細工と疲労
宿に帰ってきた私は早速仕事に取りかかる。
「まずはデザインだけど、ある程度は固まってるんだよね」
ブレスレットの中央にはもちろんユニコーンの涙を添える。そしてそれを囲むように半円に加工したウィンドウルフの魔石二個で包む感じにするのだ。後は銀の本体部分に模様を施せば完璧だ。
「とはいえ、今度は模様が難題なんだよね。水の巫女に相応しい模様かぁ……」
悩んだあげく、私が採用したのは右側には川を意識した模様。左側にはその水で生み出された森という形だ。左右非対称のデザインになっちゃうけど、中央部分は一緒なので別にいいかな?
そうと決まればまずは型取りだ。早速、原型を作っていく。ただし、今回作る原型の中心部分は宝石で代用だ。
「さすがにもう一つユニコーンの涙を手に入れて作るわけにはいかないからね」
そうだ! セティちゃんにもデザインだけ一緒のやつをあげよう。テルン様にはセティちゃんが巫女だということはまだ伏せるから、正式な物は付けられないと言われたけど、レプリカモデルなら良いだろう。
材料も銀から銅に変えて中央の宝石はサファイアルビーで魔石の部分はグリーンスライムで代用してと……。
「うん。これぐらいならそこまで高価でもないし、大丈夫かな?」
銀貨五、六枚ぐらいの価値はあるけど、巫女と舞う人が身につけるならおかしくはないだろう。
「後はこのグリーンスライムに魔法を付与してと」
せっかく魔石を使っているのだから、魔道具にしておこう。加護に関してはセティちゃんに祈ってもらえば良いかな。多分、シェルレーネ様の加護がつくと思うし。
「でも、そうなったらラーナちゃんにも送りたいなぁ。同じ巫女で持ってないっていうのもね」
そう思って、今度はウィンドウルフの魔石を取り出し、それを中央に添える。逆に周りにはサファイアルビーを配置する。
「あ、ルビーが足りないや。どうしようか?」
んん~、このまま途中で終わってしまうのも気持ち悪いし、代えになる物はと……細工一式の宝石箱から色々取り出していく。おっ!
「アースルビーだ。あまってるし、これを使って三色にしよう」
アースルビーとはルビーと違い、赤茶けた宝石だ。トパーズよりも赤みが強いけど、どうしても原色のルビーより人気が劣るため、割とお手頃価格なのだ。
「これなら良い感じになるし、そこまで高価じゃないから大丈夫だろう」
早速、同じような感じで作っていく。気づけば、依頼とは関係ない物ばかり作っている。でも、これは仕方ないのだ。巫女の物を作るのに避けては通れないということで。
結局、午前中の作業はこの二つの加工だけで終わってしまった。午後一番の作業で完成させたら、すぐに依頼品に取りかからないとね。
「お昼くださ~い」
「あら、アスカ。今日は時間通りなのね」
「まあ、たまには」
「それじゃ、私も一緒に食べる!」
エレンちゃんが私のお昼のついでに自分の分もテーブルに置く。ティタの食事(魔石)も置いて三人一緒だ。
「ミネルたちは?」
「う~ん。それが調子が悪いのかここ数日は家で食べてるんだよね~」
「ライズのところに毎日行ってたんじゃないの?」
「そうなんですよ。私もちょっと心配なんですけど……」
「ダイジョウブ」
「ティタがこう言うんで、時々様子を見るだけなんですよね」
「魔物と話が出来るティタの言うことだから信じるしかないわね」
「おかげで喉も……」
「通らなくはないわよね。昨日も串屋に行ってきたんでしょ?」
「そうそう、お土産くれたもんね」
「あはは……。代わりに元気になったら、その分食事を豪華にしてあげます」
「そうね、そうしてあげて」
何て言ってる間に何時の間に来たのやら、ミーシャさんがティタにご飯をあげている。
「はい、あ~ん」
「アーン」
「何だかお母さん、ティタを子どもだと思ってるみたい」
「本当は一番年上なのにね」
「そうなの?」
「二百歳以上だって」
「に、にひゃく……。相変わらず魔物の世界は凄いわね」
そんな話をしながら、お昼を過ごした。ちなみにそろそろハイロックリザード特需も終わりだ。食材が切れかかっていて、宿でもフィアルさんの店でも限定十食程度で、後は串屋にあるだけだ。
「串屋の方が料理の工程で最後に焼くからちょっと長持ちするんだよね」
仕入れの仕事でちょっと儲かっちゃったし、またこういうのないかな?
「あんな思いをして手にいれるのはもうこりごりだけどね」
休憩も十分取ったし、細工を再開しますか!
「じゃあ、まずは銀の本体部分だね」
中央の石のサイズを測ってちょっと小さめに彫る。同様に魔石の場所も彫り、上手く出来たら模様に移る。そこから全体の形を作っていき、最後に石をはめていく。
「ふぅ~、後ははめるだけ。慎重にいかなきゃ……」
ここをミスってしまえばまた一からだ。
「……出来たぁ!」
よしよし、一つ出来た。後は同様にやっていくだけだ。続いて二個め、三個めと作っていく。後はウィンドウルフの魔石に魔法を込めてと。
「ユニコーンの涙って多分水属性だよね? 魔力だけ通しておけば、あっちで付与できたりしないかな?」
出来るか分からないけど、どの道私では付与できないなら試すだけ試しておこう。
「一緒に手紙を添えれば分かってくれるよね」
早速、三個出来たところで手紙を書いて、作っておいた箱につめていく。デザインさえ決まってしまえば、最近は簡単に作れるようになった。
「これも器用さが高いお陰だね。おっとっと」
箱につめ終わったところで体が揺れる。うん? と思った時にはそのままベッドに倒れ込んでいた。
「うう~ん」
「アスカオキテ」
目を覚ますと辺りは真っ暗だった。さっきまでは夕方だったのに……。
「私どうしたんだろ?」
「アスカ、マリョクギレ」
「魔力切れ?」
そっか、元々三個作って終わる予定にしてたけど、結局五個作ったんだっけ……。それぞれの加工と魔道具化にMPを使いすぎちゃったんだ。
「ステータス!」
MP:160
あれ?ちゃんと残ってる?
「アスカ、ネテ、カイフクシタ」
あっ、残ってるんじゃなくて休んで回復したのか。じゃあ、倒れた時はもっと少なかったのか。
「ちょっと無理しちゃったな」
「ハンセイスル」
「は、はい。肝に命じます……」
心なしかティタの声もきつく聞こえる。本当に気を付けないと。
《チッ》
ミネルたちも心配して様子を見に来てくれた。体調が良くないのにごめんね。それから、ちょっと休んで食堂へ行く。
「あら、アスカようやく来たのね。ずっと細工をしてたの?」
「い、いえ、ちょっと疲れたので寝てました」
「無理しないようにね。今日は野菜中心のご飯にするわね」
「はい」
エステルさんに持ってきてもらった夕飯は、食べやすくて疲れた体にはちょうど良かった。それから、その日はもう一度すぐに眠った。これ以上心配をかけてしまうわけにはいかないからね。




