手!」


 おっかなびっくりの所為か結構大きな声だったけど、リンネは大人しくお手をする。ほっ、ティタのフォローのおかげだね。


《わぅ》


「わっ! 吠えたぞ」


「リンネはなんて?」


「なんのよう? だって」


 こそっと、ポケットからティタに通訳してもらう。フィーナちゃんもティタにびっくりしそうだしね。


「この子と一緒にたまにでいいから散歩に行って欲しいんだ」


「こ、言葉分かるのか?」


「これでも私、魔物使いだから」


 エッヘンと胸をはる。まあ、ティタがいないとあんまり分からないんだけどね。これも、フィーナちゃんの信頼を得るためだ。


「す、すげえんだな。魔物使いって」


「まあね。どうかな、リンネ?」


《わぅわぅ》

(なんでそんな面倒なことしないといけないんだ。ガキどもの送り迎えでクタクタだぞ)


《ゴゴゴ》

(アスカに逆らうというのリンネ。私に勝てないのにいい度胸ね)


《わぅ》

(いやいや、最近はよく働いてるぞ。孤児院のガキの送り迎えもサービスだろ?)


《ゴゴゴ》

(でも、腕が衰えないように町の外に行くのサボってる)


《う~》

(この前見つかってから警備が厳しいんだよ。仕方ないだろ)


《ゴゴ》

(だから、このチャンスに外に出ろと言ってる)


《わふ》

(ちなみにどのぐらいの頻度だ?)


《ゴゴ》

(大体、週二で一回三時間ぐらい)


《わふ~》

(なんだよそんぐらいかよ。ビビらせるなよな)


 何度かティタがリンネと話した後、ポケットで〇印を作るティタ。


「なんて言ってるんだ?」


「OKだって。じゃあ、リンネ。これから長くお世話になるんだからちゃんと挨拶してね。フィーナちゃんだよ」


《わぅ~》


 尻尾を振りながら愛想を振りまくリンネ。こういうところは本当にすごいと思う。フィーナちゃんも恐る恐るだけど、触ってるし。



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