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帰還と再会

リーヌの被り物を作った私は帰りの準備をしている。


「さあ、朝食も食べたしアルバに向かって出発だ!」


「それは良いけど、何だいそのダボダボしたズボンは?」


「何を言っているんですか!風通しも良くて履きやすいんですよ。今度ジャネットさんにも作りましょうか?」


「あたしは遠慮しておくよ」


「お~い、行くぞ~」


「待ってよ、ノヴァ」


先々進んでいくノヴァたちに置いていかれないように後を付いて行く。という訳で図らずも今日のフォーメーションはノヴァ、リュートにライズとリーヌその後ろが私で最後尾がジャネットさんだ。相変わらず平和な道を通り抜けて、今日も再びお昼ご飯に釣りを始める。


「さあ、釣るぞ~!」


「ほら、そんなに力んだらまた坊主だよ」


「今回は同じヘマはしませんよ」


「どうだかねぇ…」


こうして始まった第3回釣り大会だったが…。


「う~ん。来たっ!…あっ」


「またバラシたね。これで3回目だよ。流石に多すぎじゃないかい?」


「で、でも、ちゃんと食いついては来てますから!」


「頑張んなよ」


そうだ。今日こそ私は大物を釣るんだから。


ミェ~


ライズたちはというと、のんびり湖の周りの草を食んでいる。ライズもだけど、特にリーヌはあんまりこの辺の草は食べたことがないみたいで、すごく真剣に食べてる。


「私もリーヌに負けないぐらいいいのを食べてやる」


「おーい、リュート。今どんな感じだ?」


「うん、3匹だね。孤児院にお土産を持って行けそうだよ」


「お前もか?俺もこれで3匹だから親方に持ってくかな?」


「いいねぇ。あたしも久しぶりにジェーンの顔でも見るかな」


「焦るな。これからこれから…」


現在の釣果といえば、ジャネットさんが5匹でリュートとノヴァが3匹ずつだ。しかも、なぜかノヴァは毎回大物を釣り上げる。


「ジャネットさんは数も多いから分かるんだけどな…」


「何か言ったか~」


「ううん。何でも~…わっ!」


アタリだ!


「うっ、わっ!お、重い…」


「アスカ、大丈夫かい?手を貸そうか」


「だ、大丈夫れす」


ふらつきながらもなんとか竿を持ち上げようとする。


「ううっ、リールとかないのに重い…」


糸の長さはさほど長くないし、水面からもそこまで離れていないはずなのに右へ左へと引っ張られる。


「ええ~い!」


頑張って力を込めるけど、全然引けない。どれだけ大きいんだろう?


「ジャネットさんお願いします!」


「はいよ!」


2人で竿を持って一気に引き上げる。


ザッパーン


「お、おおっ!」


大きい水しぶきをあげて私たちの目の前に現れたのは…。


「亀?」


「亀だねぇ。通りで重たいはずだよ」


そこには70cm以上の大きさのカメが上がっていた。


「亀って食えるのか?」


「確か食べられたと思うけど…」


「まあ、可食部は少ないけど素材としては甲羅とかも使えるね」


「亀…何で亀なの?私のお魚…」


湖の主でも釣り上げたと思った私は、目の前の亀に意識を向けることが出来なかった。その内に亀は器用に針を外すと再び湖にのっしのっしと帰って行った。


「帰って行っちゃったけど良かったのかいアスカ?」


「良いも何も私、亀なんて食べたことありません!」


そりゃすっぽんが食べられるってことは知ってるけど、流石にあんな亀を食べたことはない。そもそも亀っておいしいのだろうか?ぐるぐると思考がさまよっている私に再び声がかかった。


「まあ、それはそれとして釣りばっかりして、アルバに着けなくなっても嫌だしそろそろお昼にするよ」


「はい…」


またまた、ジャネットさんに魚を分けてもらった私だったけど、きっと次の機会こそは釣って見せる!


「あっ、このお魚美味しい…」



-----


お昼ご飯も終えて、ちょっとだけ休憩をした私たちは再びアルバに向かって歩き出す。とはいっても、この辺じゃ魔物は少ないし、生えているのもリラ草ぐらい。しかも、街道沿いのリラ草は品質も良くないからあんまりお金にもならないので、お散歩のような気分だ。


「あ~あ、私も釣りたかったなぁ~」


コンッと小石を蹴りながらつぶやく。


「まあ、アスカにも人間味があったってことだな!」


「確かに、細工にしても魔法にしてもかなりの実力だよね。僕らから見たら普通な部分が見れてちょっと嬉しいよ」


「何それ。そういえば私、調理スキルだけは身に付かないんだよね。リュート、コツとかある?」


「どうなんだろう?でも、料理人でも持ってない人は持ってないから、元々じゃないかな?」


「そっかぁ。ちまちまお料理はしてるんだけどな」


「まあ、スキルがなくても十分うまい料理が作れる奴もいるし、別にいいんじゃないの」


「それはそうなんですけど、旅に出たらやっぱりおいしい料理がどこでも食べたいじゃないですか?」


「まあ、今のところはリュートがいるし、それで我慢しなよ」


「は~い」


「リュートいいのか、あんなこと言われてるぞ?」


「精進するよ。料理は嫌いじゃないし」


雑談をしながら1時間ほど歩いたらアルバの街に着いた。


「よっし、これで今回の旅も終わりだな。んじゃ、俺は先に帰るな!」


「ありがとね、ノヴァ!」


「おう!」


大物を取っておいたノヴァは嬉しそうに帰って行った。いいなぁ、私もエレンちゃんにお土産としてあげたかったけど、そもそも釣れてないしなぁ。


「それじゃ、僕も孤児院に持って行ってくるから」


「ばいばい」


リュートも小さいながらも4匹を釣ったので、お土産にするみたいだ。まあ、小さいといっても40cmぐらいあったけどね。


「そんじゃ、あたしらはフィアルのところに行くとするかね」


「じゃあ、行きましょうか」


冒険を終えて私たちはライズとリーヌを連れてフィアルさんの店に向かう。


「こんにちわ~」


「あら、アスカちゃんいらっしゃい。久しぶりね、成果はどうだったの?」


「はい。ちゃんと連れて来ましたよ。ほら、リーヌって言うんですよ」


私はリーヌたちの被り物を外してやって、みんなに見せる。


「リーヌ大丈夫だよ。いつもここでライズは暮らしてるんだから」


そういうとリーヌが周りの匂いを嗅ぎ始める。どうやらライズの匂いが分かったみたいで、安心して従業員の人たちに姿を見せた。


「うわぁ、ちょっと前のライズ君みたいでかわいいわね」


「この子は何を食べるの?」


「うう~ん。私もまだ良くは…でも、葉物野菜は喜んで食べてましたよ。ライズは食べなかったですけど」


「そうなのね。ライズには最初にあげてみたんだけど、食いつきが悪いからこれまで出してなかったの。ありがとう」


一旦、従業員のお姉さんとは別れて、リーヌにライズのお家を見せてあげる。


メェ


ミェ~


2頭で家を出たり入ったり、リーヌもだけどライズも複数で過ごすのは初めてだから、はしゃいでるみたいだ。


「あとは、店の連中に任せるとするか」


「そうですね。それじゃ、ライズ、リーヌまたね!」


私たちはライズとリーヌに別れを告げて宿に戻る。途中でジャネットさんはジェーンさんに魚を渡すということで、そこで別れた。


「ただいま~」


「あっ、おかえりおねえちゃん。割と早かったね」


「そうかな?」


「うん。探すのが大変だって言うから、1週間以上かかるのかと思ってたよ」


「ああ~、そういえば思ったより早かったかも。運がよかったのかもね」


「そうだ。おねえちゃんが留守の間に手紙が来てたから部屋に置いてるよ」


「手紙?誰からだろう」


「宛名はなかったから私もわからないや」


「ありがとね、エレンちゃん」


珍しいなぁ、私に手紙何て。ムルムルからの手紙だったらシスターさんが届けてくれるから、差出人も分かるしね。


「さて、手紙手紙っと」


部屋に入って机の上の手紙を確認する。ぶ厚くないし普通の手紙みたいだ。


ピィ


「待っててね。すぐに読み終えるから」


良かった。忘れられちゃってるかと思ったけど、ミネルの子どもたちにも覚えてもらってて。


「君たちも名前、付けてあげないとね」


いい加減名前を考えないとね。不便ってこともあるけど、外に出るようになったんだからみんなに呼ばれる名前があった方がいいよね。


「まずは手紙だね。何々…」


読み進めていくと何やら形式ばった書き方だな。こんな丁寧な手紙書く人って知り合いにいたっけ?貴族の人ぐらいだけどそれなら、エレンちゃんも持ってきた時点で気付くだろうしなぁ。


「続きはと…。また、グリディア様の像が欲しい?今度そっちに行くからよろしくだって。ひょっとして…」


文を飛ばして最後のところだけを読んでみる。


「やっぱり!これバルドーさんからだ!懐かしいなぁ」


確かバルドーさんが旅に出たのって秋口のころだったよね。冬と春はいなかったから結構もう経ってるんだよねぇ…。


「それにしても、グリディア様の像が欲しいってどうしてだろ?数は結構作ったと思ったんだけどな?」


ひょっとして出来が悪くて、作り直せとか?うう~ん、結構いい作りだったと思ってるんだけどな。まあ、用意しておけって書いてあるし、とりあえず作ろう。


「ちょうど最近は同じものになってたし、いい気分転換になりそう。そうだ!折角だし、バリエーションも増やしちゃえ」


懐かしい人に会える喜びと、最近作っていなかったものを作れるという気持ちで私はとってもやる気が出た。


チッ


「おっと、名前だったよね。わかったわかった。良いの考えるからね~」


旅の疲れもどこへやら。元気いっぱいでミネルの子どもたちの名前を考えるのだった。



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