職業詐欺状態のアスカ
おじさんの店を出て今度は教えてもらった安い服の店に行く。
「ごめんくださ~い」
「はいよ!」
店番にはおばさんが立っていて、雨上がりの今日でも数名の客がいる様だ。店内をぐるりと見まわしてみると服が多いのだが、それ以外にも雑貨や食料なども売っているみたいで何でも屋さんみたいだ。とりあえず私は服のコーナーを物色する。生地の質は明らかにべルネスより悪いものの、しっかりとした作りのものが多いように思う。こっちがデニムであっちがシルクみたいな感じだ。実用的なんだろう。おじさんが言うよりはちゃんとした服ばっかりだ。
「おや、いい服を着てるみたいだけどお眼鏡にかなうものがあったかい?」
「はい、冒険者なので丈夫な服も欲しくて、ここなら取り揃えられそうです」
「見かけによらずやるもんだねえ。なら、携帯食料なんかもあるから見ていってね」
おばさんは奥にある携帯食コーナーも教えてくれる。そういえばこっちに来てからはそういったものを食べたことないなぁ。今度、ジャネットさんに冒険に連れて行ってもらうんだし、折角だから買って行こうかな?
「これと、これとこれ。う~ん、この価格ならこれも買ってもいいかな?この前から買ってばかりだから落ち着いたら頑張らないと…」
大体服はこんな感じかな?後は携帯食と…あっ、ガラスのコップがある。これ使えるかも!私は目に入った大きいのと小さいのを一つずつ買うことにした。
「おばさん、携帯食ってどれがいいとかってありますか?」
「携帯食かい?おいしいのがいいのか安くても腹持ちが良いのかどっちだい?」
携帯食については全くわからないのでおばさんに聞いてみたが、おいしいのか腹持ちがいいかと聞かれると迷うなぁ。でも、おいしくないと力が出ないとも思うし…。
「おいしいので、数日は持つものをお願いします!」
「正直な子だね。ならあれかね」
おばさんの指差した先にはドライフルーツのようなものがあった。見た感じはドライオレンジのようだ。
「ちょっと食べてみるかい?」
「いいんですか?じゃあ、遠慮なく…ん~~、ちょっと酸っぱいけどおいしい~」
「そりゃよかった。ちなみに1袋大銅貨1枚だよ」
大体、一袋でテニスボールより少し小さい位だ。こっちでもドライフルーツは高し。
「ちなみにどのくらい持ちますか?」
「大体、2週間ぐらいなんだけど、ちょっと時間がたってるから10日だね」
10日も持つならおやつにしてもいいし、余ったら分けてもいいかな。
「じゃあ、4つください」
「はいよ、他に買うものはあるかい?」
「大丈夫です!会計お願いします」
「はいはい」
会計はというと銀貨2枚と大銅貨3枚だった。服も4着も買ってこのお値段。意外に高いのがガラスのコップだった。まあ、流通の段階で割れたりするし扱いが大変なんだろうな。宿のコップも木製だし。
「今日も結局いっぱい買っちゃったな」
ここでも袋をおまけでつけてもらったけど、これは大変だ。この地区が宿からそんなに離れてなくてよかった。
「あれ、アスカか?」
「ん~?あっ、ジャネットさん。こんにちわ」
「おう!っていうか大変そうだな。持ったげるよ」
「大丈夫で…」
言い終わる前に荷物を持ってしまうジャネットさん。確かに重かったので助かるんだけど良かったのかな?
「ありがとうございます。でも、忙しかったんじゃ…」
「ああ、ドルドで服を買おうと思ってね。冒険者やってると簡単に傷んじまうから」
「そうだったんですね。私はドルドでの買い物帰りです」
「へぇ~アスカもあそこでねえ。いいのはあった?」
「はい、聞いていたより丈夫そうな服が多くて助かりました」
「そういえばアスカも冒険者だったね。そういう服も必要か…」
「ジャネットさんたらひどい!」
「悪い悪い、ほら着いたよ。どこまで運んだらいい?」
「じゃあ、折角なんで部屋までお願いします」
ちなみに今は13時ごろだ。ちょっとお腹は減ってるけどまだまだ大丈夫。食事中の人の横を通り過ぎて部屋に向かう。食堂では常連さんたちも何人かいたので挨拶してから上がった。
ガチャリ
「ここが私の部屋です」
「へぇ~思った通り片付いてるんだね。で、どこに置けばいい?」
「ベッドの上にお願いします」
「はいよ」
ジャネットさんが私の荷物をベッドにおいてくれる。その間に私は袋から木箱を取りだしてアラシェル様の像だけを机に飾る。できもいいとお墨付きも頂いたので一旦、お祈りをしようと思ったのだ。
「アラシェル様、アラシェル様。これまでの出会いに感謝いたします…」
「おや、何に祈っているかと思ったらどこかの女神様かい?」
「はい。知名度はないんですが、アラシェル様って言う女神様なんです」
「へぇ~確かに聞いたことないねえ。何の女神様なんだい?」
「なに?え~っと…」
転生っていったらなんだか大ごとになりそうだし、なんだろう?新たな生き方を与えてくれるわけだから…。
「一番近いのは運命…ですかね?」
「なんだいそりゃ、よくわからないのに信仰してるの?」
「わからないんじゃないんですけど、説明しにくくて。でも、とってもお優しい方なんですよ」
「優しいねぇ。まあアスカが言うならそうなんだろうけどさ。像ってその一体だけなのかい?」
「一応、試しに作ったのがこれなんですけど…」
私は机にしまっておいた普通の木で作った試作品を見せる。
「へぇ~、よくできてる…って自分で作った!?」
「はい。私は姿を覚えてるからいいんですけど、知名度が低いので絵とかがなかったので」
「ああ~、確かにその地域の神様とかだと言っても分らないねぇ。だからといって作る気にはならないけど」
「どうしても感謝の気持ちを伝えたかったので」
「なるほど…ねえこれ売ってくれない?」
「ええっ!」
「アスカが信仰してるぐらいだから、いい神様だろうって思ってね。私も祈ろうかと」
「だったらもらってください。自分の分はもうありますから。それに、あまり出来の良くないアラシェル様を売ってお金にするのは気が引けるので…」
「そういうことならありがたくもらうよ」
「はぅっ」
わしゃわしゃとジャネットさんに頭を撫でられる。結構力が強いけど気持ちいい。
「いや~、いいもん貰っちまったね。それじゃあ、一旦お祈りしてから出かけるとするよ」
「はい!大事にしてくださいね」
ジャネットさんと別れて私は荷物の整理をする。服とかはまた袋に戻すとして、木と加工用の銀だね。あの魔道具が金属も削れるなんてびっくりした。これはいい物を買えたな~。あとでまた全力を出してエレンちゃんのを作らなきゃね。
「さて、まだお昼はいただけるかな~」
私はお昼を過ぎた食堂に向かう。
「エレンちゃんお昼まだ食べられる?」
「アスカおねえちゃんまだ食べてないの?一緒にたべよ~」
どうやらお昼を食べられるようだ。よかった、今からどっか行くのも手間だし。
「あらアスカちゃん、お昼は宿で食べるのね」
「はい、Aセットでお願いします」
「ちょっと待っててね。すぐ用意するから」
待ってる間はエレンちゃんと今日買ったものについて話をする。
「へえ~、ドライフルーツっておいしいんだ。めったに食べないし高いからうちじゃ置かないんだよね」
「確かにお酒に合うかっていうと人選びそうだしね」
「そうそう。それに生のを買って絞って出す方が便利だしね」
「お店だとそうだよね」
「ほら、2人ともできたわよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうお母さん」
モグモグハグハグ
「本日もおいしくいただきました」
「ごちそうさま~」
ご飯も食べたし、早速エレンちゃんの髪飾りを作らないとね。ちゃちゃっといつものようにシートを広げ、魔道具を準備する。飾りのデザインは何にしようかな…。
「う~ん、ちょっと小さめの藤のデザインにしよう。角度で結構違った感じになるし。花の色は違うけどそこはいいでしょ」
私はデザインを描き起こすと実際に銀を削る作業に移る。
「ひとまず力を開放してからの…発動!」
全力でデザイン通りに彫っていく。花びらの枠部分に関してはくり抜くし、薄目にカットする。幸い魔石が平べったいものなので、後で後ろにセットしてくり抜いてある花びらのところが後ろの魔石の色になるという訳だ。
「くり抜いたら後はうらぶたを作らないとね」
魔石を薄くしたものをセットするので、それが落ちないように追加で加工する。宝石の爪のようにしようかとも思ったけど落ちたりしても嫌なので、爪+蓋をつけることにした。
「よしよし、いい出来だ。一度、アラシェルちゃん用の小道具を作ったせいか結構手際よく出来たと思うなぁ。さてと、最後に魔法を込めてみますか」
おじさんにもらった紙を見ながらやってみる。
「何々…陣を描いてその上に乗せて魔法を込めるか。陣はこれかな?魔法はイメージして込めれば付く場合が殆どで後は個人差があるかぁ。魔道具って大変なんだな~」
陣を描いた紙に出来上がった髪飾りを乗せる。そして目を閉じてイメージする。
「アラシェル様、エレンちゃんを守る加護をお願いします」
イメージするのは風の防護膜のようなもの、人を傷つけるのではなくて身を守るためのもの…。
パアァァァァ
髪飾りが薄い光に包まれる。
「成功…したのかな?」
どうなんだろう?初めてのことだし自信ないなぁ。確かめられればいいんだけど…。
「そうだ!ホルンさんに視てもらおう!そうと決まればパッと着替えてと。ああそうだ、力も抑えなきゃ」
私は急いで着替えと片付けをして宿を出る。もういい時間だし、まだいるといいなぁ。