いざ、レディトへ
待ち合わせ場所へ着くと、すでにバルドーさんたちは来ていた。
「おや、珍しいねぇ。こっちに来てたのかい?」
「ん? ジャネット。アスカから聞いてないのか?」
「は? まさかゲストって……」
「ということで、本日のゲストのバルドーさんとジェシーさんです!」
ババーンと紹介したんだけど、何だか反応が薄いなぁ。
「何であんたの護衛を。要らないだろ?」
「バルドー。この人は?」
「ああ、アスカのパーティーメンバーで、ジャネットって言うんだ。結構良い腕だぞ」
「へぇ、なるほどねぇ。道理でこんなとこでフード被せて待ってる訳だ」
「うるせぇ。んじゃ、いくぞ」
バルドーさんの合図で私たちは門を通って先へ進む。リュートたちはまだ、ぼーっとしているようだ。
「な、なあ、あのフードの美人誰だよ?」
「ジェシーさんって言って、バルドーさんのお嫁さんだよ」
「ええっ!? バルドーさんの……」
「何だリュート。文句あんのか?」
「い、いえ」
バルドーさんとは宿でも何度か顔を会わせている分、リュートには気さくだ。
「そんで、受けたのはどんな依頼なんだ?」
「薬草採取ですよ」
「薬草採取だぁ。まだ、そんな依頼受けてんのか?」
「バルドー、もうちょっと言葉を選んだら?」
「なに言ってんだ。ジャネットもそろそろBランクだろ。アスカだって最低でもCランク相当だ。それが薬草採取なんて依頼を……」
「ところがですね。これまた理由があるんですよ」
私がホルンさんから直々に依頼を頼まれたことを伝える。
「へぇ~、そんなことが起きてたとはなぁ。俺も一枚噛みたかったぜ!」
「そんなこと言ってるけど、大変だったんですよ! ジュールさんまで出て来ましたし」
「ああ、確かにあの人がいれば随分違うか。にしても、アスカが殊勲賞とはな。ひょっとしてその軽鎧は……」
「ハイロックリザードの革製です! 最近、作ってもらったんですよ」
「俺より良い装備じゃねぇか。全く、とんだ子どもだな」
「凄いことなの?」
「凄いもなにも、うちの自警団じゃ手に負えねぇよ。魔導師団とかの領分だからな」
「じゃあ、町の小さな英雄ね」
「はい! ちょっと恥ずかしいですけど……」
「んで、今日はどっち廻りだ? 」
「北側にしようと思うんです。こっちの方が色々あるので」
「分かった。ああ、そうだ。ジェシーの足に合わせてくれよ」
「はい、どのみち薬草を探しながらですし、ゆっくりですよ」
こうして私たちは北に逸れて進んでいく。
「ん~、ギルドが依頼してくるだけあってこの辺はないですね」
「んじゃ、次だね。崖の横を通るよ」
「崖の横なんて大丈夫なの?」
「崖の横って言ってもこっちが下だからね。向こうはただの平地だよ」
「アスカ~、こっちのは?」
「う~ん、ちょっと小さすぎるかな? これじゃあ、Cランク止まりだね」
「ここのはどうだ?」
「あっ、それはいけそう。ちょっと待ってて今こっちを終わらせるから」
「ほいよ」
ルーン草を採っている間に、みんなに他の薬草を探してもらったところ、ノヴァがリラ草を見つけてくれた。こっち側じゃ珍しいから助かる。後で西側に取りに行かないといけないかもって思ってたし。
「残りは何なの?」
「あっ、リュート。お疲れ様。残りはムーン草だね。ベル草はこの辺で見つけるの難しいかも」
「分かったよ。じゃあ、進みだしたら気を付けて見てみる」
「お願い」
「役割分担されてて、結構本格的ね」
「だろ? あいつら結構評判良いんだよ」
「そんなこと言ってジャネット、お前は見てるだけか?」
「一応、Bランクとしては格好も付けなきゃね」
「ほう、もう上がってたとはな」
「アスカも今はCランクだよ。魔物使いだけどね」
「それであんなに魔物が町にいたのか、納得だな。しかし、他の職を勧めてやったのか?」
「それが、面倒なことが起きてねぇ。それ以外は難しくなっちまって……」
「まあ、本人が納得しているなら良いが。町の魔物は全部アスカの従魔か?」
「いんや、契約してるのはティタっていうゴーレムと、宿にいるリンネっていうウルフと、ミネルだけさ」
「は、放し飼いって大丈夫なの?」
「街の連中はそこまで知らないし、今いる奴らは大丈夫だ。これ以上、連れてきたら分からないけどね」
「確か魔物使いは従魔契約を迫れたはずだ。変なのに取られないようにしろよ」
「そうなのかい? じゃあ、知り合いの魔物使いを目指してるやつに相談するよ」
「そうした方がいい。昨日の羊とかは特にな」
「ああ、ヴェゼルスシープか。確かにね。フィアルのやつにも相談するか……」
「だが、従魔契約すると破棄は難しいから注意しろよ」
「はいよ。っていうかバルドーさん、やけに詳しいじゃないか」
「これでも王都を往復したりと、結構動いてたんだ。魔物使いの知り合いくらいいるさ」
「その割には話を聞いたことがなかったけどねぇ」
「Cランクで従魔がボア一頭の冒険者の話が聞きたいか?」
「いや、苦労話はこと足りてるよ」
「そういうこった。魔物使いになっても良い従魔に巡り会わなきゃな」
「Cランクになってそれじゃ苦労が報われないね」
「全くだ」
その後、しばらく辺りを見回したけど、なにも見つからなかったので次のポイントに進む。
「ここなら、ムーン草も採れると思うんですけど……」
「どうして?」
「薬草の分布図を作ってるんです。この辺は大体チェックしたので、時期さえずらせば大体は……あった!」
作成した地図を頼りに目当ての場所を見ると、予想通りムーン草が生えていた。
「んじゃ、後はこれを取っていったん依頼は終わりだな」
「それじゃあ、お昼の場所を確保しますか」
「もうお昼なの? まだちょっと早いと思うけど……」
「まあ、野宿みたいなもんだからな。薪集めとか結構大変なんだぞジェシー」
「そうだったの。あまりよく知らなくて」
「あ、いえ……」
その後、薬草を回収した私たちは少し進んだ先にある空き地でお昼ご飯の準備を始めた。
「木はこれ一本切って使うから、水お願い」
「はいよ~」
「ジャネットさんは椅子の組み立てお願いします。リュート、その辺の木はどう?」
「こっちのも使えそうだね」
「なら乾燥させておくから料理はお願いね」
「分かったよ。それじゃ、火だけ先にお願い」
私はすぐに薪を作って、火をつけて二分ほど燃やし続ける。すると薪に火が十分に移るので、後はリュートに任せておけば大丈夫だ。次にジャネットさんが作ってるイスに加え、新たに木を切ってテーブルを作る。
「はい、残り五客分とテーブルです」
「はいよ。今日のメニューは何だって?」
「ボアの煮込み料理とパンですね」
「そいつは楽しみだな。すぐに作って待つとするか」
言葉通り、五分で組み立てたジャネットさんと私、バルドーさん、ジェシーさんが座って待つ。ノヴァには水を持ってきてもらっている。
「野営って大変なのよね?」
「本来はそうだぞ、こいつらがおかしいんだ」
「おかしく何てないよ。現に水は取りに行ってるだろ?」
「水だけじゃねぇか。薪は即作るし、何なんだこのイスとテーブルは? ここで商売でも始めようってか」
「やだな~、バルドーさん。こんな出来じゃあ人に売れませんよ」
「……いつもこんなに手間かけてんのか?」
「大体はだね。さすがに材料が切れたり、調味料にも限りがあるからねぇ」
「残念ですよね。もうちょっとマジックバッグに空きがあればもっと積めるんですけど……」
「これ以上積んでどうするんだ?」
「そうすれば、似たような味じゃなくて、毎回違うテイストで食事が出来ますよ?」
「リュートもリュートだ。あいつあんなに料理上手かったか?」
「毎日のように宿で練習してますからね。最近はライギルさんに調味料の配合も教えてもらえるようになったんですよ」
「アスカ~、ちょっと味見てもらえる?」
「は~い! それじゃあ、ちょっと行ってきますね」
「勝手にしろ……」
私はリュートのもとに駆け寄って、スープの味を確かめる。結構ドロッとしてるな。確かに入れる時からドロッとはしてたけど、入れた量から考えてもさらさらしてるのかと思った。
「どう?」
「美味しいよ。ちょっと薄いけど、パンにつけて食べないならこれで十分だよ」
「じゃあ、このままちょっと煮て完成だね」
それから五分で料理は完成した。休憩から完成まで四十分ってところかな? スープは作っておいた木の器に入れていく。
「はい、どうぞ。みんな行き渡った?」
「おう!」
「それじゃあ……」
「「いただきます!」」
みんな一斉に食べ始める。うん、やっぱり美味しい。煮込む時間が十分でない代わりに、素材の味が生きていていい感じだ。
「ん~、今日もまあまあだね」
「こんな森の中でこれがまあまあだと!?」
「でも、確かに前の野営の時に作った鍋の方が美味しいかも?」
「あれは材料が良かったんだよ。それに、味付けも香草が手に入ったしさ」
「バルドー、ちなみにこの料理は野営だとどのぐらいのランクなの?」
「こんなのBランクのパーティーでも食ってねぇよ。硬い腹だけ膨れるパンが売ってただろ? あんな感じのだって食べてるぞ」
「その食料の話はやめてください」
あれは決してパンじゃない。ただのカロリー摂取のための材料だ。
最後はパンをスープの器に浸けて、綺麗に食べる。
「ん~、今日も満足だった~」
「次はもうちょっと頑張るよ」
「楽しみだねぇ」
「こいつら……」
食事も終えたところで、作ったものを処分するのに時間がかかるので、その間はみんなにゆっくりしてもらった。




