リンネとエレン
ギルドに帰ってきた私たちは、早速薬草の買取に入る。
「ホルンさん、薬草の買取お願いします」
「はい。今日は何を持ってきたの?」
「ムーン草とルーン草です」
こちらは採った分を個別に出していく。集計は一緒でもいいんだけど、今回は量が多いから混ざりそうだしね。
「えっと、アスカちゃんはルーン草三十四本、ムーン草四十一本ね。合計で金貨七枚と銀貨三枚ね」
私に続いて、リュート、ノヴァの順で会計を済ませていく。ちなみにリュートたちは合計で五十本ちょっとだった。
「僕が金貨三枚と銀貨八枚か」
「俺は金貨二枚と銀貨九枚だった……。相変わらずお前ら採るの上手いな~」
「ノヴァ君も最初に比べたらかなり成長しているわよ。普通の冒険者よりも結果は良いもの」
「そうか?」
苦手にしている採取で褒められて珍しくノヴァは照れている。
「それじゃ、ここいらで解散だね。お疲れさん」
「ジャネットさんはどこかへ行くんですか?」
「ん、ちょっと見せに行きたい物があるから余所へ寄ってくよ」
「分かりました」
ジャネットさんにそれぞれ採取の見張り代を渡して解散する。う~ん、私は宿に帰ったら何しようかな?
「それじゃ、みんなまたね~」
「おう!」
「アスカ、ちゃんと休みなよ」
「分かってるって!」
もんなと別れて久し振りの宿に帰る。
「ただいま~」
「おねえちゃん、やっと帰ってきたの!?」
「エレンちゃん久し振り~、色々あってね。お土産もあるから期待してて。そうだ! ミーシャさんいる?」
「お母さん? いるよ、ちょっと待っててね~」
エレンちゃんにミーシャさんを呼んでもらう。色々話もしたいけど、まずはリンネのことを話さないとね。
「エレンどうしたの? あら、アスカちゃん帰ってきたのね」
「はい。思ったより長くなっちゃいました」
「元気に帰って来てくれて嬉しいわ。それでどうしたの?」
「ご相談というかお願いなんですけど……ちょっと外に出てもらっていいですか?」
「いいけれど、ここじゃ駄目なのかしら?」
「はい。見てもらいたいものというか子がいまして……」
「分かったわ」
「私も行く~」
「はいはい」
三人で一緒に外へ出る。
「この子なんですけど……」
「わぁ~、大きいウルフだね。どうしたの?」
「エヴァーシ村に行く時に出会って、そのままついてきちゃったの」
「そうなの? 危なかったりはしないのかしら?」
「従魔登録しているので、そうそう危ないことはしないと思います。本人はいたって温厚ですし」
「じゃあ、この子はうちで飼うの?」
「出来ればそうしたいんですけど……」
「う~ん。アスカちゃんが安全って言うなら大丈夫とは思うんだけど……そうだ! ちょっと待っててね」
「はい……」
ミーシャさんは一度奥に引っ込むと、ティタを連れてきた。
「ティタ、元気だった?」
「うん、げんきしてた」
ん? かなり言葉をしゃべるの上達してない?
「アスカちゃんが旅に出てる間に、ディースさんと頑張ってたのよ。ティタちゃんこの子どうかしら?」
「うん……ちょっとはなしてみる」
《fkfaskri9ekn……》
魔物の言葉でリンネとティタが話している。さすがに私では従魔同士がまだ何を話しているかよく分からなかった。
「うん、ひとおそわない。やくそくした」
《わぅ》
リンネがちょっと引いてるみたいだけど、確かにそう言ってるみたいだ。
「そう、なら安心ね。でも、さすがに宿の中を動き回るとお客さんがびっくりするから、お外以外では住まわせられないわね」
「いいえ、許可が出ただけで嬉しいです。良かったねリンネ」
《わぅ~》
リンネも宿を見て満足そうに吠える。気に入ってくれてよかった。
「ねえ、おねえちゃん。この子おとなしいの? さっきからあんまり動かないけど……」
「う~ん、大人しいというかだらしないというか……。でも、これを投げたら動いてくれるよ」
ひょいっとバッグから円盤を出す。
「なにこれ?」
「円盤状のおもちゃかな?」
「どうやって使うの?」
「こう構えて……えいっ!」
私はちょっと離れてリンネに向かって投げる。すかさずリンネがキャッチ!
「わっ! すごい。おりこうさんなんだね」
「ま、まあね。さっきみたいにこうやって離れたところから投げて遊ぶの。もちろん、人同士でも楽しいよ。ちょっと広いところが必要だけどね」
「へ~、わたしもやってみてもいい?」
「いいよ~。コツがいるからちょっと一緒にやろっ!」
「うん!」
エレンちゃんと投げる練習をして何回かフリだけした後、実際に投げてみる。
「えいっ!」
エレンちゃんの記念すべき一投目は最初こそよかったものの、力を抜き過ぎたせいかすぐにヘロヘロと落ちていく。
「ああ~~」
「もうちょっと、力を入れた方がいいみたいだね」
《わう》
そこへリンネが駆け寄ってきて落ちたフリスビーを咥えて、エレンちゃんに渡す。
「持ってきてくれたの? ありがとう。えっと……」
「この子の名前はリンネだよ」
「リンネ、ありがとう!」
《わん》
元気に返事をするリンネ。宿に来てから珍しく殊勝だなぁ。ちょっとティタに聞いてみよう。
「ティタ、ティタ。リンネって結構サボりがちなんだけど、なんであんなにやる気が出てるか分かる?」
「このおっきい、いえのあるじとおなじにおい。だから、なかよくするって」
「リンネ……」
じーっとリンネを見る。私がミーシャさんにお願いしてるのを見て、この家の主人だと思ったんだね。その娘のエレンちゃんに下手に出てかわいがってもらおうだなんて。本当にこういうところには頭が回るんだから。
「あっ、おねえちゃん。色々してきたんでしょ? この子と遊ぶのもいいけど、お話聞かせて」
「うん、いいよ。でも、お仕事大丈夫?」
「大丈夫よ。エレンはこうなったら聞かないから」
「やったぁ! それじゃ、またねリンネ」
《わぅ》
リンネに挨拶をして私たちは宿へ戻る。てっきりティタも付いてくると思ったら、リンネが気になるみたいで庭に残った。まあ、従魔同士仲良くなってくれたらいいね。
「それで、おねえちゃんは何しに行ってたの?」
「この前、ハイロックリザードが出たでしょ? その皮を加工しようと思って。私ってほら、いつも軽装だったでしょ」
「確かに。ちょっと服着て、胸当てだけ付けて出て行ってたもんね」
「それで、きちんとしたのを作ってもらいに行ってたの」
「じゃあ、今着てるのがそれなんだ?」
「そうだよ。他にも色々出来るようになったの!」
「それで、あの子はどうやって知り合ったの?」
「ちょっと長くなるんですけど……」
私はリンネと出会った経緯を二人に説明する。
「へ~、じゃあ、人助けみたいなもんなんだね」
「一応そうなるのかな?」
「でも、見た感じはそんなに強く見えなかったし、弱い個体なのかしら?」
「最初は私もそう思ってたんですけど、結構強いみたいです。固い皮を持った魔物も切り裂いちゃったんですよ」
「じゃあ、何で怪我してたの?」
「大勢のウルフに追われてたからだと思う。リンネは一人で動いてたしね」
「そういえばウルフは大抵群れで生活しているんだったわね。じゃあ、あの子は比較的若いのね」
「多分ですけどね。でも、普段からぼ~っとしていることが多いって村の人も言ってました」
「村でも飼われてたの?」
「いいえ。ただ、ご飯をしきりにねだってたみたいです」
「そうなのね。ちょっと安心したわ。人間の食べるものを遠慮なく食べてもらえそうね」
「そっちに関しては大丈夫だと思います。食欲旺盛ですし。あっ、でも味は薄めでお願いしますね」
「分かったわ、主人にも言っておくわね」
「それにしてもリンネも食べるの好きなんだね~」
「みたいだね。固い肉とかでも美味しそうに食べてたよ」
それからも私は村のことについて色々話した。待ってる間に家を建てたことや、レンガを作ったり様々な経験が出来たことも伝えた。
「おねえちゃんって本当に色々やってるね。次は何をするのかなぁ」
「たまたまだよ。それに家は作ったって言っても、ノヴァが殆ど指示してたし」
「でも、実際に材料を切り出したり、成形したのはアスカちゃんの方が多いんでしょう? 頑張ったわね」
「そ、そうですか、えへへ」
そう言われると、なんだか自分でも頑張ったなって思ってくるから不思議だ。
「ところで、リンネはこれからも一緒に冒険について行くの?」
「う~ん、どうかな? 本人はあまり行く気がないみたいだけど……」
その時ドアが開いてティタが戻ってきた。
「あ、ティタどうだった? ちゃんとお話しできた?」
「うん。リンネここきにいった」
「そうなんだ。じゃあ、やっぱりリンネはお留守番かな? 本人もあんまり動きたくないっぽいしね」
「なら、宿で飼おうよお母さん!」
「でも、アスカちゃんが宿にいなくなったら難しいわね。いくら温厚だって言っても、従魔でないと……」
「そっかぁ……確かに魔物には違いないもんね」
「アスカ、ディースいる」
「ディースさん? そりゃあ、ティタはお世話になってるけど」
「ディースにまものつかい、なってもらう」
「確かにディースさんは魔物使いになりたいとは言っていたけれど、いいのかしら?」
「今度相談してみますね。リンネもここにいたいって言ってるみたいですし」
「それと、エステルのおくりむかえするって」
「へ~、リンネってもうここが気に入ったのかな。普段はあんまり動きたがらないのにね」
会ったことのないエステルさんのことまで知ってるのは不思議だけど、きっとティタから教えてもらったんだろう。
「ティタもリンネと仲良くできてるみたいでよかった~」
「うん、ティタなかよくする」
「これなら、ミネルたちを紹介しても良さそうだね。小鳥相手だと心配だったんだよね」
いくらリンネが賢いって言っても、野生での生活が長かったもんね。




