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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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新規依頼


 改めて細工の依頼を受けたので、その内容に沿って午後からは細工をしていく。


「とはいっても、明日は依頼を受けに行く日だし、今日はあんまり力を入れないようにしないとね」


 あくまで細工の依頼は私個人のものだし、あんまりみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。


「それに、ノヴァやリュートだって秋にはCランクの試験を受けるんだからね」


 Cランクになってから知ったんだけど、試験に合格するのはもちろん、直近の依頼達成についても見られるらしい。たまにランクを上げようと直前に全く依頼を受けずに鍛えて試験に合格する人がいるみたいなんだけど、その場合は仮合格って形を取ることもあるらしい。

 理由を聞いたら、パーティー行動が全く出来ない可能性や、今後依頼をそもそも受ける気がない可能性があるからなんだって。


「ギルドが欲しいのは強い冒険者じゃなくて、強いパーティーだってジュールさんも言ってたし頑張らないとね」


 ただでさえ、週に一度しか活動しないのが魔物の出現低下により、依頼自体が枯渇気味なのでこういう機会は生かさないと。


「だけど、まずは細工を進めなきゃ」


 バルドーさんからゴーサインをもらったので、今日は木像を中心に進めていく。


 カリカリと木を削る音だけが辺りに響く。結界魔法を使ってるから、実際は周りが静かとは限らないけど。


「う~ん。ちょっとのど乾いたなぁ……」


 ボソッと呟くと目の前にジュースが置かれた。誰だろう?


「ジュース、もってきた」


「ティタ、ありがとう」


 ティタにジュースをもらってぐいっと一気に飲む。


「ん? そういえばティタ、バルドーさんたちが来た時は動かなかったね」


 割と色々な人に話しかけてるティタにしては珍しいなぁ。


「はじめてのひと、ちょっとみてた」


 そういえば、私の知り合い以外でティタが積極的に話してたのって、ギルドでパーティー開いた時ぐらいだっけ? 後は普段から顔を合わせる人ばかりだったな。


「ティタって案外人見知りだったんだね」


「うん」


 一瞬微妙そうな顔をしたティタだったけど、言うのが恥ずかしかったのかも。


「じゃあ、今度会う時は挨拶しようね」


「わかった」


 ぐいっと再びジュースを飲んで休憩は終わりだ。バルドーさんたちの滞在日数も限られてることだし、早いうちに作っていかないとね。その後も頑張って作っていったけど、夕食までには三つしか出来なかった。残念だけどまだまだ、まとめた髪の表現に時間がかかってしまう。


「もうちょっとでコツを掴めそうだから、そうすればもっとスピードが上がるんだけどな」


 今日はバルドーさんたちと一緒にフィアルさんのところで夕食を食べる予定だから、早めに切り上げないとね。


《チッ》


「どうしたのミネル。久し振りにライズに会いに行きたいの?」


《チッ》


 どうやらそうみたいだ。でも、子どもたちはどうしようか?


「ティタみてる」


「良いの?」


「うん」


「それじゃあ、よろしくねティタ!」


 待ち合わせの時間になったので、街の広場にミネルたちと向かう。


「おう、時間通りだな」


「はい。じゃあ行きましょう」


「あら、ミネルちゃんたちも来るのね」


「あそこには二頭の魔物がいるんですけど、ミネルと仲良しなんですよ」


 リーヌはまだ会ったことない気がするけど、大丈夫だと思う。


「そうなの?」


「はい。ミネルも子どもが生まれるまでは毎日のように行ってたんですよ」


「まるで、魔物の街だなここは。そういや、宿に来た時にはいなかったが、途中近くを通ったらウルフがいたな」


「それはリンネですね。宿の番犬として飼ってもらってるんです。多分朝だとエステルさんを迎えに行ってたんだと思います」


「魔物ってそんなに言うことを聞くの?」


「う~ん、どうでしょう? ミネルたちは聞くというより、生活の延長みたいなもので、リンネもご飯を貰う対価みたいなものですし……」


「それでも、街で問題起こさずにやってんだから、十分だと思うがな」


「そう言われればそうですね。揉め事になったなんて聞いたことありませんし」


「おっと、着いたぞ」


 フィアルさんの店に着く。前もって予約してあるから席の心配もない。


「いらっしゃいませ!」


「予約していたバルドーだ」


「三名様ですね。ご案内します」


「よろしくお願いします」


「あら、アスカちゃんもなの?」


「はい。久し振りにミネルたちも来てますよ」


《チッ》


「あら、本当。お久し振りね」


 私たちは案内された席に着く。今日は普通の予約客なので一階の奥の方に通された。


「では、メニューをお持ちいたします」


《チッ》


「ミネルどうしたの?」


《チュン》


 ミネルとレダは久し振りに来たから店員さんたちに挨拶をしたいみたいだ。


「邪魔になったり、汚したりしちゃだめだよ」


《チッ》


 ミネルたちと別れて私たちは食事タイムだ。バルドーさんが定番の肉料理のコースを、ジェシーさんは煮込み料理を選んだ。私はというと……。


「いやぁ~、最近気になってたんですよね」


 私の前に運ばれてきたのは野菜とデザートのコースだ。手に入れやすい野菜を使うことで前半の料理をリーズナブルにまとめて、後半のデザートで勝負するというデザート重視の料理で、密かに人気のメニューなんだ。


「もちろん野菜も美味しいし、満足の一品らしいからね」


「だといいがな」


 そして、雑談して待つこと三十分。最初の料理が運ばれてきた。バルドーさんは肉料理らしく最初はサラダにローストビーフっぽいのが乗っかっている料理、ジェシーさんはほろほろ肉と野菜だ。

 私も食べたことあるけど、柔らかく煮込まれた肉と、付け合わせの野菜が最高のバランスなんだよね。


「私はこれかぁ……」


 私はシンプルにドレッシングがかかったサラダだ。ちょっと野菜にしては味の濃い目のドレッシングだけど食べやすい。


「続いてはスープだね。バルドーさんはコンソメで、ジェシーさんはコーンスープかぁ」


 どっちも濃厚そうだ。私の元にはちょっと遅れて、ほうれん草のスープだ。ちょっと大きめの切り身が入ってるあっさり塩味のスープだけどね。


「あら、次は匂いからすると魚料理みたいね」


「俺のはこれまた旨そうだな」


 バルドーさんの元にはあっさりとした白身魚に味の濃い野菜と肉で作ったソースがかかったもの。ジェシーさんはシンプルなムニエル。魚は私もジェシーさんと一緒だった。


「いよいよメインだ!」


 ワクワクしながら私はメインの料理を待つと、肉の焼ける音とともにいい匂いが一緒にやって来た。


「こちらになります」


 バルドーさんにはオークステーキだ。しかも、色目から見るにあれは一度熟成させたものだな。肉料理のコースって結構手間かかったもの多いなぁ。

 ジェシーさんは上品なローストビーフっぽいものだ。恐らく、バルドーさんの最初に出たサラダに載っていたものと一緒だろうけど、枚数も多いし食べ応えもありそう。


「こちらが付け合わせのパンになります。そちらのソースや野菜を一緒に挟んでいただけます」


「そうなの? ありがとう」


 ああっ、ローストビーフサンドにもできるあれかぁ。じゅるり……。おっと、さて私のは何かな? 私は自分の前に置かれた料理に目をやる。


「チキンサンド?」


 私の前に置かれていたのは、チキンサンドだった。もちろんそういう名前ではないけど、鶏肉風の肉を使ったやつなので私はそう呼んでいる。


「頂きま~す。はぐっ」


 うん、美味しい! でも、これ胸肉の部分なんだ。てっきり、もも肉かと思ったんだけど……。


「どうしたんだアスカ?」


「な、何でもありません」


 ううっ、こうあっさりしたものが続くと隣のジェシーさんの赤身肉とか、バルドーさんの脂ののったオークステーキに目が行ってしまう。確かにこれも美味しいんだけど、周りを見てしまうとちょっと物足りない。


「どうかしたの? そんなに色々見て」


「あはは、ナンデモアリマセン」


「どうせ、もの足りねぇとか思ってんだろ? お前のはこの後が本番じゃねぇか」


「えへへ」


 バルドーさんに見事に頭の中を看破された私だったけど、気を取り直して食事に戻る。


「うう~」


「あの……アスカちゃん、ちょっと味見してみる?」


「良いんですか!」


 ばっと身を乗り出す勢いで迫ってしまった。危ない危ない。初対面の人に引かれるところだった。


「え、ええ、どうぞ。私はこっちのパンの方もあるし……」


「そ、そうですか! では、遠慮なく……」


 ん~、肉って感じの噛み応えに、口に染みわたるソースの味! さすがはフィアルさんだ。いや、チキンサンドも美味しいんだけど、こう……肉を食べてるって感じだ。


「やばいわね。この子犯罪的だわ」


「俺の気持ちがよく分かっただろ?」


 二人がひそひそ何か言ってるけど、ほくほく顔で肉を食べている私には聞こえていなかった。二枚目のローストビーフを食べたところで、ふと気づいて手を止める。


「あっ、そ、そろそろ、デザートの用意しますね」


 すすーっと手を戻して、残ったチキンサンドを片付ける。うん、さっきの肉とは違ってあっさりしてるけど、これはこれで……。こうして各々がメインの料理を食べ終わるといよいよデザートだ。


「お持ちしました~」


 店員さんがいよいよ私のメインであるデザートを持ってきてくれた。バルドーさんは今までが豪華だけあって、デザートはゼリーが一つ。ジェシーさんはアイスみたいだ。そして私はというと……。


「やったぁ、パフェだぁ!」


 そこに置かれたのはまごうことなきパフェだった。


「あら、アスカちゃんこの料理知ってるの? まだ食べたことないはずだけど……」


「あ、えと、故郷の方で何度か……。でも、これと違ってもっと小さかったですし、とっても美味しそうです」


 店員さんに質問されて慌てて答える。そっか、この世界じゃ初めてだったっけ。もっとも、氷を用意するのが大変なこの世界では、アイス自体が珍しいんだけどね。


「良かったわね。店長にも喜んでたって伝えておくわ。ちょっと残念だったけど」


「はい。お願いします」


 何が残念だったかは分からないけど、私のテンションは爆上がりだ。何せ、デザートそのものが水くさ……いや、甘みが薄いこの世界で、まさかパフェだなんて!


「いただきま~す」


「アスカ食べ方分かんのか?」


「大丈夫ですって。だって、パフェは自由に食べられますから!」


 早速私は載っているフルーツをパクリ。


「う~ん、冷えてるし甘くて美味しい!」


 続いてアイスと生クリームの層にもチャレンジだ。


「あっ、こっちもアイスだ。本当に甘くて美味しい。ちょっと香りは弱いけど……」


 多分バニラエッセンスを使ってないからだね。市場でも見かけたことないなぁ。クッキー生地の部分もあるし、さすがはデザートコースだ。私は嬉しさのあまり、勢いに乗って次々食べ進める。


「ねぇ、このボリュームってことはひょっとしてこれまでのメニューって、安く仕上げてたんじゃなくて、太らないようにあっさり目に仕上げてたんじゃない?」


「言ってやるなよ。あんなに幸せそうなんだからな」


 二人の視線の先には久し振りのパフェに一心不乱になる私が映っていたのだった。




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