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ワインツ村

私たちはライズのお嫁さんを探すためワインツ村に向かって進んでいた。


「なぁ~、街道をずっと進んでいるけど、ほんとにこの先に村なんてあるのか?」


「確かにさっきから景色もほとんど代わり映えしないよね」


「2人とも大丈夫だよ。湖沿いに進んでいけば着くから」


「しっかし、この辺は魔物の1匹も居ないなんてな」


「そのお陰で、港町からアルバまでの輸送費や食材費が安くなってるんだよ。感謝しないとねぇ」


「そうだったんですか?」


「ああ、各地から王都向けに運ばれてくる食料とかも、一部アルバやレディトで消費されるけど、アルバまではこの街道の安全性が担保されているから安いんだよ。小さい商会なんかは無理せずアルバまでで仕事を終えたりするね」


「それで、産業的に特別何も無いアルバでも賑わってるんですね」


「そういうことさ。港町で護衛を外して自分たちだけで荷物を運ぶなんてことも出来るからね。逆に王都側から港町に行く時もアルバで契約を終わらせて、ちょっとでも護衛料を削れるのが良い所なんだよ」


「んで、今日の昼はどうすんだ?このままだと昼は過ぎるよな?」


「ん~、釣りでもやるかい?どのみちワインツ村に着いても直ぐには食事の用意が出来ないだろうから、ここいらで確保するか保存食になっちまうしね」


「釣りかあ、懐かしいな」


「リュートは釣りしたことあるの?」


「お金がない時なんかはね。薬草取りの後に釣りをして食べたこともあるよ」


「へ~。じゃあ、お昼は釣りをしましょう!」


ちょっと進んで水深がありそうな所を見つけると早速始める。竿は近くにあった木を加工して作った。糸なんかもジャネットさんが貸してくれたけどすごく簡単な作りだ。ほんとに大丈夫かな?


「じゃあ、一投目行きま~す」


ちゃぷん


とりあえず針に簡単な餌をつけて投げる。私のあとに続いてみんなも投げていく。


「ふんふ~ん、どんなのが釣れるかなぁ」


ミェ~


「ライズも楽しみだよね~」


「いや、羊は草しか食べないよ」


リュートの突っ込みにも動じず私は釣りに集中する。なぜならばこの湖は水も綺麗で、湖面も透明度が高いからだ。さぞかしおいしい魚が捕れることだろう。


「HIT!」


最初に当たりが出たのは言い出しっぺのジャネットさんだ。さすがに手慣れている感じがある。


「うん?ちょっと小さいけど、まあ良いか。とりあえず確保だね」


「あっ、僕もだ!」


続いてリュートもHIT。こっちもやや小ぶりながら釣り上げた。でも、これで魚が釣れることは分ったし、あとは当たりを待つだけだ。


「………来ない。なんで来ないの~」


横ではすでにジャネットさんが4匹目を、リュートも2匹、ノヴァは1匹だが大物を釣り上げている。


「釣れる。釣れるんだ!!」


「いやいや、アスカ。釣る気が漏れてるよ。釣りには技術も要るけど、後は辛抱強く待つことだよ。そんな気張ってたんじゃ魚は来ないよ」


「じゃあ、どうすれば?」


「心を落ち着けてみな」


ジャネットさんの言う通り、心を落ち着けようとする。そうだ!目で見ないで心で見るんだ。私は目を閉じると竿をゆっくりと動かす。


ググッ


「かかった!」


意気込んで竿を上げてみるとそこには…小さな魚が。


ぴちぴち


はねる魚の全長は12cmぐらい。しかも、ジャネットさんが釣り上げた30cm以上の魚と同種のようだ。


「ううう、大きくおなり…」


食べようにもほとんど骨だし、この大きさではどうしようもない。泣く泣く初の釣果を湖に返す私だった。


「さて、そろそろ良い時間だし切り上げようかね」


「そ、そんな~。私まだ釣れてません」


「まあ、この調子で釣ってても時間が経つだけだしね。アスカにはあたしのを分けてやるよ」


「ほんとですか!絶対ですからね」


「ああ、その代わり焼くのは任せたよ」


「任せてください。私の火魔法の神髄を見せますよ」


ナイフで魚を簡単に捌いて、内臓を取り出し洗ったら、削り出した串に刺して焼いていく。焼くのは魔法を使うんだけど、雰囲気が欲しいので小枝を中心に置いて焼いていく。


「なぁ、この枝っているか?」


「いるよ!こういうのは外で食べてる雰囲気が大事なんだよ。ただ魔法で焼いてちゃありがたみが薄れちゃうよ」


「相変わらずアスカはこういう所細かいね」


そうして、数分焼き続けると良い焼き目が付いてきた。


「も、もう大丈夫ですかね?」


「ん~、ちょっと食べてみるか」


「な、生だったらどうするんですか?」


「こんぐらいで腹壊したりしないよ」


がぶりとジャネットさんが魚にかぶりつく。ちなみに味付けは塩と香草を混ぜたミックスソルトだ。こういう時のためにライギルさんから持たせてもらった瓶に入っている。


「おお~、うまく焼けてるね。だけど、このでかいのはもうちょっとかな?」


「ええ~、俺のはまだかよ」


「ぶつくさ言わない。焼けたら一気に食べられるだろ?」


「そりゃそうだけどな…」


「じゃあ、ノヴァは火を見て良い頃合いになったら食べてね」


「えっ、アスカは?」


「私のは焼けてるから食べないと焦げちゃうから」


そういうわけで、火を枝に移して串を持つ。


「あちち」


グローブを外していたので、ちょっと熱い。こういう時は…。


「木の皮を削って巻いてと…。うん、柔らかくておいしい!塩が効いてるところもそうでないところも、香草の香りが移って良い匂いだし、臭みもない」


ああ~、幸せ~。ほんとに綺麗な湖のようで、魚の臭みがない。宿の魚もきっとここの湖で捕れた魚を仕入れていたんだね。


「おい、アスカ。火が弱いんだけど」


「ん?ちょっと待ってね。ファイア」


「わっ!でけぇよ」


「文句言わないの。ちゃんと火が付いたでしょ?」


「まあな」


「食事中のアスカに話しかけちゃだめだよ、ノヴァ」


「猛獣かなんかかよ…」


外野の言葉には耳を貸さずに、私はおいしいお魚の丸焼きを食べるのだった。


「あ~、おいしかった!」


「まあ、うまかったけどよ。誰かさんのお陰で皮焦げてたんだけど」


「そのおかげで中はふっくらしてたって言ってたじゃない」


「それは結果的にだろ」


「ならよかったじゃない」


「ほら、そんなくだらないこと言い合ってないでそろそろ出発するよ」


「そういえば、焼いた分釣らなくて良いんですか?」


「まあ、運良く食事にありつけるかもしれないし、村の近くまで湖は続いてるから、着いてからでも良いだろ」


「そうですね。前も厨房は直ぐに使えなかったですし、釣ってもまた野外調理だったら意味ないですよね」


「なんだよそれ。ちゃんとした宿屋なのか」


「ちゃんとはしてるよ。ただ、客があまり来ないから地方の村は期待しなさんなってことさ」


「行かないと分らないってことですか?」


「そういうこと。さ、出発するよ」


おなかも膨れたし、私たちは今度こそワインツ村に向かって進む。前にも通った港町との分岐を越えて、細い道に入っていく。それから1時間ほど歩いて…。


「あっ、看板だ!」


この前来た時にも確認した魔物注意の看板があった。あと10分ぐらい歩けば着くと言うことだ。


「ライズ、もうちょっとだから頑張ろうね」


ミェ~


いくらミネルたちとよく遊んでいたといっても、ライズは長時間の運動はあまりしていないので、結構疲れているみたいだ。


「到着~」


ようやく村に着いた私たちは早速宿に向かう。


「こんにちわ~」


「あら、アスカちゃんいらっしゃい」


「ヘレンさん!お久しぶりです。今日は宿、開いてるんですね」


「一応ね。実はレディト側にハイロックリザードが出てから、ちょくちょく人が来るようになったのよ」


「どうしてですか?」


「王都側に今行くのは危険だからせめて近場に出かけたいですって。お陰で中途半端に宿を空けないといけなくなっちゃって…」


「大変なんですね」


「まあね。来るといっても一日に一組、二組来るかどうかですからね。それが今日はアスカちゃんたちだったってことね」


「それじゃ、飯は食えるのかい?」


「簡単な野菜サラダとスープとパンだけでしたらお出しできますよ」


「パン、パンかぁ…」


「どうしたの?」


「いえ、ちょっとだけ厨房借りれませんか?」


「それは別に構わないけど…」


「リュートお願い!」


「…しょうがないなぁ」


「やったぁ!」


とりあえず夕食と明日の朝昼ぐらいまでのパンをリュートに作ってもらうことにして、私たちは一旦部屋に荷物を置きに行く。


「それじゃあ、ライズの面倒もよろしくね」


「分かったよ。アスカたちも食材の調達よろしく」


「まっかせてよ!」


結局、リュートがパン作りで手を取られるので、今日は森にお嫁さんを探しにはいかず、魚の調達をすることになった。


「さあ、勝負の時間だね!」


「元気いいなぁアスカ」


「まあ、目的のヴェゼルスシープにすぐ会える訳じゃないんだし、やる気があるのはいいことさ」


再び湖まで戻って釣りを始める。


「確かさっきはこうやって…」


再び目を瞑って集中する。


くいくい


竿を少し揺らして魚を誘う。ああ~、早く来ないかな~。


「アスカ、また漏れてるよ」


「おっと、いけない集中集中」


私は糸を垂らした竿に神経を集中させる。


「戦え、自分の欲と!」


「何言ってんだアスカは?」


「放っておきな。それよりあたしたちは釣りに集中するよ。目標は中サイズ以上4匹だからね」


「お、おう…」


………。


「何で、ど~して釣れないの?」


「そりゃ欲望丸出しだからな。なんかぶつぶつ言ってるし…」


「それより帰るよ。目標の4匹にはなったし、そろそろ暗くなってきたからね」


「…は~い」


結局、ジャネットさんが大物1匹に中型2匹。ノヴァが中型を1匹釣ったところで暗くなってきたので、釣りは終わった。


「私って釣りの才能無いのかなぁ…」


「釣りの才能云々の前に待つことを覚えなよ」


でも、さすがにこの湖で釣った魚だった。夕食に出た魚の塩焼きは美味しかった。残った分は一夜干しにして明日の昼以降の食事だ。さあ、ライズのお嫁さんを探しに行くぞ~!



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