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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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リトライ!


 あれから二日経った。本当の本当に今日はお休みだ。


「作ったシェルレーネちゃん像もシスターさんにOKをもらったし、安心して休めるよ」


 釣り竿は後でライギルさんに見せてもらった。宿に住み始めてからはあまり行けていないけど、旅をしている間は色々なところで釣りや採取をしたんだって。

 旅をしていると食料も安定しないし、料理を作るかたわらで野生の草や魚を釣って過ごしていたらしい。


「商隊に同行したり合同馬車で移動する時も、水辺で休憩することが多いから、結構釣りのチャンスはあったということで、釣りのレベルはかなりのものなんだって。私もその極意を教わりたいなぁ」


 正直、前回の釣りを経験して誰か師匠になってもらいたいなぁ。なぜか今のところ釣りだけは全然うまく行かないんだよね。


「器用さなら私がダントツなのになぁ。一番器用じゃないノヴァが大物を釣るし、リュートは平均的に釣り上げてる。そして、ジャネットさんは大物以外もよく釣ってくれる」


 ジャネットさんは経験もあるって言ってたからまだ分かるんだけど、ノヴァに負けるのはちょっと……。釣ってる時の姿を見てたけど、飽きて竿を適当に動かしたり時にはサボって動かしもせず休憩も取ってたし。


「それに比べて私はずっと竿を握ってるし、頑張ってちょっと動きを入れたり、エサの付け方とかも考えてやってるのに……」


 普通に考えて私の方が絶対釣れるはずなのに。それに、リュートと私の竿の動きは大きく変わらない。似たようなタイミングで動かしてるのになぜか釣れるのはリュートだけだったりする。


「実は同じ竿に見えてちょっと違ってるとか? それなら私にいい考えがある!」


 すちゃっと着替えを済ませて食堂へ。今は朝食も食べ終わって八時半ってところだ。


「おはようございます」


「おはようアスカちゃん。どうしたの?」


「今ライギルさんて手が空いてますか?」


「う~ん、エステルと料理を作ってるから大丈夫よ」


「じゃあ、ちょっと行ってきます」


 私はミーシャさんに断って厨房に入る。


「こんにちは~」


「あら、アスカどうしたの?」


「ちょっとライギルさんにお願いがあって……」


「なんだお代わりか? 珍しいな」


「違います! そんなに私食べませんよ。釣り竿を貸して欲しいんです」


「竿を? 別に構わないが急にどうしたんだ?」


「私分かったんです。リュートと私が同じように竿を動かしても釣れない理由が。きっと竿が違っていたんです! これで私も釣りマスターですよ!」


「そ、そうか。頑張れよ」


 私はライギルさんに竿を持ってきてもらって意気揚々と宿を出る。


「おい! 飯を忘れるなよ」


「はい。ミーシャさんにパンをもらいました。今日の夕食は期待しててくださいね」


「ああ……」



   ✣ ✣ ✣


 意気揚々と私が出かけた後の宿屋では……。


「本当にあの竿なら釣れるんですか?」


「釣れるかといえば俺はよく釣っていたぞ。合同馬車でも食料が確保できると重宝がられたほどだ」


「じゃあ、アスカもいっぱい釣ってきますか?」


「それはないだろう」


「どうしてです?」


「リュートと似た動きをしていたと言ってただろう? リュートはちゃんとターゲットを絞ってるし、竿が違うと似た動きでも水中の動きは全く違うから、余計に無理だろうな。そもそも他人と似た動きで釣れないのはそいつに才能がないか、変に力を入れて不自然な動きになってしまっていることが多い。あの調子じゃなぁ……」


「それじゃあせめて、お魚買って来ましょうか?」


「エステル、それだけはやめてやれ。きっとその日は飯を食わなくなるぞ」


「でも、魚が食べたいんでしょうアスカは?」


「まあ、結果だけ見ればな……」


 ああいうのは釣るという行為の後に、結果として食材という魚が手に入るのが嬉しいのであって、単純にただ魚が食べたいというのは別物だ。エステルは食材として魚を見ているから分からないだろうが、俺なら食べながらこれが俺の釣ったものならと暗澹たる気持ちになるだろうな。


   ✣ ✣ ✣ 



「ふんふ~ん」


 そんな会話はいざ知らず、私は湖に向かって進む。


「あれ?」


「あら、アスカちゃんじゃない! どうしたの今日は。こっちで見るなんて珍しいわね」


 先に湖にいたのはヒューイさんとベレッタさんだ。私が一人で薬草を取っている時に出会った人たちで、合同依頼も受けたことがある。最近はこっち側に来ることも少なくなったから久し振りだなぁ。


「おっ、本当だな。久し振りだな」


「お二人こそどうしてここに?」


「俺たちか? 薬草の採取といっても毎回採れるわけじゃないし、次が採れるまで時間がかかるだろ? そこに来てこの前のサンドリザード騒ぎで、今まで東側に行ってたやつらもこっちに来てたりしてな。安定した生計を立てるために最近は採取以外にも釣りで稼いでるんだ」


「へぇ~、そうだったんですね。実は私も今日は釣りに来たんです! お仲間ですね」


「そうなの。それでアスカちゃんは何を釣りに来たの?」


「どうでしょう? あんまり種類とか分からなくて。でも、この前ジャネットさんが釣ったやつは釣りたいです!」


「それじゃあ、一緒にやりましょうか?」


「良いんですか?」


「ええ、この湖は色々な種類の魚が豊富にいるから大丈夫よ。こっちでいつも私たちは釣ってるの」


 よく見ると長時間釣りをしても大丈夫なようにベレッタさんのところにはシートが敷かれていて、その上にはクッションまで置いてある。


「それじゃあ、私はこっちに失礼して……」


 私もマジックバッグからいつも細工に使っているシートを取り出し、横に敷く。


「アスカちゃんはびくは持ってないの?」


「びく?」


「こういう魚を入れるかごみたいなのよ。これがないと大変でしょう?」


「それなら大丈夫です! 私はマジックバッグに入れますから!」


「そういえば持ってるんだったわね。どう、便利?」


「それはもう。入れたものも温度の変化が少ないので傷みにくいですし、出し入れも簡単ですよ。ギルドで借りたりしないんですか?」


「私たちは二人いるし、日帰りができる場所ばかりだからよほどのことがない限り借りないわね」


「へ~、そうなんですね。さて、始めましょうか!」


 私は釣り針にエサをつけていざ着水! というか、私は非力だから借マジックバッグを借りてたんだっけ。もうずいぶん前のことだから忘れちゃってたなぁ。


「あの頃が懐かしいなぁ」


 戻りたいとはみじんも思わないけどね。あの頃は今よりずいぶんゆっくりしてたけど、代わりに一人で依頼を受けてたし。やっぱりにぎやかなのがいいよ。


「ヒット!」


 私が着水してから一分、すぐにベレッタさんに当たりが来た。


「ん? ちょっと重たいわね。アスカちゃんちょっとだけ離れてもらえる?」


「はい!」


 ちょっとシートから離れて横にずれる。結構大きそうだな。ベレッタさんはそれから四分ほど格闘してついに魚を釣り上げた。


「これはフィットフィッシュね。幸先いいわね」


「へ~、これフィットフィッシュって言うんですね。なんでなんですか?」


「見てこの大きさ。店でも家族で食べるのにも十分な大きさでしょ? だから、”フィット”ってわけ」


 なるほど! 料理するのにちょうどいいってことか。確かに五十センチはありそうだし、食べ応えもありそうだ。


「色々な地域で育つし、白身で美味しいのよ。もちろん買取価格もね!」


「私も負けないように頑張ります!」


 再びシートに戻って釣りを再開させる。それから、二時間後……。


「ヒューイそっち引いてるわよ」


「ん? まじか……おっ、本当だな。これで五匹目だ!」


 ヒューイさんが本日五匹目となる魚を釣り上げる。ここまでの釣果はベレッタさん八匹、ヒューイさん五匹だ。もっとも、ベレッタさんは大物三匹だけど、ヒューイさんはちょっと大きいのが一匹だけ。明らかにベレッタさんの方が釣りがうまい。


「あっ、引きに気づかなかっただけあって、あまり大きくないな」


「でも、一食分にはなるでしょう?」


「まあそうだな」


 そんなわいわいとする二人を尻目に私はといえば……。


「えいっ! やぁ!」


 ひたすらに着水を繰り返していた。


「きっと釣れる。だって、二人とポイントは変わんないんだから!」


 投げては回収、投げては回収を繰り返す。


「なんで~、どうして~~~」


 じっと休憩もせずに投入しているのにアタリすらない。ちゃんとエサも途中で取り換えたりしたのに……。まあ、その取り変えたエサでベレッタさんは釣ってたけどね。


「それにしても変ね。今日は結構簡単に釣れてるんだけど……」


「ま、まあ、この竿を使うのは今日が初めてですし、これからですよ!」


 そうだ。ちょっと頭が回ってないだけだ。お昼ご飯さえ食べれば簡単に釣れるんだから。



「アスカちゃんそろそろ日も暮れてきたし、今日は終わりにしましょう?」


「……そうですね。もう一投! もう一投だけですから!」


「わ、分かったわ」


「何がもう一投だよ。これで八回目だぞ?」


「しっ! それより片付けに入っておきましょう。その方が良さそう」


「だな」


 最後の一投げはいっちばん奥まで投げ込む。そしてゆっくり戻していく。


「ゆっくり、ゆ~っくりやるんだ」


 これは今日の集大成だ。ベレッタさんとヒューイさんの釣れた時のいいとこどりなんだから!


「ほら、一匹やるからそろそろ帰るぞ」


「はい……」


 結果、またしても魚はかからず、三十センチぐらいの魚をヒューイさんから貰って渋々引き上げる。


「うう~ん。計算だと大きいのがたくさん釣れたんだけどな」


「まあ、アスカちゃんはまだあんまり釣りしたことないんでしょ? きっとこれから頑張れば釣れるようになるわよ」


「じゃあ、今度また一緒に行ってくれますか?」


「え、ええ。予定が合えばね」


 一緒にアルバの門をくぐって、宿の分かれ道で別れる。ヒューイさんたちは宿じゃなくて、今は貸し家に泊まってるんだって。


「そんじゃな。後で寄るかもしれないが……」


「は~い」


 こうして私の休日は終わった。釣れなかったのは残念だけど、お魚はもらったんだし、ライギルさんに料理してもらおう!


「ただいま~、ライギルさんこれお願いします!」


「おっ、アスカちゃんと釣れたのか! 心配してたんだぞ。意気込んだり、他人の真似だけしても釣れないからな。てっきりボウズで帰ってくるものだとばかり……」


「ライギルさんなんか嫌いだ~!!」


 結局その日は夕食抜きで過ごしたのだった。


「ううっ、お腹減った……」



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