土産話
食堂でバルドーさんと王都の話をしていると、エステルさんが朝食を持ってきてくれた。
「はい、朝食よ。バルドーさんたちもどうぞ」
「おっ、悪いな。それでだ、市場に関しては朝から大賑わいだし、通りも広い。まあ、そこは良し悪しで見廻るのにも時間がかかるし、きちんとした目を持っていないとすぐに騙されちまうがな」
「やっぱりそういうのもあるんですか?はむっ」
「まあな。だが、本当に価値のないもんではない。逆に本当に珍しい物もある。向こうも売れそうなものを見つけて売ってるだけで、正しい知識を持っていないしな。商店の数もこことは違う。まともな商人ばかりじゃない」
「そんなに店がいっぱいあるんですか?」
「店といっても個人でやってるものもあれば店舗があるものもある。ただ、ここと違って王都の土地は高いから思ってるより個人店が多いかもな。店舗も持つのが大変なんで、市場の一部を時間帯ごとに借り入れてる感じだ」
「アルバじゃそういうのって、商人ギルドに登録してればすごく安いですよね」
「ああ、普通の街じゃ維持費の回収とちょっとした儲けを得るぐらいで、借りる方も安いが王都だと土地代が高いからそうもいかない。買う方は楽だが、案外売る方にとっちゃ大変な場所かもな」
「王都の他にはどこか行ったんですか?」
「もちろんよ。なんせ、王都の北西には細工で有名な街があるから」
ジェシーさんがバルドーさんの代わりに答えてくれた。話には聞いたことがあったけど、他の大陸の出身者であるジェシーさんも知ってるぐらい有名なんだ。
「それでどうでした?」
「もちろん、いい物や新しいデザインのものがいっぱいあったわよ。ただ…」
すごく良いところだったと、細工屋の娘さん視点の話をしてくれるジェシーさん。でも、ちょっと何か思うところがあったみたいだ。
「なんだジェシー。何かあったのか?俺にはいいものがいっぱいあったと思ったが…」
「それはもちろんそうよ。緻密な細工や過去に作られた一品なんかも工房に飾られていたり、商店の方も何かしら特別な物を必ず持っていたしね。ただ、気になったのはその品質ね」
「品質ですか?」
細工の街だというのにどうしたんだろう?
「そうね。確かにちょっと古いデザインとかのものも多かったわ。それは、工房が長く続いているって証明でもあるんだけど、いい出来!って思うものが大体それなのよね。最近改めて作ったのか、そのまま置いてるのかまでは分からなかったけど、最近流行っているものでいい出来なのが少なかったの」
「へ~、ジェシーさんはこの国の流行りのデザインとか知ってたんですね」
「王都に先に寄ってたから。そっちで最近の傾向を聞いておいたの。こういうのは旅人の方が気になるからね。でも、その流行りのデザインって感じのものは良いものが少なかったのよね。ここを出発する前にアスカちゃんの細工を見せてもらったでしょう?そういうのがごろごろしてるかと思ってたんだけど…」
「そういえば、街を歩いていても妙に観光客とか旅人向けの店が多かったな」
あ~、なんだかわかるかも。特産品をアピールするのに審査が甘くなっちゃったって感じなのかな?私もそうだけど、この世界の細工師は別に免許とかがあるわけでもないし、基本売れたらいいって感じだもんね。この街で買ったものだから、それは良い物だってなってるのかも。
「そうなのよ。確かに流行りのデザインのも多かったんだけど、ちょっとつたないのとかも目についたのよね。あんまり独創的なのはなかったし。伝統の意匠って言うの?それはそれで悪くないんだけどね…」
流石は細工屋の娘さんというところだろうか。私たちとは違った目線で見ていたみたいだ。
「あ~、そういやそんな呼び込み多かったなあ。ありゃ弟子の作品だったのか?」
「多分ね。工房自体の数も多いし、一部のは良くも悪くも材料費の回収かしら。作り直すよりは売った方がって感じでしょうね」
「まあ、経営もあるだろうしそこらへんは仕方ないな」
「ちなみにどんなのを買ったんですか?」
「見たいか?」
「みたいです!」
この大陸での細工の本場がどういうものなのか一度見てみたかったんだ。おじさんの店は自分の作品とかこの街の細工師さんのばかりだし、レディトの方は特定の人と契約していて、流行りのものもちょっとは置くけど、どうしても王都に物が先に着くからあまり置いても売れないんだって。レディトからじゃ、数日で王都に行けちゃうしね。
「変わってると言えばこれだな」
そう言って、バルドーさんがイヤリングを取り出した。
「わっ、すごい!水晶の中に模様がある!」
こういうのってどうやってるんだろう?興味は尽きないけど、確かにきれい。奥にある模様も細工が美しくてこだわりを感じるなぁ。
「ちょっと見てみるか?」
「良いんですか!」
「おう、なんてったってお前に見せれば、また何か作ってくれるだろ?期待してるぞ」
「そういう理由ですか…」
「まあ、アスカちゃんもじっくり見た方がいいわよ。こういうのはこの街に居ても中々見れないでしょうし」
「そうですね。じゃあ、ご飯を食べてからと…失礼します」
残っていた少量のおかずを片付けて、ハンカチを取り出してイヤリングを見てみる。
「へ~、上部の金属もきれいですね。よく磨かれてます」
「だろ?そこそこしたんだぞ。こういうちょっと面白いのは向こうでよく売れると思ってな。あっちも職人だからな」
そういえば、バルドーさんの街も細工とかが盛んだったっけ。なるほどなぁ、装飾品と見本とかみたいな感じの2つの需要があるんだ。そういえば、グリディアちゃん像もコレクターさんに渡すって言ってたっけ?
「うう~ん。この模様のあるところと外側の色味が違うのが気になりますね。あと、金属部がもうちょっと小さくてもいいような…」
確かに手に取って見るとすごくよく分かる。水晶の模様はきれいだけど、ちょっと留め具の金属が大きいかなって思うんだ。もう少し小さくてもいいのになぁ。
「そう?これぐらいあった方が、取れそうになくていいんじゃない?」
「でも、なんていうかこれだけきれいなんだから、もうちょっとこの水晶が目立つようにしてもいいと思うんですよね」
「そう言われるとそうね。もっと、上からとかも見えるようにしてもいいと思うわ。見れるのは本人ぐらいでしょうけど」
「そうなんですよね~。これだけの細工が出来るんですから、そうしてもいいと思うのにな~。それともこういうのが王都の流行なんですかね?」
「いや、そういうデザインのが流行っているとは聞いたことはないな。何か理由があるんじゃないか?」
「理由ですか?それじゃあ、下から覗いてっと」
改めて細工の側から金属の方を見てみる。うう~ん、この外側と模様の色味が違うのも気になるなぁ。
「アスカ、どうしてる?」
その時、朝ご飯を終えたティタがこっちに来た。朝も大体はミーシャさんがご飯を出してくれるんだけど、仕事に戻ってしまったので、こっちに来たみたいだ。
「ティタ、これなんだけど内側と外側で色味が違うんだけど、こんな変化って自然界にあるのかなぁ?何て聞いても分かんないか…」
「ん?こういうのはない。これ、2じゅう」
「えっ、2重?」
「このそととうちは、べつのいし。こういうのみたことある」
「ティ、ティタ先生!もっと詳しく!」
「ん…」
ティタ先生がこういう細工を見たことがあるというので、ご教授願う。
「ふんふん。なるほどねぇ~。そういうやり方かぁ。だから、この金属部分が大きいんだね」
「かさねるとき、ちゃんとおさえられる」
「えっ!」
どうやら、ティタ教授はこれよりも出来の良いものを見たことがあったらしい。何でも聞いてみるものだ。
「で、結局どういう仕組みなんだ?」
「ティタ教授によると…」
「教授?」
「ほらそこ、私語しない!」
思わず私も教授口調になっちゃった。
「は、はい…」
「ええ~とですね。この細工は大きい水晶と小さい水晶を用意して、大きい方の中心をくりぬいてそこに外側に細工を施した小さい水晶をはめ込むそうです」
「ほう~、なるほどな!確かにそれなら内と外で色味が違うのも納得だし、加工も簡単にできるな」
「そうですね。ただ、球状のものに細工をするのは難しいですし、近くで見ないと色味の変化も分かりにくいですから腕はいいですよ」
「だがティタ…」
「教授!」
「ティタ教授はこれよりすごいものを見たことがあるんだろう?」
「うん。4じゅうぐらい、うちそとにさいくあった」
「どうやら、特別な道具が必要になりそうなんですが、内と外の両側に細工をして立体的だったりわずかに見え方が違ったりと高度な技術のものを見たそうで…」
「へ~、ゴーレムって石で出来てるとは思ってたけど、そういうのにも詳しいのね」
「さいくのまち。いい、いしいっぱい」
「そっちなの!?もしかしてその細工って…」
「たべてないよ」
よかった~。そんな力作を食べられたなんて知ったら、私ならショックでしばらく動けないかも。
「でも、街までゴーレムが出たなんて危なくなかったの?」
「へんなおじさんとはずれにすんでた」
「変なおじさん?」
ティタに話を聞いてみると、従魔にするでもなくのんびり2人?で暮らしていたとのこと、数年後にはその人は結婚して、しばらく家族と一緒に住んでたらしい。でも、病気にかかって亡くなってそこを出てきたらしい。
「へ~、そういえば街での振る舞いとか慣れてたなぁ」
「むかし、まなんだ」
何でもそのおじさんも昔は冒険者だったらしくて、街の人たちも安心してたんだって。しかも、その人は結構お金持ちだったらしく、魔石とかも多くの種類を食べたとのこと。そんな人なら私も会って見たかったなぁ。
「いいもの、いっぱいたべた」
「その人の家族とか今はどうしてるの?」
「さあ?100ねんいじょうまえだから」
「ひゃ、百年。ティタって何歳なの?」
「ん~、250さいぐらい?」
「桁が違うな。それならいい石の在りかとか分かるか?」
バルドーさんの言葉に私も気になったけど、どうやら魔力を帯びた石がお気に入りで、綺麗とか硬いだけの石は見向きもしなかったから、よく分からないらしい。残念。
「まあ、これでからくりも分かったわけだし、一度作ってみないか?」
「でも、良いんですかね?せっかくのアイディアを取っちゃっても」
「気にすんな。どうせ、お前も昔は本とか読んだだろ?あれだって、誰かが体系立ててくれたのを読んでるじゃねぇか。それと一緒だよ」
「ん~、そういえばそうですね。じゃあ、早速やってみます」
「材料はあるの?」
「水晶なら他で使う予定があったんで結構持ってるんですよ。もしかしたら、道具は必要になるかもしれませんけど…」
石を削るためのものはまっすぐだし、内側とか削るんだったら誰かに道具を作ってもらわないといけないかもしれないけど。
「まずはチャレンジだ!」
バルドーさんにお礼を言って細工を返し、部屋に戻る。さあ、新作の作成だ!