プレゼントタイム
「ホルンさんいますか~」
ギルドに飛び込む勢いで入った私はホルンさんを探す。
「あら、どうしたのこんな時間に?」
「ちょっと鑑定で見てもらいたいものがあって…」
「鑑定ねぇ…。依頼のものじゃないから銀貨1枚かかっちゃうけどいい?」
依頼以外だとそんなにするんだ。でも、持ってない人は魔道具買ったりして調べるわけだし当然だよね。
「だ、大丈夫です」
はぁはぁ
「と、とりあえず落ち着いて。そうね、今日はもう人も来ないと思うから奥へ行きましょうか」
そのままホルンさんに連れられて2Fへと向かう。部屋ではジュールさんが書類とにらめっこしていた。
「お、アスカにホルンかどうしたんだ?」
「鑑定をして欲しいってことだったのでお茶ついでに」
「そうか、そこにあるから飲んでいいぞ」
ホルンさんがコップにお茶を入れて持ってきてくれる。
「はい、どうぞ。落ち着いたら見せてもらえるかしら?」
ゴクゴク
「こ、これなんですけど魔道具なのかどうかを知りたくて…」
「あらかわいい髪飾りね。ちょっと見せてね。…なるほど裏に宝石で手前にデザインなのね。珍しいわね。じゃあ、スキルを使うわよ」
物品鑑定使用
藤の髪飾り:女神アラシェルの加護を持つ、運+5。エレン装着時に風魔法による危険防護機能あり。製作者アスカ
緑の石はグリーンスライムの魔石で風の魔力を秘めている。繰り返して使用が可能。
んん、聞いたことのない女神の名前ね。どこかの地域神かしら?あら、個人向けの専用魔導具なんて珍しいわねって製作者アスカちゃんなの?
「ど、どうですか?ちゃんとついてます?」
「ちゃんと魔道具になっているみたいね。ただ、エレンという人にしか効果のない機能もついているわ。危なくなったら身を守ってくれるみたい。ただ、一度使うと魔力の再充填が必要よ」
「ほっ、よかった~」
「というかこれアスカちゃんが作ったのね。どこで覚えてきたの?」
「あっ!ええと…さ、細工屋のおじさんにやり方を教えてもらってですね…」
「はぁ~、あんまり広めないようにしなさい。魔道具を作れる人は少ないのだから。それと魔力を大量に使うからくれぐれも、依頼の近い日にはしないようにね」
「は、はひ」
「ん、分かればよろしい。無理しないようにね。それと、たまには依頼も受けに来てね。カウンターも暇なのよ」
「はい!明後日にはジャネットさんと一緒に来ます」
「あら?彼女と知り合いだったのね。面倒見はいいから色々と教えてもらいなさい」
「そのつもりです」
私はホルンさんにお礼を言ってギルドを出る。エレンちゃんに早く見せたいところだけど、おじさんにも見せる約束をしてるし明日かな。エレンちゃん喜んでくれるといいなぁ。
「ギルドマスター聞いていましたよね?ライギルさんからの陳情にプラスして商人ギルドにうっかり手を出されないようにしましょう」
「そうだな。何か話しそうになったら構わずこっちに連れてくるといい。どうせお前のところに並ぶ奴は少ないから何も言わんだろう」
「そうします」
「ただいま~」
「あれ、おねえちゃんどこ行ってたのこんな時間に?」
「ん、ちょっと見てもらいたいものがあってギルドにね~」
「そうなんだ。今日はもう何にもしないの?」
「うん、ご飯もいつも通りの時間かな」
「分かった、用意しとくね」
「それじゃあ部屋にいるから、何かあったら呼んでね」
「は~い」
部屋に戻ると髪飾りを机に置く。
「使わない時に仕舞うものもいるよね」
前に残った木片を加工して小箱を作る。こういう時は形取りだけして細かいところは手作業だ。とはいってもちょっと削るだけなのですぐに終わる。
「後は、この間たまった袋を布にして下に敷いて…これでいいかな?」
小箱には藤の髪飾りが入れられている。早くエレンちゃんの喜ぶ顔が見たいなぁ~。明日はおじさんのところに行ったらすぐに帰って渡そう。そう決心して夕飯を食べた後はぐっすり眠るのだった。
「おはようございま~す」
「あら、おはようアスカちゃん。昨日から機嫌いいわね」
「はい、ちょっといいことがありまして」
「そうなの。はい、朝ごはん」
「いただきま~す」
「あ、おねえちゃんおはよ~」
「おはようエレンちゃん。今日も頑張ろうね」
「う、うん」
朝食を終えた私は早速、各部屋を回って今日もシーツ回収。
「そして、いつもの通りにシーツも洗ってと…そういえばもう10枚ぐらいなら簡単に洗えるようになったなぁ。最初から比べると大きな進歩だ」
ちょっとずつだけど私も冒険者に近づいているってことなのかな?そんなことを考えているとエレンちゃんが第2陣のシーツを持ってきてくれる。こっちは魔法でささっと終わらせる。
「エレンちゃん、今日は出かけたりする?」
「ううん。店番してると思うけどどうして?」
「そっか。じゃあ、昼終わったら一旦出かけるから」
「う、うん」
そんな話をしながらエレンちゃんとテーブルを拭く。そろそろお昼の部の開店時間だ。今日も天気はいいし、また忙しくなりそう。
「あ~、今日も働いた~」
「だよね~」
ただいま私たち2人は机に突っ伏している。お昼の回転率はやはり高い。もう少し人がいてもいいかなとも思うのだが、これが雨の日になると半分以下になるから難しいだろう。私みたいに内職持ちの冒険者なら、手伝いがなくなってもやることはあるが、そんな便利な冒険者は滅多にいない。
孤児院の人を雇うことも考えたそうだけど、お金のこともある。受付業務でも十分な教育が平民は受けられないため、勘定が大変なのだそうだ。教えながら働く余裕が今の宿にはない。いつかエレンちゃんも自由に休める日が来るといいね。
「ほら、お行儀悪いわよ。はい、お昼ご飯よ」
「ありがとうございます」
「ありがと~」
でも、疲れた仕事のあとにおいしい料理はついつい食べすぎちゃう。ほんとにこの宿を紹介してもらえてよかった。
「さて、ちょっと出かけてくるね」
「いってらっしゃ~い」
私は食事を終えると、着替えて昨日作った髪飾りを大事に袋に入れて、再びおじさんの細工屋へ。今回のは自分でも自信があるから大丈夫だろう。
「こんにちわ~」
「ああ、ゆっくり…ってお前か。昨日の奴になにか問題があったか?」
「ううん。これ見てもらいたかったの」
パカッ
私は持ってきた小箱を開けて髪飾りを見せる。
「こいつはまた…」
「どうです?結構いい出来だと自分では思うんですけど…」
「あ、ああ。見たことのない花のようだが細工は丁寧だ。正直、初めて金属加工したとは思えん。それに、魔石を丸々下に置いてるんだな。確かに小さい魔石だったがこんな使い方は珍しいな。宝石なら贅沢過ぎて使えんからな」
「言われてみればそうかも。大きい宝石なんて下に置くにはかなりのものが必要ですね」
「そうだ。魔石ならではだな。まあ、デザインといい発想といい、中々筋がいい。うちの店にこういう飾りっ気があるのは少ないから今度こういうのも頼んでいいか?」
「ちょっと時間かかってもいいならまた持ってきますね。そうそう、これちゃんと魔道具なんですよ。ホルンさんに鑑定してもらったから確かです」
ホルンさんからはあんまり言わないようにって言われてたけど、魔法陣とかのセットまでつけてくれたのはおじさんだし、ここは言わないとね。
「本当か?ちょっと見るぞ」
そういうとおじさんは片メガネを取りだして、髪飾りを見る。ひょっとしてあれが鑑定の魔道具かな?
「ふむ、あんまりこういうのは置かないから詳しくは見れんが、なにかの加護と風の魔法がかかってるみたいだな。このサイズで魔道具だなんて見どころがあるな」
「ほんとですか?頑張ったら食べていけたりします?」
「まあできるだろうが…珍しいからなぁ。とりあえずはもっと常識を身につけないとだめだな。これだって店売りの値段はわからんだろう?」
「確かにそうですね。適当な値付けって良くないですしね…」
「魔道具全体に関わってくるからなぁ。まあ、しばらくは見てやる」
「ありがとうございます。それじゃあまた!」
「あっ待て。……ほら銀だ。先に渡しておくからな。期限は特にいいからこんな感じで細工を作ってくれ。持ってきた時に銀の代金と商品の代金の差額を渡すからな」
「はい。でもいいんですか?先にもらっても」
「ああ、作ろうとしたけど材料がなかったなんてことになって、折角のやる気がなくなると困るからな」
「わかりました。日は空きますけど、また持ってきます」
「ああ」
おじさんと別れて私は宿に戻る。ちなみに渡された銀は縦横高さともに20センチぐらい。結構大きいし重い…。明らかに作るものとサイズの差があるんだけど…。
「ただいま~」
「あっ、おねえちゃんおかえり。もう用事はいいの?」
「うん。エレンちゃん今って時間ある?」
「いいよ~。お客さんも来てないしね」
確かにぐるりと食堂を見渡しても人はいなかった。説明するのにあんまり見られない方がいいと思うからちょうどかな?
「実はね…じゃ~ん!」
私は袋から髪飾りの入った小箱を取りだす。
「おねえちゃんこれなに?」
「まずは開けてみて!」
「う、うん」
なんだか不審物を見るような目だったけど気にせず開封を勧める。
パカッ
「ふえっ!これって…」
「この前約束したエレンちゃん用の髪飾り。頑張って昨日のうちに作ったんだ」
「うれしい…。それで昨日の夜から変なテンションだったんだ」
「変だった?」
「うん、朝とかも一体どうしたんだってお母さんたちも心配してたよ。これ、すっごくきれいだね。ありがとうおねえちゃん!」
ぎゅ~
カウンターのところでエレンちゃんが抱き着いてきた。
「お前ら何やってるんだ?」
「お父さん!おねえちゃんがね、髪飾り作ってくれたの!」
嬉しそうにエレンちゃんがライギルさんに髪飾りを見せに行く。
「ほう~、見事な細工物だな。アスカ悪いな」
「いいえ、私が作りたかっただけですから。さあ、エレンちゃん。付けてあげるからこっち来て」
「は~い」
髪飾りをエレンちゃんの髪につけてあげる。栗色の髪に銀と緑の輝きの髪飾りがつけられる。今はまだ背も小さいからちょっと大きく感じるけれど、年頃になったらさぞ似合うだろうな。
「はい、できたよ」
「ありがとう~。お母さんにも見せてくるね」
「あっ、エレンちゃん。お守りみたいなものだから、何かあったらつけといてね」
「は~い」
もう少しちゃんと説明したかったけど、はしゃいでしまってそれどころではないようだ。
「すまんな。俺じゃあ、ああいうのも見れんし、ミーシャも中々外に行けないしな」
「いいんです。私が作りたかったので。エレンちゃん聞いてくれませんでしたけど、一応あれは守りの魔法がかかってるので、できたら外出の時とかに持たせるようにお願いします」
「いいのか?魔道具は高いんだろう?」
「実は細工屋のおじさんに作り方教えてもらったんで、材料があれば作れるんです。それに、今回の分はおじさんからただで貰ったので」
「悪い。ちゃんとエレンには落ち着いたら説明しとくよ」
「お願いします。それと、魔道具なのは秘密で。それじゃ、私は夕飯まで休んでます」
「ああ、またエレンに呼びに行かせるよ」
私は魔道具の説明をライギルさんに頼んで部屋に戻る。
「やった~!エレンちゃんに喜んでもらえた~」
いい出来とは思っていたが、実際喜んでいる顔を見れてホクホクな私だった。