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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと最後の季節、春

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続、大工仕事

 

 あれから、しばらく木材加工を続けていったん村の中央に戻ってきた。そこには現在、柱となる木材が運び込まれていた。


「おお~、改めて見ると結構切ったなぁ」


「おっ、アスカ来たな! 今、組み合わせを作ってるから手伝ってくれ!」


「どうすれば良いの?」


「柱の先に〇があるのはくぼみを、×印のは出っ張りにしてくれ。見本がそこにあるからよろしくな」


 なるほど、柱同士をつなげるのに使うんだね。


「ノヴァ君、レンガはこのぐらいの分量でいいか?」


「おう! それでかき混ぜたらしばらく寝かせるんだ」


「はいよ」


 レンガ作りも順調のようだ。粘土を掘って持ってくる人に混ぜ合わせる人など、役割分担も出来ている。


「みんな一生懸命ですね」


「アスカさんたちのお陰ですよ。ローグウルフの脅威が去ってほっとしてるところだから、みんなのやる気もあるんです。私でもなかなかこうはまとめられません」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 その後も作業を続けて、ひとまず一日目の成果としては柱の加工が終了。レンガも生地を寝かせる段階なので、一晩は放っておくとのことだ。

 なので、私たちは宿に戻って食事を取った。


「あ~、今日は疲れたぜ~。まさか、ここまで来て大工仕事なんてな」


「ごめんねノヴァ。私が言い出したばっかりに……」


「いや、金も手に入るしやることもなかったから別に良いけどな。それに、親方になったみたいでちょっと楽しいしな」


「もう、ノヴァはまだ見習いだよ」


「分かってるよ、リュート。でも、アスカのおかげですっげぇ早く出来そうだな」


「うん。村にも長くいないし、早くやっちゃわないとね」


「そうだね。アルバの方も忙しいだろうしね」


「あんたたち、何にしても疲れを残さないようにしておくれよ」


「は~い」


「じゃあ、ジャネットも手伝えよ」


「あたしは腐ってもBランクだよ。そんな手伝いするわけないだろ。やってもせいぜい、村の警備さ。というわけで後はよろしくな」


「へっ?」


「滞在期間中は門番の夜勤の手伝いだよ。そこそこの金額でこっちも話をつけたのさ」


 てっきり、村長さんの家で休んでると思ったけど、お仕事探しをしてたんだ。


「アスカはこれからどうするの?」


「う~ん。リンネもここで寝泊まりするみたいだし、ちょっとお風呂に入れてあげようかと思ってる」


「へ~、マメだな」


「野生だからちょっと臭うしね」


「そういうことか」


「こればっかりはしょうがないよね。さ、行こうリンネ」


《わぉん》


 私はリンネを連れて宿の庭に出る。たらいを持ってきて水を入れてと。


「後は火の魔法で温度を調節するだけだけど……リンネ、いい温度になったら足を上げてね」


 リンネの前足を片方だけ入れて温度を上げていく。ちょっと温いところで足を上げたので、これが適温なんだろう。私は今日切った木を焼いて作った炭を出して、たらいに入れて洗ってあげる。


「どう? 痛かったりしない?」


《わん!》


 大丈夫そうだ。いったん身体を流したいので出るように促す。ん? なんかやな予感……。


「ウィンドバリア」


 風の膜を身体に張り巡らす。


 ブルブルブルとリンネがこれ見よがしに身体を回転させて水を弾く。危なかった。服が水浸しになるところだったよ。


「他の人の時はちゃんと周りに注意するんだよ~」


《わふ?》


 うう~ん、通じてないのか分かってないのか不安だ。とりあえず、身体が冷めないようにもう一回だけ洗ってと。


「後は、乾燥させてあげるね。さっきも温い温度が気に入ったみたいだし、ちょっと温度は低めでと」


 軽い熱風を送り込んで乾燥を促す。これぐらいならリンネも熱くないだろう。


《わふぅ~》


「わっ!? ちょっとリンネ。こんなところで寝たら風邪引くよ。ほら、部屋に行こう?」


 何とかリンネを部屋まで連れて行くと、今日の疲れが一気に来た。


「うう~ん、私も眠くなってきちゃった。とりあえずお祈りして今日はもう寝よう」


 ちなみにお祈りはちょっと舞ってみたんだけど、リンネが飾りに興味津々でくっついてこないようにするのに疲れた。


「はう~、疲れた~。お休み」


《わん》


 元気いっぱいのリンネの返事を聞きながら私は眠りについた。




「おはよう~、リンネ」


《わぅ》


 挨拶の返し方からどうやらリンネは一晩中起きてたみたい。そういえば元々は夜行性だっけ? じゃあ、今から寝るのかな?


「きちんとご飯もらうんだよ」


《わん!》


「元気な返事でよろしい。じゃあ、私はと……」


 着替えて一階に下りる。宿屋はみんな作りが似ていて、一階が食堂で二階から部屋になっている建物がほとんどだ。


「この宿屋は小さいから二階までだけどね」


 そもそも、こんな田舎には宿泊客も珍しいみたいで普段は閉めてるとのこと。じゃあ、普段は何をしているのかというと普通に農業で生活してるんだって。

 宿をしているのは外の人を泊めるところがないから仕方なくやっているらしい。宿も普段は集会所代わりで、定期的に掃除がされるようになってるみたい。


「おはよう、朝ご飯を置きますね」


「あっ、ありがとうございます」


 宿の食事も基本、朝は野菜。夜は簡単なものが二種類ぐらい。だけど、結構これが楽しみなんだな。


「うう~ん、取れたて野菜美味し~」


 そう、当然朝に出る野菜も夜に出る野菜も取れたてだ。必要な分だけ取ってくるから新鮮なんだ。街の市場にも新鮮なものも扱う店はあるけど、やっぱり産地直送とは行かず、しなびてたり加熱がいるものも多い。こういうところの特権だよね。


「さあ、今日も頑張ろ~」


「おお……」


「あっ、ノヴァ起きてきたんだね」


「ああ、アスカは朝から元気なんだな……」


 ノヴァって実は低血圧なんだろうか? せっかくの朝だっていうのに元気がない。


「ほらほら、ちゃんと食べないとお昼まで持たないよ。今日は朝から家の解体と骨組みを作るって言ってたじゃない!」


「ん? ああそうだな。もぐもぐ」


 ノヴァったらテンション低いなって思ってたんだけど……。


「さあ! 昨日の続きだ続き!」


 ご飯を食べてちょっとしたら元気になった。というわけでリュートも誘って今日も一緒に作業を開始する。


「おっ、頑張ってきなよ」


「はい」


 入れ替わりで今から休むジャネットさんに挨拶をして現場へ向かう。ちなみに家の解体には住んでいた人も立ち会うんだって。


「おはようございます、皆さん」


「おはようございます、村長さん」


「早速ですが、解体をお願い出来ますか?」


「おう! っていっても俺じゃ出来ないから、アスカ頼むな」


「はいは~い」


 まずは風の魔法で辺りを覆って埃を飛ばなくしたら、柱を切断して上から圧力をかけると。


 ズシーン


 家だったものが一気に潰れる。風の囲いのお陰で埃は押さえれているけど、中は煙で全く見えない。


「ああ、家が……」


 解体だと分かっていても長年住んでいた家だから、思い入れがあったんだろうなぁ。しばらくすると煙も消えて潰れた家が見えてくる。


「さあ、嘆いていても仕方ない。さっさと木材を運んでしまわないとな」


「……そうだな。よし、やるか!」


 朝から家主さん以外にも村の人がたくさん集まって片付けを手伝ってくれる。私も魔法の消費が抑えられて助かる。


「そういえばノヴァ。この木材はどうするの?」


「これか? う~ん。柱に使われてたやつはともかく、板はなぁ。強度もねぇし燃料かな?」


「そっか……中々、リフォームって感じで使い回すのは難しいんだね」


「リフォームが何かは分かんねぇけど、ちゃんと見極めたら使えるぜ? 色も渋くなってるし。後、丈夫なのもちゃんとあるからな」


「でも、さっきは燃やすって……」


「そりゃ、一枚一枚見てたら日が暮れちまうからな。依頼主の希望がないとしないぜ」


「そっか」


 私たちも長く滞在はしないんだし、スピード勝負だもんね。私も気持ちを切り替えて片付けに加わる。大体の除去が終わったところで私の出番だ。

 細々としたかけらを一気に風魔法で集めて固める。これは混ぜて壁材にも使えるそうだから、近くに避けておく。


「さあ、これで後は建てるだけだね!」


「それが難しいんだけどな」


 そう言いながらもノヴァは平たい石を置いていき、そこに柱を立てて土台を組んでいく。もちろん、土台の部分は先に押し固めている。


「ほら、そこはこれを組んでくれ。あっ、そこはまだ入れんなよ! 外すの大変だから」


「はい!」


 村の人たちも若いノヴァの指示に従ってくれる。中にはどうやって作ってるのかメモを取ってる人もいる。まあ、私たちも住むわけじゃないから、自分たちで出来るにこしたことはないしね。



「よしっ! これで土台はOKだな!」


「それじゃあ、午後はどうするの?」


「とりあえず屋根からだな。そんで次に階段とか部屋の間取りに合わせて作っていって、最後に壁だな」


「へ~、最初に壁じゃないんだね」


「当たり前だろ! 最初に壁作っちまったら、中が暗くて見えねぇだろ。照らすのには金がかかるんだぜ?」


 そう言われればそうか。電気が通ってるわけでもないし、魔法でちょちょいってわけにはいかないもんね。宿の部屋の明かりも私は自分で魔石に魔力を送ってるけど、魔力の少ない人は燃料の明かりを使うって聞いたことがあったっけ。


「というわけでアスカ。悪いんだけど、屋根用の板を先に作っててくれないか?」


「いいよ」


「んじゃあ、厚みはこのぐらいで、細かい加工はこっちでやるから」


「は~い!」


 私はみんなと別れて昨日の伐採地へと向かった。


「さて、頑張らないとね」


 早速、木を切ったり板を作ったりとせかせかと動く。一時間ほどで、とりあえず木十本分の板が出来た。


「これぐらいならしばらく持つかな?」


 そうと決まれば早速昼食だ!

 村に戻って、みんなのいる広場でご飯を食べる。数日間は村の人たちも手伝うのでこうして一緒に食べるのだ。


「ごめんねアスカちゃん。長く働かせてしまって」


「いいえ~、その分午後はしばらく休めますし」


 時間に余裕がないので、私が作業をしてる間にみんなが休んで、さっきノヴァたちは作業に戻っていった。これから私の作った板を運んで、屋根を作っていくのだろう。


「おっ、いたいた!」


 お姉さんと一緒に休んでいると、シャスさんがやって来た。


「どうしたんですか?」


「とりあえずだが、胸当てのところが形だけ試作できたから実際につけてもらおうと思ってな」


「そうなんですね。ちょっと待っててください。すぐに行きますから」


「おう! んじゃな!」


「あっ、シャス! 待ちなさい!! またご飯抜いて、きちんと食べなさい」


「……はいはい」


 こうして、私とシャスさんとお姉さんの三人でちょっと遅めの昼食を食べたのだった。



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