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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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休日と森林浴


 着替えて簡単に朝食を取ったら外へ出る。


「それじゃ、どこ行こっか?」


《チッ》


 ミネルがアルナを連れて西の方へ向かう。私やエミールたちはそれに続いていく。そして、ミネルたちが来た場所は……。


「ここって西門だよ? ひょっとして外に出るの?」


《チッ》


 ミネルにも何か考えがあるようだけど、アルナたちを町の外に出すなんて大丈夫かなぁ。


「危なくなったらすぐに隠れること! いいね」


《ピィ》


《ピッ》


 二羽とも初めての町の外だから、ちょっと緊張しているみたいだ。


「その前に外に出るならご飯買ってくるね」


 その辺の出店を何件か物色して、お昼ご飯を買う。あまり外で食べないから、こういう機会に新しい味にチャレンジしないとね。


「それじゃ、出発するけど私から半径二十メートル以上は離れないでね。もっと近い方がいいけど、それより離れたら魔法が通じなくなるからね」


 ティタからミネルたちに私の魔法を説明してもらってみんなに約束させる。窮屈かもしれないけど、小鳥にとってはゴブリンの矢も当たれば大怪我になるのだ。こっち側には今でも生息しているから、注意しないと……。


「おや、アスカちゃんか。珍しいね、こっち側に来るなんて」


「今日は従魔の散歩なんです。それじゃ、通りますね」


「はいよ」


 門番さんに挨拶をして通してもらう。門を通ったところで再び声を掛けられた。


「アスカちゃん!」


「何ですか?」


「そういやこの辺で、ウルフがたまに出るらしいんだ。気を付けなよ!」


「ありがとうございます。それにしてもウルフかぁ~、もしかしてリンネだったりしてね。そんなわけないか。リンネはお外に出ないもんね」


 リンネがトレーニング代わりに、夜中に外壁を越えて外に出ていることなどついぞ思わぬ私だった。


「さあ、ここからは街道沿いに進んでいくよ。この道になってるところが一番安全だからね」


 人も魔物も他人の手が入った環境には敏感だ。特に道ともなれば常に人が行きかうことをお互いに知っている。だから、その場所ではよほどのことがない限り不干渉なのだ。

 たた、人が無限に土地を広げられるわけではなく、ここからは簡単には立ち入れないという目印でもあるということらしい。この前、ジュールさんになぜ街道の移動が安全かということを教えてもらったんだ。


「外に出てきたけど、どこに行きたい? 草原、湖、林に森とあるけど。あまり森はお勧めしないけどね」


《ピィ》


「みれるところぜんぶ、だって」


 とても子どもらしい表現だ。だけど、全部は駄目だな。さすがに私も歩き疲れちゃうし、細工もまだまだ途中だし。


「また今度、連れて来てあげるから二つまでね」


 アルナがエミールやミネルたちと散々話し合った結果、林と湖になった。湖がエミールで、林はもちろんアルナの意見だ。エミールは水の素養が高く、姿もバーナン鳥のレダに似ているから、水場が好きなのかも。

 ちなみにアルナが森を選ばなかった理由は、木が多すぎて飛びづらいからということだ。まだ二羽とも小さいから大空を舞うとまでは行かない。そこで、背の高い木が多い森は嫌なのだそうだ。


「それじゃ、森に来るのは冬ぐらいかな? その時には二羽とももう少し大きくなってるかな?」


《ピィ》


 元気よく返事をするアルナと少々自信なさげなエミール。私的には大きくならくていいから、元気でいてくれたらいいんだけどね。


「それじゃ、まずは湖からだね。もう右手に見えてるけど、もうちょっと進んだところで曲がると、いい眺めだからそこまで行くよ」


 みんなを連れて湖の近くを進んでいく。それから十五分程歩いてさらに湖側へ少し進むと、湖面が見渡せるスポットに着いた。


「ここは私が最初にアルバへ来る時に休憩したところなんだよ」


《チッ》


「ミネルはなんて?」


「そんなはなし、はじめてきいた」


「そうだっけ? そう言えば、ミネルを連れて外に行くことってほとんどなかったっけ」


 思い返せば小鳥ということもあったけど、危ないからとほとんど冒険に同行させたことはなかったな。ハイロックリザードの件があってからは特にだ。


「これからは時間のある時にたまに来ようね」


《チュン》


 レダも元気よく返事をする。みんなやっぱり自然が多いところが好きなんだね。湖畔をぼーっと眺める。こういう休日もたまにはいいなぁ。ミネルたちはというと、自分たちでも食べられる小魚がいないかしきりに水面を見ている。


「あはは、がんばってね~」


 そんな微笑ましい光景だと見ていたのだけど……。


《ピィ》


 ズドンとちょっと大きな音がしたと思ったら、水しぶきがぶわっと上がる。


「な、何? 魔物の襲撃!?」


 急いで杖を持って立ち上がる。


《ピィィィーーーー》


 水面を見るとアルナが頑張って魔法で持ち上げたのは大きな魚だった。魚はえらのところを魔法が貫通したみたいで、すでに絶命していた。


「あっ、維持するの大変だよね。はいっ!」


 すぐに魔法でフォローを入れて、魚をこっちへ持ってくる。


「しかしまた、大きい魚だね」


 全長七十センチはあろうかという大物だ。アルナがふふんと自慢げにこっちを見てくる。


「でも、ここには調味料もないし、私たちだけじゃ食べきれないから、持って帰って夜食べようね」


《チィ》


 エミールも大きい魚に興味があるのか、チョンと尻尾の先をつついている。


「後、急に魔法を使わないでね。びっくりしたんだから」


《ピィ》


 私の肩につかまってアルナが返事をする。まあ、わかってくれたらいいよ。お魚も美味しそうだし。それから、三十分ほどゆっくりした後、今度は林に向けて動き出した。


「さて、林といっても結構遠いよ? みんな飛んで行く?」


《チッ》


《チュン》


 ミネルとレダは大人だけあって、二羽とも飛んで行くみたいだ。アルナとエミールはまだ長距離を飛んだことがないから、私の肩につかまって移動することになった。アルナはティタの頭に乗ってるんだけどね。


「アルナ~、足滑らせないようにね」


 ティタは金属の身体なので滑らないか心配だ。アルナは元気なんだけど、びっくりするとピタッと固まっちゃうんだよね。その辺はまだまだ経験不足だね。逆にエミールは危なっかしいシーン自体見かけない。驚いた時は一瞬止まるけど、それでも対処もできるし。


「まあ、アルナの所為で慣れてるだけかもしれないけど」


《ピッ?》


 それから、一時間近く歩いてようやく林が見えるところまでやって来た。


「さあ、ここでお昼にしようね」


 この辺は水辺も近いし、辺りは背の低い草ばかり。それにすぐ横は街道と安全が確保された場所だ。よほどのことがなければ邪魔は入らない。


「いただきま~す」


 出がけに買っておいた食事を食べ始める。ミネルたちは持ってきた食事もあるけど、その辺の草むらでも何か探している様だ。


「一種の青空教室だよね。ミネルとレダが、色々な食べ物を実地でレクチャーするなんて」


 でも、毎回小さい虫とかは見せなくていいから。食事中だし、苦手なんだよね。


「おっ! こっちのはちょっと違うパンだなぁ。他の店で買ってるのにちょっと柔らかいし、ふんわり味も付いてる」


 他所で買うから覚悟していたんだけど、こういう変わったものがあるなら今度また買ってこようかな? そう思いながら、次のものに手を伸ばす。


「うっ、なにこれ?」


 食べたところから中を見てみる。具沢山って屋台に書いてあったことは覚えてるんだけど……。


「中身は……うわぁなにこれ」


 中は市場でもよく余る味の悪い果物と、野菜に肉が巻かれているという内容だったけど、肉は薄切りだし、野菜は市場でも特価でよく出てる安いやつだ。これに塩気が強めのタレでごまかすように作られている。


「こ、こういうのも出会いっていうんだろうか……」


 とりあえず、中の肉を火の魔法であぶって食べる。


「うう~ん、ちょっと酸味も薄れたし、まだ食べられるかな?」


 本当はこれも屋台の商品だし、その場で食べたらこれに近い味だったのかも?


「二度と買わないから別にいいけどね」


 確かに安くはあったけど、これなら別のものを買う。栄養はありそうだけど、私の持論はまずい食品に栄養はない! だ。気分の問題だと思うけど。


「さて、食事も終わったしそろそろ林に向かおう!」


《ピィ》


 元気よくアルナが空を飛びアピールする。


「ほらほら、そんなに遠くへ行っちゃだめだよ」


 はやるアルナをなだめながら林に向かう。向かう先はシェルオークのところだ。他の人に場所が分からないように浮きながら林の裏手に回る。


「さあ、ここからは木も多いからちゃんとつかまっててね」


《ピッ》


 肩につかまった二羽とともに林へ入っていく。薄暗い入り口を越えて、しばらく進むとシェルオークが見えた。


「ほら、あれがシェルオークだよ。あの上で休もう。シェルオークさん、少し場所をお借りしますね」


 さわさわと木が揺れる。そして私たちは風の魔法で丈夫そうな枝に乗っかる。


「さあ、着いたよ。ここで休むもよし、ちょっとだけならその辺を飛んできてもいいよ」


《ピィ》


 それを聞いたアルナが真っ先に飛んで行く。割と高いところに居るので、周囲には木がなくて飛びやすそうだ。エミールは大きいシェルオークに圧倒されながらも、枝から枝へと飛び移り、見て回っている。ミネルとレダはというと子どもたちが気になるのだろう。木のてっぺんに移って、どちらもの姿が確認できるようにしているみたいだ。


「さて、しばらくみんな遊ぶとと思うし、私はちょっと休もうかな?」


 幹に寄り掛かるようにしてちょっと休む。


「う~ん、今日はあったかいし風が気持ちいいなぁ」


 そこから、十分ぐらいは覚えているんだけど、次第にうとうとしてきて、気付いたら私は眠ってしまっていた。


 トントン


「うう~ん、なにぃ~」


「アスカ、おきる」


「え~、起きる?」


 ぱちぱちと目を開ける。そこには綺麗な夕焼けが広がっていた。


「うわぁ~、きれ~い」


「うん。もう、ゆうがた」


「えっ!? もうそんな時間なの? 私寝ちゃってたんだ。な~んだ。綺麗な景色を見せたいわけじゃなかったんだ」


「よこ」


 ティタが言うので横を見ると、アルナもエミールも枝につかまりながら眠っていた。まだまだ、小さいんだし当然だよね。


「よしっ! 帰ろう」


 ちょっと二羽には悪いけど、起こして持ってきていた小さい鳥かごに入ってもらう。まだ眠そうだし、このままじゃ肩につかまってても落ちそうだったからね。


「ミネル~、レダ~、帰るよ」


《チッ》


《チュン》


 上の方でのんびりしている二羽を呼んで、木から下りて帰る。


「それじゃあ、また来るね」


 シェルオークに挨拶をして林を出る。さわさわと葉が揺れた気がした。


「二羽とも気に入ってもらえたら嬉しいな」


 久し振りの休日らしい休日を終えた私は、再び明日から始まる細工に向けて十分な休息が取れたのだった。




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