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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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ワインツ村


 私たちはライズのお嫁さんを探すためワインツ村に向かっていた。


「なぁ~、街道をずっと進んでいるけど、ほんとにこの先に村なんてあるのか?」


「確かにさっきから景色もほとんど代わり映えしないよね」


「二人とも大丈夫だよ。アルバ湖沿いに進んでいけば着くから」


「しっかし、この辺は魔物の一匹もいないなんてな」


「そのおかげで、港町からアルバまでの輸送費や食料が安くなってるんだよ。感謝しないとねぇ」


「そうだったんですか?」


「ああ。各地から王都向けに運ばれてくる食料も一部アルバやレディトで消費されるけど、アルバまではこの街道の安全性が担保されているから安いんだよ。小さい商会は無理せずアルバまでで仕事を終えたりするね」


「それで、特別な産業のないアルバでも賑わってるんですね」


 聞けば聞くほど、安全な町に送ってくれたアラシェル様に感謝だ。


「そういうことさ。港町で護衛を外して自分たちだけで荷物を運ぶなんてことも出来るからね。逆に王都側から港町に行く時もアルバで契約を終わらせて、ちょっとでも護衛料を削れるのが良い所なんだよ」


「んで、今日の昼はどうすんだ? このままだと昼は過ぎるよな?」


「ん~、釣りでもやるかい? どの道ワインツ村に着いてもすぐには食事の用意が出来ないだろうから、ここいらで確保するか保存食になっちまうしね」


「釣りかぁ、懐かしいな」


「リュートは釣りしたことあるの?」


「お金がない時はね。薬草取りの後に釣りをして食べたこともあるよ」


「へ~。じゃあ、お昼は釣りをしましょう!」


 ちょっと進んで水深がありそうな所を見つけると早速釣りを始める。竿は近くにあった木を加工して作った。糸に関してはジャネットさんが貸してくれたけどすごく簡単な作りだ。本当にこれで釣れるかな?


「じゃあ、一投目行きま~す」


 ちゃぷんと、とりあえず針に簡単な餌をつけて投げる。私の後に続いてみんなも投げていく。


「ふんふ~ん、どんなのが釣れるかなぁ」


《ミェ~》


「ライズも楽しみだよね~」


「いや、羊は草しか食べないよ」


 リュートの突っ込みにも動じず私は釣りに集中する。なぜならばこの湖は水も綺麗で、湖面も透明度が高いからだ。さぞかし美味しい魚が捕れることだろう。


「Hit!」


 最初に当たりが出たのは言い出しっぺのジャネットさんだ。さすがに手慣れている感じがある。


「ちょっと小さいけど、まあ良いか。とりあえず確保だね」


「あっ、僕もだ!」


 続いてリュートも掛かり、こっちもやや小ぶりながら釣り上げた。でも、これで魚が釣れることは分ったし、後は当たりを待つだけだ。


「………………来ない。なんで来ないの~」


 横ではすでにジャネットさんが四匹目を、リュートも二匹、ノヴァは一匹だけど大物を釣り上げている。


「釣れる。釣れるんだ!!」


「いやいや、アスカ。釣る気が漏れてるよ。釣りには技術も要るけど、後は辛抱強く待つことさ。そんな気張ってたんじゃ魚は来ないよ」


「じゃあ、どうすれば?」


「心を落ち着けてみな」


 ジャネットさんの言う通り、心を落ち着ける。そうだ! 目で見ないで心で見るんだ。私は目を閉じると竿をゆっくりと動かす。


「かかった!」


 ググッと反応を感じて意気込んで竿を上げてみるとそこには……小さな魚が。


 ぴちぴちと跳ねる魚の全長は十二センチぐらい。しかも、ジャネットさんが釣り上げた三十センチオーバーの魚と同種のようだ。


「ううう、大きくおなり……」


 食べようにもほとんど骨だし、この大きさではどうしようもない。泣く泣く初の釣果を湖に返した。


「さて、そろそろ良い時間だし切り上げようかね」


「そ、そんな~。私はまだ釣れてません」


「この調子で釣ってても時間が経つだけだよ。アスカにはあたしのを分けてやるよ」


「本当ですか? 絶対ですからね」


「ああ、その代わり焼くのは任せたよ」


「任せてください。私の火魔法の神髄を見せますよ」


 ナイフで魚を捌いて内臓を取り出し洗ってもらったら、木から削り出した串に刺して焼いていく。焼くのには魔法を使うんだけど、雰囲気が欲しいので小枝を下に置いて焼いていく。


「なぁ、この枝っているか?」


「いるよ! こういうのは外で食べてる雰囲気が大事なんだよ。ただ魔法で焼いてちゃありがたみが薄れちゃうよ」


「相変わらずアスカはこういうところ細かいね」


 そうして数分焼き続けると良い焼き目が付いてきた。


「も、もう大丈夫ですかね?」


「ん~、ちょっと食べてみるか」


「な、生だったらどうするんですか?」


「こんぐらいで腹壊したりしないよ」


 がぶりとジャネットさんが魚にかぶりつく。ちなみに味付けは塩と香草を混ぜたミックスソルトだ。こういう時のためにライギルさんから持たせてもらった瓶に入っている。


「おお~、うまく焼けてるね。だけど、このでかいのはもうちょっとかな?」


「ええ~、俺のはまだかよ」


「ぶつくさ言わない。焼けたら一気に食べられるだろ?」


「そりゃそうだけどな……」


「じゃあ、ノヴァは火を見て良い頃合いになったら食べてね」


「えっ、アスカは?」


「私のは焼けてるから、今すぐ食べないと焦げちゃうから」


 火魔法で作り出した火を枝に移して串を持つ。


「あちち」


 グローブを外していたので、ちょっと熱い。こういう時は……。


「木の皮を削って串に巻いてと……柔らかくて美味しい! 塩が効いてるところもそうでないところも、香草の香りが移って良い匂いだし、臭みもない」


 ああ~、幸せ~。アルバ湖は本当に綺麗な湖だから魚に臭みがない。宿の魚もきっとこの湖で捕れた魚を仕入れているんだろう。


「おい、アスカ。火が弱いんだけど」


「ちょっと待ってね。ファイア」


「わっ! 火がでけぇよ」


「文句言わないの。ちゃんと火が付いたでしょ?」


「まあな」


「食事中のアスカに話しかけちゃだめだよ、ノヴァ」


「猛獣かなんかかよ……」


 外野の言葉には耳を貸さずに、私は美味しいお魚の丸焼きを堪能した。


「あ~、美味しかった!」


「うまかったけどよ。誰かさんのおかげで皮が焦げてたんだけど」


「そのおかげで中はふっくらしてたって言ってたじゃない」


「それは結果的にだろ」


「ならよかったじゃない」


「ほら、そんなくだらないことで言い争ってないでそろそろ出発するよ」


「そういえば、焼いた分を釣らなくて良いんですか?」


「運良く村で食事にありつけるかもしれないし、村の近くまで湖は続いてるから、着いてからでも良いだろ」


「分かりました。前も厨房はすぐに使えなかったですし、釣ってもまた野外調理だったら意味ないですよね」


「なんだよそれ。ちゃんとした宿屋なのか」


「ちゃんとはしてるよ。ただ、客があまり来ないから地方の村は期待しなさんなってことさ」


「行かないと分からないってことですか?」


「そういうこと。さ、出発するよ」


 お腹も膨れたし、私たちは今度こそワインツ村に向かって進む。前にも通った港町との分岐を越えて、細い道に入っていく。それから一時間ほど歩いて……。


「あっ、看板だ!」


 この前来た時にも確認した魔物注意の看板があった。後十分ぐらい歩けば着くと言うことだ。


「ライズ、もうちょっとだから頑張ろうね」


《ミェ~》


 いくらミネルたちとよく遊んでいたといっても、ライズは長時間の運動はあまりしていないので、結構疲れているみたいだ。


「到着~」


 ようやく村に着いた私たちは早速宿に向かう。


「こんにちは~」


「あら、アスカちゃんいらっしゃい」


「ヘレンさん、お久しぶりです。今日は宿、開いてるんですね」


「一応ね。実はレディト側にハイロックリザードが出てから、ちょくちょく人が来るようになったのよ」


「どうしてですか?」


「王都に今行くのは危険だから、せめて近場に出かけたいですって。おかげで中途半端に宿を空けないといけなくなっちゃって……」


「大変なんですね」


「まあね。来るといっても一日に一組、二組来るかどうかですからね。それが今日はアスカちゃんたちだったってことね」


「それじゃ、飯は食えるのかい?」


「簡単な野菜サラダとスープとパンだけでしたらお出しできますよ」


「パン、パンかぁ……」


「どうしたの?」


「いえ、ちょっとだけ厨房借りれませんか?」


「それは別に構わないけど……」


「リュートお願い!」


「……しょうがないなぁ」


「やったぁ!」


 とりあえず夕食と明日の朝昼ぐらいまでのパンをリュートに作ってもらうことにして、私たちはいったん部屋に荷物を置きに行く。


「それじゃあ、ライズの面倒もよろしくね」


「分かったよ。アスカたちも食材の調達よろしく」


「まっかせてよ!」


 結局、リュートがパン作りで手を取られるので、今日はお嫁さんを捜しはやめ、魚の調達をすることになった。


「さあ、勝負の時間だね!」


「元気いいなぁアスカ」


「まあ、目的のヴェゼルスシープにすぐ会える訳じゃないんだし、やる気があるのはいいことさ」


 アルバ湖のワインツ村寄りまで戻って釣りを始める。


「確かさっきはこうやって……」


 再び目を瞑って集中すると、くいくいっと竿を少し揺らして魚を誘う。ああ~、早く来ないかな~。


「アスカ、また釣る気が漏れてるよ」


「おっと、いけない集中集中」


 私は糸を垂らした竿に神経を集中させる。


「戦え、自分の欲と!」


「何言ってんだアスカは?」


「放っておきな。それよりあたしたちは釣りに集中するよ。目標は中サイズ以上四匹だからね」


「お、おう……」



 ………………。


「何で、ど~して釣れないの?」


「そりゃ欲望丸出しだからな。なんかぶつぶつ言ってるし……」


「それより帰るよ。目標の四匹にはなったし、そろそろ暗くなってきたからね」


「……は~い」


 結局、ジャネットさんが大物一匹に中型を二匹。ノヴァが中型を一匹釣ったところで暗くなってきたので、釣りは終わってしまった。


「私って釣りの才能無いのかなぁ……」


「釣りの才能云々の前に待つことを覚えなよ」


 釣れなかったたことにはがっかりしたけど、さすがアルバ湖で釣った魚だった。夕食に出た魚の塩焼きは美味しかった。

 残った切り身は一夜干しにして明日の昼以降の食事に回すことになった。さあ、準備は整ったしライズのお嫁さんを捜しに行くぞ~!



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