再会と紹介
「ふわぁ~」
ん~、良く寝たぁ~。カシャっとカーテンを開けると日はもう昇っていた。大体十時ぐらいかなぁ……。
「時間を確認がてら朝ご飯を食べよう」
意識がはっきりしないまま、パッと着替えて食堂へ下りる。
「おはよ~ございます~」
「あら、おはようアスカちゃん。よく眠れた?」
「バッチリ寝ました~。ふわぁ~」
「おいおい、ちょっとは冒険者らしいなりになったかと思えば、まだぼーっとしてるのか?」
「ふぇ?」
あまり聞きなれない声にごしごしと目をこする。
「バ、バルドーさん! いつこっちに?」
「ん~? 今日の朝方だな。手紙も渡したっていうから待ってたんだが、まさかこんな時間まで寝てるとはな」
「たまたま、今日だけですよ。いつもはもっと早くに起きてますよ~」
「そうか、ならいいんだが…」
「バルドー、その子が例の?」
「そうだ。見た目はこんなだが細工も冒険者としても、かなりの腕だぞ」
「あれ? そちらの方は?」
「私はジェシーって言うの。バルドーの幼馴染で、実家が細工屋をやっているのよ」
「ああ、バルドーさんの依頼ってそちらの方からですか?」
「まあ、そんなところね。私の住んでいる町は石の工芸品や建築で有名なのよ」
「そうなんですね。私も旅に出たら一度寄りたいです」
「あっ、おねえちゃん。朝ご飯だよ」
「ありがと、エレンちゃん」
エレンちゃんから貰った朝食を食べながら、バルドーさんたちと話す。
「それじゃあ、今は新婚旅行中なんですか?」
「声が大きい! 他の奴らに聞かれたらからかわれるだろ」
「ご、ごめんなさい。でも、いいですねぇ。私も将来は……」
「アスカにはまだ早いと思うがな」
「そうですか?」
「ああ、そんな部屋着で食堂に下りてくるうちはな」
「でも、食事を食べに来るだけですし……」
「そういうところに気を配るのも、男性をつかむコツよ」
「へ~、ためになります」
「それはそうと、手紙で書いてた像の作成はどんな感じだ?」
「ああ、とりあえず新しいのを作ってます。この後、見に来ますか?」
「いいのか? 今日の予定は」
「今日は特に何もありませんから」
食事をする間、二人にはちょっと待ってもらって一緒に部屋へ行く。
「あっ、そうだ! ちょっと、騒がしいかもしれませんけど、よろしくお願いしますね」
「騒がしい? 誰か一緒に住んでるのか?」
「まあ、そんな感じですね」
ガチャっとドアを開けて部屋に入ると、いきなりアルナがこっちに飛び込んできた。
《ピィ!》
「わっ!? また、飛び込んできて……。お腹減ったの?」
《ピィ!》
ぐるぐる部屋を旋回して、そうだと訴えかけるアルナ。
「な、何その子!?」
「あっ、紹介しますね。奥にいるオスがレダで、手前がミネル。一番奥にいるのがエミールです。それでこの子がアルナです。ちょっと元気が良くて……」
《ピィ》
手のひらに乗ってる姿はかわいいんだけど、本当に元気いっぱいなんだよね。
「ミネルってヴィルン鳥だろ? 他にも飼うようになったのか?」
「色々ありまして。今はこのレダっていうバーナン鳥と番になってて、生まれた子がこの子たちなんです」
「ヴィルン鳥って飼えたのね……。見るのも難しいぐらいだから、飼えないんだと思ってたわ」
「珍しいみたいですね。でも、大人しくていい子ですよ」
《チチッ》
ミネルがジェシーさんに挨拶の意味も込めて、肩に乗る。
「大丈夫なの?」
「はい。人にも慣れてますし、賢い子ですよ」
ミネルを真似るように反対側の方にはレダが乗る。
「バーナン鳥もこんなに近くで見たのは初めてね。ありがとう」
《チュン》
「でも、あいつは一向にこっちへ来ないな」
「エミールはちょっと大人し目の子なんで、初めての人にはあんまり近寄らないんです」
「そうなの?」
《ピィ》
「うわっ! こっちはやたら元気だな」
アルナはというと、バルドーさんがミネルの知り合いということで、興味津々のようだ。しきりに肩や腕や頭に乗っては、くちばしでつついたりしている。
「バルドーったら型無しね。でもこの子は本当に元気ね」
「元気いっぱいで困る時もありますけどね。まだ生まれて間もないですけど、もう魔法も使えるんですよ」
「へ~、そいつは驚きだな」
「やっぱり子どもってすごいですよ。すぐに飲み込んで使えるようになっちゃいますね」
「お前もまだガキだろ」
「ちゃんと成長してます!」
「バルドーが心配って言ってた意味が解るわ」
「どうかしました?」
「いえ。そうそう、肝心の細工見せてもらえる?」
「そうでした。ミネル、朝ごはん食べててね」
《チッ》
食事台にご飯を置いてミネルたちはお食事タイムだ。さすがに食べている時はアルナも大人しいので、これで話が出来る。
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね。すぐに出しますから」
「出す? ここに置いてるの?」
「何言ってんだジェシー。仮にも冒険者だぞ。マジックバッグぐらい持ってるさ」
「あっ、そういえばそうね。うちでは使わないから頭になかったわ」
「え~と、この前作ったのがこれですね」
私は三種類のグリディア様像を机に置く。ちなみに椅子は一つなので、机の向きを変えてバルドーさんが椅子で、私とジェシーさんがベッドに座る形だ。
「これがか? 前に作ってもらったのとは違うデザインだな」
「一緒だと面白くないので、新しく作ってみました。自分ではよくできたと思うんですけど、とうですか?」
「あ、ああ、ちゃんと出来てるな。仕上がりもいいんだが、こんなに細工の線は細かったか?」
「確かにかなりのレベルね。向こうで見せてもらったものよりいい出来だわ」
「そ、そうですか。まあ、あれからも細工はしてますし」
「でも、なんでわざわざ新作にしたんだ? 別に前のでよかっただろう?」
「それなんですけど、前のはちゃんと売れたんですよね? 実は少し不安でもっとちゃんとしたのを作れって言われないかと思って作ってみたんですけど……」
「いや、あれだってかなりいい出来だ。今回、こっちに来たのもちゃんと売れることが分かったからな。旅行ついでに仕入れに来たんだよ」
「よかった~。で、今回の新作も大丈夫そうですか?」
「ええ、バリエーションに富んでいるのはもちろんだけど、こっちの髪をまとめた神像は特に人気が出そうね。どうしても神像って定型的なデザインのものになりがちだから、こっちの法衣をまとったようなのとか、剣を振るのは割と種類があるの。でも、こういった冒険的なものはほとんど見かけないわね」
細工屋の娘さんであるジェシーさんが言うんだから安心した。ちょっと少なめに作ったけど、ちゃんと売れそうだ。
「だが、こんなに細かい作りで強度は大丈夫なのか?」
「それは私も気になってて、基本的にはポニーテールのは銅像でお願いしたいかなって」
「そうだな。実際このデザインは冒険者には受けがいいだろうから、丈夫な材料で作ってもらった方がありがたい」
「後は値段なんですけど作りの関係上、ポニーテールのがちょっと高めで、次に髪をまとめたもの、最後に法衣を着ているものの順に安くなっていく感じです」
「まあ、オーソドックスなのはどこでも売れるからな。むしろありがたいぐらいだ」
「そうね。残り二種類は人気は出そうだけど、買う層もある程度限定されそうね。在庫として持つなら普通のものね」
「それじゃあ、これを多めに作りますね」
「ああ、他には何かあるのか?」
「一応作りましたよ。ただ……」
「何か問題があるのか?」
「見てもらった方が早いですかね」
私は昨日完成したばかりの細工を机に置く。
「これは、綺麗なバラね。彩色もされてるし、いいデザインだわ」
「ああ。で、これの何が問題なんだ?」
「これ自体は私もよくできたと思うんですけど。細工が細かくて多分、銀じゃないと強度が保てません」
「ああ、そういうことね。それじゃあ、これの希望価格は金貨一枚くらいかしら?」
「そうですね。作りが細かくて一日に何個も作れないんです」
「そういうことなら大丈夫だ。俺たちの町は職人街みたいなもんだからな。いいものは高く、悪いものはそもそも売れない。多少値段が張るぐらいなら、簡単に捌けるぞ」
「良かった~。頑張って作っても売れないかなって不安だったんです!」
「アスカぐらい細工の腕があれば、よほどのことがない限り売れないなんてことはない。自信を持ってもいいぞ」
「そうね。腕もそうだけど、デザインも将来性があるわ」
「そうですか、こっちはどうです?」
「なんだ、まだあったのか。こっちもイヤリングか」
「はい。あんまりイヤリングを作ったことがなかったので、他にも作れますよ」
私は今まで作ったものの一覧を見せてみる。
「ほぉ~。こいつは見やすくていいな。欲しいものがあればすぐに見つけられる」
「それに、カテゴリ別に分かれているのもいいわね。興味のあるものだけを選べるわ」
「誰かに描いてもらったのか?」
「自分で描きましたよ? じゃないとそんな都合よく描けないですよ」
「そうか、ちなみに今は細工の仕事はどんな感じなんだ?」
「来月までは基本終わらせてますから、依頼が来ない限りないですね」
「本当!? それじゃあ、ちょっと時間をもらえないかしら?」
「別にいいですけど……」
その後もちょっと話し合って、滞在期間中はバルドーさんたちの依頼を受けるようにした。
「ああそれとな、前回の依頼の追加報酬だ。合計で金貨一枚と銀貨四枚だ」
「良いんですか?」
「ああ、アスカのおかげでいい商売になったし、それが元でこうして来ているんだからな」
「ありがとうございます」
とりあえず、お昼になったのでご飯だ。まずは、宿の昼食を食べて夕飯はフィアルさんのところに行くらしい。ライズのことも気がかりだし、夕飯は一緒に食べることになった。
「んじゃあ、俺たちは散歩がてら予約をしてくるな」
「はい、お気をつけて!」
一度バルドーさんと別れる。さすがに遅い朝食だったから、私はまだお腹空いてないしね。




