レディトで見送り
休憩場所を片付けた私は、みんなに声をかけて出発を伝える。
「あれだけしっかりしていたのなら家具を解体する必要なかったんじゃない?」
「次に来る人がいつになるか分からないですから。放置したままで折れちゃったりするとかわいそうですし」
「それに休憩所なんて作ったら、その辺に何かあるって思われても嫌だしね。分布図だってアスカが頑張って作ったもんで、他人に手柄をやるようなもんさ」
「冒険者って色々考えてるのね」
「地方ごとにルールは違うし、常に身の危険があるんだ。ボケッとしてたらすぐに廃業さ」
「でも、アスカは冒険以外で儲けてるぞ?」
「ちょっと、ノヴァ! ジェシーさんがいるのに変なこと言わないで」
「でもよ。実際、アスカが一番冒険者っぽくないだろ」
「確かに。昼の食事も始めたのアスカだったよね」
「あ、あれは、キャンプ気分を味わいたかっただけで……」
「その割には次からも当たり前のように要求してたけどね」
「ジャネットさんまで……」
「ふふっ、あなたたち本当に仲がいいのね」
「全くだ。一度、臨時のパーティーでも組んでみろ。毎回運任せでスリルが味わえるぞ」
「スリルって……」
「強い敵が出たら逃げるかどうかの判断からだね。あたしも置いてかれた時はどうしようかと思ったねぇ」
「さすがにそこまでは滅多にないがな」
はっはっはっと笑うジャネットさんとバルドーさん。二人ともまさか経験ありなのだろうか?
「おっ、湖まで来たね。ちょっと下がってなよ」
ジャネットさんの声で、バルドーさんとジェシーさんが下がって待つ。この辺は魔物の水飲み場も兼ねてるから、結構エンカウント率が高いんだよね。
「アスカ、どうだ?」
「ん~、人型が五体ですね。多分オーガかと」
「しょうがない。後で見つけられても面倒だ。対処するよ」
湖ぎりぎりまでジャネットさんが接近する。リュートもその後に続いて、私とノヴァはちょっと後ろだ。ジャネットさんからの準備完了の合図を受けて、私が仕掛ける。
「ウィンドカッター!」
連続で魔法を放ち、まだこちらに気づいていないオーガたちを攻撃する。こちら側にいた二体の内一体はこれで仕留めることが出来た。もう一体は傷こそつけたものの倒すまでには至らず、奥の三体もそこまでダメージはないようだ。
《ガァァァ》
こちらに気づいたオーガたちが一斉に私の方を目指してくる。見た感じ、奥の二体はウォーオーガのようだ。
「今です!」
こちらに向かってくるオーガを魔法で牽制しながら叫ぶ。
「行くよ、はあっ!」
こちらに近づいてきたオーガをジャネットさんが一閃する。それに続いて、リュートが魔槍を伸ばして側面からオーガの頭を突く。
「いけっ!」
その槍は見事にウォーオーガの側頭部を貫いた。いくら固い皮を持つオーガでも、魔槍程の切れ味を持っているなら、突き刺すことも可能だ。
《ガァァ》
突然の側面からの攻撃に驚くオーガたちだったけど、それでも先頭のオーガはこちらに向かってくる。もう一体のウォーオーガはどうやら近くにいるジャネットさんたちに狙いを変えたようだ。
「任せろ!」
向かってくるオーガに対して、ノヴァが立ちはだかる。
「ノヴァ、右!」
「おう!」
ノヴァが右に避けるのと同時に私は風の塊をオーガに当てる。
《グォ!》
風の塊をまともに受け、体勢を崩したオーガをノヴァが切り捨てた。
「うりゃ!」
「後はと……」
「こっちも終わったよ」
向こうを見るとジャネットさんが最後のオーガを倒したところだった。
「ふぅ、もう出てきて大丈夫ですよ」
「だ、大丈夫なの?」
「もういねぇよ。安心しろ」
おおっ、夫婦ぽい会話だ。というか、完全民間人な人と冒険するのって初めてだし、みんなこんな感じなんだろうか? ジェシーさんには悪いけど、新鮮な反応だ。
「それじゃ、これから素材を取っていくから、そっちで休んでな」
「は、はい……」
「やれやれ、思ってたより怖がりだったんだな」
「無茶言わないでよ、私は戦えないんだから」
それから私たちは素材を回収した。
「このウォーオーガどうします。一緒に埋めますか?」
「う~ん。この辺じゃ強い方だし、ちょっと浅めにしといてくれ」
「何で深く埋めないの? その方が安全なんでしょ?」
「弱い魔物だったら集まってくるのを防げるが、強い魔物はそいつが倒されたって魔物に認知させると、逆に安全になるんだよ。ここは水辺だし、人にとっても重要な場所だから、近寄らせないようにするためだ」
「そんなこともあるのね」
「覚えといて損はないぞ。冒険者でもそういうことを考えない奴もいるからな。商隊で行動してる時は帰り道の安全を確保することも出来る」
「そうね。頭に入れておくわ」
こうして、再び私たちは歩き出す。その先の採取ポイントでも薬草を見つけて回収した。もう依頼内容は満たしてるけど、多くて困ることはないしね。
「ちょっと、日も傾き始めたね。急ぐか」
「そうするか」
夕方には着きたいので、ちょっと急ぎ足になって進んでいく。
「レディト側の方はちょっと採ってあるところもあるね」
「向こうでも品薄なんだろ。臨時の収入にはもってこいだからね」
時間の関係でいくつかあるポイントを仕方なくスルーしながらも、そこそこの取れ高だった。
「レディトに到ちゃ~く」
「ここがレディトね。王都の中継点だけあって結構にぎわってるのね」
「まあ、アルバで休憩してこっちでは商売って連中も多いからな。んじゃ、俺たちは宿を探すがお前たちはどうする?」
「実は行きつけの宿があるんですけど……」
新婚さんにはちょうどいいんじゃないかな?
「そこまで言うなら、泊まってやるか」
こうして、いつも泊まってるお姉さんの宿に私たちは全員泊まることになったんだけど……。
「おい、アスカ嵌めやがったな! あの風呂は何だよ!」
「えっ? バルドーさんたちにはぴったりだと思ったんですけど」
「だからってだなぁ……」
「ほら、入りましょうバルドー?」
こうしてバルドーさんはジェシーさんとカップル風呂に入っていったのだった。いいことした後の料理は美味しいなぁ。
それから一夜明けて、今日はバルドーさんたちが王都へ出発する日だ。王都への馬車は何台かあるけど、その中でも出発が早めのものを選んだみたい。
「せっかくの観光なんだから、出来るだけゆっくり見たいからな」
というわけでバルドーさんが選んだ馬車は、一日早く着くから他の馬車より三割も値段が高かった。
「それじゃ、世話になったな。とはいってもまた町には戻るから、そん時はよろしくな」
「ああ、気を付けなよ」
「そう簡単に後れは取らねぇよ」
「あんたじゃなくてジェシーさんだよ。絡まれるだろうから目を離すんじゃないよ」
「ちっ、んじゃな」
手を振りながらバルドーさんたちは馬車に乗っていく。
「さて、これからどうする? すぐに帰るってのもねぇ……」
「私はちょっと商会に寄ってきますね」
「んじゃあ、あたしは武器屋にでも行くとするか」
「なんかいいもんあるのか?」
「それを見に行くんじゃないか。この辺だと交易品も並ぶから、ちょくちょく見に行った方がいいのさ」
「へ~、なら僕も今日はそっちに行こうかな」
「じゃあ、みんな良い物見つけてね!」
「おう! 任せとけって」
みんなと別れて私は商会へ向かう。今月の分はすでに納めてるし、ちょっと見てもらうだけだけどね。
「こんにちは~」
「あら、アスカ様。本日はどのようなご用件ですか?」
「ちょっと見てもらいたい作品があって……」
「分かりました。すぐに店長をお呼びいたしますので奥へどうぞ」
「ありがとうございます」
いつもの部屋に通されて店長さんを待つ。二分ほどですぐに店長さんが来てくれた。
「アスカ様、お待たせしました。本日は何か持ってきていただいたと伺っていますが」
「これなんですけど」
私はバルドーさん向けに作っていたバラのイヤリングを見せる。
「これは……かなり細かな細工が施されていますね。それにイヤリングは珍しいですね」
「はい。自分の作ったものを一覧にしたら、イヤリングが少なかったので今回頑張って作ってみたんです。ただ、頑張りすぎちゃって、強度があんまりないので銀でしか作れないと思うんですけど……」
「なるほど。しかし、これだけ見事な細工であればむしろ銀であることがプラスですよ。ぜひ、うちでも扱わせていただきたい!」
「そ、そうですか。後はこっちなんですけど。こっちの月のイヤリングはそこまで難しくないので、銅でも作れると思います」
「ほう? 単純ですが、目を引くデザインですね。特に色味がいい。銅でも悪くはないですが、こちらもぜひ銀でお願いします。ところでこの中央にある台は?」
「あっ、それはですね。そこに宝石とかを入れられるようにって作ってみたんです。アルバでは販売をしてもらってるおじさんに頼んで、中にある好きな石を選べるようになってるんです」
「なるほど、そこは細工師の方の利点ですね。当店では細工師が店に居ませんので、難しいサービスです」
「そうですよね。じゃあ、これは難しいですかね~」
「いいえ、お手数でなければ石を付ける前のものと見本として石を付けたものをお売りいただければと思います。当方でお客様から石を選んでいただき、アスカ様には次に来ていただくまでに用意していただくという形でお願いしたいのですが……」
「なるほど、それなら出来ますね。ただ、私は来年には旅に出る予定ですので、期間限定でお願いします」
「……分かりました。そういうことなら期間限定サービスとして、以降は販売実績から先に付けて販売いたします」
「それなら大丈夫ですね」
話も出来たし、帰ろうかなと思っていると店長さんに呼び止められた。




