捜索2日目
今日は捜索2日目だ。1日でも早く見つかるようにしてあげないと。
「そうは思って見たものの、なかなかうまく行かないね」
ミェ~
連日歩き詰めでちょっとライズもしんどそうだ。これに関してはメスはおろか仲間と出会わないことも関係しているんだろうけど。
「今日も見つかったと言えば、ウルフにオーク。まあ、オークはこの森にほとんどいないらしいからある意味珍しいけどね」
「ほんとに誘い込まれたように来ますね」
「そんだけ、狙われてるんだよな。足が速いのに」
「そうだね」
「まっ、いくら足が速かろうが相手が一体なら、囲めばチャンスはあるからねぇ」
「とりあえずもうちょっと進んでから辺りを探しましょう」
「だね」
みんなでもう少し先に進んでから、辺りを見回す。景色もさほど変わらないのもあるけど生息してる魔物もほとんど変わらないみたいで、ちょっと飽きるなぁ。
「一応、薬草とかもあるみたいだし採っておこう」
この道中でケガするとも思えないけど、そこまで冒険者が来ないためかある程度の品質もあるみたいだし採っておく。ワインツ村ではポーションではなく主に軟膏として使われているんだって。理由を聞いたら、ポーションが作れる薬師がいないから、誰でも作れる軟膏が普及したんだって。
「まあ、作れる人がいてもその人がいなくなっちゃったら困るもんね」
村の情勢に合わせたモノづくりがされてる村なんだなと思った。それは良いんだけど…。
「居たか~」
「こっちにはいなかった」
「こっちも」
「あたしの方もダメだね」
ちょっとだけ別れて広い範囲を探したものの、結局はこの日も成果はなし。再び今日も魔物だけ狩って帰るのだった。
「おいしい?」
ミェ~
今日のライズの食事は薬草も混ぜたものだ。ちょっと疲れも見えたから、明日は出発もちょっと遅めで、夕方と言うより日の落ちる手前ぐらいまで探すことになった。
「時間が変わって会えるといいんだけどな~」
「まあ、探す場所も変わっていくしそううまく行かないさ。だけど、色々試さないことにはね」
「にしても俺たちはまだ、魔物が出たからいいけど出会わなかったらすっげぇマイナスだな」
「まあ、それがここに冒険者が来ない理由でもあるからね。一攫千金というほどの儲けはないし、目標に会うことも難しい。まして、生きたままってなればさらに難易度は上がる。それができる冒険者がそうそう金に困ることもないからねぇ」
「じゃあ、ムルムルとかの巫女服の生地ってすごく豪華なんですか?」
「そうだね。品質や肌触りはもちろんのことその希少性も相まっての価格だから」
「贅沢だよなぁ。もうちょっと安い生地とかでもいいだろ?」
「バカだねぇノヴァは。それじゃ、巫女のありがたみが薄れちまうだろ?その辺の服をつけてりゃ誰でもなれるだろ」
「そういうもんか?」
「そういえばテルンさんも神秘性がどうとかって言ってたなぁ」
「本人たちはともかくとして、教会としての考えもあるから、一概にその辺のものを使うわけにもいかないのさ」
「じゃあ、アスカの作った神像も珍しいのかな」
「そりゃそうさ。作らせといて文句付けて安値で買い叩く教会が、追加で報酬出したんだから」
「そんなこと言ってたら罰が当たりますよ」
「良いんだよ。祝福だって教会が与えるんじゃなくて女神様なんだから」
そう言われてしまうと何も言い返せない。でもまあ、改めてシェルレーネ教が人気があるのが分かった気がする。神様や巫女の神秘性に説得力を持たせるように頑張ってたんだね。
「私も負けないように頑張ろう!」
ひとまず今日はちょっと頑張って祈りと踊りを捧げよう。こういうのは誰も見てないところから頑張らないとね。やる気を出した私は思いも新たに踊ってから眠るのであった。
-----
「おはよう~」
「おはようアスカ。朝ご飯もう出来てるよ」
リュートが私の前に朝食を運んでくれる。朝ご飯もヘレンさんが作ってくれるんだけど、パンを温め直したりスープの調整なんかはリュートがやってくれている。おかげで朝から熱々の食事だ。
「ん~、今日もおいしい!さあ、食べたら出発だね」
「今日は遅めにするって言っただろ。全くアスカは…」
「そうでした。それじゃ、どうしましょうか?」
「別に自由でいいんでないかい。そうだね…10時ぐらいに出発だね」
「分かりました。それじゃ、ちょっとだけ細工してますね」
「あんまり根詰めないようにしなよ」
「は~い」
ジャネットさんたちと別れてちょっとだけ細工をする。作るものもそんなに集中しなくて作れるお魚シリーズとかだ。
「ちょっとした空き時間とかにいい気晴らしになるんだよね~」
試しに今回は木で作ってみる。ニスとか塗って艶出ししたらこれもいい感じになると思うんだよね。
「やっぱり変化がないとね。といってもデザインは一緒だけど」
4つぐらい作れたところでリュートが呼びに来たので、今回はここまでだ。
「それじゃあ、出発だね」
今日は森の北側に向かう。1日目が真っ直ぐ、2日目がちょっと南側、そして今日が北側だ。
「今日こそ何か見つかるといいね~」
ミェ
実際ライズはちょっとストレスが溜まっているようで、たまに歩いてるとバチバチ鳴っている。魔法が使えるようになった時は安心したけど、ちょっとコントロールも覚えてもらわないといけないかもね。
「今日はこの辺の捜索だね。とりあえず、山の手の方をアスカ、手前側がリュートとノヴァ、奥側は私が探すよ」
「は~い」
「おっし!」
今日も捜索を開始する。じっと辺りを見回す。何か変化はと…。
「ん?この辺は香草とかが少ないね」
ミェ~
ちょこちょこ見ていくと確かにこの辺は他の所よりも草の量が全体的に少ない。私たちはこの辺には来てないし、村の人も狩猟中心で香草とかの採取となると基本は村の近くだけらしいので違う。
「ひょっとして草食の魔物がいるのかな?」
すぐさま探したいところだけど、また魔物が出て来ては逃げてしまう。慎重に後でみんなと来よう。
「そうと決まれば深入りしても仕方ないし、集合場所に戻るよ」
はやるライズを抑えながら、私は集合場所に戻ってみんなを待つ。
「おっ、アスカはぇぇな。こっちはダメだったぜ。草も生え散らかしてて前も見えねぇよ」
「そうだったね。流石に何かが通ったりはしてなさそうだったよ」
「こっちは一応収穫あり、かな?」
「なんだよ。煮え切らないな」
「折角の手がかりだから慎重にね」
「なんだい。そっちはもうおしまいかい。ちょっと手伝ってくれ」
そんな話をしていると、ジャネットさんが奥からやって来た。何でもボアが居たから仕留めたとのこと。
「なるほど。草食の魔物がいた形跡ねぇ。んじゃ、こっちの回収はリュートたちに任せてあたしたちはそっちに行くとするか」
「一緒に行かないんですか?」
「流石にこの人数じゃね。仕留めるならそれでいいけど、あまりに大人数じゃ警戒して出てこないだろ」
「なんだよ。留守番かよ」
「代わりにこのボアの代金はやるから」
「よっしゃ!そっちも頑張れよ」
リュートを引っ張る勢いで奥に進むノヴァ。ある意味、一番冒険者としてしっかりしてきたかも。
「で、どうして何かあると思ったんだい?」
「この辺だけ香草とか草食に向いてる草が減ってたんです。ヴェゼルスシープとは限りませんけど、何かいるんじゃないかと…」
「なるほどねぇ。折角だから上から見てみるかい?」
「上からですか?」
「ああ。どうしても草をかき分けてると音がするからね。可能性があるならちょと空から浮いてみてみるのはどうだい」
「確かにそれなら向こうも注意がそれるかも!早速やりましょう。フライ」
私はみんなに空を移動するための補助魔法をかけて、慎重に進んでいく。ライズはちょっと戸惑っていたけど、少ししたら移動にも慣れてきた。ジャネットさんは前から戦闘補助として何度か掛けたことがあるから、スムーズに動けている。
「ん~、この辺にはいませんね。もう少し山側でしょうか?」
「草の減り方はどうなってた?」
「確か、手前側が広くなってました」
「それじゃあ、山側かね。穴みたいなところとか目立たないところを見ていこう」
ジャネットさんのアドバイスも受けつつ、私たちはあたりを見回していく。
「うう~ん。特に変わったところはないかな?あれ?」
何かが一瞬通った気がする。じっと目を凝らすとわずかに白い物体が見えた。
「ライズ、あれあれ」
思わずライズに話しかける。ライズも私の指さした方向に目を向ける。
ミェェ~
今までとはちょっと違う声をあげてライズが鳴いた。すると、恐る恐るだけどその白い物体が頭を出した。
メェ
小さく鳴いたその羊に誘われるようにライズが降りていく。
「ジャネットさん!」
「ああ、刺激しないようにあたしたちも降りるよ」
こうして私たちは悲願であったヴェゼルスシープとの邂逅を果たしたのだった。