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森の妖精さん

「ゆっくり下に降りよう」


ジャネットさんの言葉に私も頷き返して、下に降りていく。下ではライズがようやく仲間と会えたからか、しきりに鳴いてコンタクトをとっている。相手の羊もライズが気になるようで、同じように返事を返している。


「うう~ん、いい感じなんですけど…」


「アスカもそう思うかい。構えるよ!」


「はい!」


何もこんな時にと思わなくもないけど、ライズたちの声に誘われるように魔物も来てしまった。手前側からはウルフが奥側からは見慣れない魔物だ。なんていうかオーガの巨躯とオークのでっぷりとした姿だ。


「げっ、トロールかい。再生能力持ちだから剣じゃ不利か。アスカ、トロールは任せたよ。再生のできるオーガだと思えばいいから」


「はい!」


ジャネットさんが4頭のウルフの群れに、私がトロールと対峙する。確かに体が大きいし、間合いに入ったら危なそうだ。


「ライズ!その子をお願いね」


ミェ~


元気よく返事をしたライズを見て私はトロールと対峙する。


「行くよ!ウィンドカッター」


辺りの木が倒れるのも気にせず、先手必勝でまずは切り刻んでみる。


ガァァァ


だけど、腕が落ちそうになったり、腹が切れてもそのままトロールはこっちに来る。そしてその間にもブクブクと切った場所が再生を始めた。


「うわぁ、グロい…」


怯まないところを見ると、トロールは痛覚自体があまりないのかもしれない。続いて炎を打ち出す。


「火球よ、ファイアボール!」


ボゥッと足元に火球をぶつけてみたものの、怯む様子はなくそのまま火の上をこっちに向かってくる。どうやら他の魔物と違って火への忌避感も持ち合わせてはいないようだ。


「これはめんどくさい」


振りかぶってこっちに殴りかかってきたので、とりあえず攻撃を防ぐ。


「アースウォール!」


相手のこれ以上の接近を防ぐのに壁を作って対抗する。ファイアウォールと違って物理的に侵入を防げるので便利だ。


ガァァァ


そう思っていたものの、やはりその巨躯に見合ったパワーのようで数度で壊されてしまった。こういう時は…。


「動きを止めて核を狙いたいんだけど、動き回って狙いにくい」


余りライズたちとも離れられないし、かといって近づくと危険だ。動き回りながらそれらしきところを狙うのは難しい。


「とりあえず…ウィンドブレイズ」


風の弾丸をばらまく。トロールの巨躯に当りはするものの、肉の壁の所為で奥までは到達しないみたいだ。


「これはケノンブレスかアースグレイブでないと難しそうだね」


ウィンドカッターでも、切ることはできるけど軌道を曲げられたら危険だしね。


「とはいえ動きを止めないと…」


バチバチ


その時、後ろから音がした。振り返るとライズがこっちに向かって魔法を放つ準備をしている。


「ライズ…任せるよ!」


ミェ!


バリバリバリ


ライズの前方に集まった電気が一気に線となりトロールを襲う。


ガァ


しかし、その電撃を受けてもなお、トロールは動こうとするのだが…。


「ひょっとして、電気で筋肉が弛緩してる!?」


トロールは動く意志こそ見えるものの実際にはこちらに向かってこない。


「今なら!ウィンドカッター!」


まずは風の刃で肉を切り裂き、核となる心臓を探す。


「あった!いっけー、アースグレイブ!」


むき出しになった心臓に土の槍をお見舞いする。


ドォォ


大きな音を立ててトロールが倒れる。…起き上がってはこないようだ。


キャウン


「そっちも終わったかい?」


ウルフの群れを片付けたジャネットさんが声をかけてきた。


「はい。何とか倒せました。結構面倒な相手ですね」


「一応、Cランクの魔物だしねぇ。サンドリザードが固い皮で覆われてるなら、こいつは高い再生能力で前衛泣かせなんだよね。何でも造血のスキルがあるらしくて、失血死はしないしこっちは血の油で切れ味が鈍るしでね」


「分かります。火とかも怖がる様子もなくて大変でした。ライズ、そっちは大丈夫?」


ちらりとライズの方に目をやる。


メェ!


ミェ~~


さっきのライズの攻撃が良かったのか、やや小さい羊の方がライズにすり寄っている。ただ…。


「なんだかライズがだらしなく見える…」


「まあまあ、危ないところを頑張って戦ったんだし、ご褒美だろ」


それからしばらく2頭が話をしていると、奥に移動し始めた。


ミェ~


「ついてきていいの?」


ライズが頷いたので、私たちも後に続く。その先には…。


「うわぁ~、綺麗~!」


「ほんとだね。こんなところがあったなんてね」


ミェ


「はいはい、内緒にしろってんだろ。わかってるよ」


大きな木の横にある小さい穴を通っていくと、そこにはぽっかりと空いた広場があった。空から光も入っているけど周りの大木のお陰で空からでもかなり見通しが悪い場所だ。そこにはヴェゼルスシープが14頭ほど住んでおり、かなりゆったりとした生活をしてるみたいだ。


ミェ?


「なあに?」


小さい羊がこっちに寄ってきた。最初こそ警戒していた羊たちだったけど、必死にライズといた羊が説明してくれてからは遠目に見てくるだけで、あまり気にした様子はなかった。


「う~ん。私って言うよりこっちの袋に興味があるのかな?えっと、この袋はと…」


確か今日取った薬草とかが入っていたはずだ。ルーン草とかもあるし、普段はあまり食べたことないのかな?


「食べる?」


ミェ


かがんで薬草を手に置くと返事もそこそこにすぐに食べ始めた。


「お腹空いてたのかな?」


辺りを見回すと十分に草は生えてる見たいだけど、まだ小さい子だから外に生えてる草はめったに食べられないのかもしれない。


「そっちもかい。まいったねこりゃ」


ジャネットさんの方を見ると、あっちにも子羊たちが群がっている。とはいえジャネットさんは薬草を取ってなかったはずだけど…。


「ひょっとしてこれかい?」


そう言いながらジャネットさんが取り出したのは小型のサイロのような物。確かあれは、火つけようにショップで売ってるやつだ。枯草とかも食べるんだね。


ミェ


小さい羊に群がられながらジャネットさんもエサをやり始めた。流石に大人たちは食べたことがあるのかこっちに来ないけど、子どもたちはそれぞれ分かれてやって来てしきりにエサをねだってくる。


「なんだか、親戚のおばさんになった気分だ」


正月とかお盆とかに来ては何か珍しいお土産を催促される感じだな。


「でも、あんまり植物系の在庫は持ってないんだよね~。肉とかならあったんだけどな」


今日取った薬草以外は宿に置いてきたものもあるし、残念だけどあまりあげられるようなものは持ってない。それからはちょっとだけ、遊んでノヴァたちも待ってるだろうから帰ることにした。


ミェ


ミェ~


奥の方ではライズが見つけた子と一緒に大人の羊と話をしている。


バチバチ


急に大人の羊がライズに向かって雷を放つ。でも、びっくりしたのは私だけのようで、周りの羊たちは別段驚いていない。ライズはというと自分の角で雷撃を受けてうまく受け流したようだ。


「なんでしょうあれ?」


「さてね。魔物の文化については謎だらけだしねぇ」


とりあえず見守っていると、ライズが一声鳴いて2匹で一緒にこっちに向かってきた。


「良いの?」


ミェ~


ちなみにこの出来事を後でティタに話したら、群れを離れて独り立ちする相手に対しての送り出しって行為なんだって。魔物だと割とあるみたいだ。攻撃を受けて一人前ってことを示すらしい。


「それじゃこれからよろしくね」


メェ


新しくライズのお嫁さんとして、ヴェゼルスシープが加わった。そして、その足で私たちはノヴァたちと合流した。


「おい!遅いぞ!」


「ごめんごめん。ライズのお嫁さんたちと遊んでて」


「見つかったの?」


「うん。ほらおいで」


新しい子はリュートたちを警戒していたけれど、ライズと話して危険がないことが分かると出てきてくれた。


「おっ、ほんとだぜ!」


「まだ、人に慣れてないから刺激しちゃだめだよ」


「うん、わかった。気を付ける」


早速、この子を連れて帰らないとね。とりあえず今は日暮れ前だから今日は宿に泊まって、明日アルバに向けて帰るかな?


「それじゃ、宿に向けて出発!」


来た道をジャネットさんを先頭に私たちは帰っていく。目的を果たした足取りは軽かった。


「で、その子がお相手なの?」


「そうなんです。人には慣れてませんけど、ライズとよく話していてかわいいですよ」


メェ


「なるほどねぇ~。お野菜とかも食べるかしら?」


ヘレンさんが採れたての野菜をひょいっとライズたちの前に置くと、新しい子が食べ始める。だけど、ライズは一向に食べないみたいだ。


「ライズは食べないの?」


ミェ


ライズは出された野菜には見向きもしない。どうやら、羊の嗜好は個体差も大きく好きではない食べ物は口にしないらしい。


「へぇ~、いつも全部食べてたけど実はグルメだったんだね」


「まあ、アスカが連れて帰るぐらいだからねぇ」


「えっ、どういう意味ですか?」


「まあまあ、明日は街に帰るんだから早く寝ようよ」


「もう帰るのね。そうだリュート君。このパンを作った人に村でも作れないか聞いておいてくれないかしら?ここにはギルドもないけど、定期的に街まではいくから金額によっては払えると思うの」


「いいですけど、商売にならないと支払いがきついのでは?」


「最近この村に来る人にはのんびりとした雰囲気が気に入ったって言ってくれる人もいるの。街とは獲れるものも変わらないけど、それをうまく生かせられないかなって」


「分かりました。連絡を取って見ます」


ヘレンさんも最初は渋々やっていた宿経営だったけど、なにかやる気が出てきたみたいだ。


「そんじゃ、今日はもう寝ようか」


「はい」


食事も終えて、私たちは部屋に戻る。


「そうだ、一応街中も通るし面倒だけど被り物を作らないとね」


私はちょっとだけ時間を使ってライズより一回り小さい被り物を作る。よし!これで大丈夫だね。


「後はこの子の名前だよね。どんなのがいいかな?う~ん…リーヌ、リーヌってどうかな?」


メェ?


「あなたの名前だよ。どうかな?」


メェ


再び説明するとライズと一緒にぴょんぴょん跳ねるリーヌ。


「気に入ってくれた?これからよろしくねリーヌ」


こうして、ライズのパートナーの名前が決まったのだった。



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