行きの道のり
リュートたちを待つこと10分ほど。ギルドにひょっこり顔を出したのはノヴァだった。
「おはようノヴァ。今日は準備もばっちりだね」
いつもは寝癖とかついてることもあるのに、今日はとてもバシッと決まっている。
「ん?ああ、昨日は孤児院に泊まったんだよ。そしたらさぁ、宿に行くやつらの迎えにエステルが来て起こされたんだよ」
「そっか。エステルさんはリンネと一緒に毎朝迎えに行ってるもんね」
「げっ!そうだったのか。今度から泊まる時は慎重に行かないとな」
「おかげでこうやって、時間より早く来れたんだろ。ちゃんと感謝しなよ」
「ジャネットはそういうけどさぁ。長いこと一緒だから遠慮なしなんだぜ!」
「でも、ノヴァって寝起きあんまりよくないからその方がいいかもね。優しく起こしたら時間かかるし」
「ガキどもがまねするんだよ。その内ベッドから引きずり出されそうだぜ」
「まあ、生活態度を改善すりゃあいい話だし、頑張んなよ」
カラン
「おはようございます。あれ?ノヴァ、今日は早いね」
「なんだよみんなして。たまには早く起きるっての」
「なんだ、てっきり昨日は孤児院に泊まるから、エステルに起こされたのかと思った」
「何でリュートが知ってんだよ」
「昨日たまたま大工の人が夜、うちに食べに来てたから。エステルはほとんど毎日迎えに行ってるからそう思ったんだけど…」
「リュートもエステルが迎えに行くこと知ってたのか?」
「知ってるも何も一緒の職場だし。そりゃあね。ノヴァも普段は朝早いでしょ?たまに出会わないの?」
「建てに行く時以外は、作業場か買い付けだしあんまりその時間から外には出ねぇな」
「へ~、いっつも現場とかじゃないんだ」
「アスカは相変わらず常識ねぇな。そんなに毎日家建てる奴が居るわけないだろ?補修とか設備点検とかも結構あるんだぞ」
「そうなんだ。新築とか増・改築だけだと思ってた」
「まっ、家の仕事が入れば結構日数かかるから、安定するけどな。流石にそんなにはねぇよ」
親方さんのところは腕もいいって評判なんだけど、結構地味なことも多いんだなぁ。リュートたち以上に普段から外に出ない私にとっては、この街はまだまだ知らないことだらけのようだ。
「それで、今日の依頼は?」
「今日の依頼はこれだよ」
「なんだ?増加するサンドリザードの生息域の調査と討伐?また地味な依頼だなぁ」
「でも、また数が増えてきたみたいだし気にならない?」
「そうだね。あれからかなり経ったし、数がどれだけ戻ったかは気になるね」
「そういうことだ。んじゃ、早速向かうよ」
ギルドを出て東門を過ぎ、一路岩場を目指して私たちは進んでいく。
「そういえばバルドーのおっさん帰ってきたんだってね」
「ジャネットさんはまだ帰って来てから会ってないんですか?」
「ああ、王都に行く時に会ったっきりだね。じゃらじゃら仕入れたものをぶら下げてたかい?」
「ん~、買い物は終わったって言ってましたけど、荷物は少なかったですね。マジックバッグにでも入ってるんじゃないでしょうか?」
「そういや、冒険者だったね。折角、柄にもないってからかってやろうかと思ってたのにさ」
「バルドーさんといえば、昨日アスカと話し込んでたみたいだけど、何だったの?」
「ん?帰る日にちを大体決めたってお知らせ。納品があるからね」
「なんだ、おっさん帰るのか?」
「そうだよ。なんたって新婚さんなんだからね。今回は旅行だって言ってた」
「えっ、あの人奥さんだったのか?幼馴染って言ってたけど」
「ノヴァ、あんたねぇ。非戦闘員が大陸を移動するのがどれだけ大変か分かってるのかい?当たり前だろ」
そんなことを話しながらどんどん奥へと進んでいく。
「けどさぁ、いきなり冒険者から商人なんてやってけんのかなぁ」
「あたしらと違って、普段から王都やらなんやらと色々動き回ってたからねぇ。目は肥えてるだろうし、大丈夫なんじゃないかね」
「そういえば、宿にいる時もたまに武器の話とかしてもらったなぁ」
「なっ、ずりぃぞリュート」
「そんなこと言われても仕事してただけだし」
「ほら、そんなこと言ってないで、そろそろ岩場に着くよ」
色々話をしているうちに結構進んでいたらしい。ここから先はちょっと注意が必要だから、気を引き締めないとね。時間もいい感じなので5分ほど休憩する。その後、自分たちの装備をもう一度確認していざ岩場へ。
「どうだい?」
「ん~、周辺にはいないみたいですね。この周辺も元々そこまでいなかったみたいですし、まだ、勢力はそこまで戻ってないみたいです」
「なんだよ。空振りかよ」
「それか、生息域を東に伸ばしたかだね。西側は散々仲間がやられたから、近づかなくなったってことも考えられる」
「それだと厄介ですね。ここから先に進むと1日で帰れなくなっちゃうかも」
割と岩場まで距離があるし、そこからさらに歩かないといけないのでは、実質冒険者用のレディトルートになってしまう。
「肉、楽しみにしてたのになぁ~」
「そっちかよ!」
「だって、あれからほとんど食べてないでしょ?市場でもちょっと値上がりしてるんだよ」
「そういえば、フィアルの店でも滅多に見かけなくなったねぇ。前はちょこちょこ出てたんだけど…」
「アルバ側のルートを確保するために頑張りましょう!」
「お前ホントに飯のことになると元気だな」
「ご飯は大事だよ。旅先でも街でもね」
「あんたは極端なんだよ。それじゃ、もうちょっと奥に行くとするか」
そこからさらに30分ほど進んでいく。やっぱり、生息域が狭まっているせいか強い反応はない。
「どう?いるかい?」
「ん~、ちょっと先に反応はありますけど、何かまではちょっと…」
「よしっ!警戒していくよ」
「「はいっ!」」
ただ、反応から人型っぽいんだよね。残念。
ガササッ
「ちっ、数が多い!下がるぞ!」
「了解!」
奥からこっちに出てきたのはやっぱり冒険者だった。
「おや?ケヴィンじゃないか。どうしたんだい?」
「ジャ、ジャネットか!助かった。ちょっと手伝ってくれ!」
ケヴィンという人はパーティーを組んでるみたいで、すぐに3人が奥からやって来た。
「どうした?ん?冒険者か!奥からサンドリザードの群れが来る。ここは危険だ!」
「数は?」
「10匹ぐらいだ」
「聞いたね?久しぶりだからってやられるんじゃないよ」
「はいっ!」
「ケヴィン。あんたらはけが人もいるみたいだし、ちょっと下がってな」
「助かる!みんなこっちだ」
けが人の人をかばいながら、後ろに回るケヴィンさんたち。逆に私たちは向かってきているサンドリザードに対して構える。
ズズズ
やや遠くで、地面が盛り上がった個所が見えた。
「それなら!アースグレイブ!」
私は地面から空に向かって槍を作り出す。当然、地中の中のサンドリザードには当たらないんだけど、地割れを作り出すことで、サンドリザードの姿をさらけ出した。
「ナイス、アスカ!」
突然のことに反応が遅れたサンドリザードにジャネットさんが剣を突き刺す。
ギャッ
「まず、1体!続いていくよ」
「分かりました!ウィンドブレイズ」
弾丸状の風を地中に次々と打ち込む。居場所を察知されたと思ったサンドリザードたちは直ぐに地面に現れる。
「姿が見えればこっちのもんだぜ!おりゃあ!」
「そこだ!」
ノヴァが剣でリュートは魔槍を巧みに使って、出てきたところに攻撃を加え、倒していく。
「アスカそっちだ!」
「私も!ファイアボール!」
こっちに向かってくるサンドリザードに対して、火球を勢いよく放つ。
「やったぁ!」
「やったじゃないよ。丸焦げだよ!」
「す、すいみません…」
あちゃ~、折角の素材が焦げ焦げだ。気を取り直して、こっちはウィンドボールでと。今度向かってくる相手は風の玉をぶつけて衝撃で動けなくする。こうすれば、ウィンドカッターなり、誰かがとどめを刺せるだろう。
「す、すごいな」
「同じCランクとは思えないわね。今の内に治療を!」
「すまない」
向こうのパーティーにも1、2匹行ったみたいだけど、そっちはそっちで対応してくれているみたいだ。割と見晴らしがいいところだから、助かる。地中から現れる関係で、結構四方に注意を向けるのが難しいんだよね。
「これで最後だね」
ザシュ
ジャネットさんが最後のサンドリザードにとどめを刺して、戦闘は終了した。
「ふぅ、助かったよ。ジャネット」
「別に通りがかりだからねぇ。でも、なんでまたあんたらが追われてたんだい?」
「最初は4匹ぐらいで倒せてたんだけど、その奥に行ったら20匹近くいて…。慌てて、魔法を撃ちこんで逃げてきたの」
「ただ、逃げる途中でこいつがけがをしたのと、しつこく追いかけてきたのがあいつらだ」
すでに倒されたサンドリザードを男の人が指さす。
「なるほどねぇ。サンドリザードといやぁ、以前は5匹前後での行動が多かったから、そのまま進んじまったってわけか」
「改めて礼を言う。ありがとう、おかげで損失無く帰れるよ」
「ん?それじゃあ、奥にはまだサンドリザードが転がってるのか?」
「まあ、そうだな。流石に俺たちは戻る気はないが…」
「ケガも直さなくちゃいけないから、私たちは戻るけど街に帰ったらぜひお礼させてもらうわ」
「あっ、ケガならちょっと見せてください」
「薬草でも持っているのか?これなんだが…」
そう言って男の人が見せてくれたのは、腕につめでひっかかれた跡だった。15cmぐらいに渡って傷が出来ている。
「ん~、これぐらいならいけそうですね。エリアヒール!」
私は風の回復魔法で傷を治す。幸い、出血量はそこまでではなかったので、ウォームヒールではなくこっちにした。あっちはちょっと治りが悪いんだよね。その代わりじんわりと治るので、その後の体調とかもよくなるみたいだけど。とりあえず、もうちょっと話を聞きたかったので、回復がてら呼び止めた。