帰郷
今日はいよいよグローブの出来る日だ。これが出来ればこの村とも一時お別れだなぁ。
「アスカ、今日で完成なんだろ?」
「はい、ジャネットさんとはここ数日ほとんど会ってませんけど、どうでした?」
「ん~。まあ、暇だけじゃなくて良かったというかなんというか」
「魔物が来たんですか?」
「ああ。どうやら件のウルフ以外にも単体でちょくちょく来るらしくてね。まあ、明日には発つんだろうから今日はやらないけどね」
「それじゃ、これからお休みですか?」
「寝過ぎないように仮眠程度だけどね。アスカもノヴァたちに会ったら、朝早くに村を発つから準備しとけって言っといてくれ」
「分かりました。それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ~」
眠そうなジャネットさんは直ぐに寝息を立てだした。
「起こさないように私もご飯食べてこよっと」
ちなみにノヴァたちはすでに現場に出て行ってる。昨日、明日には装備が完成しそうだと言うと、今日が最終日になるから村の人が少しでも多くのことを学びたいと言ってきたらしい。
「アスカ~、円盤なげて~」
「あっ、ちょっと待っててね。今ご飯食べてるから」
「早くしろよ~」
「は~い!」
私はというと昨日円盤を作ってから、子どもたちに急に人気が出た。ノヴァに聞いたら、私が居ない間もアスカが一番うまいと宣伝しまくったかららしい。嬉しいやら忙しいやら。パパッとご飯を食べて広場に向かう。
「そうだ!リンネも来て」
わふぅ~
のそのそとリンネが動き出す。うう~ん、どうやら今日は運動日和ではないらしい。とりあえず、子どもたちの相手をするのに頑張ってくれることを祈って連れて行こう。子どもの体力は孤児院で思い知ってるからね。
「は~い、みんな待った?」
「おそ~い、お手本見せて~」
「はいはい。それじゃ、いくよリンネ~」
ヒュー
うまく円盤を飛ばす。しかし…。
「リンネ取ってよ~」
リンネの上を無情にも円盤が過ぎていく。
わふっ
仕方ないな~と言う顔をして立ったリンネ。ひょっとして自分の居るところに投げろってこと?
「難しそうだけど…えいっ!」
ヒュー
投げた円盤はギリギリリンネの頭上ぐらいを目指す。
ぱくっ
頭に当たると思ったのか、情けをかけてくれたのかリンネが口でキャッチする。
「おお~、すげ~サボの奴動いた」
「おねえちゃんすご~い」
ええ、そっちなんだ。リンネって子どもたちからもそんな風に思われてたんだね。
「わたしもやりた~い」
「ちょっと待っててね」
昨日、円盤を作るならと置いてもらっている切り株を削って作る。この子は小さいからちょっと軽めに作ろう。
「はい!手はちょっとだけ戻す感じでね」
「は~い」
嬉しそうに女の子が駆けていって練習を始める。反対側にはすでに同い年ぐらいの子がスタンバイしている。
「あっ、同時に投げないようにね。危ないから」
「「は~い!」」
遊びだけど、木は堅いしルールはきちんと守ってもらわないとね。
「俺ちょっと重いのが良い!」
「はいはい。重たい分、他の人に当たらないように注意するんだよ」
「分かった」
うんうん良い返事だ。その後もいくつか作って、中心部に数字を書き込んでいく。
「何してんだ?」
「使う時にサイズが直ぐ分かるように数字を書いてるの。大きめのが4で一番小さいのが1だね」
こうやってボウリングの球みたいにサイズを決めとけば、自分に合うものが見つけやすいし、よりうまくなれるだろう。基本私の作業は特にないから、午前中は子どもたちと一緒に遊んで終わった。
「こっち、火弱めて~」
「は~い」
お昼は子どもたちと一緒に野外料理だ。量を調節すれば、野営の料理練習にもなるし子どもたちも料理に興味を持てる一石二鳥のイベントだ。
「はい、ここはこれを入れますよ~。きちんと味見をしましょうね」
「は~い」
先生役は初日にもお世話になったお姉さんだ。塩を使った簡単なものから、村の調味料を使った料理も教えてもらった。そんな私のお役目は火力調節だ。
おっきい鍋に薪を並べて火をつける。消すときは、風を使って酸素がいかないようにして消す。
「アスカちゃんありがとね」
「いいえ、みんな元気が良くって大変ですね」
「最近まで外に出るなっていってたから余計なのよ」
「それは仕方ないですね」
それにしても、小さい子も参加してるし、こういう村だと本当に小さい頃からみんなお手伝いしてるんだなぁ。
「は~い、それじゃあ一人ずつよそっていってね」
「「は~い!」」
みんなすぐ食べたいのを我慢して、かじりつくような姿勢だ。
「行き渡った?それじゃあ、どうぞ」
「わ~い!」
「やった~」
思い思いの表現で食べ始める子どもたち。煮込み料理は熱いから気を付けてね。
「それじゃ、私も~。んん~、ちょっとピリッとした感じもあって美味しいです~」
「良かったわ。中々外の人がこれを食べる機会はないから心配だったのよ」
「へ~、街でも売れると思いますけどね」
「本当?じゃあ、簡単に作り方を書いたメモを渡すから作って貰える?」
「良いんですか?」
「ええ、村の名前をつけてくれたら、それで冒険者が観光がてら来て貰えるかもしれないし」
「分かりました!」
思わぬところで、新しいレシピも手に入ったし、良いお昼ご飯だった。
「は~」
食事も終わり、子どもたちはお昼寝に行ってしまって、私たちはまったりしている。と言ってもノヴァは村の人と大工の話し、リュートはお料理談義となにもしてないのは私だけだけどね。
「リンネも子どもたちに取られちゃったし、何しよっかな?」
「アスカ、出来たぞ!」
そこへ作業完了の報せがシャスさんから入った。そんなわけで工房に来たんだけど、シャスさんテンション高いなぁ。
「アスカ、まずはつけてみろ」
「はい」
まずは手袋をつける。ちょっとごそっとしてる。
「よし、次はこれだ!」
言われた通り、薄手の手袋をつけて上からはめてみる。
「うう~ん、もうちょっとごそっとしてますね」
「よし、OKだ。それはアスカが大きくなった時用だ。普段はこっちでどうだ?」
一度、薄手のものを付け替える。ちょっと分厚いからごわっとした感触はあるものの、普通の着け心地だ。
「良い感じです!」
「よし、そうか!まだ、こいつは秘密があるからな。外にいくぞ!」
そのまま、外に出る。
「まずは、前回作ったアーススパイクは覚えてるな?」
「はい、それが何か?」
「今回は魔石を使わずに、何と!中級魔法の付与に成功したんだ!!多少は通常よりMPを消費するが、画期的なんだぞ!」
「そ、そうですか…」
多分凄いことなんだろうけど、私にはあんまりぴんとこない。そもそも私は魔石がなくては付与できないからなぁ。
「条件はグローブを地面に接地することだ!」
「こうですか?」
「それで唱えるんだ、アースウォールってな」
「あ、アースウォール!」
魔法を唱えると地面から土の壁が、そそりたった。
「こ、これって…」
「凄いだろ?」
「す、凄い!錬金術だぁ~」
昔、漫画とかアニメで見た錬金術と一緒だ~!!すっご~い!
※土の壁以外は出せません。
「ま、まあ、喜んでくれて嬉しいぜ。是非とも有効活用してくれよ」
「はい!」
何度かアースウォールの練習をする。すると…。
「アスカ、ちょっと聞きたいんだがその…手をぱぁんってするのに意味はあるのか?」
「え、ああ、予備動作みたいなものですよ。お決まり!って奴ですね」
「言いにくいんだが、変な動作を組み込むと戦いの最中に邪魔になるぞ」
「あっ、そうですよね。じゃあ、最後に一度だけ……」
ぱぁんを堪能した私は、普通に壁を作り出す練習をする。手から発動させるのは難なく出来るけど、同時に練習しているブーツの発動はまだまだ苦手だ。どうしても意識がつま先の方に向いて前を向けない。
「う~ん、ホバーはうまくいくのになぁ…」
これからの課題はこのアーススパイクの使用だなぁ。何か練習になるような使い方も考えないとね。
「そんじゃ、いったん工房まで戻るぞ」
「は~い」
練習もそこそこにシャスさんと工房に戻る。
「これで一連の依頼は完了となったわけだが、ここからは依頼料の話だ。ジャネットから聞いているかもしれないが、今回のハイロックリザードの皮を使った魔術師用装備の相場は金貨30枚だ」
「はい…最低でもそれぐらいっていうのは聞いてます」
「だが、俺も今回は売名を行いたいし、久しぶりに大口の依頼ってことで負けに負けて金貨25枚だ!」
「良いんですか?」
「ああ。それは良いんだが…張り切ったせいでちょっと問題がな。恥ずかしい話なんだが久しぶりで浮かれちまって、本来は依頼人に相談するところを忘れててな…」
なんともシャスさんにしては煮え切らない表現だ。どうしたんだろ?
「何かあったんですか?」
「そのな、ブーツなんだがアーススパイクの魔法を付与しただろ?」
「はい!これからの冒険に役立ちそうです!」
「それでな。そこに使った2つの魔石なんだが…片方で金貨5枚するもんなんだ」
「あっ。じゃあ、合計で金貨35枚ってことですか?」
「本当にすまん。本来は依頼主に追加費用については先に確認するところだったんだが…」
「良いですよ。効果としては非常に助かりますし、装備も替えの簡単に利くものじゃないですしね」
「そう言ってもらえると助かる。んで、金なんだが流石に今って訳には…」
「はい!金貨35枚です」
「んんっ!アスカお前現金で持ってるのか!!」
「はい。出かける前にジャネットさんから、こういうところだとカードは使えないから持っておくように言われましたから!」
「は~、お前金持ちだったんだな。いや、考えてみればこの皮を買えるぐらいには生活が潤ってるか…。まあ、なんにせよ助かった。これでしばらくはゆっくり出来る」
「お仕事お休みなんですか?」
「まあ、休みというかアスカが作ったものを広めるにも時間がかかるだろ?開店休業って奴さ」
「じゃあ、一杯宣伝出来るように頑張りますね」
「それはやめてくれ。毎日毎日鍛冶をするのはもう疲れたんだ。気に入った時に思いついたものを作る。それぐらいがちょうど良い。もちろん腕が上がるぐらいには続けていくがな」
「良いですね~。私も旅が終わったらのんびりしたいですね」
「まあ、気が向いたらここにも来てくれよ」
「はい!」
こうして、エヴァーシ村での目的を果たし、私たちはアルバへの帰路につくこととなった。