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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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ワインツの森


 翌日、いよいよ今日からライズのお嫁さん捜しが始まる。


「それじゃ、いってきま~す」


「いってらっしゃい。夕飯だけでいいのね?」


「はい。お願いします」


 ヘレンさんに夕食の準備を頼んで、私たちは森へと向かう。


「それじゃ、今日はとりあえずライズと出会った場所ですね」


「ああ。それからは円を描くようにある程度まで進んで、見つからない時は奥まで行くよ」


「了解です。行くよライズ!」


《ミェ~》


 ライズも今回の目的を聞いて喜んでいるのか、中々やる気だ。


「それで陣形なんですけど、僕が最後尾でいいですか?」


「ああ、アスカとライズが二番目で先頭はあたしとノヴァだ。リュートは最悪、槍が前にとどくだろ? あたしらのナイフ投げだと、咄嗟に対応できる自信はないからねぇ」


「分かりました。ライズ、後ろは任せてね」


《ミェ》


 いざ出陣だ。まずは村の人たちが普段使っている道に沿って進んでいく。さすがにヴェゼルスシープの気配はない。警戒心の強い羊だから、森の奥の方にいる確率が高そうだ。


「んじゃ、そろそろ頼むよ」


《ミェ~》


 ライズが鳴いて近くに仲間がいないかを確認する。すると早速ガサガサッと音がした。


「おっ、なんかいたみたいだな」


 でも、すぐにライズが私の後ろに隠れる。残念ながら仲間ではないみたいだ。


《ウォン》


「ありゃ、ウルフかい。外れだねぇ」


 ひょいひょいっと三匹のウルフを倒して、再び道なりに進んでいく。そうして再びライズが鳴くのだけど……。


「今度は雑食性のボアかい。森でも珍しいけど外れだね」


 どうも普段からヴェゼルスシープは鳴かないことで安全に生活しているようで、居場所が分かったとたんに迷い子かと肉食の魔物が集まってきてしまうようだ。


「う~ん。食事のバリエーションが増えるのは良いんですけど、肝心のライズの仲間には会えませんね」


「そうだね。むしろ、鳴くたびに魔物が来るね」


「ライズ。仲間がいそうなところとか知らない?」


《ミェ~》


 ライズが残念そうに分からないと返事をする。まあ、子どもの頃に親と逃げてたんだし、そんな場所があったら最初からそこに行ってたよね。


「とりあえず、手掛かりがないわけだしこのまま続けるよ」


 それからも数時間に渡って捜し続けたものの、魔物と出会うか空振りの結果に終わった。


「アスカ、今日の成果は?」


「魔物が九体と大量の香草ですね。私たちの食事を考えると嬉しい結果ですけど、先は長そうですね」


「はぁ、村で解体場を借りるか」


 私たちは今日の調査を終えることにし、来た道を引き返す。帰り道はライズが鳴かないだけで、全く魔物と出会わなかった。


「ここまで差が激しいと参るね。きっと、明日も同じ感じだよこれは」


「でも、他に方法がありませんから仕方ありませんよね……」


 最後の方はライズが覚えたての雷魔法で戦いを援護、もといストレス発散のようなこともしていた。まあ、痺れて相手の動きが止まるから助かるんだけどね。


「ただいま帰りました~」


「あら、思っていたより早かったわね。どうだった?」


「見つかりませんでした。それと村の解体場を借りてもいいですか?」


「解体場を? 分かったわ。お父さんに言ってくるわね」


「お父さんが責任者なんですか?」


「ううん。だけど、村の施設だから立ち合いがいないと後で面倒なの。逆に立会人がいればかなり自由に出来るわよ」


「へぇ~、ありがとうございます」


「それじゃ、呼んでくるわね」


 そういうとヘレンさんはいったん火を止めて、家の方に向かった。最初はご飯を作ってからという話だったんだけど、私が火をつけられると知って呼びに行ってもらったのだ。火起こしが面倒なので普通は先に火を使うらしい。


「解体をしたいんだって?」


「はい。何日ここに滞在するか分からないので、魔物を持ち運ばず整理したいと思いまして……」


「構わないぞ。ただし、一応村の施設だから、わずかながら使用料もかかるがいいか?」


「それはこっちも構わないんだけど、解体時に出る不要なところで代替してもいいかい?」


「構わんが、内臓とかを大量に出されても困る。こっちも扱いに困るからな」


「ああ、それは大丈夫だよ。あたしらからって言うと、過剰になる肉と皮が主になるだろうから」


「それなら大丈夫だ。早速現場に来てくれ。村としてもしばらく食料を確保できるなら、それはそれで買い取らせてもらうことも出来る」


「はいよ」


 ヘレンさんのお父さんと話がまとまったところで、ノヴァとジャネットさんが解体場に向かう。解体は主にジャネットさんとお父さんが、ノヴァは今日の夕飯の分をこっちに運んでくる係だ。これで今日の夕飯は豪華になる。


「後はこの香草だね」


「うん、僕らで加工しといて肉が運ばれてきたらすぐに調理にかからないと」


 ジャネットさんの話では今日仕留めたボアは草食ではなく雑食のボアなので、臭みが強いらしい。雑食だと煮ても焼いても独特の味がするので、すぐに捌いた肉を香草漬けにして臭みを消す算段だ。


「でも、キッチンが広くてよかったね。私もここで作業できるし」


 ヘレンさんは元々のメニューを。リュートが香草を切ったり、タレを作ったりしている。私はというと最終的に毒草が紛れ込んでいないかと、分量の調整だ。

 料理となればリュートの方が経験はあるものの、各種薬草の知識となれば私に軍配が上がる。使いすぎて変な臭いが付いたり、味を消さないように種類ごとの適切な量を測っていく。


「でも、本当にいいんですか? 余った香草は買い取るだなんて……」


「ええ、構わないわよ。だって、食べられない分は村が買い取るんでしょ? だったら、結局は臭みの強いボアの肉にも同じ処理がいるわけだし」


「そういえばそうですね」


 納得した私はとりあえず、今日使うぐらいの分量を頭で想像しながら量を測っていく。ちなみに帰ってきた時にこの香草たちの分布を聞いたけど、どうやら森のどこにでもに生えているとのことだった。

 これなら今日取った分は売ってしまっても、明日以降も収穫できる。


「お~い、持ってきたぞ~」


「あっ、ノヴァ。早いね」


「とりあえず先に今日の分だけ切ったからな」


 そういうとノヴァは三十センチちょっとの肉塊をデンとテーブルに置く。


「んじゃ、置いとくぜ! また、持ってくるからな」


「は~い」


 今日の分を運び終えたノヴァはすぐに解体場に戻っていった。その後も香草に漬け込んでいる間にも二回ほどノヴァが来て肉を置いていった。

 明日以降も肉は獲れそうなので、他の肉は村へ売ってしまうらしい。


「そういえばこの村でもウルフの肉を食べるんですね」


「村だとそっちがメインかしら? 町で売ってもウルフの肉は買取も安いから、村で食べちゃうの。ちょっと固くて癖はあるけど、食べられるわね。この雑食のボアは加工して売るのよ。こっちは高くは売れないけど、ちゃんとした儲けになるから」


「へ~、そうなんですね。エヴァーシ村でもみなさんウルフを喜んで買ってくれたんですけど、そういうことだったんですね」


「ええ。子どもたちからしたらウルフの獲物到着は嬉しいのよ。食卓に肉が出るから」


「じゃあ、他の肉は食べないんですか?」


 リュートも気になったみたいで、ヘレンさんに質問する。


「リュート君だったわね。基本的にはウルフとボアの一部分ぐらいね。それも保存食の期限が近いから食卓に並ぶぐらいね」


「獲ったら宴会みたいにしてるのかと思いました」


「もちろんそういう時代もあったって話はあるわ。でも、残念だけど今の世代はそこまで狩りがうまくなくて。獲れた肉も皮も売っちゃわないと、生活がきついのよね~」


「そういえば、前に来た時も村のお兄さんたちが狩りについて色々言ってました」


「あら、アスカちゃん知ってたの? 恥ずかしいわね。昔は畑の野菜が肉の付け合わせだったのに、どっちかというと最近はメインになっちゃって……」


 そこまで言うと急にヘレンさんはこっちをじっと見つめる。


「なんですか?」


「ううん。アスカちゃんみたいな子がこの村に来てくれたらなぁって」


「私、旅に出る予定なので」


 私もワインツ村ののんびりとした空気は嫌いじゃないけど、旅に出るから住むのは難しい。


「そうよね。あなたぐらいの時は外を見に行きたいわよね。応援するわ」


「ありがとうございます」


 それからも仕込みと料理は続いた。一部の野菜は分けてもらって一緒に肉に合わせられるようにした。


「こんなとこかな?」


「ありがとうリュート。おかげで今日も美味しいご飯になりそうだよ」


「どういたしまして。でも、このパンを教えられないのが残念だよ」


「本当よね。私も作れたらいいんだけど……」


 さすがにパンを作る工程は秘密だ。こればっかりはフィアルさんのアイデアだし、おいそれと教えていいものでもないからね。でも、この味がどこでも食べられたらいいんだけどなぁ……。



「頂きま~す」


「はい、どうぞ」


 私たちは肉の処理から帰ってきたジャネットさんやノヴァと一緒に食卓を囲んで夕食を食べる。


「ん~、うめぇ。ちょっと固いけどな」


「そうだね。でも臭みはないし、これはリュートのおかげだね」


「アスカが配合してくれた香草があったからだよ。筋が多いのは仕方ないね」


「こっちにゃ圧力鍋もないしねぇ。まあ、こいつがこの味で食べられるんだから幸せだよ。個体によっちゃ、料理中は鼻をつまむこともあるぐらいだからね」


「そうなんですか?」


 モグモグと次の肉を口に運びながら、ジャネットさんに尋ねる。


「ああ、その場で焼いても臭いがきつくてね。火の番をするのも嫌なら、服に臭いが移るのも嫌だったね」


「フィアルがいたのにか?」


「あいつがいたって、肝心の香草が運良く生えてるわけないだろ? 精々、筋が切られてたり臭みが抑えられる程度さ。調理中は我慢するしかないんだよ」


「そういうものなんですね」


「ああ。まあ、こんな風に宿にいることからして差があるけどね。冒険と言えば野宿が半分ぐらいだったからねぇ」


「うわっ、大変そうですね」


「大変そうって言ってるけど、旅に出たら覚悟しなよ」


「は~い」


 美味しい料理に旅の話をミックスしながら捜索一日目を終えた。結局、手掛かりなしの始まりとなったけど、気分を切り替えて明日から頑張ろう。



 

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