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休憩所でゆっくりと疲れを取る。そんな時ふと疑問がわいた。
「ジャネットさん。こういう休憩所って他にもありますよね?」
「うん、なんだい急に」
「こういうのって誰かが管理してるんですか?」
「いいや。元々、冒険者たちが勝手に切り開いて作ってるのがほとんどだよ」
「その割には結構、ここっ! って場所にありますよね」
管理者もいないのにちょっと不思議だなと思って尋ねてみる。
「当たり前だろ。普通、冒険者ってのはある程度同じ実力で固まるわけだ。そいつらが行く先は大体同じ場所だろ? そうなってくると行軍速度も大体変わらなくなってくる。じゃあ、一つのパーティーが作った休憩所は他のパーティーにとっても重要な場所になる。後はそのまま使いやすいようにって流れだね」
「へ~。じゃあ、この辺も人は来るんですか?」
「もちろんだよ。この辺りまでなら、この地方の魔物を倒すのにやってくるパーティーはいるよ。エヴァーシ村まで行くと旨味がないだけで、この辺りまでならさっきのガンドンも良い収入になるし、そのまま防具の調達も出来るからね」
「でも、行きも帰りも他のパーティーには出会いませんでしたよ?」
それなら一パーティーぐらいは出会ってそうなのに。
「あいつらは大きいから一度獲ればしばらくは値崩れするからねぇ。それに日帰りで行けるコースだから時間帯もちょっとずれてるんだよ。後はCランクならサンドリザードで稼げるし、こっちへ無理に来る必要も無いってことだね。夜に活動的な魔物が多いこっちは危険が大きいから」
「そういえば、サンドリザードって夜は活動をほとんどしないんでしたね」
「そういうこと。夜行性の魔物が多いこっちにわざわざ出向くのは腕試しの傾向が強いかもね。夜戦に慣れるのには適してるしね」
「じゃあ、ガンドンを四頭も売ったら買い取り価格って下がるのか?」
「まさか! この程度じゃ大丈夫だよ。ただ、このサイズを四頭なら鎧だけでも十着近くは出来るだろうから、しばらくは充足になるだろうね」
「じゃあ、こっちの狩り場が悪いってことも無いんだ」
「そう思うかい? あっちはサンドリザードがほぼ狩れるけど、こっちじゃローグウルフやグレーンウルフも出るし、買い取り価格が安定しないんだよ。肉は基本的に草食の魔物以外は売れないしね」
「なんでだ? 村の人は買ってたぞ?」
「村から見れば貴重な食料という目線だけど、町目線だとあくまで食材だ。美味しく食べることを考えたら、不向きなんだよ。供給量も少ないから料理方法もほとんどの人間が知らないしね」
「そういえばアルバでもウルフの肉はかなり安いですね」
毛皮のおかげでトータルは悪くないけど、肉はタダみたいなものだ。
「料理法も分からないし癖が強いとなれば当然だよ。何よりあっちはオーク肉やボア肉が簡単に手に入るしね」
それからもしばらく雑談をして休憩所を出発する。昼に活動的な魔物が少なかったのか、運良く帰りは休憩所から戦闘にはならなかった。でも魔法で牽制したことは何度かあったので、やはり安全とは言えない環境だなぁ。
「あ~、つっかれた~。ようやくレディトだぜ~」
「そうだね。こんなに町から離れたのも初めてだし、レディトでも帰ってきたって感じだね」
「二人ともお疲れ様」
「アスカは良いよな~。あの後もほとんど魔法使って移動してたろ?」
「うっ! まあ、夕方には着きたかったしね」
「それじゃあ、せっかく着いたことだしドーマン商会へ行こうかね」
「そうですね。みんなも一緒に来る?」
「予定もないしそうするぜ!」
「ああ、その前に従魔登録をしないとね。町へ入る時に言われただろ?」
「そういえば言われましたね。それじゃ、パッといきましょうか」
目的地をいったんギルドに変えて、従魔登録に行く。
「こんにちは~」
「はい~、こんにちは。今日は何のご用ですか?」
「従魔登録をお願いします!」
「従魔登録? ああ~、魔物使いの方ですね~。じゃあ、ちょっとこの針を使って登録カードを作りますので、お願いします」
「分かりました。リンネ、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
《わぅ》
リンネの身体にチクッと針を入れる。これで血液を採取して登録するのが一般的らしい。ティタはゴーレムで針が刺さらないから特殊だったんだって。
「はい~、それじゃカード出来ましたよ~」
「は、早いですね」
「迅速がモットーでしてぇ~」
お姉さんからカードを受け取る。
「えっと、リンネのステータスはと……」
名前:リンネ
年齢:3歳
種族:グレーンウルフ
従魔:Cランク
HP:400
MP:60/60
腕力:139
体力:122
速さ:222
器用さ:81
魔力:30
運:37
スキル:俊足、切断、夜目、忍び足
おおっ! リンネってかなり素早いんだね。それにスキル欄に切断ってあるなぁ。ガンドンを爪で切り裂いたのはこのスキルのおかげかな?
「はい、リンネ。あなたのステータスだよ」
《わぅ~》
自分の能力を知ってか知らずか、リンネはうんうんと自分のステータスとにらめっこしている。
「へぇ~、結構速いじゃないか。まあ、あたしの方が速いけどね」
ちょっと面白そうにジャネットさんが言うと、急にリンネが吠えだした。
「ん? 確かめてみるかい?」
《わぅ!》
リンネとジャネットさんは外に出て追いかけっこをする。結果は……。
「う~ん、まあまあだね。さすがに最高速じゃ負けるけど、左右移動のフットワークじゃ負けないね」
「んじゃ引き分けか?」
「そういうことにしといてやるよ。リンネの名誉のためにね」
「そういえば、ここで素材を売らなくて良かったんですか?」
「ん? ガンドンのかい」
「はい」
「まあ、アルバとレディトでそんなに変わらないからね。レディトじゃ狩り場が近すぎて、買い取り価格も据え置きだから、アルバならちょっとは儲かるかもって算段だよ。どのみち新鮮な肉でも大した金にならないしねぇ」
「なるほど、アルバならレディトからの輸送料が上乗せてきるんですね」
「そういうこと。バッグの容量の問題もあるから、普段なら売るんだけど、最近はあっち方面は魔物も少ないからね」
ハイロックリザードを倒した後から、魔物の出現率は下がったままだ。ジュールさんが言うにはボスモンスターであるハイロックリザードを倒したことで、他の魔物の警戒心が上がったためだという。少なくとも夏近くまではこの調子が続きそうだとのことだ。
「なあ、そろそろ商会にいこうぜ!」
「そうだった! じゃあ、しゅっぱ~つ!」
話もまとまったところで、ドーマン商会へ向かう。
「こんにちは~」
「あら、アスカ様ですね。本日はどのようなご用件で?」
「エヴァーシ村での装備の作成が終わったので、こちらに寄らせてもらいました」
「そうでしたか。では、すぐに店長を呼んできます」
レディトにも結構来ているからか最近は受付もスムーズになったなぁ。それに受付のお姉さんもたまに私の細工してくれてるんだよね。おしゃれな人に着けてもらえて私も嬉しいよ。
「お待たせいたしました。鍛冶屋の方はいかがでしたか?」
「それはもう、紹介してもらってすごく良かったです!」
「そうですか。それは会長も喜びます。では、こちらへ」
店長さんにいつもの部屋に通してもらう。でも、今日は会長さんはいないみたいだ。あんまり会えてないし、今日もどこかで商談なんだろうな。
「それでは作られた装備についてお話し頂いてもよろしいですか? もちろん、言える範囲で構いません。宣伝に使うわけですから」
「あ、はい。まずはですね……」
とりあえず私は作ってもらった順番に効果を説明していく。店長さんは言える範囲でって言ったけど、どんな効果が宣伝に向いているか私にはよく分からないから、とりあえず全部説明しておいた。
「ほう、魔石なしでの魔道具ですか……。それは珍しいですね。素材にかなりの魔力適性がないと作れないものですよ。もちろん、それなりの加工技術が無いとそもそも付与出来ませんが。そちら、付与の内容は控えさせますので、公開させて頂いても?」
「もちろんです! シャスさんにはお世話になりましたし、良い宣伝になりそうなら是非使ってください!」
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう努力しますので……。それと、エヴァーシ村でこれといったものはありませんでしたか?」
「気になったものですか?」
「はい。実は、私どももあまりあちらに行くことがないので、冒険者目線で構いませんので気になったものがあればと」
「う~ん。普通の村でしたけど……」
「まあ、アスカが円盤を作って広めたぐらいだね」
「円盤?」
「えっと、こう言うのです」
私はリンネ用の円盤を見せる。
「これはどう使うのですか?」
「えっと、ちょっと見せますね。リンネ、端っこ行って」
《わん》
普段ものぐさなリンネだけど、こればっかりは気に入ったみたいで、すぐに動いてくれる。
「えいっ!」
私が円盤を投げるとぱくっとリンネが口にくわえる。
「おおっ! ウルフ用の遊び道具ですか?」
「はい。子どもにも人気がありましたけどね。単純ですけどやってみると面白いですよ。運動にもなりますし」
「ふむ……分かりました。私どもの方でも一度作ってみますね」
しげしげと円盤を眺めた店長さんはそう言うと簡単な絵を描いていた。
「それじゃ、失礼します」
「はい。こちらこそ大変貴重な内容をお聞かせいただき、ありがとうございました」
「じゃあ、また細工が出来たら来ますので!」
「お気をつけて」
店長さんと店員のお姉さんに見送られて商会を出る。
「さあ、用事も終わったし宿を決めないと!」
「そうだねぇ。リンネが泊まれる場所を探さないとね」
そうか、従魔可の物件じゃないといけないのか……。ティタは無機物系かつ小さいから良かったけど、リンネはそうじゃないもんね。とりあえず、お風呂のお姉さんの宿に行ってみよう。




