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完成と出発

ようやく、水晶の細工が完成した翌日。私は期待を胸に起きたのだった。


「まずは、状態確認だね。乾いてるかな~」


じーっと彩色した水晶を見る。布を使って手に取って色んな角度でちょっとだけ触ってみる。


「うん!垂れたりもしないし、ちゃんと乾いてるみたいだ。念のため、午後からの作業にしよう」


まずは朝食をきちんと取らないとね。


「おはようございま~す」


「おう、おはようアスカ」


「おはよう、アスカちゃん。久しぶりね」


食堂には珍しく、バルドーさんとジェシーさんがいた。今回は観光が中心ってことで、宿もちょっといいところにしてるって言ってたし、実際ほとんど宿では会わなかったのにな。


「おはようございます。どうしたんですか今日は?」


「いやな。観光客としてこの街で色々食べ歩いたんだが、どうもな。この宿かフィアルのところが一番うまい。ただ、こっちは目立つから避けてたんだが、久しぶりにと思ってな」


「そうだったんですか。じゃあ、お昼も?」


「そうだな。フィアルのところはどうしても値段がな。滞在日数もかさんできたし、そろそろ節約ってわけだ」


「確かに王都に行ったりして、ひと月ぐらいいますよね」


「ああ、流石に仕入れの方はほぼ終わってるし、再来週ぐらいには帰ろうと思ってる」


「そうなんですか…。また来てくださいね。って言っても今度は私がいないかもしれませんけど」


「いい出会いがあるといいわね」


「はい!それで、作ってた細工なんですが…」


一緒のテーブルで食事を取りながら進捗を話す。


「ふむ。難しいとは思っていたがそこまでだったか。大丈夫なのか?」


「一応、昨日1つに今日にも1つ出来上がりそうなんですけど、量産は難しいですね。1日で一つというか、2日で二つというか…」


「なんだそりゃ?一緒じゃねえか」


「違いますよ。色々やってたら一日じゃ作業が終わんないんです。2つぐらいまでなら途中までできるので、2日かけて2つになっちゃうんです」


「大作なのね。うちの店でもそういうのは扱ってるけど、細工じゃ珍しいかも。貴族とかの発注ならともかくだけど」


「でも、新しいことに挑戦できたのは楽しかったです」


「そうか…。ちなみに出発までには後何個ぐらいできそうだ?3つぐらいか?」


「うう~ん。明日は冒険に行きますし、そのぐらいですかね。何とか4つは作ります」


「無理はすんなよ。アスカが倒れたなんていったら、ここに来れなくなるからな」


「大丈夫ですよ。そんな人いませんって!」


「そういえば、街を歩いていて知ったんだけど、アスカちゃんって有名人なのね。色んな人が知ってたわよ」


「あ~、多分ミネルたちの影響ですかね。ヴィルン鳥とかの飼い主として、結構有名らしいんですよ。魔物使い自体がこの辺だと珍しいのもありますけど」


「そういえば、この街じゃ見ないわね。私たちの街でも何人かはいたのに」


「まあ、つい最近までゴブリン・ウルフ・オークが主体の街だったからな。ウルフぐらいしか従魔にし易いやつはいないし、戦力として見るとなぁ」


「そういうことなのね。確かにそれじゃあ、難しいわね」


「ウルフはウルフで難しいからな」


「そんなにウルフって従魔にしにくいんですか?リンネはおとなしいですし、ポピュラーな従魔だって聞きましたけど…」


「まあ、確かに言うことは聞きやすいんだが、そいつの所属している集団が分からないからな。従魔にして群れが付いて来てみろ。喜ぶ前に明日からの食事代の計算だぞ?単独行動している個体ならそれなりに役に立つんだがな」


「そういえば、集団で生活する魔物は全体が付いてくるんでしたっけ」


「群れの意識が強いから、何頭かに絞ることも出来んし、難儀なんだよ」


「ウルフといえば、アスカちゃんの従魔のウルフって変わった色よね。もっと茶色いのかと思ってたけど…」


「ああ、リンネはグレーンウルフなんですよ。だから、ああいう色なんです」


「ん?ちょっと変わった毛並みだと思っていたが、普通のウルフじゃないのか?」


「はい。旅先で縁があってついて来たんです」


「ひょっとして強いの?」


「弱くはないと思いますよ?魔物もスパッと切断してましたし」


ジェスチャーを交えてジェシーさんにもわかりやすく説明する。


「げっ!ガンドンの皮膚を裂くのかよ。おっかねぇなぁ」


「ガンドン?」


「ほら、防具屋のゼンのところにある革の鎧あるだろ?あれがガンドンの皮だ」


「あれって、革にしては結構硬くて色んな冒険者が付けてるわよね」


「そうだ。それを難なく切り裂けるってことは、前衛職にとっては面倒なやつだな。鎧が役に立たないことももちろんだが、ウルフ系は素早いからな。今後は骨を投げて遊ぶのはやめとこう」


「バルドーさん、そんなことしてたんですか!」


「いやぁ、昔知り合った魔物使いがウルフを従魔にしててな。そうやって遊んでたからついな。でも、本人?も嬉しそうだったぞ」


あ~。リンネならいい退屈しのぎと、骨もらえてうれしいのかも。でもなんていうか…。


「もうウルフ成分がほとんどないよね」


完全に番犬というか飼い犬に思えてくる。孤児院では小さい子が買い出しに行きたがる時に、馬のごとく背中に乗せて乗り物扱いらしい。


「大人しく見えても強いのね」


「そうでなきゃ、従魔にしてもな。ただで従えられるなら構わんのだろうが」


「そうですね。でも、リンネは魔力が低いからたいして負担にはなりませんよ。どっちかというとミネルとかティタの方が魔力が高くて大変ですね」


「ティタってゴーレムでしょ?そんなに魔力があるの?」


「ちょっと特殊なんで魔力型なんですよ。細工とかで普段から魔力は結構使うんで、あまり冒険に出ないから大丈夫って最初に思ってたよりは大変ですね」


「まあ、連れて行くにしてもなぁ。危険が多くなったしな」


「そうですね。ティタはともかくミネルは戦いとか向いてませんし」


「それじゃあ旅に出る時はどうするの?」


「ディースさんっていう、魔物使い志望の人に頼もうと思ってます。ミネルもこの街が好きみたいですし」


「ディースってあのBランク魔法使いのか?何でまたあいつが…」


「昔から、魔物使いになりたかったそうですよ。魔法使いも魔物使いになる時のお金がためやすいからだって言ってました」


「確かに、最初から魔物使いでやるよりはるかにましだとは思うが、折角売り手市場のBランク魔法使いなのにな」


「でも、それを言ったらバルドーだってこうやって商人してるより、冒険者の方が儲かるんでしょ?」


「そう言われるとつらいな。ちまちま買って売るよりバッサリやった方が楽だからなぁ」


ブンッと剣を振る動作をするバルドーさん。うう~ん、その動作だけでも無駄がなくてかっこいいな。


「今気づいたんですけど、バルドーさん剣持ってなくないですか?」


「ああ、一応商人として旅してるからな。変に剣とかぶら下げてたら警戒させちまうだろ。配慮だよ配慮」


「へ~、バルドーさんって形から入る人だったんですね」


「嘘よ嘘。本当はこっちに来るまでに散々、護衛依頼を頼まれてね。自分は客だぞ!ってそれで仕舞ってるのよ」


「な~んだ」


「ばらすなよ。折角の観光なのにどいつもこいつも…」


「でも、よくそんなに頼まれますね。私なんてさっぱりですよ」


「お前は見た目の所為だろ?いやな、まだ若かったころ、よく向こうの港町までの護衛依頼を受けてやってたんだ。そいつらが独立なり店を継いで、えらくなったもんでみんなして依頼してきやがるからな。こっちに渡って来たときに絶対受けるかって仕舞い込んだんだよ」


「すごいのよ。各地で数店舗持ちの商人とか、向こうの王都に店を出してる人がしきりに頭を下げてくるんだもの。私なんて恐縮しっぱなしよ」


「こっちはしがないCランク冒険者だってのに人使いが荒いぜ」


「そういえば向こうのギルドマスターが言ってたけど、バルドー!あなた本当はBランクらしいじゃない?」


「えっ?そうだったんですか?」


確かに剣の腕とかもいいし、ジャネットさんと戦っても引けを取らないと思うけど、Bランクだったんだ…。


「あれはちげぇよ。頭の悪い冒険者を懲らしめてくれって、当時のギルドマスターから頼まれて、ちょっとひねってやったらそれが昇格試験だったんだぜ!あんなのノーカンだ。大体、それが元でこっちに渡ったっていうのによ」


「別にいいじゃないの。Bランクともなれば、冒険者から尊敬されるし、依頼料も上がるんでしょ?」


「その代わり、ギルドからの指名依頼と貴族からの特別依頼を受けなきゃならん。そんなの面倒だろ?大体、当時の俺が貴族の依頼何て受けられると思うか?」


「ん~、無理ね」


ジェシーさんの返答は思いのほか早かった。バルドーさんて宿にいた時はとても落ち着いた大人の人って感じだったんだけど、若い時は違うのか。


「だろ?それに変に騒ぎを起こしてシウスの奴みたいに、ランク固定されちまっても嫌だからな」


「そういえば彼もBランク止まりよね。いつも依頼を受けてるイメージがあるのにAランクにならないのよね」


「あいつは成れないんだよ。わざと騒ぎにして腕試しとかよくやってたからな」


「バルドー以外にも絡んでたの?意外ね。ギルドでは戦ってなかったみたいだけど…」


「そこがたちの悪いところなんだ。外に出てから因縁付けて街を出て戦うんだ。たまたま旅人に通報されて発覚したが、かなりの前科者だぞ」


「なんだか、話を聞いてる限りだと、高ランクの人ってまともな人がいませんね」


「誤解するなよ。一部だよ、一部。大体、俺だって面倒見よかっただろうが」


「まあ、そうなんですけど…」


昇格が嫌だから隣の大陸まで単独で逃げてくるあたり、バルドーさんも破天荒だと思う。でも、面白エピソードも聞けたしいっか。私はこうならないようにしないとな。別にみんなに尊敬されたいとは思わないけど、手本になるような冒険者にはなりたいなぁ。


「おっと、話が長くなっちまったな。そういうわけだから、来週いっぱいはこの街にいるから、よろしくな!」


「はい。向こうの人に笑われないような作品を持って来ますね」


そうと決まれば、早速次の作品作りに取り掛からなきゃ。水晶を削るだけならそこまで魔力も使わないし、今日は下準備に当てよう。



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