続、大工仕事
あれから、しばらく木材加工を続けていったん村の中央に戻ってきた。そこには現在、柱となる木材が運び込まれていた。
「おお~、改めて見ると結構切ったんだなぁ」
「おっ、アスカ来たな!今、組み合わせを作ってるから手伝ってくれ!」
「どうすれば良いの?」
「四角の中に〇があるのはくぼみを、×印のは出っ張りにしてくれ。見本がそこにあるからよろしくな」
なるほど、柱同士をつなげるのに使うんだね。
「ノヴァ君!レンガはこのぐらいの分量でいいか?」
「おう!それでかき混ぜたらしばらく寝かせるんだ」
「はいよ」
レンガ作りも順調のようだ。粘土を掘って持ってくる人に混ぜ合わせる人など、結構分担も出来ている。
「みんな一生懸命ですね」
「アスカさんたちのお陰ですよ。ローグウルフの脅威が去ってほっとしてるところだから、みんなのやる気もあるんです。私でも中々こうはまとめられませんよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
その後も作業を続けて、ひとまず一日目の成果としては柱の加工が終了。レンガも生地を寝かせる段階なので、1日は放っておくとのことだ。宿に入って食事も取った。
「あ~、今日は疲れたぜ~。まさか、ここまで来て大工仕事なんてな」
「ごめんねノヴァ。私が言い出したばっかりに…」
「いや、金も手に入るしやることもなかったから別に良いけどな。それに、親方になったみたいでちょっと楽しいしな」
「もう、ノヴァはまだ見習いだよ」
「分かってるよ、リュート。でも、アスカのお陰ですっげぇ早く出来そうだな」
「うん。村にも長くいないし、早くやっちゃわないとね」
「そうだね。アルバの方も忙しいだろうしね」
「なんにしても、疲れを残さないようにしておくれよ」
「は~い」
「じゃあ、ジャネットも手伝えよ」
「あたしは腐ってもBランクだよ。そんな手伝いするわけないだろ。やってもせいぜい、村の警備さ。というわけで後はよろしくな」
「へっ?」
「滞在期間中は門番の夜勤の手伝いだよ。そこそこの金額で話をつけたのさ」
てっきり、村長さんの家で休んでると思ったけど、お仕事探しをしてたんだ。
「アスカはこれからどうするの?」
「う~ん。リンネもここで寝泊まりするみたいだし、ちょっとお風呂に入れてあげようかと思って」
「へ~、マメだな」
「野生だからちょっと匂うしね」
「そういうことか」
「こればっかりはしょうがないよね。さ、行こうリンネ」
わぉん
私はリンネを連れて宿の庭に出る。たらいを持ってきて水を入れてと。
「後は火の魔法で温度を調節するだけだけど…リンネ、いい温度になったら足を上げてね」
リンネの前足を片方だけ入れて温度を上げていく。ちょっとぬるいというところで足を上げたので、これが適温なんだろう。私は今日切った木を焼いて作った炭を出して、それをたらいに入れて洗ってあげる。
「どう?痛かったりしない?」
わん!
大丈夫そうだ。いったん体を流したいので出るように促す。ん?なんかやな予感…。
「ウィンドケープ」
風の膜を体に張り巡らす。ほんとはウィンドバリアなんだけど、この呼び方の方がイメージしやすいのだ。
ブルブルブル
リンネがこれ見よがしに体を回転させて水をはじく。危なかった。服が水浸しになるところだったよ。
「他の人の時はちゃんと周りに注意するんだよ~」
わふ?
うう~ん、通じてないのか分かってないのか不安だ。とりあえず、冷めないようにもう一回だけ洗ってと。
「後は、乾燥させてあげるね。さっきもぬるい温度だったし、ちょっと、熱は低めでと」
軽い熱風を送り込んで乾燥を促す。これぐらいならリンネも熱くないだろう。
わふぅ~
「わっ!ちょっとリンネ。こんなところで寝たら風邪引くよ。ほら、部屋に行こう?」
なんとかリンネを部屋まで連れて行くと、今日の疲れが一気に来た。
「うう~ん、私も眠くなってきちゃった。とりあえずお祈りして今日はもう寝よう」
ちなみにお祈りはちょっと舞ってみたんだけど、リンネが飾りに興味津々でくっついてこないようにするのに疲れた。
「はう~、疲れた~。お休み」
わん
元気いっぱいのリンネの返事を聞きながら私は眠りについた。
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「おはよう~リンネ」
わぅ
軽く挨拶をしただけだけど、リンネは起きてたみたい。そういえば元々は夜行性だっけ?今から寝るのかな?
「きちんとご飯もらうんだよ」
わん!
「元気な返事でよろしい。じゃあ、私はと…」
着替えて下に降りる。宿屋はみんな作りが似ていて、1階が食堂で2階から部屋になっているのがほとんどだ。
「この宿屋は小さいから2階までだけどね」
そもそも、こんな田舎には宿泊客も珍しいみたいで普段は閉めてるとのこと。じゃあ、普段は何をしているのかというと普通に農業で生活してるんだって。宿をしているのは外の人を泊めるところがないから仕方なくやっているらしい。宿も普段は集会所代わりで、定期的に掃除がされるようになってるんだって。
「おはよう、朝ご飯はおいておきますね」
「あっ、ありがとうございます」
宿の食事についても基本、朝は野菜。夜は簡単なものが2種類ぐらい。だけど、結構これが楽しみなんだな。
「うう~ん、取れたて野菜おいし~」
そう、当然朝に出る野菜も夜に出る野菜も取れたてだ。必要な分だけ取ってくるから新鮮なんだ。街の市場も新鮮なものも多くあるけど、やっぱり産地直送とは行かず、しなびてたり加熱がいるものも多い。こういうところの特権だよね。
「さあ、今日も頑張ろ~」
「おお…」
「あっ、ノヴァ起きてきたんだね」
「ああ、アスカは朝から元気なんだな…」
ノヴァって実は低血圧なんだろうか?折角の朝だっていうのに元気がない。
「ほらほら、ちゃんと食べないとお昼まで持たないよ。今日は朝から解体と骨組み作るって言ってたじゃない!」
「ん?ああそうだな。もぐもぐ」
テンション低って思ってたんだけど…。
「さあ!続きだ続き!」
ご飯を食べてちょっとしたら元気になった。というわけでリュートも誘って今日も一緒に作業を開始する。
「おっ、頑張ってきなよ」
「はい」
入れ替わりで今から休むジャネットさんに挨拶をして現場に向かう。ちなみに解体には住んでいた人も立ち会うんだって。
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます、村長さん」
「早速ですが、解体をお願い出来ますか?」
「おう!っていっても俺じゃ出来ないからアスカ頼むな」
「はいは~い」
まずは風の魔法であたりを覆って、柱を切断して上から圧力をかけると。
ズシーン
家だったものが一気に潰れる。風の囲いのお陰でほこりとかは押さえれているけど、その中は煙で全く見えない。
「ああ、家が…」
解体だと分かっていても長年住んでいた家だから、思い入れがあったんだろうなぁ。しばらくすると煙も消えて潰れた家が見えてくる。
「さあ、嘆いていても仕方ない。さっさと木材を運んでしまわないとな」
「…そうだな。よし、やるか!」
朝から家主さん以外にも村の人がたくさん集まって片付けを手伝ってくれる。私も魔法の消費が抑えられて助かる。
「そういえばノヴァ。この木材はどうするの?」
「これか?う~ん。柱に使われてた奴はともかく、板のはなぁ。強度もねぇし燃料かな?」
「そっか…中々、リフォームって感じで使い回すのは難しいんだね」
「リフォームが何かは分かんねぇけど、ちゃんと見極めたら使えるぜ?色とかも渋くなってるし、あと、丈夫なのもちゃんとあるからな」
「でも、さっきは燃やすって…」
「そりゃ、一枚一枚見てたら日が暮れちまうからな」
「そっか」
私たちも長く滞在はしないんだし、スピード勝負だもんね。私も気持ちを切り替えて片付けに加わる。大体の除去が終わったところで私の出番だ。細々としたかけらなんかを一気に風魔法で集めて1カ所に固める。これは壁材にも使えるそうだから、近くに固めておいてと。
「さあ、これで後は建てるだけだね!」
「それが難しいんだけどな」
そう言いながらもノヴァは平たい石を置いていきそこに柱を立てて土台を組んでいく。もちろん、土台の部分は先に押し固めている。
「ほら、そこはこれを組んでくれ。あっ、そこはまだ入れんなよ!外すの大変だから」
「はい!」
村の人たちも若いノヴァの指示に従ってくれる。中にはどうやって作ってるのかメモを取ってる人もいる。まあ、私たちも住み込みって訳じゃないから、自分たちで出来るに越したことはないしね。
「よしっ!これで土台はOKだな!」
「それじゃあ、午後はどうするの?」
「そうだな~。とりあえず屋根からだな。そんで次に階段とか部屋の間取りに合わせて作っていって、最後に壁だな」
「へ~、最初に壁じゃないんだね」
「当たり前だろ!最初に壁作っちまったら、中が暗くて見えねぇだろ。照らすのには金がかかるんだぜ?」
そう言われればそうか。魔法でちょちょいって訳にはいかないもんね。電気が通ってるわけでもないし。宿の明かりも私は自分で魔石に魔力を送ってるけど、魔力の少ない人は燃料の明かりを使うって聞いたことがあったっけ。
「という訳でアスカ。悪いんだけど、先に板を作ってくれないか?」
「いいよ」
「んじゃあ、厚みはこのぐらいで、加工とかはこっちでやるから」
「は~い!」
私はみんなと別れて昨日の伐採地へと向かった。
「さて、頑張らないとね」
早速、木を切ったり板を作ったりとせかせかと動く。1時間ほどで、とりあえず10本分の板が出来た。
「これぐらいならしばらく持つかな?」
そうと決まれば早速昼食だ!
村に戻って、みんなのいる広場でご飯を食べる。数日間は村の人たちも手伝うのでこうして一緒に食べるのだ。
「ごめんねアスカちゃん。長く働かせてしまって」
「いいえ~、その分午後はしばらく休めますし」
時間に余裕がないので、私が作業をしてる間にみんなが休んで、さっきノヴァたちは作業に戻っていった。これから私の作った板を運んで、屋根を作っていくのだろう。
「おっ、いたいた!」
お姉さんと一緒に休んでいると、シャスさんがやって来た。
「どうしたんですか?」
「とりあえずだが、胸当てのところが形だけだけど試作できたから実際につけてもらおうと思ってな」
「そうなんですね。ちょっと待っててください。すぐに行きますから」
「おう!んじゃな!」
「あっ、シャス!待ちなさい!!またご飯抜いてるでしょう?きちんと食べなさい」
「…はいはい」
こうして、私とシャスさんとお姉さんの三人でちょっと遅めの昼食を食べたのだった。