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ワインツの森

翌日、いよいよ今日からライズのお嫁さん探しが始まる。


「それじゃ、いってきま~す」


「いってらっしゃい。夕飯だけでいいのね?」


「はい。お願いします」


ヘレンさんに夕食の準備を頼んで、私たちは森へと向かう。


「それじゃ、今日はとりあえずライズと出会った方ですね」


「ああ。それからは円を描くようにある程度まで進んでいって、どうしても見つからない時は奥まで行くよ」


「了解です。行くよライズ!」


ミェ~


ライズも今回の目的を聞いて喜んでいるのか、中々やる気だ。


「それで陣形なんですけど、僕が最後尾でいいですか?」


「ああ、アスカとライズが2番目で戦闘はあたしとノヴァだ。リュートは最悪、槍が届くだろ?あたしらだとナイフを投げるんだけど、そこまでとっさに対応できる自信はないからねぇ」


「分かりました。ライズ、よろしくね」


ミェ


という訳でいざ出陣だ。まずは森の中を村の人たちが普段使っている道沿いに進んでいく。流石にこの辺はヴェゼルスシープの気配はない。警戒心の強い羊だから、森の奥の方にいる確率も高いみたいだ。


「んじゃ、そろそろ頼むよ」


ミェ~


ライズが鳴いて近くに仲間がいないかを確認する。


ガサガサッ


「おっ、なんかいたみたいだな」


でも、すぐにライズがさっと私の後ろに隠れる。残念ながら目的の魔物ではないみたいだ。


ウォン


「ありゃ、ウルフかい。外れだねぇ」


ひょいひょいっと3匹のウルフを倒して、再び道なりに進んでいく。そうして再びライズが鳴くのだが…。


「今度は肉食のボアかい。森でも珍しいけどはずれだね」


どうも、普段からヴェゼルスシープは鳴かないことで安全に生活しているようで、居場所が分かったとたんに迷い子かと肉食の魔物が集まってきてしまうようだ。


「う~ん。食事のバリエーションが増えるのは良いんですけど、肝心のライズの仲間には会えませんね」


「そうだね。むしろ、鳴くたびに魔物が来るね」


「ライズ。仲間がいそうなところとか知らない?」


ミェ~


ライズも残念そうに返事をする。まあ、子どものころに親と逃げていたんだし、そんな場所があったら最初からそこに行ってたよね。


「とりあえず、手掛かりがない訳だしこのまま続けるよ」


それからも数時間にわたって探し続けたものの、魔物と出会うか空振りの結果に終わった。


「アスカ、今日の成果は?」


「魔物が9体と大量の香草ですね。私たちの食事をする分にはうれしい結果ですけど、先は長そうですね」


「はぁ、村で解体場を借りるか」


私たちは来た道を引き返して、村に戻る。帰り道はライズが鳴かないだけなのだけど全く魔物とは出会わなかった。


「ここまで差が激しいと参るね。きっと、明日も同じ感じだよこれは」


「でも、他に方法がありませんから仕方ありませんよね…」


最後の方はライズが覚えたての雷魔法で戦いを援護、もといストレス発散のようなこともしていた。まあ、相手の動きが止まるから助かったんだけどね。


「ただいま帰りました~」


「あら、思っていたより早かったわね。どうだった?」


「見つかりませんでした。あと、村の解体場を借りてもいいですか?」


「解体場を?分かったわ、お父さんに言ってくるわね」


「お父さんが責任者なんですか?」


「ううん。だけど、村の施設だから立ち合いとかいないと後で面倒なの。逆に立会人がいればかなり自由に出来るわよ」


「へぇ~、ありがとうございます」


「それじゃ、呼んでくるわね」


そういうとヘレンさんはいったん火を止めて、家の方に向かった。最初はご飯を作ってからという話だったんだけど、私が火をつけられると知って呼びに行ってもらったのだ。何でも、火おこしとかが面倒なので、普通はこうらしい。


「解体をしたいんだって?」


「はい。魔物を持ち運ぶのも後何日ここに滞在するかわからないので、今の内から整理したいと思いまして…」


「構わないぞ。ただし、一応村の施設だから、わずかだが使用料もかかるがいいか?」


「それはこっちも構わないんだけど、解体時に出る不要なところで代替してもいいかい?」


「構わんが、内臓とかは困る。こっちも扱いに困るからな」


「ああ、それは大丈夫だよ。あたしらから言うと、過剰な肉と皮が主になるだろうね」


「なるほど、早速現場に来てくれ。村としてもしばらくの間の食料を確保できるなら、それはそれで買い取らせてもらうことも出来る」


「はいよ」


ヘレンさんのお父さんと話がまとまったところで、ノヴァとジャネットさんが解体場に一緒に向かう。解体は主にジャネットさんとお父さんが、ノヴァは必要な分を先にこっちに運んでくる係だ。夕食は野菜とかも用意されていたけど、折角だから今日取った肉なんかも使うことになった。


「後はこのハーブとかだね」


「うん、僕らで加工しといて肉が運ばれてきたらすぐに調理にかからないと」


なんでも、ジャネットさんの話では今日仕留めたボアは草食ではなく肉食のボアなので、結構臭みが強いらしい。そうとなれば煮ても焼いても独特の味がするので、すぐに捌いた肉を香草漬けにして臭みを消す算段だ。


「でも、キッチンが広くてよかったね。私もここで作業できるし」


ヘレンさんは元々の食事をリュートが香草を切ったり、たれを作ったりしている。私はというと最終的に毒草などが紛れ込んでいないかと、分量の調整だ。料理となればリュートの方が経験はあるものの、各種草の知識となれば私に軍配が上がる。使いすぎて変なにおいが付いたり、味を消さないように種類ごとの適切な量を測っていく。


「でも、ほんとにいいんですか?余った香草は買い取るだなんて…」


「ええ、構わないわよ。だって、食べられない分は村が買い取るんでしょ?だったら、結局は臭みの強いボアの肉とかも同じような処理がいるわけだし」


「そういえばそうですね」


納得した私はとりあえず、今日使うぐらいの分量を頭で想像しながら量を測っていく。ちなみに帰ってきた時にこの香草たちの分布を聞いたけど、どうやら森に大体均等に生えているとのことだった。これなら、今日取った分は売ってしまっても、明日以降も収穫できるということだ。


「お~い、持ってきたぞ~」


「あっ、ノヴァ。早いね」


「とりあえず先に今日の分だけ切ったからな」


そういうとノヴァは30cmとちょっとの肉塊をデンとテーブルに置く。


「んじゃ、置いとくぜ!また、持ってくるからな」


「は~い」


今日の分を運び終えたノヴァは直ぐに解体場に戻っていった。その後も漬け込んだりしている間にも2回ほどノヴァが来て肉を置いていった。でも、明日以降も獲れると思われるのでとりあえず肉はそれだけで、他は売ってしまうらしい。


「そういえばこの村でもウルフの肉を食べるんですね」


「まあね。と言うより村ではそっちがメインかしら?街に行ってもウルフの肉は売れ行きも買取も安いから、それならってことでこっちで使っちゃうのよね。代わりにちょっと固いし癖があるけど、この肉食のボアなんかは加工して売りに行くのよ。こっちはそこまで高くは売れないけどちゃんと儲けになるから」


「へ~、そうなんですね。エヴァーシ村でも皆さん喜んで買ってくれたんですけど、そういうことだったんですね」


「だから、子どもたちからしたらウルフの獲物到着はうれしいのよ。食卓に肉が出るから」


「じゃあ、他の肉は食べないんですか?」


「リュート君だったわね。基本的にはそうね。このボアとかならつるしてにおいを消したのを食べたりするけど、それも保存食で、期限が近いから食卓に並ぶぐらいね」


「獲ったら、そのまま宴会みたいにしてるのかと思いました」


「もちろんそういう時代もあったって話はあるわ。でも、残念だけど今の世代はそこまで狩りがうまくなくて。取れたものは肉も皮も売っちゃわないときついのよね~」


「そういえば、前に来た時もお兄さんたちが狩りについて色々言ってました」


「あら、アスカちゃん知ってたの?恥ずかしいわね。昔は畑の野菜も肉の付け合わせにってみんな作っていたんだけど、どっちかというと最近はメインになっちゃって…」


そこまで言うと急にヘレンさんはこっちをじっと見つめる。


「なんですか?」


「ううん。アスカちゃんみたいな子がこの村に来てくれたらなぁって」


「私、旅に出る予定なので」


「そうよね。あなたぐらいの時は外を見に行きたいわよね。応援するわ」


「ありがとうございます」


それからも仕込みと料理は続いた。一部の野菜は分けてもらって一緒に肉に合わせられるようにした。


「こんなとこかな?」


「ありがとうリュート。おかげで今日もおいしいご飯になりそうだよ」


「どういたしまして。でも、このパンを教えられないのが残念だよ」


「本当よね。私も作れたらいいんだけど…」


流石にパンを作る工程は秘密だ。こればっかりはフィアルさんの持ち物だし、おいそれと教えていいものでもないからね。でも、この味がどこでも食べられたらいいんだけどなぁ…。



-----


「頂きま~す」


「はい、どうぞ」


私たちは帰ってきたジャネットさんやノヴァと一緒に食卓を囲んで、今日の夕食を食べる。


「ん~、うめぇ。ちょっと固いけどな」


「そうだね。でも臭みとかはないし、リュートのお陰だね」


「アスカが配合してくれたからだよ。筋が多いのは仕方ないね」


「こっちにゃ鍋もないしねぇ。まあ、こいつがこの味で食べられるんだから幸せだよ。料理中は鼻をつまむこともあるぐらいだからね」


「そうなんですか?」


モグモグと次の肉を口に運びながら、ジャネットさんに聞く。


「ああ、その場で焼いても臭いがきつくてね。番をするのも嫌なら臭いが移るのも嫌だったね」


「フィアルがいたのにか?」


「あいつがいたって、肝心の香草が運良く生えてるわけないだろ?精々、筋が切られてたり臭みが抑えられる程度さ。といっても調理中は我慢するしかないからねぇ」


「そういうもんなんですね」


「ああ。まあ、こんな風に宿にいることからして差があるけどね。冒険といやぁ野宿が半分ぐらいだったからねぇ」


「うわっ、大変そうですね」


「大変そうって言ってるけど、旅に出たら覚悟しなよ」


「は~い」


美味しい料理に旅の話をミックスしながら捜索1日目を終えた。結局、手掛かりなしの始まりとなったけれど、気分を切り替えて明日から頑張ろう。




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