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製作報告

チチチチ


小鳥のさえずりとともに私の1日が始まる。う~ん、今日もいい1日でありますように。


「おはようございま~す!」


「おはようおねえちゃん」


「おはよう、アスカちゃん」


今日もいつも通りに始まったのだが、エレンちゃんはなんだかちょっと嬉しそう。


「エレンちゃんなんだかうれしそう」


「えっ、そっ、そ~かな~」


「あらあら、見破られちゃったわね。実は昨日の夜に雨が降ったから、きっと今日はお客さんが少ないって喜んでるのよ」


「じゃあ、今日ってお店閉まってるんですか?」


「開くわよ。前みたいに朝方降っているならともかく止んでいるしね。ただ、出歩いても汚れやすいから人通りは少なくなるの」


なるほど、水たまりができて気になる感じか。だったら、ちょっとお願いしてみようかな?


「じゃあ、今日はシーツの洗濯だけで街に出てもいいですか?ちょっと用事があって…」


「いいけど…無理に手伝わなくてもいいのよ?」


「いいえ~、実は手伝ってるうちに魔力もちょっと伸びてスキルのLVも上がったんです。冒険に出なくても修行になるので助かるんです」


「そう。ならお願いね」


私は朝食を食べると、いつものように2人でシーツを回収して、洗濯をしに井戸へと向かう。手慣れてきたもので洗うのも干すのも、もうルーチンとして組み込まれてきている。



「さて、洗濯も第1陣は終わったしもう一回取りに行こうっと」


最近は自分が手洗いする時間と魔法で洗う時間が分かってきたので、回収してきた枚数に合わせて作業している。ちなみに1回目はすべて手洗いだ。ここ数日は宿泊客が少なくて枚数も多くない。


「あ、おねえちゃん手伝ってくれるの?」


廊下を掃除中のエレンちゃんと出会う。


「うん、1回目は終わったから2回目の分、取ってくるね!」


「は~い」


エレンちゃんと別れて10時からのシーツを回収していく。何度もやって分かったことだけど、割とみんな最初に回収するようになってるみたい。後になるのは全体の3割ぐらい。パーティーの人はまちまちだけど2人以下だと大体、朝一に指定してある。


「さ~て、それじゃあ残りの分も洗濯っと」


今日も出かけるので、2回目の分は魔法を使ってささっと終了…え?


ギュギュン


一瞬でシーツが回転して洗濯が終わった。それも、一気にすべてのシーツが洗われた。なんで?私、急に強くなっちゃった?キョロキョロと渡りを見渡してすぐに確認する。


「ステータス!」


今必要な魔力に関する項目だけを抜き出す。


MP:786/1250

魔力:295


「わわっ!?そのままにしてた!」


いけないいけない。すぐに書き換えないと―。


「隠ぺい!」


MP:250/250(786/1250)

魔力:95(295)


危なかった~。このままギルドにでも行ったら大騒ぎになるとこだった。魔力はなんだか高くなった気がするけどまあいいや。魔道具の使用で上がったことにしておこう。


「にしても、ここまで変わるもんなんだね。確かに数字は3倍ぐらいになるけど…」


流石はAランク級の魔力という事なんだろう。こんなへっぽこの私が使ってこれなんだから、みんなもっとすごいんだろうなぁ。


「あっ、おねえちゃん終わったの?早いね~。手伝おうかと思ったんだけど…」


「えっ、あはは…まあね。それじゃあ、もどろっか」


私はたらいに残っていた水を捨てると、井戸から水をくみ上げ簡単にすすいでから、元あった場所に指先一つで戻す。


「おねえちゃん…もういいや。戻ろっ!」


なんだか遠い目をしたエレンちゃんだったが、すぐに気を取り直して一緒に食堂に向かった。



「いつもお疲れ様」


ミーシャさんが奥から出てきてジュースを置いてくれる。ありがたや~。


「あっ、お母さんいいところに」


エレンちゃんはミーシャさんの耳元でごにょごにょ言っている。なんだか言いづらいことでもあったのかな?とりあえず、今日の仕事はここまでなので出かけるから着替えてこないと。


「それじゃあ、ちょっと着替えてきますね」


「いってらっしゃい」



「ふぅ、今日はと…雨上がりだから汚れないような格好がいいかなぁ」


靴は仕方ないとしても服は高いんだし、丈の短いものを選んでと。後は上着もちょっと位濡れてもいいようなものなんだけど…。


「こういう時の服も買わないとだね。帰りには安いと紹介されたところに行ってみよう」


木箱を袋に詰め込んで準備万端!


「それじゃあ、行ってきま~す」


「いってらっしゃい」


ミーシャさんに見送られて私は元気よく街に繰り出した。



「はぁ、行ったわね。あなた、ちょっと昼が終わったら木を調達してきてもらえる?」


「どうしたんだ?薪ならまだあるだろ?」


「薪じゃなくて、井戸のところを屋根だけじゃなくてある程度覆いたいの」


「この前に言ってた風呂の話か?」


「それもあるけど、今日もアスカちゃんたら無意識にたらいを洗うのに風魔法で水を汲んで、しまうのも宙に浮かせていたんですって」


「…しょうがないなアスカは。言ってもまたやるだろうし分かったよ。でも、どうやって作るんだ?」


「きっと、お風呂を作るのに必要だって言ったら飛びつくわよ」


「そうか。なら、昼が終わったら行ってくる」


「うちの長女はすごいんだかすごくないんだかね…」


勿論すごいのだが、こういう抜け具合がそれを打ち消してしまう。でも、この街でこそみんな好意的だが、将来のことも考えると少しずつでも常識を覚えさせないと。新しくできた娘のような彼女は年齢よりも、大人のようで子供なのだから。



私はそんなことを思われているとも知らずに、ルンルン気分で街に繰り出していた。


「ごめんくださ~い」


細工のおじさんの店に来たけど、開いてはいるものの人の気配はない。


「ああ~、なんだこんな日に…」


奥からかつかつと音を立てながらおじさんが顔を出す。


「なんだ、お前か。もうできたのか?」


「はい!それで見てもらおうと思いまして…」


「そうか…奥へ来い。ここじゃ目につく」


「いいんですか?店番とか」


「こんな日には滅多に来ねえよ。それに細工物屋は魔道具も多いからな。ここから盗もうなんて馬鹿はいねえよ」


確かに。取ったところで効果がわからなかったり、危険なものだったりすれば売れないもんね。


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


奥に入ると工房も兼ねているのか、一気に感じが変わる。鉱石なんかもあるみたいだ。


「ほら出してみな」


「は、はい。これなんですけど…」


私は袋から3つの木箱を取りだす。


「ん、これか?」


「はい。あっ、木箱は壊れないように作ったので、中に入ってます」


私が3つの箱のふたを開けていく。


「こ、こいつぁ…」


「ど、どうでしょうか?自分では結構うまくできたと思ってるんですけど…」


「うまいなんてもんじゃねぇ。これはプロの仕事だ。俺でも中々見たことがない位いい出来だ」


「ほんとですか?うれしいです!」


「それにしてもこのちっこいのは何なんだ?似たデザインのようだが?」


「あっこれはですね…」


アラシェル様をかわいくデフォルメしたものだと説明する。


「ああ、まあ確かにかわいいな…」


ここでも、戸惑いのようだ。やっぱりこの世界にはまだミニキャラは早かったのだろうか?


「だが、この杖なんかを持ち替えられるアイディアといい中々見どころがある。どうだ?定期的にうちに商品を卸してみないか?」


「え、アラシェル様の像ですか?」


「ああいや、アラシェルって神様に俺は詳しくないが、もし女神像を作るならお前さんには申し訳ないが、教会相手にも売れる慈愛の女神シェルレーネ様のものになるとは思う。まあ、他にもモデルになりそうなものはこっちから指定するが…」


「う~ん…」


私は考え込む。ありがたい申し出だし、結構高く買い取ってくれそうだけど、この像と同じ品質ならかなりの魔力が必要だ。今日もMPは半分ぐらいまでしか回復していなかったし、ペースを考えるとそんなに早くは作れない。


「実は…これを作るのにMPをかなり消耗してしまって、前後に冒険に出られないんです。なので、作れたとしても月に1、2体なんですけど…」


「ああ、それでいいぜ。実はな困ってたんだよ。俺も自分の腕に自信はあるが、このところ新しいものが浮かばなくてな。そこのちっこいのは衝撃を受けた。この店の商品のバリエーションだけじゃねぇ。俺自身のやる気にもつながるんだ」


「それじゃあ、なにか題材を指定してください。あんまりそういうのには詳しくないので…」


「ああ、見本の絵を持ってきてやるよ」


「それと、銀って売ってますか?あと、緑色の鉱石か何かがあればうれしいんですけど…」


「ああ、もちろんあるが、なんに使うんだ?」


「日頃お世話になってる人に贈ろうと。髪飾りなので大きくなくていいんですが」


「なら、依頼を受けてくれる礼にやるよ。ただし、できたら見せてくれ。なにか思いつくかもしれんからな」


「ありがとうございます。きっと、いいのを作ります」


「じゃあ、銀はこれだな。あと緑色の鉱石だが、魔石でもいいか?」


「魔石ですか?加工できるのなら…」


「魔道具を使うことになると思うが、あれなら大丈夫だろうし、お前さんに才能があれば魔道具にもなるだろう」


「ほ、ほんとですか?ぜひ!」


もし、私が魔道具を作れたらそれだけでのんびり暮らせる当てができる。何よりエレンちゃんに守りの魔道具を持たせられるかも。期待を込めておじさんを見る。


「あせるな、今持ってくるから…ほらっ、グリーンスライムの魔石だ」


「ぐりーんすらいむ?」


「スライムの中位種だな。強くも弱くもないが魔石は珍しい。ただ、加工には必ず風の魔力が必要だ。しかも、かなり魔力の消費が激しいから市場でも人気がないんだ」


おじさんが見せてくれたのはエメラルドとも見間違えるほどの緑色をした魔石だった。


「ある意味、変わった魔石でな。魔石のくせに安価な宝石として取引されることもある。エメラルドよりも透き通ったものが多く出るからだな」


「遠慮なくもらいます」


「ああ、久しぶりにいいもん見せてもらったからな。これでまた色々と作れそうだ」


おじさんも私もホクホク顔である。天気はどんよりとしているが、私たちの心は晴れやかだった。帰り際に私はバルドーさんとの約束を思い出して、良質のオーク材を買って帰った。これならいいものが作れるだろう。



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