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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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新たな細工


「ただいま~」


「あっ、おかえりおねえちゃん。どうだった?」


 宿に帰るとエレンちゃんが出迎えてくれた。


「うん。お土産あるよ」


「やったぁ! これがあると、おねえちゃんが冒険に行ってきたって気がするよ~」


「そんな大げさな……。持って帰ってきたのも普通のサンドリザードだよ」


「ほんと!? 最近は他の肉も値上がりしてるから、肉自体大量に仕入れられないんだよね~。明日の夕食には絶対美味しい料理を出させるからね」


 そういえばクラウスさんも肉の値段が上がってるって言ってたなぁ。仕入れの値段を気にするなんて、エレンちゃんも宿の娘として成長しているみたいだ。


「ありがとう。それじゃ、ここに置いておくから」


「は~い」


 厨房側のテーブルにサンドリザードの肉を置いて、私は部屋に戻る。


「ミネル~、明日は美味しい料理だよ~」


《チッ》


 いきなり何を言っているんだとミネルが首をかしげる。それにしても、最近はよくうちにいるなぁ。前は毎日のように出かけていたから、ちょっと嬉しい。今日の出来事をミネルたちにも話してあげる。


「みんなも行けたらいいんだけどね。危ないからね」


 町の西側に行くならともかく、東側に連れていくにはまだ不安が残る。でも、こういう話に食いつきの良いアルナが心配だ。

 ミネルも好奇心が強かったけど、そこはやっぱり野生育ち。危ないと思うことには首を突っ込まなかった。アルナは街育ちなのでその危機感というのがちょっと希薄じゃないかと思う。


「お前はもうちょっと危機感持とうね~」


 チョイッとアルナをつつく。む~と顔をそむけるアルナ。まあ、無茶しなければいいけどね。その日は夕食を食べると、すぐに寝つくことが出来た。



《ピッ》


「ん? おはようエミール。今日の当番なんだね。ありがとう」


 控えめながらも、よく通る声でエミールが起こしてくれる。昨日はよく眠れたし、今日は絶好の細工日和だ。早速、食堂で朝食を取って部屋へ戻ると細工を始める。

 すぐに細工が始められるように作っておいた水晶球を出して、まずは内側に入れるものに細工をしていく。


「うん。この作業はもう慣れたから大丈夫だ」


 前はバラだったから、今回はちょっと趣向を変えて、北国の花にする。こっちは小さくてかわいい花が持ち味だから、ある程度全体像が入るようにする。


「う~ん、後一輪追加するべきかなぁ……」


 ちょっと細工をしたところで柄を確認する。かわいい花だからボリュームがあると映えるんだけど、かわいさが薄れちゃうからちょっと考えちゃう。今は二輪だけど、三輪にした方がいいかなぁ。


《ピィ》


 ちょっと集中を解いていたので、アルナが入ってきて何か言う。


「ティタ、なんて?」


「かぞく四にん。だから四りん」


 なるほどなぁ。でも、さすがに四輪まで来たら派手過ぎるというか、重なりの表現が難しくなっちゃうなぁ。


「う~ん。ほら、イヤリングだから片方に二輪で合計二つにしようね」


《ピィ》


 上手く納得してくれたみたいだ。やっぱり三輪は多い気がするし、二輪にしとこう。思わぬアルナの参加でデザインも決定したし、再び作業に集中だ。午後からもどんどん作業をこなしていき、この日は四セット分の細工をこなした。


「といっても、中に入れる水晶の分だけで、外側のはまだだけどね」


 それから四日間は細工に集中して、問題となっていた外殻の内側の細工もこなしていく。運よくというか失敗したのは一つだけで、数が無駄にならなくてよかった。


「結局三つは完成したけど、時間がかかっちゃったなぁ」


 小さい花だと、細工もちょっと細かくなるから時間がかかっちゃった。しかも、一つは半分ぐらい進んで失敗したから時間を使っちゃんだよね。


「まあ、最後の方で失敗しなかったからよかったかな? 今日で全部終わらせてしまわないとね」


 バルドーさんの出発の日も近づいてるし、完成させないとね。ちなみに今日はちょっとだけ意欲作にも挑戦するんだ。バラのデザインなんだけど、花ビラの左を外殻に、右を中の水晶に。さらに、その中にもう一つ水晶入れて、バラの中央の細工をしてやる。


「作り自体は小さくなってるけど、やってることは一緒だよね」


 だからできると踏んで挑戦したんだけど、やっぱりこれを入れるのは緊張するなぁ。


「まだ細工の途中だからいいけど、もし、入れた時に削れちゃってもこれじゃ取り出せないしなぁ」


 失敗してももう少しサイズが大きい場合は、上を削って引っかかりさえ作れば取り出せるんだけど、三つ目ともなると水晶が小さくなりすぎて、削ったら粉は入るし、割れそうになっちゃう。

 実はこれを作る前に内側に三つ目が入れられるか試した時に実験してるんだよね。


「頑張って今日中に完成させないとね」


 明後日はまた冒険の日だし、集中して作れるのは今日までだ。午前中に小さいやつの細工を終わらせる。食事休憩をはさんで、午後からはちょっと簡単な模様の細工を終わらせる。


「うん、順調順調。後は彩色をして、今日は終わりだよ~」


 まずは材料を混ぜてと、次に色を確認して……。うん、今回もいい出来だ。出来上がった塗料を塗っていく。まずは真ん中の水晶にからだ。これは一番簡単だ。サイズも結構いいし、部分部分がはっきりしてるからね。そして次は外殻の内側を塗る。

 こっちはちょっと難しい。内側を塗るので、筆でそのままとは行かない。慎重に何度も細工用の自作道具に塗料を塗って作業していく。


「う~ん。なんだか二回細工をしてるみたいだなぁ」


 さすがにこれには時間がかかって、十七時ぐらいまで作業が続いた。ここだけで二時間以上かかってしまった。


「残り一時間。頑張って終わらせないと!」


 何といっても今日は前に持って帰ったサンドリザードを使った料理を出してくれるってライギルさんに言われたもんね。前に出てきた時はオーソドックスにステーキだったんだけど、今日は何が出てくるのか楽しみだ。何とか外殻の塗りも終わり、いよいよ一番中に入る三つ目の水晶だ。


「こっちはこっちで細かいから難しいなぁ」


 ちょっと筆を改造して、毛の数を減らして臨む。そのまま塗ったら、はみ出そうだったんだよね。頑張ってちょっとずつ塗り進めていくと、一時間ぐらい集中して何とか塗り終えた。


「ふぅ、これで何とかできたかな?」


 後は乾いた後の作業だから今日はここまでだ。


「さあ、ご飯だ~」


 食堂に下りてご飯を待つ。エレンちゃんが持ってきてくれたのはサンドリザードのハムだった。


「は~い、おねえちゃん。野菜とかと一緒にパンにはさんでね」


「分かったよ~」


 ちょっと塩分多めのハムをパンにはさんでそこに一緒に野菜も挟む。


「ん~、美味しい。野菜もたっぷりで、いい感じだよ~」


 それにしてもハムかぁ。通りで二日前に細切れの木材を作って欲しいって頼まれたわけだ。あの時は何でと思っていたけどこういうことだったんだ。でも、ライギルさんの料理のレパートリーも増えたなぁ。ここに来た時は焼くか煮るのがほとんどだったんだけど、最近は燻製とかにも手を出して、大変だろうになぁ。


「何とかして一日ぐらい休んで欲しいけど、料理人が抜けちゃうのはね~」


 私も美味しい料理は楽しみにしてるしね。パクパクとハムサンドを食べ進めていく。結局、お代わりもして、その日の夕食は大満足だった。


「明日の朝も用意してくれるっていうし、楽しみだぁ~」


 お風呂につかりながら、明日の朝食のことを考える。明日の作業ははめ込むだけだし、なにをしようかとあれこれ予定を考える。それから気が付いたらベッドで寝ていた。お風呂場でずっと考えごとをしてたら、のぼせてしまってティタが運んでくれたみたいだ。


「ありがとね、ティタ」


「ちゃんとやすむ」


「は~い」


 明日はちょっとゆっくりしようかな? そうして迎えた次の日。


「よ~し、今日はちゃんとはめ込まないとね」


 とりあえず、塗料の乾燥具合を確かめる。う~ん、もうちょっと待った方がいいかな? 特に何もすることはないし、午後からの作業にしよう。


「それじゃ、今日はちょっと出かけようかな?」


 久し振りのお休みだし、ご飯を食べたら出かけよう。


《チッ》


「ん、ミネルたちも来る?」


 久し振りだし一緒に出掛けよう。朝食を終えて、ちょっと時間を潰したら店を回るために宿を出る。


「今日のハムサンドも美味しかった~」


《ピィ》


 アルナも満足のようだ。ちょっと塩分を洗い落としてもらったやつをあげたんだよね。


「じゃあ、どこから行こっか?」


 こうして私の休日が始まった。



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