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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと最後の季節、春

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レディト出発


 うう~ん。そろそろ時間かなぁ……。眠たいままむくりと体を起こす。時間は分からないけど、わずかに夜明けの感じがあるし、いい時間だろう。


「おや、起きたかいアスカ? そろそろ起こそうかと思ってたんだけど」


「ジャネットさんは~、はやいですね~。ふわぁ~」


「慣れってやつだよ」


 さっと着替えて、出かける準備を終える。


「それじゃあ、向こうに行くか」


 フル装備でリュートたちの部屋の前へ行きノックをする。


「はい?」


「あたしだよ」


「今空けますね」


 隣の部屋のドアをノックするとリュートはもう起きているらしく、すぐに開けてくれた。


「ノヴァは?」


「さっき起こしたところだから、もうちょっと待っててくれる?」


「なら、先に下で待ってるよ。早くしなよ」


「はい」


 先に下りて待っていると、三分ぐらいで眠たそうなノヴァを連れたリュートが下りてきた。


「それじゃ、出発するよ」


「えっ、飯は?」


「今回の旅はどれだけ日中進めるかなんだよ。当然、途中休憩とか歩きながらに決まってるだろ? 嫌なら早めに起きておくことだね」


「そんな……」


「どうせ、アスカもリュートもまだなんだから一緒に食べればいいさ」


「よっしゃ!」


「移動中にね」


「結局そうなんのか……」


 残念そうに言うノヴァだったけど、私もご飯まだだし仕方ないよ。宿を出て、ギルドに寄ってカードから出金を済ませる。


「よし、準備完了です! さあ、行きましょう」


 そのまま、レディト東門へ。ここまで来たのは初めてだからちょっと新鮮だな。


「ん、朝早くから依頼か?」


「まあ、そんなとこだね」


 門番さんに通してもらう。門の先はちょっと林というか小さい森のような感じだ。


「へぇ~、レディトの東ってこんな感じなんですね」


「そうそう。ここら辺の魔物は西側とあまり変わらないから、対応は一緒でいいよ。草原が見えてきたら分布も変わるから、そこでストップだね」


 ジャネットさんの言葉を受けて私たちは進んでいく。小さく見えた森も進んでいくと結構続いているのが分かる。ということはこういうこともあるわけで……。


「右前方反応あり!」


「よし! あたしが反応を見るから、リュートは援護頼んだよ。アスカ、サイズは?」


「大きいけどまるっとはしてないからオーガタイプです」


「げげっ。めんどいなぁ」


「ノヴァは奇襲に備えてアスカの周囲を警戒だよ」


「おう!」


「僕は左右どちらがいいですか?」


「左側で」


「はい」


 魔物の姿が見える前に私たちは構える。少しするとオーガたちは人の匂いに気付いたのか、一直線にここを目指してくる。


「さあさあ、こっちでは初めまして。いや、久し振りかな?」


《グォォォォ》


 ちらりと見えたオーガたちの数は六体。それなりの数だ。早速、ジャネットさんを見つけると三体ほどが一気に攻めてくる。そこを私が弓で射る。


《グァァァ》


 まずは一体の眼に一発命中! それを見た後方のオーガたちはすぐさま私の方に向かってくる。リュートの姿を確認して、右側から回り込んでくるみたいだ。


「はぁっ!」


 前方ではジャネットさんが三体のオーガを相手にしている。リュートはそれをカバーするような動きだ。


「まだまだ」


 連続で矢を射る。しかし、勢いよく突っ込んでくるオーガにはあまり効果がないようだ。


「それなら、ウィンドボール」


 球状に風を圧縮して一体のオーガにぶつけて弾き飛ばす。残り二体のうち左側から来たオーガの頭が吹っ飛ぶ。


「ひゃ!」


 見ると、リュートが槍を伸ばしてオーガの頭を狙い撃ちしたようだ。魔槍って便利だな。そうこうしているうちにもう一体のオーガが迫ってくる。


「うりゃ!」


 そこへ私の横の木に隠れていたノヴァが一気に斬りかかる。


 ガァァァァ


 不意を突かれてオーガの体がスパッと切れる。グラディスさんに譲ってもらった剣、本当によく切れるんだな。


「私も負けてられないね。ウィンドブレイズ!」


 風を弾丸のようにらせん回転させ大量に放出する。吹き飛ばしたオーガが再度こちらに向かっているところにそれが一気に襲いかかる。


《……》


 オーガは言葉を発する間もなく体中が穴だらけになり倒れた。


「残りは?」


 前方を再確認すると、すでに目を射ったオーガが残っているだけだ。向こうは視界が狭くなっていて、動きづらそうだ。


「終わりだね」


《ガァァァ》


 ジャネットさんが剣を一振りしてオーガは倒れた。


「ふぅ、ま、こんなもんだね。さあ、回収回収」


「じゃあ、僕見てますね」


「私も見てます」


 私とリュートが素材回収の見張りで、ジャネットさんとノヴァが素材回収だ。もちろん、取るのは牙と角だけ。


 オーガは巨躯に見合わずとれるものがこれぐらいしかないから、楽で良い。皮とか肉も取れないことはないんだけど、人気はない。皮はやや固めだけど、傷がつきやすく加工に向かないし、肉は筋張ってる上に固すぎて食べられたものではないらしい。


「こんなもんだね。アスカ埋めてくれ」


「はい」


 せっせと素材を取り終わったら後は穴を掘って埋めていく。体が大きいからちょっと深く掘るのが面倒だけど仕方ない。埋め終わるとさっさと進み始める。

 なんと言っても旅は始まったばかり、村には今日中に着かないといけないのだ。そこから三時間ほど歩き続けると、ようやく森の終わりが見えてきた。


「よし! ここいらで休憩だね。説明も一緒にするからどっかいかないでくれよ」


「こんな森の中で歩き回りませんよ」


「そりゃそうか」


 シートを敷いて座る。早いけどお昼も兼ねているので、簡単ながら水を取り出してスープも作っていく。


「アスカ、もう弱火で良いよ」


「は~い」


 リュートの指示通りに、火を調節しながらスープを作る。スープも簡単なもので野菜と干し肉を煮込んだものだけどね。時短のために火を起こすことなく魔法だけだから、調理時間はすごく短かった。


「はぁ~、うめぇ~。リュート料理うまくなったな」


「そう? 最近は宿で厨房に入らせてもらったりしたからかな?」


「リュート、よくあの二人がいるところに入って行けるね」


「エステルが休みの日だけだよ。二人いたら入り込む隙もないよ」


「でもま、出先でこれぐらいの料理が出てくるなら上等だよ。下には下があるからねぇ」


 そんな会話をしながらもみんな食事を終えていく。まだまだ、序盤戦だからね。


「さてと、ここからだけど草原はウルフ種やキャット種に注意するんだよ。あいつらは群れで狩りを行うから思わぬところから出てきたりするからね」


「はい。おっきい猫や犬かぁ……」


 昔は身体が弱かったから、ああいうのは飼っちゃだめって言われてたし、一匹ぐらい欲しいなぁ。


「アスカ、相手は二メートルもある魔物だよ。変なこと考えるんじゃないよ」


「わ、分かってますよ……二メートルのもふもふかぁ。あ~、でも甘噛みされたら痛そう。いや、回復魔法があるか?」


「ほら、いくぞ~」


「うん」


 ジャネットさんの忠告を胸に私は進んでいくのでした。




「今どのぐらいだ~」


「まだまだ半分ぐらいかねぇ」


 日が中天にさしかかったというのにまだ半分。この調子だと本当に夕方と言わず、夜に着いちゃうのかも。


「本当に今日中に着くんでしょうか?」


「リュートは心配性だね。今日中には着くよ」


「ほっ」


 胸をなで下ろす私たちだったけど……。


「何せ深夜だろうと、着くは着くだからね」


「い、急ぎましょうか」


「そうだな」


 続いてのジャネットさんの言葉に慌てて進行ペースを速める。頑張って進まないと、村の前で野宿なんて変なことになっちゃう。



「はぁはぁ、今どのぐらいですか~」


「もうちょっと前に聞いたばっかりだろ? まだ、三分の一以上残ってるよ」


「そんなぁ~」


「アスカは体力ねぇな~」


「まあ、普段の休日は細工してるし集中力はあるんだろうけど、体力はね」


「そういやアスカも最近は宿の手伝いほとんどしてないよねぇ。体力作りを何か考えないといけないね」


「ええ~、外に出るなんてめんど……いや、時間が貴重で……」


「でも、さっきも休憩取ったし、もうちょっとぐらいは体力欲しいねぇ」


「うっ」


 そうなのだ。ジャネットさんは言わずもがな。ノヴァは体力仕事の大工、リュートも宿で一日中動き回っていて、私だけが頭脳労働だ。手は結構動かしてるんだけど身体全体と言われるとそんなに動かしてないんだよね。正直、歩き詰めなだけでも結構しんどいし。


「まあ、ちょっと休んでいくとしよう。アスカの集中力が安全の鍵だからね」


「そうですね。さっきも数匹でしたけど、ローグウルフが出ましたしね」


 ローグウルフとは草原によく住む本来は夜行性のウルフで、手足が長く結構大きい。私たちが出会った個体も二メートル近いサイズだった。ウルフ系でも大きいけど、攻撃は物理系のみなのでそこまで強くはないらしい。


「にしてもアスカが事前にティタから聞いといてくれて良かったよ」


「ティタ先生って今度から呼ばないといけないね」


 一応ティタにこの辺に来たことがないか聞いたら、アルバの岩場に来る前に通ったらしく、一番直近で通った場所らしい。それでも数十年前の話なんだけどね。だから、魔物の名前も覚えてたみたい。


「でも、表現はちょっとアバウトだったけどね」


 ローグウルフのティタの評価は傷が付けられないことが分からない馬鹿だった。ウルフの爪攻撃より遙かにティタの体が硬かったため、通り過ぎるだけだったのに、それを向こうが分からなかったらしくうっとおしかったと言っていた。


「後はなんだっけ? グレーンウルフだったっけ?」


「あっちはちょっと小さいけど頭が良いから気をつけないとね。大体この辺だね。後は草食が主の魔物だから脅威とは言えないね」


「この辺にオーガはいないんですか?」


「あれだけ背丈が高くて目立つとここじゃ狩りが出来ないからね。上位種や亜種ならともかく純粋種は無理だね」


「ん?」


「どうした?」


「いや、何か奥で動いた気が……」


「そうかぁ?」


「一応構えるよ!」


「はい!」


 音はしなかったけど、何かいた気がしたんだけど……。ちょっと待ったらやっぱり何か動いている。こっちに来ているようだ。


《グルルル》


「何!?」


 飛び出てきたのはウルフだ。しかも、割と白い……。


「グレーンウルフだね。だけど、一体だけかい?」


「いいえ。奥からも来ます!」


「了解!」


「こいつは俺に任せろ!」


 飛び出てきたグレーンウルフはノヴァに任せて、ここは次の相手だ。


《ウォンウォン》


 まるで獲物を追い立てるように、奥からどんどんウルフが現れた。


「こいつら、ローグウルフだね。性懲りもない!」


 再び戦闘に入る私たち。今回の旅は戦いが多い旅となった。




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