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リトライ!

あれから2日経った。本当の本当に今日はお休みだ。


「あれから、作ったシェルレーネちゃん像もシスターさんにOKをもらったし、安心して休めるよ」


釣り竿は後でライギルさんに見せてもらった。宿に住み始めてからはあまり行けていないけど、旅をしている間は色んなところで釣りや採取をしたんだって。旅をしていると食料も安定しないし、料理を作るかたわらで野生の草や魚を釣って過ごしていたらしい。


「商隊に同行したり合同馬車で移動するときも、水辺で休憩することが多いから、結構釣りのチャンスはあったということで、釣りのLVはかなりのものなんだって。私もその極意を教わりたいなぁ」


正直、前回の釣りを経験して誰か師匠になってもらいたいなぁ。なぜか今のところ釣りだけは全然うまく行かないんだよね。


「器用さなら私がダントツなのになぁ。一番器用さのないはずのノヴァが大物を釣るし、リュートは平均的に釣り上げてる。そして、ジャネットさんは大物以外もよく釣ってくれる」


ジャネットさんは結構経験もあるって言ってたからまだわかるんだけど、ノヴァに負けるのはちょっと…。釣ってる時の姿を見てたけど、飽きて竿を適当に動かしたり時にはサボって動かしもせず休憩も取ってる。


「それに比べて私はずっと竿を握ってるし、頑張ってちょっと動きを入れたり、エサの付け方とかも考えてやってるのに…」


普通に考えて私の方が絶対釣れるはずなのに。それに、リュートと私の竿の動きは大きく変わらない。似たようなタイミングで動かしてるのになぜか釣れるのはリュートだけだったりする。


「実は同じ竿に見えてちょっと違ってるとか?それなら私にいい考えがある!」


すちゃっと着替えを済ませて、下に降りる。今は朝食も食べ終わって8時半ってところだ。


「おはようございます」


「おはようアスカちゃん。どうしたの?」


「今ライギルさんて手が空いてますか?」


「う~ん、エステルと料理を作ってるから大丈夫よ」


「じゃあ、ちょっと行ってきます」


私はミーシャさんに断って厨房に入る。


「こんにちわ~」


「あら、アスカどうしたの?」


「ちょっとライギルさんにお願いがあって…」


「なんだお代わりか?珍しいな」


「違います!そんなに私食べませんよ。釣り竿を貸して欲しいんです」


「竿を?別に構わないが急にどうしたんだ?」


「私分かったんです。リュートと私が同じように竿を動かしても釣れない理由が。きっと竿が違っていたんです!これで私も釣りマスターですよ!」


「そ、そうか。頑張れよ」


私はライギルさんに竿を持ってきてもらって意気揚々と宿を出る。


「おい!飯を忘れるなよ」


「はい。ミーシャさんにパンをもらいました。今日の夕食は期待しててくださいね」


「ああ…」



-----


意気揚々と私が出かけた後の宿屋では…。


「本当にあの竿釣れるんですか?」


「釣れるかといえば俺はよく釣っていたぞ。合同馬車でも食料が確保できると重宝がられたほどだ」


「じゃあ、アスカもいっぱい釣ってきますか?」


「それはないだろう」


「どうしてです?」


「リュートと似た動きをしていたと言ってただろう?あいつらが使う竿と違って、ちゃんとターゲットを絞ってるし、逆に前の竿と違って似た動きでも水中の動きは全く違うから、余計に無理だろうな。そもそも似た動きで釣れないのはそいつに才能がないか、変に力を入れて不自然な動きになってしまっていることが多い。あの調子じゃなぁ…」


「それじゃあせめて、お魚買って来ましょうか?」


「エステル。それだけはやめてやれ、きっとその日は飯を食わなくなるぞ」


「でも、魚が食べたいんでしょうアスカは?」


「まあ、結果だけ見ればな…」


ああいうのは釣るという行為の後に、結果として食材という魚が手に入るのがうれしいのであって、単純にただ魚が食べたいというのは別物だ。エステルは食材として魚を見ているからわからないだろうが、俺なら食べながらこれが俺の釣ったものならと暗澹たる気持ちになるだろうな。


「ふんふ~ん」


そんな会話はいざ知らず、私は湖に向かって進む。


「あれ?」


「あら、アスカちゃんじゃない!どうしたの今日は。こっちで見るなんて珍しいわね」


湖に先にいたのはヒューイさんとベレッタさんだ。私が一人で薬草を取っている時に出会った人たちだ。最近はこっち側に来ることも少なくなったから久しぶりだなぁ。


「おっ、本当だな。久しぶりだな」


「お2人こそどうしてここに?」


「俺たちか?薬草の採取といっても毎回採れるわけじゃないし、次が採れるまで時間がかかるだろ?そこに来てこの前のサンドリザード騒ぎで、今まで東側に行ってたやつらもこっちに来てたりしてな。安定した生計を立てるために最近は採取以外にも釣りで稼いでるんだ」


「へぇ~、そうだったんですね。実は私も今日は釣りに来たんです!お仲間ですね」


「そう…ね。それでアスカちゃんは何を釣りに来たの?」


「どうでしょう?あんまり種類とかわからなくて。でも、この前ジャネットさんが釣ったやつは釣りたいです!」


「そうなの?じゃあ、一緒にやりましょうか?」


「良いんですか?」


「ええ、この湖は色んな種類の魚が豊富にいるから、別に構わないわよ。ほらこっちでいつも私たちは釣ってるのよ」


よく見ると、長時間釣りをしても大丈夫なようにベレッタさんの所にはシートが敷かれていて、その上にクッションが置いてある。


「それじゃあ、私はこっちに失礼して…」


私もマジックバッグからいつも細工に使っているシートを取り出し、横に敷く。


「アスカちゃんはびくは持ってないの?」


「びく?」


「こういう魚を入れるかごみたいなのよ。これがないと大変でしょう?」


「それなら大丈夫です!私はマジックバッグに入れますから!」


「そういえば持ってるんだったわね。どう、便利?」


「それはもう。入れたものも温度の変化が少ないので傷みにくいですし、出し入れも簡単ですよ。ギルドで借りたりしないんですか?」


「私たちは2人いるし、いけるのも日帰りができる場所ばかりだから。よほどのことがない限り借りないわね」


「へ~、そうなんですね。さて、始めましょうか!」


私は釣り針にエサをつけていざ着水!というか、マジックバッグは私は非力だから借りてたんだっけ。もうずいぶん前のことだから忘れちゃってたなぁ。


「あの頃が懐かしいなぁ」


戻りたいとはみじんも思わないけどね。あの頃は今よりずいぶんゆっくりしてたけど、代わりにずっと一人で依頼を受けてたし。やっぱりにぎやかなのがいいよ。


「ヒット!」


私が着水してから1分、すぐにベレッタさんに当たりが来た。


「ん?ちょっと重たいわね。アスカちゃんちょっとだけ離れてもらえる?」


「はい!」


ちょっとシートから離れて横にずれる。結構大きそうだな。ベレッタさんはそれから4分ほど格闘してついに魚を釣り上げた。


「これはフィットフィッシュね。幸先いいわね」


「へ~、これフィットフィッシュって言うんですね。なんでなんですか?」


「見てこの大きさ!店でも、家族で食べるのも十分な大きさでしょ?だから、”フィット”ってわけ」


なるほど!料理するのにちょうどっていういうことか。確かに50cmはありそうだし、食べ応えもありそうだ。


「色んな地域で育つし、白身でおいしいのよ。もちろん買取価格もね」


「私も負けないように頑張ります!」


再びシートに戻って釣りを再開させる。それから、2時間後…。


「ヒューイそっち引いてるわよ」


「ん?まじか!…おっ、本当だな。これで5匹目だ!」


ヒューイさんが本日5匹目となる魚を釣り上げる。ここまでの釣果はベレッタさん8匹でヒューイさんが5匹だ。もっとも、ベレッタさんは大物3匹だけど、ヒューイさんはちょっと大きいのが1匹だけだ。明らかにベレッタさんの方が釣りがうまい。


「あっ、引きに気づかなかっただけあって、あまり大きくないな」


「でも、1食分にはなるでしょう?」


「まあ、そうだな」


そんなわいわいとする日足を尻目に私はといえば…。


「えいっ!やぁ!」


ひたすらに着水を繰り返していた。


「きっと釣れる。だって、2人とポイントは変わんないんだから!」


投げては回収、投げては回収を繰り返す。


……


「なんで~、どうして~~~」


じっと休憩もせずに投入しているのにアタリすらない。ちゃんとエサも途中で取り換えたりしたのに…。まあ、その取り変えたエサでベレッタさんは釣ってたけどね。


「それにしても変ね。今日は結構簡単に釣れてるんだけど…」


「ま、まあ、この竿を使うのは今日が初めてですし、これからですよ!」


そうだ。ちょっと頭が回ってないだけだ。お昼ごはんさえ食べれば簡単に釣れるんだから。


-----


「アスカちゃんそろそろ日も暮れてきたし、今日は終わりにしましょう?」


「…そうですね。もう一投!もう一投だけですから!」


「わ、わかったわ」


「何がもう一投だよ。これで8回目だぞ?」


「しっ!それより片付けに入っておきましょう。その方が良さそう」


「だな」


最後の一投げはいっちばん奥まで投げ込む。そしてゆっくり戻していく。


「ゆっくり、ゆ~っくりやるんだ」


これは今日の集大成だ。ベレッタさんとヒューイさんの釣れた時のいいとこどりなんだから!


「ほら、一匹やるからそろそろ帰るぞ」


「はい…」


30cmぐらいの魚をヒューイさんから貰って渋々引き上げる。


「うう~ん。計算だと大きいのがたくさん釣れたんだけどな」


「まあ、アスカちゃんはまだあんまり釣りしたことないんでしょ?きっとこれから頑張れば釣れるようになるわよ」


「じゃあ、今度また一緒に行ってくれますか?」


「え、ええ。予定が合えばね」


一緒にアルバの門をくぐって、宿の所の分かれ道で別れる。ヒューイさんたちは宿じゃなくて、今は貸し家に泊まってるんだって。


「そんじゃな。後で寄るかもしれないが…」


「は~い」


こうして私の休日は終わった。釣れなかったのは残念だけど、折角もらったんだし、ライギルさんに料理してもらおう!


「ただいま~、ライギルさんこれお願いします!」


「おっ、アスカちゃんと釣れたのか!心配してたんだぞ。意気込んだり、他人の真似だけしても釣れないからな。てっきりボウズで帰ってくるものだとばかり…」


「ライギルさんなんか嫌いだ~!!」


結局その日は夕食抜きで過ごしたのだった。


「ううっ、お腹減った…」



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