安息日
昨日はお昼にもよく寝たけど、この間の疲れがたまっていたのか夜もすぐに寝つけた。ちょっといつもより遅い時間に寝たんだけどね。
「ふわぁ~。今何時だろ?」
こういう時にすぐ時間が分かるといいんだけどなぁ。
「広場に行けば時間が分かるけど、外へ出て行くの面倒なんだよね」
それぐらいいいじゃないかと思うけど、店も開いてない時間に着替えて広場に行って帰る。これが実に面倒なんだ。
「一応市場も空いてるけど、朝の市場はね……」
朝の市場といえば飲食店の関係者で埋まる場所だ。新鮮な食材やぎりぎりの食材の奪い合いで、一度だけ買い出しに行ったけど、二度と行かないと決めている。時間が過ぎて、一般の人たちも利用する時間になればそこまでじゃないんだけどね。
「あれは辛かったな……」
何より宿のお仕事で来ているので、途中で帰れなかったのだ。あっちへざざ~ん、こっちへひゅ~と流されながらなんとか食材を買い切った。もっとも、一番いい状態のものを一部買い逃したけど。そんなわけでティタに時間を聞くことにする。ひょっとしたら時間が分かるかもしれない。
「ティタ、今何時ぐらいか分かる」
「ん、六じすぎ」
あ~、そんなに朝早いのか……。しばらくの間は部屋から出ても何も出来ないな。
「大人しく細工でもしておこう」
ゆっくりするつもりだったけど、この時間であれば本を読むか細工ぐらいしかできない。ミネルたちが起きていれば遊べるんだけど、今日は寝てるしね。
「というわけで結界を張って細工の準備をしたんだけど、何から作ろうかな? やっぱり、グリディア様の像だよね」
今回新たに作った三種類の内、金属製のはあまりないからこの機会に作っていこう。
「でも、まだ魔力が完全に回復してないだろうから、銅で作れるものになっちゃうな」
銅の加工は余りMPを消費しないので、作るのにはちょうどいい。これが銀になると魔力の通りが良すぎるので大量のMPを持って行かれてしまうのだ。
「そうなると作れるのは普通のと髪をまとめたやつか……。それなら前に作ったやつにしようかな?」
考えた挙句、私は以前に作ったグリディアちゃんの廉価版を作ることにした。以前作ったものは銀製で武器セットを付けたけど、ああいう手間もかかるものを省いて、最初から武器を持った状態の像を作ることにした。
「剣・杖・大鎌をそれぞれ持たせることで三タイプにして、それぞれ持ち方が違うからバージョン違いにもできるし、市場には出回ってないから実質新作だしね」
ポーズは剣が左手を後ろに向け、剣を振り下ろすところだ。杖は両手で抱える感じで、大鎌は鎌の部分を上に向けて両手を水平にしてる感じ。こうして新たに三種類の神像を考えた私は早速作っていく。
「このディフォルメシリーズでいいのは割と正方形に金属を使えることだよね。削った部分を再度成形すれば武器も作れるし」
リアル等身にすると、どうしても腰とか頭の部分は無駄になってしまう。銅ぐらいなら成形し直して使うんだけど、銀になると品質が変わっちゃうから、そのシリーズでは使えないんだよね。
「もったいないとは思うけど、色味が違って見えちゃうから奉仕品用に回すか、小さい飾りで使うしかなくなっちゃうんだよね」
それを思えばこのちびキャラだと無駄な部分が少ないから助かる。小道具も本体側の削った部分で作れちゃうし、本当にいい感じだ。
「銅ならシリーズにしてもいいかなぁ」
そんなことを考えてみるけど、そもそもこのシリーズを作ったところで、受け入れてもらえるかどうかが分からないんだよね。基本的に流通している神像以外の像も見て回ったけど、リアル等身がほとんどで違うものは儀式とかに使われる、ディフォルメというより抽象的な像なのだ。
「さすがにはにわとか土偶は作れないしね」
ああいうのは昔の信仰とか感性がないと変なものになってしまう。かと言って文献も持ってないし、私にできるのはこのディフォルメ像ぐらいだ。
「シェルレーネ様の時はシスターさんに見てもらったけど、バルドーさんに聞いても大丈夫かなぁ。宗教関係者じゃないし、そもそも王都から帰ってくるのもまだ先だし……」
作り置きをすることは出来るけど、そこでNGと言われるのだけは避けたい。無駄になるって言うのもあるけど、自分が頑張って作ったものが駄目って言われる方が辛い。
「今は言われないことを祈るのみかぁ……。せっかくだし、シェルレーネ様の分も作っちゃおうかな?」
何だかこのままグリディア様の像を作り続けていたら、今度はこのタイプのも作ってって言われそうだし。ムルムルも言ってたけど、神託って受けると結構影響があるって言ってたしなぁ。
「確か神託を受けると頭から離れなくなるんだっけ? でも、私はシェルレーネ様の巫女じゃないから特に何ともなかったけど」
悩んでいても仕方ないし、こっちの方は一体作って教会に持って行けば、大丈夫かどうか判断できるからね。ちょっと作業の手を止めて、スケッチブックを取り出す。
「まずはデザインからだ。服はあんまりこだわりすぎても手間になるだけだし、ちょっとした感じで作れるのがいいところだから、神官服にしようかな?」
教会の人たちにも馴染みがあるし、こういうキャラだと作りやすいということもある。
「手持ちの装備もグリディア様と違って武器とかじゃなくて祭具にしないとね」
杖がギリギリだけど、慈愛の女神様ということで結構こういうのには厳しいらしい。特に世界各地で信仰を集めているシェルレーネ教だと、個人の店まで苦情が来るらしいと聞いた。
「信仰の多い神様は大変だよね。武器一つ持っても文句が出るなんて。そういえば、アラシェルちゃんは昔の巫女みたいに銅鏡とか持たせたっけ。ああいうのならいいのかな?」
でも、私の中でアラシェル様とはイメージが違うし、なんていうか元気のいい神官服姿が似合うと思う。そんな神官服も色々なところに巡礼に行けるように、厚手のものと薄手のものがある。
薄手のものは個人で簡単なアレンジが認められている。中にはスリットを入れてる人もいるんだって。
「ムルムルはともかくテルンさんがそんなことしたら大問題だよね」
きっと巡礼に来てもらった方もそれどころではないだろう。
「はぁ~、私もあんな美人に成れたらなぁ~」
胸はともかく身長がね。相変わらず伸びが悪いのだ。骨格を見て作ったっていうシャスさんの像でも百六十センチには達しなかったしなぁ……。
「今はそれより新しい神像を作らなきゃ。服のデザインは前に見せてもらったのを参考にして、手はどうしよう? 釣り竿でもいいかな?」
水にまつわる女神様だし、別に変じゃないよね? そうと決まれば前に使った竿を思い浮かべてと……。
「う~んと、あれ? どんな形だったっけ?」
釣れた魚の形ならしっかり覚えてるんだけどなぁ。どうしてだか竿の形がうまく思い浮かばない。
「ま、全体的なデザインは完成してるし、先にそこ以外を描いちゃおう。いい時間になったらライギルさんにでも聞いてみようかな?」
あれだけ魚パンに強い情熱を注いでいたライギルさんのことだ。きっと、魚釣りにも精通しているに違いない。そう思って先に細工に入っていく。小物として小舟が係留されていそうな小さい橋を作る。そこに完成した像を置いて釣りをしている光景を再現できるのだ。
「竿は釣りをしている形と釣り上げた二タイプ用意すればいいよね」
同じデザインで竿だけ違うような商品を作ることは出来ないので、こっちは竿を持ち替えられるようにする。
「でも、そうなると像は一種類だけか~。他には何がいいかな? 水しぶき……いやいや、それは難易度高すぎだよ。やるなら水晶とサファイアをうまく使って、しぶきが浮いてるところを再現しないといけないし」
色々手を加えると時間がいくらあっても足りない。それにこういうのは一度やっちゃうと次やらないの? って言われちゃうパターンだ。今後のことも考えてやめておくことにした。
「そういうのは旅が終わってからにしないとね。お金も時間も大切だし」
シャスさんのところでかなりお金を使ったし、今度行く時も弓を作ってもらうから、またお金がかかるしね。
「安全な旅も大変だね。他の人たちはどのぐらいお金かけてるんだろう?」
私は魔法が主だから、高い武器とかはいらないけど、ジャネットさんも何本も武器を持ってるって言ってたし、きっと大変なんだろうなぁ。
「アスカ、おひる」
「ん、ティタなんて?」
「おひる」
えっ、ちょっと待ってまだ朝じゃないの?
「え~っと、朝に絵を描いて二時間ぐらい。そこから細工に入って大体の型取りが終わって二時間。ほら、まだ二時間ある!」
「アスカ、さきにこもの」
そういえば、グリディア様の武器を作ってたっけ。今は像の方に移ってるからそんなものなのか……。
「今日はお休みのはずだったのにな」
もはやここまでやってしまったら、中断なんて気持ちが悪い。
「一体目が後一時間ぐらい。二体目の杖が二時間。三体目の大鎌が二時間半かな? 十三時ぐらいから再開するとして終わったら十八時半かぁ。さよなら私のお休み……」
自分の都合で休みがつぶれても、代わりのお休みを設定しない。これは最初に決めていたことだ。そうやっていくと、どんどん予定を作れちゃうからね。
「でも、お休み……」
「アスカ、まじめ」
「そう! 私は真面目なの。だから、後二日はお休みなしだね……」
自分で言っててちょっと悲しくなってきた。また明日から頑張ろう。




