お披露目タイム
「~ちゃ~ん。ごはんだよ~」
コンコン
「おねえちゃ~ん、ごはん~」
「んぅ?」
なにか声が聞こえる?私あれからどうしたんだっけ?像が完成してちょっと横になって…。
「おねえちゃん、いないの~」
この声はエレンちゃんだ。
「エレンちゃんどうしたの?」
扉越しに答える。
「おねえちゃん何言ってるの?もうごはんだよ!」
「ん~?」
窓の外を見る辺りは暗闇が降りてきていた。あれ、ひょっとして私あれから寝ちゃったんだろうか?
「ごめん、今開けるね~」
ガチャリとドアを開けてエレンちゃんを迎え入れる。
「やっと、入れてくれた…ってそのお顔はダメだよ。ちょっと椅子に座って!」
「分かった」
寝ぼけたまま椅子に座ると、くしを使ってススッと髪を直してくれる。エレンちゃんはこういうこともできるらしい。なんでも女性の冒険者に時々頼まれて手伝っているうちに身につけたそうだ。
「これで良しと!気を付けてよ~、宿で面倒は困るんだから」
「ん、気を付ける」
何のことかまではよくわかんないけど。
「それじゃあ、ご飯食べよ」
私はそのままエレンちゃんに連れられて食堂に向かう。
「あら、時間がかかったのね、エレン」
「それがさ~、おねえちゃんぐっすり寝てたみたいで…」
「なんだ、珍しいな。ご飯時にはいつもきっちり降りてくるのに」
「私そんなに食い意地張ってません!」
偶然一緒の時間にいるバルドーさんにからかわれる。バルドーさんは朝一に依頼を受けに行くことが多いから早い時間に食べることが多く、最近はあまり会っていなかったんだけど…。
「そういえば、バルドーさん珍しいね。こんな時間に食べてるなんて」
「ん、ああ。今入ってたパーティーが王都の方に行くんで見送りしてたら遅くなってな」
「バルドーさんは付いていかないの?」
「王都じゃCランクなんてあふれてるからな。下手に行くよりはここいらの方が実入りがいいんだよ」
「そうなんですね。私からすると行けるだけでもすごいけどなぁ」
「まあ、おねえちゃんは駆け出しな上に活動日数少ないからね。はい!」
エレンちゃんが自分の分と一緒に私の夕食も運んできてくれる。いまだちょっと寝ぼけてる私にはありがたい。
「ありがとう。それを言われると…じゃあ、いただきます」
とりあえず、出てきたものを食べないことには始まらないので夕食に手を付ける。食べ進めている時にふと思いついたことをバルドーさんに聞いてみる。
「バルドーさん。そういえば魔物って討伐依頼ばっかりですけど、連れ歩いたりはできないんですか?」
「従魔のことか?魔物使いはいない訳でもないがありゃ大変だぞ」
「ああ~、一度だけ宿に泊まる人で連れてた人見たことある。結構、宿としても大変なんだよね。後始末とか」
エレンちゃんの言わんとしていることは分かる。食事中で言葉を濁してるんだけど、要はペットのしつけがどうとか言うことだろう。こっちは完全に非戦闘員なんだからそうそう手出しもできないし。
「ああ、泊めてくれる宿もそうだが、契約に魔力はいるしエサは限られたものだしで趣味の領域だな。BランクやAランクの奴が『俺は余裕あります』って言いたいがためのものさ」
「じゃあ、戦いには不向きってこと?」
「そんなことはない。嗅覚や視力なんかは人よりはるかに高いのもいるしな。ただ、うまく扱えるようになるのに期間もかかるし、その間の稼ぎを考えるとなりたい奴なんてめったにいないんだよ」
何でもバルドーさんが言うには、Cランクから職業を得ることができるんだけどその中でも1%を切る唯一の職だそうだ。
「職業に就くとステータスにボーナスが付くんだ。該当する神様からの贈り物ってやつだ。レンジャーなら器用さと速さとかな。魔物使いは確か運が少し上がるだけだ。運は何か良いことが起きやすいってことらしいが、どこまでの影響があるか判らないし、そもそも任意に上げられないステータスとも言われてる。だから、それもあってさらに人気がない」
そういえば私も最初から高い魔力でさえ上がってるのに、運のパラメータだけは上がったことないなぁ。
「まあ、噂じゃもっと強くなれるらしいんだが、見本のようなやつがいなくちゃな。本業の魔物使いでAランクが3人ぐらいで、この国じゃあ後はほとんどがCランクさ。強い先輩がいないから初心者は見向きもしないな」
「大変そう。バルドーさん教えてくれてありがとう!」
「な、なんだよ。まあ、先輩だからな。これぐらいは当然だ」
「お礼に今度何か作ってあげますよ。実は今、細工物を作ってるんです。ちなみに今日は像を彫ったんですよ」
私は出来上がったアラシェル様の像を自慢したくてバルドーさんにも得意げに話してみる。
「そうなのか?また、冒険者らしからぬことを…ん~そうだな。グリディア様の像とか作れるか?」
「グリディア様?」
「ああ。この国じゃ、あんまり馴染みがなかったな。海を渡った先で信仰を集めている勝利を司る女神様だ。冒険に行く時は一応、心の中で祈ってたんだが、実物があるとより祈りやすいと思ってな。ちゃんと報酬は払うからよろしくな」
「じゃあ、今度絵とかあったら持ってきてくださいね。無かったら特徴を言ってくれれば描き起こしますから」
「おねえちゃんって絵も得意なの?」
「体が弱いと寝ててもできることって少なかったから、そこそこは。そうだ!エレンちゃんにも何か作ろうか?」
「いいの!?じゃあ、どうしよっかな~。ん~、じゃあね、髪留めが欲しい!」
「飾り物は初めてだけど頑張ってみる。今度買い物に行く時に材料買ってくるからね。好きな色とかはある?」
「ん~、緑かなぁ?」
「緑ね。期待しないで待っててね」
「うん!」
それからも和やかに食事を済ませて部屋に戻る。エレンちゃんはもう少し片付けがあるとのことだったので、30分ぐらいで来るだろう。
「おねえちゃ~ん、起きてる~」
「今度はちゃんと起きてるよ」
ガチャ
「へへ~、早速見に来たよ~」
「初めてだけど結構いい感じだと思うから待っててね」
私は机の引き出しにしまってある木箱を3つ取りだす。そしてそれを順番にあけてベッドに置いていく。
「3つも作ったの?」
「残念。2つだけ。3つ目はちょっとした飾りかな」
エレンちゃんが置かれた神像をまじまじと見る。
「すっご~い、ねえねえどうやって作ったの?こんなきれいな像、私初めて見た!」
「そ、そう。やっぱりよくできてるよね。よかった~。自分じゃうまくできたと思ったけどいまいち自信なくて」
「これで自信なかったら何も売れなくなっちゃうよ~。ほんとにすごいな~。この人が女神様?」
「そう。アラシェル様って言うの」
「こっちの小さいのは?」
「そっちはその…アラシェル様なんだけどかわいくしたものなの」
「…おねえちゃんってすごいよね。女神様を可愛くするなんて大人が聞いたら倒れちゃうよ」
「あはは…きっと、アラシェル様なら許してくれると思う。その像はアラシェルちゃんって言うの。かわいいでしょ?」
「かわいいけど…やっぱおねえちゃんって変わってる」
ん~、やっぱり日本人のと言ったらあれだけど、何でもデフォルメ・改変な精神はこっちでもいまいち理解されないようだ。まあ確かに偉人や神様は怒ってると思うようなものもあるけどさ…。
「でも、これで私の髪飾りもすっごく期待しちゃうな~」
「あんまり期待しないでよ。細工といっても神像しかまだ作ったことないんだから」
「そんなこと言って、3箱目は飾りとか杖ばっかりだよね。きっと大丈夫だよ」
「そうかな?頑張ってみるね!」
身内のひいき目とはいえエレンちゃんにそう言ってもらえるとやる気が出るなぁ。どうせならいいものにしたいし、明日にでもおじさんのところに行って仕入れてこよう。
「じゃあ、今日は疲れてるだろうしまた明日ね、おねえちゃん」
「うん、ありがとう。エレンちゃんもちゃんと寝るんだよ」
「は~い」
エレンちゃんと別れて私は広げた像を木箱に仕舞う。これで、一旦はやりたいことも終わったし、また冒険者として明日から活動再開だ。