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新規依頼

改めて細工の依頼を受けたので、その内容に沿って午後からは細工をしていく。


「とはいっても、明日は依頼を受けに行く日だし、今日はあんまり力を入れないようにしないとね」


あくまで細工の依頼は私個人のものだし、あんまりみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。


「それに、ノヴァやリュートだって秋にはCランクの試験を受けるんだからね」


Cランクになってから知ったんだけど、試験に合格するのはもちろん、直近の依頼達成についても見られるらしい。たまにランクを上げようと全く依頼を受けずに鍛えて試験に合格する人がいるみたいなんだけど、その場合は仮合格って形をとることもあるらしい。


理由を聞いたら、パーティー行動が全く出来ない可能性や、今後依頼をそもそも受ける気がない可能性があるからなんだって。


「ギルドが欲しいのは強い冒険者じゃなくて、強いパーティーだってジュールさんも言ってたし頑張らないとね」


ただでさえ、週に一度しか活動しないのが魔物の出現低下により、依頼自体が枯渇気味なのでこういう機会は生かさないと。


「それは一旦置いといて、まずは細工を進めなきゃ」


バルドーさんからゴーサインももらったので、今日は木像を中心に進めていく。


カリカリ カリカリ


木を削る音だけが、あたりに響く。といっても結界魔法を使ってるから、実際は周りが静かとは限らないけど。


「う~ん。ちょっとのど乾いたなぁ…」


スッ


目の前にジュースが置かれる。ん?誰だろう?


「ジュース、もってきた」


「ティタ、ありがとう」


ティタにジュースをもらってぐいっと一気に飲む。


「ん?そういえばティタ、バルドーさんたちが来た時動かなかったね」


割といろんな人に話しかけてるティタにしては珍しいなぁ。


「はじめてのひと、ちょっとみてた」


そういえば、私の知り合い以外でティタが積極的に話してたのって、ギルドでパーティー開いた時ぐらいだっけ?後は普段から顔を合わせる人ばかりだったな。


「ティタって案外人見知りだったんだね」


「うん」


一瞬微妙そうな顔をしたティタだったけど、こういうのを言うのが恥ずかしかったのかも。


「じゃあ、今度会う時はあいさつしようね」


「わかった」


ぐいっと再びジュースを飲んで休憩は終わりだ。バルドーさんたちの滞在日数も限られてることだし、早いうちに作っていかないとね。その後も頑張って作っていったんだけど、夕食までには3つしか出来なかった。残念だけどまだまだ、まとめた髪の表現に時間がかかってしまう。


「もうちょっとでコツを掴めそうだから、そうすればもっとスピード上がるんだけどな」


今日は夕飯をバルドーさんたちと一緒にフィアルさんのところで食べる予定だから、早めに切り上げないとね。先に行く準備をして待っておく。


チッ


「どうしたのミネル?久しぶりにライズに会いに行きたいの?」


チッ


どうやらそうみたいだ。でも、子どもたちはどうしようか?


「ティタみてる」


「良いの?」


「うん」


「それじゃあよろしくねティタ!」


待ち合わせの時間になったので、街の広場にミネルたちと向かう。


「おう!時間通りだな」


「はい、じゃあ行きましょう」


「あら、ミネルちゃんたちも来るのね」


「あそこには2匹魔物がいるんですが、ミネルと仲良しなんですよ」


リーヌはまだ会ったことない気がするけど、大丈夫だと思う。


「そうなの?」


「はい。子どもが生まれるまでは毎日のように行ってたんですよ」


「まるで、魔物の街だなここは。そういや、宿に来た時にはいなかったが、途中近くを通ったらウルフがいたな」


「リンネですね。宿の番犬として飼ってもらってるんです。多分朝だとエステルさんを迎えに行ってたんだと思います」


「魔物ってそんなに言うことを聞くの?」


「う~ん、どうでしょう?ミネルたちは聞くというより、生活の延長みたいなもので、リンネもご飯を貰う対価みたいなものですし…」


「それでも、街で問題起こさずにやってんだから、十分だと思うがな」


「そう言われればそうですね。もめ事になったなんて聞いたことありませんし」


「おっと、着いたぞ」


フィアルさんの店に着く。前もって予約してあるから席の心配もない。


「いらっしゃいませ!」


「予約していたバルドーだ」


「3名様ですね。ご案内します」


「よろしくお願いします」


「あら、アスカちゃんもなの?」


「はい。久しぶりにミネルたちも来てますよ」


チッ


「あら、本当。お久しぶりね」


私たちは案内された席に着く。今日は普通の予約客なので1階の奥の方に通された。


「では、メニューをお持ちいたします」


チッ


「ミネルどうしたの?」


チュン


ミネルとレダは久しぶりに来たから店員さんたちに挨拶をしたいみたいだ。


「邪魔になったり、汚したりしちゃだめだよ」


チッ


ミネルたちと別れて私たちは食事タイムだ。バルドーさんが定番の肉料理のコースを、ジェシーさんは煮込み料理を選んだ。私はというと…。


「いやぁ~、最近気になってたんですよね」


私の前に運ばれてきたのは野菜とデザートのコースだ。手に入れやすい野菜を使うことで前半の料理をリーズナブルにまとめて、後半のデザートで勝負するというデザート重視の料理で、ひそかに今人気のメニューなんだ。


「もちろん野菜もおいしいし、満足の一品らしいからね」


「だといいがな…」


そして、雑談して待つこと30分。最初の料理が運ばれてきた。バルドーさんは肉料理らしく最初はサラダにローストビーフっぽいのが乗っかっている料理、ジェシーさんはほろほろ肉と野菜だ。私も食べたことあるけど、柔らかく煮込まれた肉と、付け合わせの野菜が最高のバランスなんだよね。


「私はこれかぁ…」


私はシンプルにドレッシングがかかったサラダだ。ちょっと野菜にしては味の濃い目のドレッシングだけど食べやすい。


「続いてはスープだね。バルドーさんはコンソメで、ジェシーさんはコーンスープかぁ」


どっちも濃厚そうだ。私の元にはちょっと遅れて、ほうれん草のスープだ。といってもちょっと大きめの切り身で入ってるあっさり塩味のスープだけど。


「あら、次は匂い的に魚料理みたいね」


「俺のはこれまた旨そうだな」


バルドーさんの元にはあっさり目の白身魚に濃い目の野菜と肉で作ったソースがかかったもの。ジェシーさんはシンプルなムニエル。魚は私もジェシーさんと一緒だった。


「いよいよメインだ!」


ワクワクしながら私はメインの料理を待つ。


ジュー


肉の焼ける音とともにいい匂いが一緒にやって来た。


「こちらになります」


バルドーさんにはオークステーキだ。しかも、色目から見るにあれは一度熟成させたものだな。肉料理のコースって結構手間かかったもの多いなぁ。


ジェシーさんは上品なローストビーフっぽいものだ。恐らく、バルドーさんの最初に出たサラダに載っていたものと一緒だろうけど、枚数も多いし食べ応えもありそう。


「こちらが付け合わせのパンになります。そちらのソースや野菜を一緒にはさんでいただけます」


「そうなの?ありがとう」


ああっ、ローストビーフサンドにもできるあれかぁ。じゅるり…。おっと、さて私のは何かな?私は自分の前に置かれた料理に目をやる。


「チキンサンド?」


私の前に置かれていたのは、チキンサンドだった。もちろんそういう名前ではないけど、鶏みたいな鶏肉を使ったやつなので私はそう呼んでいる。


「頂きま~す。はぐっ」


うん、美味しい!でも、これ胸肉の部分なんだ。てっきり、もも肉かと思ったんだけど…。


「どうしたんだアスカ?」


「な、何でもありません」


ううっ、こうあっさりしたものが続くと隣のジェシーさんの赤身肉とか、バルドーさんの脂ののったオークステーキに目が行ってしまう。確かにこれもおいしいんだけど、周りを見てしまうとちょっと物足りない。


「どうかしたの?そんなに色々見て」


「あはは、ナンデモアリマセン」


「どうせ、ものたりねぇとか思ってんだろ?お前のはこの後が本番じゃねぇか」


「えへへ」


バルドーさんに見事に頭の中を看破された私だったが、気を取り直して食事に戻る。


「うう~」


「あの…アスカちゃん、ちょっと味見してみる?」


「良いんですか!」


ばっと身を乗り出す勢いで迫ってしまった。危ない危ない。初対面の人に引かれるところだった。


「え、ええ、どうぞ。私はこっちのパンの方もあるし…」


「そ、そうですか!では、遠慮なく…」


ぱくっ


ん~、肉って感じの噛み応えに、口に染みわたるソースの味!流石はフィアルさんだ。いや、チキンサンドもおいしいんだけど、こう…肉食べてるって感じだ。


「やばいわね。この子犯罪的だわ」


「俺の気持ちがよく分かっただろ?」


2人がひそひそ何か言ってるけど、ほくほく顔で肉を食べている私には聞こえていなかった。2枚目のローストビーフを食べたところで、ふと気づいて手を止める。


「あっ、そ、そろそろ、デザートの用意しますね」


すすーっと手を戻して、残ったチキンサンドを片付ける。うん、さっきの肉とは違ってあっさりしてるけど、これはこれで…。こうして各々がメインの料理を食べ終わるといよいよデザートだ。


「お持ちしました~」


店員さんがいよいよ私のメインであるデザートを持ってきてくれた。バルドーさんは今までが豪華だけあって、デザートはゼリーが1つ。ジェシーさんはアイスみたいだ。そして私はというと…。


「やったぁ!パフェだぁ!」


そこに置かれたのはまごう事なきパフェだった。


「あら、アスカちゃんこの料理知ってるの?まだ食べたことないはずだけど…」


「あ、えと、故郷の方で何度か…。でも、これと違ってもっと小さかったですし、とってもおいしそうです」


店員さんに質問されて慌てて答える。そっか、この世界じゃ初めてだったっけ。もっとも、氷を用意するのが大変なこの世界では、アイス自体が珍しいんだけどね。


「良かったわね。店長にも喜んでたって伝えておくわ。ちょっと残念だったけど」


「はい。お願いします」


何が残念だったかは分からないけど、私のテンションは爆上がりだ。何せ、デザートそのものが水くさ…いや、甘みが薄いこの世界で、まさかパフェだなんて!


「いただきま~す」


「アスカ食べ方わかんのか?」


「大丈夫ですって!だって、パフェは自由に食べられますから!」


早速私は載っているフルーツをパクリ。


「う~ん、冷えてるし甘くておいしい!」


続いてアイスと生クリームの層にもチャレンジだ。


「あっ、こっちもアイスだ。ほんとに甘くておいしい。ちょっと香りは弱いけど…」


多分バニラエッセンスを使ってないからだね。あっちは流石に採ろうと思わないと採れないし、市場でも見かけたことないしなぁ。クッキー生地の部分もあるし、流石はデザートコースだ。私はうれしくて勢いに乗って、次々食べ進める。


「ねぇ、このボリュームってことはひょっとしてこれまでのメニューって、安く仕上げてたんじゃなくて、太らないようにあっさり目に仕上げてたんじゃない?」


「言ってやるなよ。あんなに幸せそうなんだからな」


2人の視線の先には久しぶりのパフェに一心不乱になる私が映っていたのだった。




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