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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと最後の季節、春

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到着、エヴァーシ村


 エヴァーシ村に着いたというか、村の入り口には着いたんだけど……。


「なんだ、お前らは? こんな時間に……」


「ちょっとこの村に用事がありまして、夜更けまでには着きたかったんですけど」


「む、まさかレディトから歩き詰めで来たのかお嬢ちゃん?」


「休憩は何度か取りましたけど……」


「それはご苦労だが、今日はもう宿は閉まってるぞ」


「やっぱり……村には入れてもらえますか?」


「それは身元が確認出来たらだな。何かあるか?」


「冒険者証は?」


「正規のものだろうな。せめてCランクのものを見せてくれたらな」


「なら、あたしので十分だね」


 ジャネットさんが冒険者証を門番に見せる。


「ほう、Bランクか。こんな村にわざわざ何の用なんだ? 特に何もない村だが」


「腕利きの鍛冶屋さんがいるって聞いて来たんです」


「ああ、シャスさんの用事か。そういや前に商人が来てたな」


「その商人さんの紹介なんです」


「悪いが、そこの見張り小屋を使ってくれ。夜に人を入れたら怒られちまうからな」


「はいよ」


《わぅ》


 リンネも一声鳴いて入っていく。


「ん? お前サボか?」


《わぅ》


「この子を知ってるんですか?」


「ああ。この村じゃ有名だよ。狩りもせずに村の近くにやってきては村人に食べ物をねだる奴だ。狩りをサボって生活してるからサボって呼んでるんだよ」


「リンネ、そんな生活してたの?」


《わぅわぅ》


 どうだと胸を張ってるみたいだけど、自然界において餌をもらって過ごしてるのってそんなに自慢することかな?


「まあ、本人が納得してるなら良いか」


 私たちは案内された小屋に入っていく。当然、明かりもないので、火の魔法を明かり代わりにする。


「うわっ、ベッド壊れかけじゃん」


「まあ、見張りの休憩用だしこんなもんだろ。ほら、文句言わずに用意するよ」


 食事もまだだったので簡単ながらも干し肉などを入れてスープを作る。


「後はこれも入れよっと」


「ん? アスカそれ何?」


「草」


「いや、なんのやつ?」


「さあ? でも、見たことあるから多分薬草だよ」


「まあ、うまけりゃ俺は良いぜ」


 ということで、休憩中にとりあえず採っておいた薬草らしきものを入れて一緒に煮る。


「もう良いかな?」


「じゃあ、火を切るね~」


 リュートから完成の合図をもらったので、火を消して後は余熱調理だ。


《わふっ》


「ん、リンネも食べたい? でも、色々入ってるからなぁ~。こっちで我慢してね」


《くぅ~ん》


 ううっ、その目が憎い。でも、人間の食事は危ないからだめだ。リンネの誘惑をかわして、とりあえず干し肉を戻したものをあげる。


「なんだかんだいっても、あげれば喜んで食べるんだね君は……」


《わぅぅぅぅ》


 当然だろと顔と態度で示されてしまった。これはサボと呼ばれるのも仕方ないかな。


「そろそろ出来上がりだよ、アスカ」


「は~い、ちょっと出てくるね。先に食べてて」


 私は器にスープを盛り付けるとその足で門番さんのところへ持って行く。


「はいどうぞ!」


「おおっ、良いのか? 夜はまだ肌寒くて助かる」


「いいえ、私たちは火の番だけですから」


「こうして温かい食事を貰えるだけでもありがたいよ。火を使うっていっても、薪も限られてるからつい冷たいもので済ませちまうんだ」


「そうなんですか、大変ですね」


「まあ、もう慣れたけどな。嬢ちゃんはこういうの慣れないようにしなよ」


「は~い!」


 元気に返事をして門番さんと別れて小屋に戻る。


「ん? アスカもう食べたの」


「門番さんにあげただけだよ。それじゃ、頂きま~す」


 ん~、外に出てちょっと冷えた身体に染み渡って美味しい! あり合わせで作ったのに良い味してるなぁ。


「リュート、料理うまくなったね」


「そう? 自分じゃよく分からないけど」


「いいや、確かにうまくなってるよ。最初の頃はあたしと変わらないぐらいだったろ?」


「でも、宿でたまに作ると常連さんには僕が作ったってすぐに分かっちゃうんですよね」


「そりゃ仕方ないだろ。エステルにライギルさんだろ? あの二人、いっつも何か考えてるよな。俺もたまに行くけど、大体新メニューが何かあるんだよ」


「そうかな? 最近はパン以外はあんまり見てないと思うけど……」


「リュートが一緒に加わってるから、気づいてないだけじゃない? 私も夜はほとんど宿だけど、結構違うよ?」


「アスカが言うなら間違いないね。何せ、宿以外で姿を見ないからね」


「そこまでじゃないですよ。今回もこうして来てるじゃないですか?」


「でも、結局街では見かけないだろ? 冒険か宿か極端なんだよねぇ」


「ベ、ベルネスとかにもいますよ」


「ああ、店番がそういや言ってたな。アスカが来ると季節の変わり目か~って」


「ええっ、店長さんが?」


「はっ? あいつ店長だったのか……今までただの店員だと思ってたぜ」


「というか、ノヴァもベルネス行くんだね。リュートなら分かるけど……」


「僕は行かないね。高いし、そこまでこだわりがないから」


「俺だって、ちゃんと行くぜ! 女将さんの服とか見にな」


「お世話になった人にきちんとしてるんだね」


「まあな」


 その後もわいわいと話をしながら楽しく食べた。そして寝る時間なんだけど……。


「ほら、ベッドはアスカだからお前らはさっさとテントを張りな」


「ジャネットさんは?」


「あたしは、このベッドが大きいから借りるよ」


「そうですか。それじゃ、二人とも頑張ってね。リンネは門番さんと見張りよろしくね」


《わぉん!》


 張り切ってリンネは外に出て行った。毛皮は暖かかったし、外でも問題ないんだろうな。


「さすがにちょっと獣くさいしね。帰ったらちゃんと洗ってあげないとね」


 それより、ミーシャさんたちにきちんと説明しないとね。ティタたちは物わかりが良い子だけど、ちょっとリンネは癖があるし。でも、今は何より……。


「おやすみなさ~い」


 今日は歩き疲れたのでくたくただ。




「ふわぁ~、よく寝た~」


 ベッドから起きて外に出る。出る時にチラリと周りを見てみたけど、まだみんな寝ていたみたい。ひょっとしてあれから直ぐ寝なかったのかな? まあ、とりあえず村の方にでも行ってみようかな?


「おはようございます。村の人たちってもう起きてますか?」


 とりあえず、門番さんに挨拶をしてちょっと村の情報を聞いてみる。


「ああ、君か。もう、大体のところは起きてるよ。とりあえず村長さんのところに行ってみると良いよ。そこの奥にあるちょっと大きい建物だから」


「勝手に訪ねても良いんですか?」


「それぐらい気にしないさ」


「ありがとうございます」


 早速、教えてもらった家に行く。


「ごめんくださ~い」


「ん? 誰だい」


 扉をノックして出てきたのはまだ四十代ぐらいのおじさんだった。長老みたいな人じゃないんだね。


「おはようございます。ちょっとだけですけど、この村でお世話になります」


「ああ。でも、この村には大して何もないけどな。お嬢ちゃんみたいなのが一人で来たのかい? 昨日は宿には誰も来てないと思ったが……」


「その……時間がかかって夜に着いたので、見張り小屋で休ませてもらいました」


「あの草原を抜けてきたのか? よく無事だったなぁ」


「えっと、一人じゃなくてパーティーです。冒険者なので!」


「そうかそうか、きっとお兄さんたちに守ってもらったんだな」


「あ、いや、はいそうです」


 違うと言おうとしたけど、考えてみれば私だけ明確な後衛職だし間違ってはないと思ってそういうことにしておいた。


「なら、簡単でいいならうちで朝ごはん食べていかないか?」


「良いんですか?」


「ああ、うちは何時も多めに作ってるから大丈夫さ」


「じゃあ、十分だけ待っててください。みんなを起こしてきますから」


「用意をして待ってるよ」


 おじさんと別れてもう一度小屋に戻る。


「みんな起きて~、朝だよ」


「ん……なんだいもう朝か」


「ふわぁ、おはよう」


「ん~」


 それぞれの起き方で起きてくる。だけど、やっぱりというかノヴァは一歩遅い。


「ほら、村長さんの家に行くんだから早く」


「はいよ~」


 寝起きでふらふらなノヴァを抱えるようにして村長さんのお家にお邪魔する。


「こんにちは~」


「あら、あなたが主人の言っていた人ね。かわいいお客さんね。こっちにどうぞ」


 案内されるままテーブルに着く。大きい家だけあってテーブルも八人掛けだ。やっぱりこの家に集まって話し合いとかするからかな?


「はい、どうぞ。といっても野菜とちょっとの干し肉ぐらいしかないんだけどね」


「いいえ、いただきます」


「「いただきます」」


 村長夫婦がなんだという反応をしている。そういえばいただきますって浸透してないんだった。まあ、いいか。


《わぅ》


 ふとドアのところを見るとリンネも来ていた。だ、大丈夫かな? 一応は魔物だし……。


「ん? なんだサボか。お前とうとう村に入ってくるようになったのか?」


《わぅ~》


 心外だと言わんばかりに返事をするリンネ。だけど、おじさん夫婦は言葉も分からないから伝わっていないみたいだ。


「この子は昨日、ローグウルフに襲われてて、保護して今は私の従魔なんです」


「へぇ~、あなた若いのにすごいわね。でも、この子は狩りですらサボってばかりだから大変よ」


「昨日の夜、見張りの人に聞きました。この村の人はみんな知ってる子みたいですね」


「ああ、一年前にふらっと現れてから、ずっとこの調子さ。エサをやってもお礼も言わないが、たまに村から出る子どもを連れ戻してくれてたんだ」


「そんなことしてたんだ。きちんとお仕事してたんだね」


《ワン》


 元気よく返事するリンネ。だけど、たまにってことはそれ以外は本当に何もしてなかったんだよね? ティタは真面目だし大丈夫かな?


「ご飯が欲しいの? でも、リンネはさっき食べたよね?」


《わぅ~ん》


 くっ! おねだりの腕は一流だ。きっとこの顔と鳴き声で今までもご飯をもらっていたんだろう。


「はいはい、ちょっと待ちなさい」


 尻尾を振り振りしながら大人しく待つリンネ。本当に村の人に馴染んでるなぁ。



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