2度目の季節
あれからリンネは宿の一員として暮らし始めた。最初こそ店にくるお客さんがびっくりしてたけど、まるで置物のように構えてる姿と、エレンちゃんとじゃれてる姿に街の人たちにも受け入れられつつある。
「もうちょっとしたら、一緒にお出掛けたりできそうだね」
《わぅ?》
せっかく、アルバにいるんだから街を一緒に歩きたいけど、私はともかくリンネはこの街で暮らしていくんだから、問題が起きないようにまだ出かけてない。
でも、リンネはそれこそ気にしていない様子だ。今リンネが出かけるのは朝と夜にエステルさんを送り迎えする時だけだ。
「どっちも朝早くか夜遅くだからあんまり認知されてないんだよね」
そういえば、ライズはあれからちょっと成長した。町に来た時は三十センチぐらいだったけど、今は五十センチ近くある。
「もうちょっと大きくなったら、お嫁さんを探しに行かないとね」
羊は頭数いた方が安心するらしいし、何とか夫婦でいさせてあげたいなぁ。
「夫婦といえば、ミネルは大変だったなぁ。帰ってきた時にまさか子どもが生まれてるなんて……」
エヴァーシ村から帰ってきて、部屋に戻ってみると何やら騒がしかった。何だろうと思って巣箱を開けると中にはかわいい雛がいたのだ。元気なメスとちょっと大人しいオスのコンビだ。だけど、ちょっとだけミネルが危なかった。
「まさか、出産時や雛へのエサやりに魔力を消費しているなんてね」
この世界の魔物たちが全部そうかは分からないけど、ヴィルン鳥はどうも出産時やエサやりに大量の魔力を使うらしく、私が入ってきた時はちょうど雛に魔力を与えているところだった。でも、ミネル自体が弱っているみたいで見ていて辛そうだった。
「あの時は急いでたから思わず契約しちゃったけど、ミネルはもう大丈夫?」
《チッ》
大丈夫とミネルが答えてくれる。あの時は急いでミネルと契約して魔力を与えて難を逃れた。それからは定期的に魔力を与えて、ミネルの体調もちょっとずつ良くなってきた。
「そういえば、ミネルって結構魔力があったんだね」
《チチッ》
当然と言わんばかりにミネルが答える。実際、ギルドで登録したところ、ミネルには魔力が120もあった。ミネル曰く、私の従魔になる前はもうちょっと低かったらしいけどね。
なので私は今、ティタで80、ミネルで60、リンネで15と最低でも毎日MPを160近く消費している。総量からすると一割ちょっとを常に予約している状態だから、今後も気を付けないとね。
「いくら従魔だって言っても、距離が離れると魔力が補充出来ないことにも注意しないと」
おかげで私が旅に出ている時、ティタはかなりの量の魔石を食べて魔力補充していたらしい。
「本当にディースさんには感謝だよ」
実はその件も含めて現在、私はディースさんのところへ向かっている。何でも内々の話があるらしい。
「わざわざ家に呼び出すなんて珍しいよね~」
「ディース、かなりなやんでた」
「そうなの? いったい何の話だろ?」
貰った地図を頼りにディースさんの家に向かう。ちなみにミネルもリハビリを兼ねて出かけているけど、レダはお家で雛たちの相手をするのでお留守番だ。
「ディースさん居ますか~?」
「は~い。アスカちゃんちょっと待っててね」
ちょっと音がしたと思うと、ディースさんが迎え入れてくれる。
「ごめんなさいね、そっちに行くべきだとは思うんだけど、今回のことは慎重に行きたかったの」
「いいですけど、そんなに大事な話なんですか?」
「そうね。私も色々な文献を探したけど、まだ信じられないもの。これは新たな可能性ね」
そこまでディースさんが言うなんてなんだろう?とりあえず席について話を聞く。
「まず、内容に関してだけどティタのことなの」
「ティタですか? そういえば話をするの上手くなってますよね。ありがとうございます」
「どういたしまして。私もティタと触れ合えたから楽しかったわ。それでアスカがいない時にティタの魔力を魔石で補充していたでしょう?」
「そう聞いてます。その際はありがとうございました。ひょっとしてその時の費用のことですか?」
「いいえ。確かに魔石を多く使ったけど、値段も安いものが多かったし、その話ではないの。話は与えた魔石についてだけど」
「魔石ですか?」
「ええ。私が水魔法を得意としているのは知っているでしょう?」
「はい。ハイロックリザード戦でも見ましたし」
手数ではジェーンさんに劣っていたものの、一撃の威力では明らかにディースさんの方が上だった。
「私も魔道具にするため、魔石は普段から集めていたんだけど、どうしても水の魔石が多くなるのよね」
「それはまぁ、自分の属性と合わないと使えない魔石も多いですからね」
私の細工に魔石が使えるのもそれが大きい。効果の小さい魔石で私の扱う風属性が関係するものはかなり安い。私とは理由が違うけど、ディースさんも自分の属性の魔石を多く持っていてもおかしくはない。
「で、アスカちゃんがいない期間中、あげた魔石はほとんどが水属性の魔石ばっかりだったのよ。ティタ、見せてあげて」
「うん。アクア」
ティタがそういうと空のコップに水が注がれる。
「ティタが水の魔法を?」
い、いつの間にティタが水魔法を……。そもそも私の属性を引き継いでいるから火と風しか使えなかったんじゃなかったっけ?
「見ての通りなのよ。今のところ仮説としては水の魔石を食べ過ぎて、体内の魔力循環の中で水魔力が高まったためだと思うわ」
「すっ、すっご~い! ティタってば何でもできちゃうんじゃない?」
「でもね困ったことに、火の魔力が弱まって火魔法は以前より使えなくなったみたいなの。少なくとも対属性の魔法が弱くなるみたいね」
「じゃあ、水の魔法は覚えたけど、火の魔法はあんまり使えなくなったの?」
「うん。ひもみずもLV1ぐらい」
「そっか……。単純に便利になるわけじゃないんだね」
LV1といえば生活魔法レベルで攻撃魔法も威力はない。それでもティタ自身は魔力が160もあるからそれなりの威力にはなるだろうけど、詠唱できる魔法が少なくてはあまり意味がない。もちろん戦うにあたってはだけど。
「すごいことではあるんだけど、無限に高まるわけではないみたいね。恐らく、火の魔石を与え続けても火が上がっていくだけじゃなくて、今ある水や風の魔法がどんどん弱まっていくと思うわ」
「なるほど。ティタは以前、火魔法LV2、風魔法LV2でしたから火魔法LV3ぐらいになると他の魔法が使えなくなる可能性もあるわけですね」
「話が早くて助かるわ。恐らくアスカちゃんの思っている通りになるでしょうね。なのでこれからはある程度与える魔石を考えていかないと、と思って……」
「そうですね。適当に与えてたら、急に出来なくなっちゃうことが増えたりして、ティタが困りますからね。ティタはどの属性がいいとかある?」
「う~ん、いまだとみずかな? べんりそう」
「火は使えなくなっちゃうけどいい?」
「うん、ひはあすかつかえる」
「私は使えるけど、ティタはそれでもいいの?」
「うん」
「それじゃあ、次からは水の魔石をあげるわね」
「すみません。でも、お金がかかるんじゃ……」
「研究成果を思えば何でもないわよこのくらい」
「あっ、それならお礼ってわけじゃないんですけど」
私は宿にいるリンネについて話をした。リンネのこと自体はディースさんも知っているけど、旅に付いて行かないことまでは知らない。この機会にリンネのことも頼んでおこう。
「リンネは付いて行かないのね」
「はい、本人もこの町での暮らしが気に入ってるみたいだし、無理に連れていく気はないんです」
「でも、いいの? 単体とはいえグレーンウルフなんでしょ? そこそこの戦力になると思うんだけど……」
「確かに切断とか変わったスキルは持ってますけど、やっぱり本人の気持ちを重視してあげたいんです」
「分かったわ。その時になったら言ってね。それまでに私も魔物使いとしてデビューしないとね!」
「でも、いいんですか? 確かにディースさんは魔物使いの研究をしてますけど、今は魔法使いですよね?」
「確かにそうね。でも、魔物使いの難しいところはせっかくなったのに従魔を得られないところもあるのよ。リンネがどう言うかは分からないけど、契約してくれるなら私も嬉しいわ」
「きっと大丈夫だと思いますよ」
「ええ、その時を楽しみにしているわね」
ディースさんの話はそこまでだったので、私も話を整理したいからその日は宿へ帰った。
「にしても、まさかティタがこんなことになってるなんてね」
「アスカ、しんぱいかけた」
「いいよ。大変なのはティタの方だしね。ただ、旅に出てもちゃんと気を付けないとね。そうだ! 今なら細工屋のおじさんに頼めるからちょっとずつ魔石集めておくね」
それにしても生まれ変わったティタは言葉も魔法も普通のゴーレムとは違うみたいで、今後が楽しみだ。
「楽しみといえば君たちもだね」
《チィ〜》
《ティ》
新しく生まれた二匹の雛たちはメスの方がミネル似でオスの方はレダに似ている。
「元気がいいのは嬉しいけど、いきなり家から出ようとするなんてね」
メスの方がとにかく元気で、最初は隙あらば外に出ようとしていた。これはちょっと家も改築しないとね。子どもたちが過ごすところも必要だし、今は外へ出ないように何か考えないと。
「そうと決まれば早速、細工開始だ! 最近はずっと旅に出てて腕がなまってるだろうし」
私は気合を入れると、ミネルたちのお家の改築案を考えるのだった。




