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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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アルナとエミール


 名前かぁ。考える機会があることは良いことだけど、なかなか難しいよね。


「何がいいかな~、みんなに愛される名前にしたいし……」


《チィ》


《ピィ》


「ん、早く名前が欲しいって? 分かったよ。それじゃあね……女の子のあなたはアルナ、大人し目の君はエミールだよ。これからもよろしくね」


《ピィ》


 名前を付けてあげるとアルナが喜びのあまり部屋を飛び回る。


「ちょ、ちょっと静かにしようね~」


 小屋の外に出てからというもの、ことある毎に部屋を出ようとするので、なかなか気が休まらない。この前もぼーっとして部屋を出ようとしたらミネルに注意されたし。


「ミネルは立派なお母さんになったよね」


《チッ》


 ミネルの頭を撫でてやる。ちなみにミネルは撫でてあげても反応が薄いので、嬉しいのかよく分からない。アルナはくすぐったがってる感じで、エミールは気に入ったのか一度やると結構せがまれる。


《チィ》


「エミールもして欲しいの? はいはい」


 空いた左手でエミールも撫でてやる。そういえばレダはあんまり触らせてくれないなぁ。オスだし、縄張り意識とかがあるのかな? でも、懐いてはくれてるから気にしてないけどね。


「あっ、そういえばアルナ。最近、風の魔法覚えたでしょ。むやみに使わないでね」


《ピィ》


 うう~ん、分かってくれたかな? ミネルもそうだったけど、アルナも風の魔法に適性があるみたいで、最初に使った時はギューンってすごい速さで部屋を飛んで驚いた。当たったら刺さりそうだったし。


《チッ》


 私の言葉を聞いてミネルが注意してくれてるみたいだ。でも、当のアルナはというとこれ見よがしに風魔法を使っている。むむっ、これはしつけないと。


「えいっ!」


 アルナが風の魔法を使うのに合わせて、私は真逆の風を作って打ち消す。アルナはまだ魔法についてあまり分かっていないようで、自分はきちんと魔法を使っているのに効果が出ていないため、わけが分からないようだ。


「ミネルやレダの言うことはきちんと聞かないと駄目だよ?」


《ピィ……》


 分かったというように返事をしたので、私は魔法を解いてやる。


「ほら、もう大丈夫だよ」


 再びアルナが魔法を使うと今度はきちんと発動したので、私のところにやって来て再び鳴き始めた。


「えっ、今度は何?」


「アスカがまほうけした。やりかたしりたい」


「うっ、そっかぁ……。変に魔法に興味持たせたかな?」


 ちらりとミネルたちを見ると、任せたと言わんばかりにエミールと遊んでこっちを見ない。自分で蒔いた種だししょうがないか。私はアルナに身振り手振りとティタの通訳を交えながら、魔法の講釈を行うのだった。



「分かった? むやみに使っちゃだめだよ?」


《ピィ》


 アルナも分かってくれただろうし、細工に移ろう。


「まずは手紙にもあったグリディア様の像だね。ある程度木像が欲しいって書いてあったから、そこからだ。とりあえず、デザインを考えないと」


 新しい依頼だから新デザインで挑まないとね。まずは髪形からかなぁ。


「どんなのがいいかな? ストレートも動きがあっていいけど、戦女神様だしやっぱり髪はまとめてるよね」


 考えた末にポニーテールとくるっと髪を後ろでまとめたものと、神殿にいる設定で髪を下ろした三タイプを作ることに決めた。


「やっぱり戦女神様だからって、常に武装してるのは良くないと思うんだ。お休みだって必要だよね」


 ということでまずは神殿での姿から作っていく。基本的にはアラシェル様たちと一緒の服だけど、そこは個性が欲しいよね。ちょっとだけスリットを入れるのとやや丈を短くしてと。他には何かいるかなぁ?


「イメージ的にはちょっと大人な雰囲気だから、イヤリングでもつけようかな?」


 後はグローブも中指を通すタイプにして、冠は草で編んだものを使ってと……。実際に木で作る時は欠けたり折れたりしないように気を付けないとね。デザインが決まったら、銅の塊を取り出して魔道具で加工していく。


「続いては……ポニーテールだね。これは動きやすい格好をしているんだから、動きのあるものにしよう」


 これまでの像とは一変して、まさに戦神という形で剣を振り下ろしているポーズだ。身体の動きもダイナミックに表現してみる。


「うう~ん、ここまで動きがあるのは滅多に作らないから難しいなぁ。ちょっと休もう」


 休みながらもポーズの参考にならないかと、自分の身体を動かして確かめてみる。もうちょっと大胆なポーズの方が映えるかなぁ? そんなことを考えているとドアがノックされた。


「は~い」


「おねえちゃん入るよ~」


 ドアを開けてエレンちゃんが入ってきた。でも、どうしてか全く話しかけてくれない。


「どうしたの?」


「お、おねえちゃん何してるのそんな格好で……」


「えっ、あっ! ちょ、ちょっと細工のイメージを考えてただけ!」


「そ、そう、ごめんね。次からはちゃんと確認してから入るね」


 確かに部屋着で決めポーズなんてかなり変な格好だったな。次からはもっとちゃんとした格好で細工しようかな? いやいや、自室なんだから楽な格好でないとね。


「そうだ! おねえちゃんお昼だよ。用意できたからよろしくね~」


「は~い」


 気を取り直して食事だ。今日も何とか外に出ようとするアルナをまいて、ティタと一緒に下りる。


《わぅ》


 下に行くと珍しくリンネがご飯をもらいに食堂に来ていた。時間も昼過ぎなので、特に誰も気にしてないみたいだけど、堂々としてるなぁ。


「あっ、リンネ。ちょっと待っててね。おねえちゃんの食事運んだら、ご飯あげるから」


《わふ~》


 大きくあくびをしてその場にへたり込むリンネ。いやそこ通路なんだけど……。邪魔だろうと絶対にご飯をもらう構えのリンネ。なんて食い意地の張った従魔なんだ。


「はい、どうぞ」


「ありがとう、エレンちゃん。ごめんね、リンネが急かしちゃって」


「いいよ。遠慮して病気になっても困るしね」


 そう言いながらエレンちゃんはすぐにリンネのご飯を取りに奥に消える。


「リンネもほどほどにね」


《わう 》


 これは権利だぞと突っ返された。まあ、そう言われればそうなんだけど。リンネもその辺は賢いし、ミーシャさんがいれば大丈夫かな? そう思い直して食事に移る。


「わっ! 今日はローストオークのサンドだ。野菜も新鮮だし、頑張ってるなぁ」


 野菜以外は完全加熱が多いこの世の中で、こういうのが食べられるのも、この宿の良いところだよね。それに、たまにだけどかなりの原価で食事を提供してくれるのも嬉しい。これも作るのに手間が掛かるし、毎日違うメニューだしね。


「ごちそうさまでした」


 食事を終えた私は再び細工をするために部屋へ戻る。ついでに食事を持って行くことも忘れない。


「は~い。ミネル、レダ、アルナ、エミールご飯だよ~」


 ちなみにこの時間ティタは食事兼癒しとして食堂勤務だ。時間になったら自分で戻ってくるか、ミーシャさんが連れて来てくれる。


《チッ》


 まずはミネルから。最近はそうでもないけど子供が生まれてから数日は体調も悪かったし、なんとなく先に食べることが多くなった。アルナたちはどっちかというと先に食べないというより、安全かどうかの確認を含めているみたいだ。


「それじゃあ、この隙にと……」


 また、アルナがこっちに来てしまう前に先に結界を張って細工を始める。私も遊びたいんだけど、毎日のように来てくれるから仕事にならないんだよね。


「え~と、次はと……。ああ、ポーズの続きかぁ」


 結局、悩んでポニーテールの像は剣を振り下ろす姿になった。剣を振り下ろす勢いで、髪の毛がさらりと流れているのが印象付くように鎧は結構シンプルにしている。


「うんうん、この格好なら最低限の飾りもあるし、髪も目立つから当初の予定通りだね」


 後は絵を元に型を作っていくだけだ。銅の塊を取り出して作っていく。


「あっ、やっぱり結構難しいなぁ。髪のところは厚めに作ろう」


 やはり髪の流れる感じを作っていくと線も多いし、脆くなってくる。銅の段階で微妙なのだからこれが木になったら破損報告が上がってきそうだ。


「作る時は木像を少なめにして銅像以上のものを作るようにしよう」


 木でも作れないことはないけど、バルドーさんが必要なら海を越えるはずだ。衝撃で作品が破損していたら大変だろう。その辺で売るんだったらまだいいんだけどね。


「さて、最後のやつに取り掛かろう。最後は髪をまとめたやつだね。動きやすい服装にするのは決定だけど、どんなのがいいかな?」


 ちょっと考えてみる。バルドーさんが来たとして、すぐに帰っても一か月ぐらいかかる。


「そうすると真夏に戻るんだよね。夏かぁ……」


 さすがに水着ってわけにはいかないよね。とはいえ、季節を感じられるものも一つぐらいは作っておきたい。ここはひとつ、夏服姿にしよう。


「それじゃ、まずは服だね。一応去年の服を出して感じをつかんでと……」


 デザインはシンプルにするため、参考にはしないけど作りとか縫い目は結構参考になるのだ。服装に関してはワンピースにストールを付けた感じにする。大胆なワンピースだけだと、ちょっと神様としてどうかなって思ったのだ。


「あんまり攻めすぎて、没になっても悲しいしね」


 まだ、正式にこれを作ってくれって言われてないし、没になった日には売れ残ってしまう。グリディア様の人気がある地方の人向けで、売れなかったらずっと残っちゃうしね。


「こっちじゃ、たまに冒険者の人が買ってくれるだけで、アラシェル様の像より売れ行きが悪いんだよね」


 戦いの神として冒険者に知名度はあるのに、結局はほとんどの人がシェルレーネ様の像を買っていく。それだけこの大陸ではシェルレーネ教がメジャーってことなんだけど、冒険者の人でもあんまり買わないのは意外だった。残念ながら今までは在庫が残って、作る機会もあんまりなかったのだ。


「逆に向こうで細工をしたらシェルレーネ様の像が余っちゃうのかな?」


 細工に関しては冒険に出る前に、少しずつためて着いた先で売っていこうって思ってるけど、大陸とか国を跨ぐ時は気を付けないとね。


「マジックバッグの容量には限りもあるし、ずっと持ってるわけにはいかないしね」


 細工の腕は良くなっていくけど、こういうところはまだまだだと思うアスカだった。




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