作成開始!
「んじゃ、今から作ってくが何か希望の柄はあるか?」
「う~ん。特にないですね。実用的なものがいいですし……」
「でも、ワンポイントでもいいから何かあった方がいいんだが」
「あっ! ならこれと一緒のやつ入れてください」
私はバッグからバラの飾りを取り出すとシャスさんに見せる。
「へぇ、なかなかいい出来だ。しっかり作られてるし、帝国の花か?」
「はい。向こうの本を見て作ったやつですよ」
「作った!? あんた細工もするのか?」
「一応……」
そういえば、ステータスは魔力しか言ってなかったっけ。ごそごそと取り出してステータスを改めて見せる。
「ほう? 器用さも高いね。でも、腕力がそれぐらいなのはさすがに魔法使いってわけか。ん、魔物使い? お嬢ちゃん魔物使いなのか?」
「はい、一応ですけど。従魔もゴーレムと昨日なったグレーンウルフのリンネしかいませんけど。あっ、この村ではサボって言われてたみたいですね」
「いや、その二匹でも十分だよ。それでサボがわざわざ村に入って来てたのか。あいつも村までは入らないようにしてるからおかしいとは思ってたが……。ま、従魔ってのはいればいいってもんじゃない。お嬢ちゃんからしても、いっぱいいたって金はかかるし、MPのやりくりが大変だろ? 使えるのが数匹でいいんだよ。にしても細工か……」
「どうかしたんですか?」
私が細工師だと知ると、考え込む仕草を見せるシャスさん。やっぱり、おしゃれとかしたいのかな?
「いや、この村って小さいだろ? 大工ってのがいなくて、みんな見よう見まねでな。ガタが来ているところとかもあって……」
「でも私、家は作れませんよ」
「家を作ってくれとは言わん。木材にして運んでくれれば助かる。どうせ、これを作るのにも数日かかるしな」
「そういえば、ジャネットさんも結構かかりましたね」
「ああ、向こうもちょっと立て込んでてね。どうするんだいアスカ?」
「材料だけ預けていったん帰るつもりだったんですけど、数日なら居ましょうか」
「それがいいね。進行状況を確認しながら作れるしね」
「なら決まりだな。村にもきちんと依頼料を出すように言っておくから頼む」
「分かりました。そうだ! 見習いですけど、大工がいるのでその子にも手伝ってもらいますね」
「ああ、人手や職人はこっちも助かる。年寄りは知識はあっても動けないからな。んじゃ、ちょっと待ってな。すぐに話をつけてくるから」
そういうとシャスさんはすぐに飛び出て行った。
「早いなぁ」
「感心してる場合じゃないよ。全く、せっかくの休暇が……」
「まあまあ、人の役に立てますしお金も手に入りますよ」
「しょうがないねぇ。まあ、がんばんなよ」
「はい!」
三分ほどでシャスさんが帰ってきた。村長さんの家までちょっと距離はあるのに早いなぁ。
「話は付けてきた。悪いが頼むな。こっちはこっちで精いっぱいやるから」
「はい、お願いしますね」
「んじゃ、まずは型作りからだな。え~と、ここがこうでこの辺はこのぐらい。くびれはと……」
「ちょ、ちょっと何で裸像なんですか!」
「いや、季節で服装も変わるし、ここから服着せてサイズ調整するんだよ。いいだろ別に、未来の自分なんだから」
「だから駄目なんです! 絶対! 絶対、男の人は入れないでくださいね!」
「お、おう……。まあ、工房まで入ってくる奴はいないから」
「約束ですよ! それじゃ、家の話してきますから」
「頑張ってくれよ~」
私たちはシャスさんと別れて、村長さんの家に向かう。途中、会った人に聞いたらノヴァたちも一緒にいるらしい。
「こんにちは。家の話なんですけど……」
「おおっ、アスカさん! 話はシャスから聞きました。ありがとうございます。大工出身のものも高齢化して困っていたんですよ。小さな村だと家の更新も大変で……」
「そうなんですね。どこまでできるか分かりませんが、頑張ります。後、ノヴァも手伝ってくれる?」
「俺がか? 別に暇だからい~けど」
「良かった~。実はノヴァは普段大工の仕事をしてるんです。きっと、お役に立てますよ。ノヴァ、ちゃんと報酬も出るからね」
「ほんとか! よっしゃそれなら頑張るぜ!」
「では、道具はありますので、用意しますね。木材はシャスの工房の奥から調達をお願いします。場所は案内しますので」
「よろしくお願いします!」
十分ほどすると、村長さんの家の前には大工道具が並んでいた。
「年季入ってんな~」
「ええ、今は高齢で作業は出来ませんが、その者が使っていた道具です」
「ノヴァ、大丈夫そう?」
「ん、手入れはきちんとされてるみたいだから大丈夫だな。リュートも手伝えよ!」
「ノヴァの指示で動くだけになるけどいい?」
「おう! どうせ暇だろ?」
「まあね。それじゃ、アスカの切った木を運んだり、ノヴァの手伝いをしようかな」
「んじゃ、あたしはちょっと休むよ。手が必要になったら呼びな」
「はい!」
「では先に修理する家を見てもらいましょう」
村長さんに案内されて、ちょっと奥の家に行く。
「これは……」
「ぼろいな」
屋根は傾いてるし、ちょっと穴も空いてるし、冬はきっと寒いだろうな。
「村長さん。修理の当てが出来たって本当かい!」
「ああ、この人たちだよ」
「この人って、お嬢ちゃんたちはさっき広場にいた冒険者かい?」
「はい! 今回はよろしくお願いしますね」
「こっちこそ! いい加減風は入ってくるし、ギシギシうるさいしで参ってたんだ」
「んじゃ、まずは材料の確認だな。これぐらいなら柱が……板が……。屋根の作りはと……」
ぶつぶつ呟きながらノヴァがメモを取っている。紙が高いから木の板に書いてるのが様になってる。
「おっし、大体の本数が分かったぜ。柱に十本、周りに三十本ぐらいだな。足りなくなったら足せばいいからな。おっといけねぇ。周りの囲いも板でいいのか?」
「あ、ああ、そうだが」
「なら追加四十本かな? 後はやってみてだな」
「へ~、本当に大工さんみたい」
「大工だよ! 普段は冒険者だけどな」
勤めて半年ちょっとなのに、もう結構仕事ができるみたいだ。元々、そこそこ力はあったし、ほとんど毎日やってるもんね。
「そういえば村長さんの家はレンガ造りですけど、周りの家は板張りなんですね?」
「レンガの方が火に強いからです。火災時の緊急避難場所なんですよ。もっとも、この小さな村で一軒残ったところでどうしようもないと思うのですが……」
伝統ということで、何十年かに一度建て替えてるんだそうだ。
「自分のところで焼かないのか?」
「粘土があっても温度を管理して焼ける人がいなくてね。以前やった時は半分以上が割れちまったんだ。本当は何軒かはそうしたいんだけどな……」
「ならちょっとやってみるか? 俺もちょっとは習ってるぞ?」
「良いのかい? 是非頼みたい!」
「だけど、火の扱いはそこまでじゃないからな~。温度ぐらいは見ればなんとか分かるけど……」
「それじゃあ、その工程は私がやるよ。火の扱いなら任せて!」
こうして、私たちは家作りとレンガ作りを並行して行うことになった。
「じゃあ、まずはなんと言っても建て替えだね。これが進まないと他のことが出来ないし」
「では木材用の場所へ案内しますね」
村長さんについて行き、再び工房の前まで来る。今度は工房を通り過ぎて、ちょっと奥に行く。
「おお~、良い木がいっぱいあるな!」
「ええ、こういう時のためにずっと手入れしてるんです。もっとも、最近は薪にする分以外はほとんど手つかずですが……」
「もったいねぇな~」
「さあ、それじゃやっていこっか」
まずは手前のところをならして、木材が置けるだけの平地を作る。
「あっ、そうだ! 村長さん。今からどんどん木材持って行きますから、家を取り壊せるように準備してもらっていいですか? ついでにレンガの下準備もお願いします」
「分かりました。彼には宿にしばらく泊まってもらいます。レンガの件も村人に協力してもらいましょう」
村長さんから家の持ち主に家財の移動をしてもらうように言伝、作業を続ける。
「柱はこの木でいい?」
「おう! そっちは板にするから置いといてくれ。骨組みを先にしてぇからな」
「は~い」
エアカッターでどんどん木を切っていく。
「リュートそっちはどう?」
「うん、何とか……」
リュートは連続で魔法を使うのに慣れていないみたいで、最初は木を切ったら危うく木が倒れかけた。もっとポンポンポンってリズム良くって言ったら渋い顔をしていたな。
「リュート、アスカの半分以下の作業量だぞ」
「う~ん。これは僕は運ぶのに専念した方が良いかもね。そんなに簡単にはできないよ」
「そっかなぁ~」
シュッシュッ スパッ
右手で放った魔法で木を切って、左手で放った魔法で切った木を成形していく。もちろん、倒れないように風で包み込んでの作業だ。
「ん~、何かにこの作業似てるんだよね……。何だっけ? そうだ! これって洗濯に似てるんだ!」
空中で洗濯する時に右側で回転、左は逆回転。そして、水がこぼれないように空中でとどまるように意識する。あの作業と大体一緒なんだ。
「通りで簡単にできると思ったよ」
「なあ、リュート。宿ではどんな洗濯してるんだ?」
「ぼ、僕は普通にやってるよ。アスカのはちょっと……いやかなり難しいかな?」
「そっか……」
それから十分間ほど、二人は黙って作業してた。なんだかんだ言って作業に集中してたみたいだ。
「とりあえず、二十本ほど柱が出来たよ」
「はえぇな、おい」
「じゃあ、僕らは一度運んで来るね」
「うん!」
「アスカはもう十本ぐらい柱を作っといてくれ」
「終わったら?」
「ん~、板になるんだけど、厚みを聞いてねぇから四角柱にしておいたら良いぜ」
「は~い」
リュートが一度に二本を風の魔法で運んでいく。ノヴァは一度村に行ってから、大人たちと一緒に運んでいく。私はというと……。
「そ~れ!」
次々に木材を加工していく。ちなみに小さい枝とかは? ってノヴァに聞いたら、木材を合わせるのに使ったりするからいくつかは取っておいて欲しいと言われた。
「でも、自分で言い出しといてなんだけど、私って何屋なんだろう?」
冒険者だけど、普段は細工で生計を立てて、現在は大工仕事の真っ最中。
「う~ん。まあ、気にしないでおこう」
※章を終わらせたいのになぜイベントを挟んでしまうのか…




