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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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依頼と神像


 あれから二日が経った。バルドーさん依頼の銀製の神像も何体か出来たし、いよいよ今日からはシェルレーネ様の神像を考えていく。


「とはいえ、アラシェル様は知名度がないし、グリディア様は戦神として結構気さくな感じでもよかったけど、シェルレーネ様って、割と厳格な信仰があるから難しいんだよね」


 グリディア様を奉る神殿も、もちろんあるんだけど、各神殿ごとに用意した神像を崇めており、これといった基準がない。それに引き換え、統一した信仰を持つシェルレーネ様はある程度イメージがある。


「話した感じをそのまま像にしたいんだけど、さすがに不味いよね……」


 悩んだ果てにシェルレーネ様をよく知っている人に意見を聞くことにした私は、服を着替えると教会へ向かった。


「ごめんくださ~い」


「はい。あら、アスカ様ではありませんか。本日はどのようなご用件で?」


「ちょっと相談があるんですけど、今大丈夫ですか?」


「ええ。人々の相談に乗るのも我らが務めですから」


 そう言って、シスターは小部屋に通してくれる。本当にテーブルを挟んで向かい合うだけで、後は椅子しかない部屋だ。


「こちらにおかけください」


「あ、どうも」


 促されて椅子に座る。


「それで、本日はどのようなお悩みで?」


「実はですね……」


 私は夢で会ったということを抜きにして、簡単に説明した。


「なるほど。シェルレーネ様の像を作るのにどのようなイメージが良いかですか。確かに難しい問題ですね。私たち教会の人間は普段、教会に置いてある像以外は目にする機会はありませんし、それ以外の像となると滅多に見ませんので……」


「そうですよね。何か、教会でこういうのはよくないというのが分かればそれだけでもいいんですが……」


「ふむ。それでしたら禁忌というわけではありませんが、基本的には武器を持ってはならないと言われていますね」


「武器ですか?」


「そうです。慈愛の女神ということで、武器を持った神像は見たことがありません。杖は先導するという意味で持つことはありますが……」


「それ以外には何かありますか? 珍しい像とか……」


「一般的なもの以外は。あ、ですが以前に話は聞いたことがあります。一部の地方では水龍にまたがっているのだとか」


「す、水龍ですか?」


「はい。何でもその地方には大きな滝があり、それとシェルレーネ様を結び付けた像だとか」


「へぇ~、そんなのがあるんですね。参考になりました」


「あまりお力になれず申し訳ありません」


「いいえ、話を聞いてもらえただけでも嬉しかったです」


 シスターさんと別れて、再び部屋に帰ってきた。


「水龍、水龍かぁ。多分ドラゴン! って感じじゃなくて中国っぽいあっちだよね。一度描いてみよう」


 それから、午前と午後の大半の時間を使って描き上げた。


「ううっ、さすがにこれは……」


 思い出しながら描いてみたんだけど、やっぱり難しいよね。描くのがではなく細工にするのが。


「この細かい鱗とか絶対欠けちゃうよ……。というより一個作るのに何時間かかるんだろ。いや、何日か掛かるかもしれない」


 水龍の部分だけでも大きくて細かいのに、それに合わせてシェルレーネ様を描いていたらきっと、数日かかる。単価もべらぼうに高くなりそうだ。一度きりの依頼ならともかく、数は作れないと思う。


「せめて、鱗だけでも無くせられればなぁ……」


 もう一度描こうとして手を置く。だめだ、これを色々描いてたら腕が棒のようになりそうだ。今日だけでもかなり修正とかして描き続けてるのにこれ以上はよくない。一度、案を出してからじゃないと……。


「水龍とシェルレーネ様。水かぁ……。そうだ! 龍を水で作ってみよう!」


 水なら水流に見立てて鱗がなくてもおかしくないし、作るのも多少楽かも。


「そうと決まれば早速、行かなきゃ!」


 もう夕方だし、急いでおじさんの店に行く。


「おじさ~ん、いる~?」


「アスカか。こんな時間にどうした?」


「ちょっと大きめの水晶とかないですか? 蒼いやつ!」


「あることはあるが、色はちょっと安定してないぞ?」


「大丈夫! そっちのがいいから」


「ああ、分かった。今持ってくる」


 おじさんは奥に入っていき、少しして戻ってきた。


「これだが今の在庫は五個ぐらいだな」


「これいくらですか?」


「まあ、通常はここから製錬して中央の純度の高い部分だけを取り出すから、銀貨一枚と大銅貨二枚だ。加工すれば銀貨三枚だな」


「じゃあ、五個ともそのまま頂戴!」


「あ、ああ。ほらよ」


 私はギルドカードを出して支払う。


「ありがとうおじさん!」


「まあ、商売だからな。それより何に使う気だ?」


「新しいシェルレーネ様の像だよ」


「これを材料に? 出来たらまた見せてくれ」


「分かった。出来たら持ってくるね~」


 おじさんと別れて部屋に戻る。これで水龍が出来るはずだ。私は再び作業を開始する。


「まずは絵だけど、流れるように表現して身体が曲がっているところは水しぶきのようにしてと……」


 こっちはこっちで難しいけど、色づかいとか細かさで言えば大分ましだ。


「こっちはそのまま加工すれば彩色の手間も省けるし、一つ一つ見え方も違って特徴が付くからいいよね。それじゃあ、絵も描けたし早速……」


 一度加工しようとしたところでドアがノックされた。


「は~い」


「おねえちゃんどうしたの? もう二十時だよ」


「えっ、嘘!?」


「ほんとだよ。早く下りて来てね」


「うん」


 そういえばお腹空いたかも。


「そういえば、夕方からどこに行ってたの? あんな時間に珍しいよね」


 ご飯をエレンちゃんと一緒に食べていると、不意に問いかけられた。


「細工のおじさんのところだよ。欲しいものがあったんだ」


「明日にすればよかったのに……」


「今取り掛かってる細工にどうしても必要だったからね」


「へぇ~、今度見せてもらってもいい?」


「出来たらね。多分明日いっぱいはかかると思うけど」


「そんなにかかるの! 大作だね」


「そうなっちゃうかな? 細かいところも結構あって、今までで一番難しいかも」


「おねえちゃんがそういうなんて珍しいね。いっつも簡単に作っちゃうのに」


「そうでもないと思うけど……。でも、最近は難しいのにも挑戦してるからその所為かも」


「おじさんも大変だね。強力なライバルが出来て」


「私はまだまだだよ。色々とアドバイスをもらってるし」


「でも、身体は壊さないようにね」


「気を付けるよ」


 それからも色々話をしていたけど、途中でミーシャさんにもう遅いからと注意されてしまった。そういえば、下りてからも時間が経ってるし、もう二十一時ぐらいだ。

 街灯もほとんどないこの世界では子どもには深夜といってもいい時間だ。エレンちゃんもちょっと眠そうだし、話を切り上げて部屋で休む。


「ちょっとだけ、イメージを考えながら寝よう」


 そう思って目を閉じて細工のイメージを思い描こうとしたけど、気が付いたら眠ってしまっていた。



《ピィ》


「あっ、おはようアルナ」


 最近はミネルたちだけじゃなくて、アルナたちも私を起こしてくれるようになった。おかげで目覚めもスッキリだ。


「さあ、今日もご飯食べて細工しなきゃ!」


 すぐに下りて朝ご飯を食べる。


「あら、アスカ早いわね?」


「エステルさんこそどうしたんですか? まだ時間じゃないですよね」


「たまにリンネが朝早くに起こしに来るのよ。どうも、散歩がしたいみたいで……」


「ご迷惑おかけします。もう、リンネったら」


「いいのよ。私もいい運動になるし、いつも送り迎えしてもらってるしね」


「だったらよかったです」


「最近は孤児院でも人気なのよリンネは」


「そうなんですか?」


「ええ。たまに早上がりの日に孤児院に寄るんだけど、一緒に来てみんなと遊んでくれるの。最初はみんなも怖がってたけどね」


 まあ、いくら大人しいとはいえ成犬だし、子どもたちから見たら大型の動物だし最初は怖いよね。でも、街に慣れてきたみたいでそこはよかったかな?

 あんまり外に出してあげてなかったけど、そろそろ昼間に外出してもいいかもしれない。


「そしたら、美味しい店に連れていってあげないとね。寝るのと食べるのが好きなリンネには一番嬉しいことだと思うし」


 食事も終えて、細工の準備を始める。


「アスカ、きょうもする?」


「うん。ごめんね、しばらくは細工に集中したいんだ」


「わかった。みんなとでかける」


「気を付けてね~」


 最近のティタは引率の先生よろしく、こうやってミネルたちと一緒に外出する。そのおかげで私は細工に集中できる環境を整えてもらっているのだ。この前、店に来たリュート曰く、噴水広場でティタに乗っかってミネルたちが休んでいたりして、観光スポットみたいになってるって言ってた。


「さあ、みんなも見送ったし、細工に移ろう」


 細工道具セットを取り出して、昨日描いた絵を元に進めていく。


「まずはおじさんのところで買ったこの水晶っぽいものを加工しなくちゃ」


 買ってきた水晶を大まかに削り始め、ちょっとずつ龍の形を作っていく。


「う~ん。もうちょっとスリムな方がいいかな?」


 この水晶の問題点は、削っていくので材料を使い回せないことだ。木材とか金属なら先に大きく落として使い回すんだけど、こういう結晶体は割れちゃうのが怖いから削っていくしかない。


「せめて、塗料とかにならないかな?」


 宝石を削って塗料にするって話があったはず。一応、この削りカスも取っておこう。集中して作業も順調に進んでいく。


「出来たぁ~! まあ、龍だけだけど……」


 さすがにぶっ通しで作業をしていたので疲れた。ちょっと休憩しに下りよう。


「あら、アスカまた細工してたの? 早く食べなさい」


「はい」


 いきなりやって来て、エステルさんがパンとスープのセットを持ってきてくれる。


「準備が良いんですね」


「何言ってるのよ。もう十四時よ?」


 エステルさんの指さした先を見ると現在十四時頃のところに印がしてあった。



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