在庫確保
「……ねぇちゃん。おねえちゃん、起きて~」
「ん?」
誰かに起こされて目を開ける。
「エレンちゃん?」
「そうだよ。もう十九時だよ。最近はずっと十八時に食べてたのにどうしたの?」
「ごめん、ちょっと仮眠取ってたんだ」
「それなら良いけど……冷めると思って用意は食堂にできてるからね」
「は~い」
エレンちゃんに促されて、私はそのまま体を起こして食堂へ向かう。
「いただきま~す」
そこにはすでに食事が用意してあった。今日は煮込み野菜のスープだ。スープと言っても、具が中心で大きい野菜がゴロゴロ入っている。珍しく肉が少なめで、出汁みたいな感じで使ってあるだけみたいだ。
「それでミネルはもう大丈夫なの?」
「うん。様子も落ち着いてる。でも、子どもたちのこともあるからしばらくは部屋で食べるかなぁ」
「そっか、仕方ないね。お母さんたちにも食べやすいものを出すように言っておくよ」
「ごめんね。手間かけちゃって」
「ううん」
「そういえば、いつも食事は別に取ってるけど、リンネの食事ってどんな感じ?」
私もミネルと子どもたちが心配で、リンネの食事までは詳しく知らないんだよね。
「リンネかぁ……ティタとお父さんが話してたから、ちゃんと舌に合ったものを出してるみたいだよ。残り物がほとんどだけどね」
「好き嫌いがないか、ちょっと心配してたんだ」
「それはお父さんも言ってた。特に嫌いなものはなさそうだから助かるって」
「何の話?」
「あっ、エステルさん。リンネが好き嫌いしてないかって話をしてたんです」
「リンネは基本何でも食べるわね。塩分は控えめが好きみたいね。たまに送り迎えのお礼におやつをあげるんだけど、全部食べてるわ」
「へ~、そうなんですね」
「ええ、アスカありがとう。リンネのおかげで行き帰りも安全だわ。ちょっと人の目が痛い時もあるけど」
「あはは……」
あれでもリンネはそこそこのサイズだからね。ちょっとペットの散歩ですって言うには難しいもんね。
「それより、お昼に音がしていたけど何をしてたの?」
「最初はミネルたちの子どもの部屋を作ってたんです。今までの小屋に増築して子ども用の部屋を作ったんですよ。後はリンネの小屋を。ほら、前に雨の日にそのまま入ってきてミーシャさんに怒られた話をしてたじゃないですか」
「ああ、そんなこともあったわね。宿で忙しいのに家の掃除の手間が増えたって言ってたわね」
エステルさんが渋い顔をする。あの日のミーシャさんはお冠だったからなぁ。
「そうなんです。リンネも悪かったとは思ったみたいですけど、そもそも外にいる時に雨をしのげれば良いと思って、小屋を作ってました」
「そうだったのね。で、どんな感じになったの?」
「割と普通の作りだと思いますよ。大きめの部屋に奥にトイレがあるだけで」
「なるほど、床はそのまま?」
「一応、余ってたオークの皮を敷いてます。流石に板だとつらそうだと思って」
「リンネはかわいがられてるわね。屋根だけの家も結構あるのに」
「ミネルたちの家だけきちんと作って、リンネの家を適当にするのはどうかと思って」
「それはそうね。私も今日の帰りに見てみるわね」
「割と急造だから、そんなに見ないでくださいね」
「はいはい、それじゃまたね」
「はい!」
エステルさんが仕事に戻って行く。後一時間ぐらいはお仕事かな? エレンちゃんはもう上がりの時間だから、一緒に夕飯を食べている。
「にしても、おねえちゃんの従魔も増えたよね」
「そうだね。契約してない子も居るけどね」
「そうそう。ミネルも理由があってだし、レダとかライズとはしないの?」
「う~ん。契約しても外へ連れて行くわけじゃないし、契約したらMPを毎日消費するしね……」
「そっか、結構難しいんだね」
「でも、町に残る子たちは誰かに頼まないとね。リンネの時も言われたけど」
「ライズなら大丈夫じゃないの? 小さいし」
「う~ん。今はそうかもしれないけどちょっとずつ大きくなってるし、やっぱり魔物ではあるからね。お互いのためにも従魔だと助かるなぁ」
「でも、ディースさん一人だと大変そうだね」
「そうだね。他にも何人かに声をかけてみるよ」
引退して町にいる人なら受けてくれるかもしれないしね。ただ、Cランクからじゃないと頼めないってところが困りものだね。私ももうちょっと知り合いが多ければなぁ。その日はそんなことを考えながら、私は眠った。
「ん~、今日も良い天気だ!」
最近は頑張って自分で起きている。というのもミネルたちが起こしに来れないので、必然的にティタに起こされるわけだけど……。
「ティタって起こすのに遠慮が無いからなぁ」
前にみたいにダイブしてくるようなことはないけど、起こす効率を考えてるみたいで早く起こせれば良いところがある。
「さ、今日は中断してた細工に移らないとね」
ちょっと小屋の位置を離して置くようにしてるから、防音の結界も部屋じゃなくて私の周りに作る。こうしないと子どもたちが起きちゃうからね。
「今日は何を作ろうかな? 魔道具は数を作っているからまだ大丈夫だし、新作にしようかなぁ」
せっかくだからエヴァーシ村で見た植物にしよう。
「えっと、確かこんな形だったよね……」
思い出しながら絵を描いていく。一時間半ほど経つとかなり形になってきた。
「よしっ! これで下絵は出来たから実際に作っていこう。まずは銅で作ってと……。これは何で作ろうかな?」
エヴァーシ村の特徴を掴んだものが良いよね。
「だとしたらやっぱり木を使うのが良いかな? あそこ、結構木が生えてたもんね」
というわけでまずはオーク材を使った作品作りだ。後はちょっと異色かもしれないけど、ジオラマ風の家を作って見よう。あんまり、こっちじゃ見ないけど、家を作って何かを飾るって言うのが流行るかもしれないし。
とりあえず第一弾は完成度よりも自由度を考えて家を作った後、ブロック状に加工する。こうすれば、部品だけを追加購入して建て増しも出来るだろう。
「とはいえ、そんなに多くの人が買いそうにないからある程度数を絞らないとね。これは三つぐらいかな?」
多く作ってもかさばるので、追加用ブロックと家を三つずつ作る。定番も良いけどたまにはこういう毛色の違うものもあると良いよね。作業の進捗も良いし、次に取りかからなきゃ!
「アスカ、ごはん」
「ティタもうそんな時間?」
「ん」
ティタに時間を教えてもらってお昼ご飯にする。う~ん、今日もライギルさんのご飯が美味しいなぁ。
「ミーシャさん、後でミネルたちのご飯お願いします」
「ええ、食事が終わるまでには持って行くわね」
ミネルたちは雛の面倒を見るので、今はずっとお部屋で食事を取っている。しばらくはそのままかな?
「それじゃ、さっきの続きだ!」
部屋に戻った私は作っていたジオラマの作成に取りかかる。後は彩色だけだ。このままだと木を切っただけになるから商品価値も薄いだろうし、模様と色をつけていく。
「まずはレンガ作りに焼き板の家だよね」
村長さんの家と新しく作った家を参考に作っていく。特にレンガの壁は形がずれていたり、形や色に差があるものが多いので、均一にならないように作っていく。
「こういう自然に出来た形や色を人工的に作るのって難しいなぁ。普通に作る分にはそのままで良いから楽なんだけど……」
レンガを作るのは簡単だけど、作り終えてから色は変えないし、模様を表現するのって難しいんだな。四苦八苦しながらもなんとか模様を作り終える。途中からは窓の外を見て街のレンガも参考にした。
「う~ん。これでぽさは出たかなぁ? とりあえず次の家に移ろう!」
まだ作るものがあるんだし、いったんここで作業を置いて、気に入らない部分が出てきたら直すことにしよう。
「ああ~、こっちもだった~~~」
作り始めて直ぐに気づいてしまった。こっちの焼き板も自然の焼き上がりを使うので、それを作るのが難しい。しかも、表面が炭化した板はでこぼこしていて、ミニチュアでそれを表現するのがまた難しい。
「それならいっそ木を焼いちゃいたいんだけど、そうすると黒いすすが残って売れなくなるんだよね~」
それに炭の場合はかくかくした形よりまるっとした感じが多くて難易度が高い。レンガは角をわざと落としたりが出来たけど、丸みを帯びて膨らんだ形って細工だとより難しい。
「う~ん。ちょっと小さいサイズにするだけだから簡単だって思ってたけど、これじゃあ実物の方が楽かも」
ある程度サイズはあるし、一定の温度を保ったら割合出来るしね。今日中に彩色まで終わるかと思われてた工程は意外なつまずきを見せて、結局夕方まで頑張っては見たものの、彩色完成には至らなかった。
「はう~、今日中の完成がぁ~。値段がぁ~」
一日で複数出来るものは銀貨一枚程度。木製なら大銅貨六枚程度にしてきたんだけど、このままじゃ、どっちも一つ銀貨二枚近くになっちゃうなぁ。
「かといってこれだけ手間がかかるものを安価で出して、大量に発注が来ると怖いしなぁ……」
そんなことはないと思うけど、魚のアクセサリーだって初回の発注は結構来たからなぁ。
「目新しさに釣られて変に人気の出る価格だとつらいかも」
特に大変なのが塗料だ。塗料自体はそこまで高くないんだけど、こう言うのってバリエーションを増やす度に使う色の種類が増えていくから、今作っている色以外にも必要になってくる。保管スペースも必要だし、旅をしながらは作りにくい。
「いっそ限定品にしちゃおうかな? 数量限定、デザイン限定で安価で……。いや、でも反響にお応えして通常販売って商品もCMで見たことあるしなぁ」
作ると決めた以上は形にして販売まで持って行きたいけど、大量発注にならない案はないものなのかな。
「まあ、そんなに人気が出るって決まったわけじゃないし、あれこれ考えても仕方ないよね」
善は急げ、まずは作ってみないとね。夕食を食べて、再び作業を始めた私だったけど、レンガの色に再度頭を悩ませることとなったのだった。




