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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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試作品完成


 食事に遅れた理由を聞いたエレンちゃんに、呆れられながら食事をした次の日。


「今日こそは一回作って見せないとね」


 昨日は結局、球形の形を作る練習とそこから球形に細工をするだけで終わってしまった。今日は一応、ここから形にして行けたらなって思っている。


「なんて言っても、模様を描くのだけでも難しいし、なかなか進まないんだよね~。模様を張り付けられたら楽なんだけどな」


 それなら、難しい球形を削る作業も必要なくなる。透明な水晶だとそれでも二重にすれば綺麗な模様になる。


「でもねぇ。最初からそういうやり方でやってたら上達しないし、何より見栄え自体は悪くなるんだよね」


 確かにシールみたいなのが出来れば綺麗に見える。ただ、よく見ればしわがあるかもしれないし、どうしてもそのまま細工をしたのとは違って、模様のところで透明度がなくなってしまう。


「せっかく、水晶を使ってるんだから奥まで見えた方がかっこいいよね」


 気合を入れ直して作業に入る。昨日の時点で球形を彫ることに慣れてきたから、午前はいくつか木に細工を施して、午後からは実際に水晶を使って作る予定だ。


「そうと決まれば、さっさと作っちゃおう。まずはこの木だね。慣らしも入れて最初は全部球形を作って……後で、一気に加工をと」


 まずは球形を大量に用意をするところから始め、そこから一気に細工を施していく。こうして三十分ほどで四つの球体を作り上げると、早速そこに細工を施していく。


「まず一つ目の模様はバラだね。向こうの大陸の帝国が国花に指定しているだけあって、バリエーションも豊富だし、結構売れ行きもいいみたいだし」


 こういうところはバルドーさん情報が役に立つ。バルドーさんの依頼品は期間限定でしか作れないのでこういう情報があると助かる。


「そこそこいいものが出来たかな? 次は何がいいかなぁ。一応いくつかの模様の組み合わせを試してみようかな?」


 細工の難易度が高かったから、どんなものを彫るかをあまり決めていなかったので、とりあえず色々な模様を彫っていく。この模様の中で気に入ったものを本番では彫って行こうかな? こうして調子よく次々に細工を施していく。


「もう、細工をすること自体は慣れてきたかな? 実際の水晶相手だと不安だけど……」


 予定通り、午前中には木に細工を施すことが出来たので、休憩がてら食堂で昼食を取り、再び部屋に戻る。


「さあ、再開だ! 今度は実際に水晶で試そう」


 木くずを片付けて、いよいよ水晶を取り出して本番開始だ。


「最初に外側の水晶を用意してと……」


 ここがうまくいけば、そのままくりぬいた水晶を内側の水晶として利用できる。これが出来るか否かでかなり制作にかかる費用も変わってくるから、頑張らないと!


「焦らず、でも素早く……」


 ピシッ


「ひっ!」


 あああ、せっかくの水晶が……。木と違って水晶はくり抜こうとすると簡単にひびが入ってしまった。


「ひょっとしてこれ削るしかない?」


 この調子だとくり抜く方がリスクが高くなるかもしれない。


 気を取り直してもう一度……。


 ぴしっ


「ああ、駄目だ。なるべく衝撃を与えないようにして削って行こう」


 せめてもの悪あがきで、最初の一回だけはちょっと大きめの溝を入れて、ある程度の大きさのものが取れるようにした。


「だけど、これ以上材料費を考えて作業するのは無理だな」


 この工程は今後この手の細工を行う基本動作だ。これに手間取らないようにしないといけないのだ。そして、集中しながら一時間半の作業で二つの水晶のくり抜きに成功した。


「ふぅ~、まずはちょっと肩の荷が下りたかな?」


 これで外殻が二つ出来た。続いて小さく切り出した水晶を加工して、中に入れる水晶を作っていく。こうしてまずは材料となる外殻と内側の水晶が二つずつ完成した。


「だけど、ここで失敗したらまたくり抜かないといけないのかぁ」


 失敗したら新たな水晶が必要になるし、ちょっと大変だなぁ。


「最初から分かってたけど、実際に作り始めると本当に難しい作業だなって思うよ。これを始めた人はかなり腕に自信がある人だったんだね」


 そうでなければ大金持ちだ。それ以外にこれを作れる人はいないだろう。


「まず最初は中に入れる方の水晶にバラの細工をするところからからだね。いきなりにしては難しいなぁ」


 文句を言っても始まらない。どの道、最後には全部やるんだから。そう思って細工を始める。

 シャッシャッと少しずつ慎重に削って、作り上げていく。木で練習したのと思いの外、感覚が違わないのが大きい。


「もっと、加工しにくいかと思ったけど、それほどでもなかったな」


 もちろん削る工程に関してだけだけど。昨日の練習が十分生きているからなのかもしれないけど、この調子なら思ったよりすぐに出来ちゃうかも? そのまま作業を続けて、一つ目の水晶への細工が完了した。


「よし、まずは一つ目! この調子でどんどん作っちゃおう!」


 勢いに乗って次の水晶を彫り始めたのだけど……。


 ピシッ


「えっ?」


 いや~な音が鳴り響く。音自体は小さかったけど、やけに大きく聞こえた。


「あはは、まさかそんな簡単に……傷が入ってる」


 品質が悪かったのか、運が悪かったのか、水晶にはひび割れが入っている。


「ううっ。でも、内側に入れるものだし使えないことはない……と思いたい」


 ひとまず今は練習も兼ねているからそのまま細工をしていく。


「まあ、これはこれで模様みたいになっていいかも」


 そう思い込み何とか細工を終わらせる。


「後はこれを中に入れるだけだね。とりあえず先にこの割れてるのから入れてみよう」


 こっちの作業は初めてなので、試しにひびが入ってしまった方で試す。


「ん、ちょっと固いな。ちょっと削った方がいいかも」


 ちょうどあけた穴に入るように作ったつもりなんだけど、入れるところでちょっと突っかかっちゃうな。ちょっと力を入れれば入りそうだけど、ごそごそするのとどっちが良いんだろう?


「でも、無理やり入れたら擦れたところが削れそうで怖いんだよね。だからといって、小さくし過ぎると中で動いちゃうし……」


 実際に作業をやらないと分からないことも多いということだ。気を取り直して口をちょっと削って水晶を入れる。


「う~ん。ちょっと削った分、何か詰めないとぐらぐらだなぁ」


 中の模様が動いて面白いけど、明らかに二重だって分かってしまう。ちょっと高めの細工ならいいけど、それなりの値段で売るなら難しいなぁ。


「何より内側で擦れて模様が消えちゃうよね」


 そこまで硬い石ではないので、その内模様は全部消えてしまうだろう。


「後は中に削れた石の粉がたまって、透き通らなくなっちゃうね」


 これは前途多難だ。ティタが見たものはどうやら思っている以上に難易度が高い細工だったらしい。改めてこの細工の難しさに舌を巻く。


「つ、次はバラだ。ドキドキするなぁ」


 こっちはうまく細工出来てるけど、あえて今回は押し込んでみる。こうすればぐらつく要素を最小限に出来るからだ。


「うん、やっぱり硬いな。それでも試してみないと……」


 もう一度力を入れて何とか押し込むことに成功した。


「よしっ! 結果は?」


 私はなんとか入れた内側の細工を見てみる。


「うわ~ん、中央のところが削れちゃった~」


 押し込む時に一番擦れる中央部分の細工がちょっとだけ削れちゃってる。ただ、思った通りにぐらつくのは防げたみたいだ。


「でも、せっかく花びらの広がるところが削れちゃったなぁ」


 そこまで大きく削れてないから、ちょっと見ただけだと分からないけど、手に取るとよく分かる。何とか傷がつかないようにしたいなぁ。入れ方はこっちの方が見栄えもいいので何とか良い入れ方を考えないと。


「やっぱり、いいものを出したいからね。ここで諦めちゃだめだ」


 とりあえず、潤滑油を薄~くはけで塗ってみて様子を見よう。これでうまくいけば傷もつきにくくなるだろう。


「試すのにもう一回作らないとだね。早速、やらなきゃ!」


 再び、水晶を削る作業から始める。今回は最初からくり抜くことに注力しているから、ひとつ目は割ることなく出来た。そして二つ目はというと……。


 ピシッ


「嘘でしょ……。さっきとやり方一緒だったのに。ティタ教授何とかなりませんか?」


「う~ん。これは柔らかいとこ」


 欠けた石を食べた教授が説明してくれる。何でも見た目が一緒に見えても、やや脆いものがあるらしい。ティタ教授は欠片でも食べればそれが分かるらしい。


「じゃ、じゃあ、ここにある水晶はやめといた方がいいですか?」


「こっちのはだいじょうぶ。これは……むりかな?」


 何てことだ! ここまで薄く削ったことはなかったけど、強度に差があるなんて……。


「今後のことも考えて、早速、補充しにいきましょう!」


「う、うん!?」


 教授をバッグに詰め込み、いざおじさんの店へ。


「こんにちは~」


「おっ、アスカか。バルドーに聞いたが、面白いことやってんだってな!」


「水晶の件ですか? 確かに大変ですけどやりがいはありますね。それで追加で水晶が欲しいんですけど」


「もう足りないのか? 魔道具の分で結構持ってると思ったんだが……」


 事情を知らないおじさんが奥から数個水晶を持ってきてくれる。


「ほら、こん位でいいだろ?」


「ちょっと見せてください! 教授、どうですか?」


「教授?」


 ティタ教授に出来を見てもらう。食べれば確実だけど、さすがに売り物には出来ないので触って確認してもらう。これだけでもある程度は分かるらしい。


「……。ふむ、こっちはだいじょぶ。これはダメ」


 おじさんが持ってきた水晶の塊を選り分けていくティタ。


「おじさん、もうちょっと持ってきてもらえます?」


「ああ、構わないが、何やってるんだ?」


「ティタ教授に質のいい水晶を選り分けてもらってるんです」


「そ、そんなことできんのか?」


「あくまで、かたさがわかるだけ。ひんしつとは、またちがう」


「でも、固いってことは密度が良いんだろ? すげぇな」


「でしょう! 私の自慢の従魔ですから」


 こうして、おじさんの店から固い水晶を選り分けて、私たちは宿に帰っていった。


「待てよ。この店に今残ってるのは……。まさか、仕入れし直しか?」




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