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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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行きの道のり


 リュートたちを待つこと十分ほど。ギルドにひょっこり顔を出したのはノヴァだった。


「おはようノヴァ。今日は準備もばっちりだね」


 いつもは寝癖がついてることもあるのに、今日はとてもバシッと決まっている。


「ん? ああ、昨日は孤児院に泊まったんだよ。そしたらさぁ、宿に行くやつらの迎えにエステルが来て起こされたんだよ」


「そっか。エステルさんはリンネと一緒に毎朝迎えに行ってるもんね」


「げっ! そうだったのか。今度から泊まる時は慎重に行かないとな」


「おかげでこうやって、時間より早く来れたんだろ。ちゃんと感謝しなよ」


「ジャネットはそういうけどさぁ。長いこと一緒だから遠慮なしなんだぜ!」


「でも、ノヴァって寝起きあんまりよくないからその方がいいかもね。優しく起こしたら時間かかるし」


「ガキどもがまねするんだよ。その内ベッドから引きずり出されそうだぜ」


 悪態をつくノヴァには悪いけど、私はその光景を思い描いて楽しそうだと思ってしまった。


「まあ、生活態度を改善すりゃあいい話だし、頑張んなよ」


「おはようございます。あれ? ノヴァ、今日は早いね」


「なんだよみんなして。たまには早く起きるっての」


「なんだ、てっきり昨日は孤児院に泊まるから、エステルに起こされたのかと思った」


「何でリュートが知ってんだよ」


「昨日たまたま大工の人が夜、うちに食べに来てたから。エステルはほとんど毎日迎えに行ってるからそう思ったんだけど……」


「リュートもエステルが迎えに行くこと知ってたのか?」


「知ってるも何も一緒の職場だし。そりゃあね。ノヴァも普段は朝早いでしょ? たまに出会わないの?」


「家を建てに行く時以外は作業場か買い付けだし、あんまりその時間から外には出ねぇな」


「へ~、いっつも現場とかじゃないんだ」


「アスカは相変わらず常識ねぇな。そんなに毎日家建てる奴が居るわけないだろ? 補修とか設備点検も結構あるんだぞ」


「そうなんだ。新築とか増・改築だけだと思ってた」


「まっ、家の仕事が入れば結構日数かかるから、安定するけどな。さすごにそんなにはねぇよ」


 親方さんのところは腕もいいって評判なんだけど、結構地味なことも多いんだなぁ。リュートたち以上に普段から外に出ない私にとっては、この町はまだまだ知らないことだらけのようだ。


「それで、今日の依頼は?」


「今日の依頼はこれだよ」


「なんだ? 増加するサンドリザードの生息域の調査と討伐? また地味な依頼だなぁ」


「でも、また数が増えてきたみたいだし気にならない?」


「そうだね。あれからかなり経ったし、数がどれだけ戻ったかは気になるね」


「そういうことだ。んじゃ、早速向かうよ」


 ギルドを出て東門を過ぎ、一路岩場を目指して私たちは進んでいく。


「そういえばバルドーのおっさん帰ってきたんだってね」


「ジャネットさんはまだ帰って来てから会ってないんですか?」


「ああ、王都に行く時に会ったっきりだね。じゃらじゃら仕入れたものをぶら下げてたかい?」


「ん~、買い物は終わったって言ってましたけど、荷物は少なかったですね。マジックバッグにでも入ってるんじゃないでしょうか?」


「そういや、冒険者だったね。柄にもないってからかってやろうかと思ってたのにさ」


「バルドーさんといえば、昨日アスカと話し込んでたみたいだけど、何だったの?」


「ん? 帰る日にちを大体決めたってお知らせ。納品があるからね」


「なんだ、おっさんまた帰るのか?」


「そうだよ。なんたって新婚さんなんだからね。今回は旅行だって言ってた」


「えっ、あの人奥さんだったのか? 幼馴染って言ってたけど」


「ノヴァ、あんたねぇ。非戦闘員が大陸を移動するのがどれだけ大変か分かってるのかい? 当たり前だろ」


 そんなことを話しながらどんどん奥へと進んでいく。


「けどさぁ、いきなり冒険者から商人なんてやっていけんのかなぁ」


「あたしらと違って、普段から王都やらなんやらと色々動き回ってたからねぇ。目は肥えてるだろうし、大丈夫なんじゃないかね」


「そういえば、宿にいる時もたまに武器の話とかしてもらったなぁ」


「なっ、ずりぃぞリュート」


「そんなこと言われても仕事してただけだし」


「ほら、そんなこと言ってないで、そろそろ岩場に着くよ」


 色々話をしているうちに結構進んでいたらしい。ここから先はちょっと注意が必要だから、気を引き締めないとね。時間もいい感じなので五分ほど休憩して、自分たちの装備の確認を終えたら、いざ岩場へ。


「どうだい?」


「ん~、周辺にはいないみたいですね。この周辺も元々そこまでいなかったみたいですし、まだ、勢力はそこまで戻ってないみたいです」


「なんだよ。空振りかよ」


「それか、生息域を東に伸ばしたかだね。西側は散々仲間がやられたから、近づかなくなったってことも考えられる」


「それだと厄介ですね。ここから先に進むと一日で帰れなくなっちゃうかも」


 割と岩場まで距離があるし、そこからさらに歩かないといけないのでは、冒険者はレディトルートに集中してしまう。


「肉、楽しみにしてたのになぁ~」


「そっちかよ!」


「だって、あれからほとんど食べてないでしょ? 市場でもちょっと値上がりしてるんだよ」


「そういえば、フィアルの店でも滅多に見かけなくなったねぇ。前はちょこちょこ出てたんだけど……」


「アルバ側のルートを確保するために頑張りましょう!」


「お前ホントに飯のことになると元気だな」


「ご飯は大事だよ。旅先でも町でもね」


「あんたは極端なんだよ。それじゃ、もうちょっと奥に行くとするか」


 そこからさらに三十分ほど進んでいく。やっぱり、生息域が狭まっているせいか強い反応はない。


「どう? いるかい?」


「ん~、ちょっと先に反応はありますけど、何かまではちょっと……」


「よしっ! 警戒していくよ」


「「はいっ!」」


 ただ、反応から人型っぽいんだよね。残念。


「ちっ、数が多い! 下がるぞ!」


「了解!」


 奥からこっちに出てきたのはやっぱり冒険者だった。


「おや? ケヴィンじゃないか。どうしたんだい?」


「ジャ、ジャネットか! 助かった。ちょっと手伝ってくれ!」


 ケヴィンという人はパーティーを組んでるみたいで、すぐに三人が奥からやって来た。


「ケヴィンどうした? ん、冒険者か。奥からサンドリザードの群れが来る。ここは危険だ!」


「数は?」


「十匹ぐらいだ」


「聞いたね? 久し振りだからってやられるんじゃないよ」


「はいっ!」


「ケヴィン。あんたらは怪我人もいるみたいだし、ちょっと下がってな」


「助かる! みんなこっちだ」


 怪我人をかばいながら、後ろに回るケヴィンさんたち。逆に私たちは向かってきているサンドリザードに対して構える。


 ズズズと微かな音とともにやや遠くで、地面が盛り上がった個所が見えた。


「それなら、アースグレイブ!」


 私は地面から空に向かって槍を作り出す。当然、地中の中のサンドリザードには当たらないんだけど、地割れを作り出すことで、サンドリザードの姿をさらけ出した。


「ナイス、アスカ!」


 突然のことに反応が遅れたサンドリザードにジャネットさんが剣を突き刺す。


《ギャッ》


「まず、一匹! 続いていくよ」


「分かりました! ウィンドブレイズ」


 弾丸状の風を地中に次々と打ち込むと、居場所を察知されたと思ったサンドリザードたちはすぐに地面に現れた。


「姿が見えればこっちのもんだぜ! おりゃあ!」


「そこだ!」


 ノヴァが剣でリュートは魔槍を巧みに使って、出てきたところに攻撃を加え、倒していく。


「アスカそっちだ!」


「私も! ファイアボール!」


 こっちに向かってくるサンドリザードに対して、火球を勢いよく放つ。


「やったぁ!」


「やったじゃないよ。丸焦げだよ!」


「す、すみません……」


 あちゃ~、せっかくの素材が焦げ焦げだ。気を取り直して、こっちはウィンドボールでと。今度向かってくる相手は風の玉をぶつけて衝撃で動けなくする。こうすればウィンドカッターなり、誰かがとどめを刺せるだろう。


「す、すごいな」


「同じCランクとは思えないわね。今の内に治療をしましょう」


「すまない」


 向こうのパーティーにも一、二匹行ったみたいだけど、そっちはそっちで対応してくれているみたいだ。割と見晴らしがいいところだから助かる。地中から現れる関係で、四方に注意を向けるのが難しいんだよね。


「これで最後だね」


 ジャネットさんが最後のサンドリザードにとどめを刺して、戦闘は終了した。


「ふぅ、助かったよ。ジャネット」


「別に通りがかりだからねぇ。でも、なんでまたあんたらが追われてたんだい?」


「最初は四匹ぐらいで倒せてたんだけど、その奥に行ったら二十匹近くいて……。慌てて、魔法を撃ちこんで逃げてきたの」


「ただ、逃げる途中でこいつが怪我をしたのと、しつこく追いかけてきたのがあいつらだ」


 すでに倒されたサンドリザードを男の人が指さす。


「なるほどねぇ。サンドリザードといやぁ、以前は五匹前後での行動が多かったから、そのまま進んじまったってわけか」


「改めて礼を言う。ありがとう、おかげで損失無く帰れるよ」


「ん? それじゃあ、奥にはまだサンドリザードが転がってるのか?」


「まあ、そうだな。さすがに俺たちは戻る気はないが……」


「怪我も治さなくちゃいけないから、私たちは戻るけど町に帰ったらぜひお礼させてもらうわ」


「あっ、怪我ならちょっと見せてください」


「薬草でも持っているのか? これが傷口なんだが……」


 そう言って男の人が見せてくれたのは、腕につめでひっかかれた跡だった。十五センチぐらいに渡って傷が出来ている。


「ん~、これぐらいならいけそうですね。エリアヒール!」


 私は風の回復魔法で傷を治す。幸い、出血量はそこまでではなかったので、ウォームヒールではなくこっちにした。あっちはちょっと治りが悪いんだよね。

 その代わりじんわりと治るので、その後の体調は良いみたいだけど。とりあえず、もうちょっと話を聞きたかったので、回復がてら呼び止めた。



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