修行と出立
宿に帰ってきた私は早速、魔道具作りに専念する。
「今までと違って、すぐに価格は分からなかったけど、売れるんなら作っておかないと損だからね」
前回と同じようにカパカパと水晶を切って、魔石をはめ込んでいく。今回は流れ作業だから、一つの工程ごとに作業を完了させていく。
「ひとまず三つは作っとかないとね。三もあれば次の納期までは楽に出来るし、もし一気に売れたら収入も見込めるし」
なんと言っても今は鍛冶の依頼を出来るようにお金を貯めないと。それに、パーティー資金も使っちゃったから早く補填しないとね。そう思っているうちに水晶の部分は終わったので、子機になるイヤリングを作っていく。
「そういえばこれって魔道具同士で干渉しないよね? ちょっと確認しよう」
さすがに同じ物が近くにあった時にどちらにも反応してしまっては意味がない。そこは気をつけないと! 子機を一つだけ作って試してみる。うん、大丈夫みたい。ただ作る時にこれはこっちと意識しながら作らないと混ざりそうなので、ちょっと慎重にしないとね。
「何なら、次の水晶の分に移る時に別の物を作ろうかな?」
補充アイテムの一覧ももらったことだし、せっかくの魔道具がだめにならないようにしよう。魔道具と言っても、これはサクサク進むので、まずはお魚シリーズからだな。
「意外に売れるもんなんだね。たまには鰯みたいな魚から鮭に切り替えてみようかな?」
サイズだって色々あった方が好みが分かれて良いかもしれない。ちょっと遊び心も入れたいから、ちょっと反った感じで作ろうかな?
デザインも浮かんだので早速作り始める。でも、お魚も実は簡単なのだ。金属でも木でも塊から削り出して形を整えれば半分完成。後は鱗模様に沿って削るだけだからね。
「花とかだとそこから花びらの反りだとか、葉っぱの模様とかも色々するけど、お魚は目を作るのと口とうろこぐらいだしね。何よりデフォルメだから形もなんとなくだし」
そう思いながら作業を進めていく。その日は作業の進みもよく魔道具は無事に完成して、お魚シリーズ分の補充まで完了した。他の補充分に関しても、明日で完成するだろう。
「最近サボりがちだったけど、うまく行って良かった~」
夕飯にはティタも帰ってきたし、今日は久し振りに一緒に寝ようかな?
「ティタおいで~」
ぎゅっとティタを抱きしめて眠る。お休み~。
《チッ》
「おはようミネル」
今日の当番はミネルかぁ。みんないつもありがとね。
「アスカオキタ?」
「うん。ティタもおはよう」
「オハヨウ」
なんだかティタお喋りがうまくなってない? 気のせいかな……。とりあえず今日も細工の予定だし、起きますか!
えいっと布団をめくって着替えを済まして食堂へ。
「おはようございます」
「おはようおねえちゃん。なんだか朝会うの久しぶりだね」
「そういえばそうかも。最近お泊まりだったもんね」
エレンちゃんと一緒に朝ご飯を食べてる。今日は細工をするとして後は何しよう。お昼にフィアルさんの店にお邪魔しようかな?
相変わらず、ミネルたちもライズのところに行ってるしそうしよう。
「ミネル、レダ。今日は私もライズのところに行くからよろしくね」
《チッ》
《チュン》
そうと決まれば効率よく細工をしていかないとね。パパッと準備をすると、いつものように細工をしていく。
「ふぅ~、今何時ぐらいかな?」
細工を始めて結構たったと思うんだけど……。そう思っていると鐘が鳴り始めた。回数は三回、十二時の鐘か~。
「ちょうどぐらいだね。それじゃ、お昼に行こっか!」
私はみんなを連れてフィアルさんの店に向かう。
「こんにちは~、空いてますか?」
「アスカちゃんこんにちは。ええ、いつもの席が空いてるわよ。ちょっとだけ待っててね」
料理を運びながらお姉さんがそう言うとすぐに戻ってきた。
「それじゃあ、案内するわね」
席に案内された私は、待っててねと言われ紅茶を出された。特にメニューを聞かれなかったし、まだ、ハイロックリザードの肉が出ているんだろう。
《チッ》
「ん? 先にライズのところ行ってる?」
《チュン》
「そっか、ちゃんとご飯をもらうんだよ」
ティタを残して二羽ともライズのところへ行ってしまった。
「ティタはいいの?」
「コッチデタベル」
「そっか。じゃあ待っててね。一緒に食べよ」
それから、十分ほどで料理が運ばれてきたのだけど……。
「お待たせしましたわ」
「テ、テルンさん何してるんですか?」
「パンを教えてもらうのにお店のお手伝いですが?」
「接客までですか?」
「もちろんです。お出しするところまでが料理ですから」
「そ、そうですか……」
本人がそう言うならいいけど、大丈夫かな? 正体とかばれないのかな?
「そういえば、髪をまとめてるんですね」
「料理をするのには邪魔ですから。ですが、何も考えていなかったのでちょっと頭が寂しいですけど」
確かに普段付けてる飾り物もない。水の巫女様だから普段はもっと色々付けてるのが普通なんだろう。ん~、それなら。
「気に入るかは分かりませんが、よろしければどうぞ」
私はマジックバッグから新作のリンドウの髪飾りを出す。これなら今のまとめた髪に似合うだろう。
「まぁ! かわいらしいですわね。よろしいのですか?」
「はい。付けてもらえれば宣伝にもなりますし」
「では、そちらも頑張りますね」
「い、いや、そこまで頑張らなくても良いですよ」
作るの大変だし、同じ物ばかりだと私が飽きちゃうしね。
「では、程々に宣伝してきます。あっ、食事をおいていきますね」
「は~い」
ちょっとハプニングがあったものの、食事も終えた私はライズたちと終日遊んだのだった。結局、ムルムルに聞いたらあれからテルンさんは一週間かけてパン作りを学んだらしい。
でも、よくよく考えてみると巫女さんに必要だったのかな? そう聞いたら、訪問先で料理を振る舞うこともあるから無駄にはならないらしい。
「私も頑張らないとな」
たまに宿で料理を作らせてもらうけど、まだまだ店で出せるような物は作れないし、もうちょっと頻度を上げよう。
「じゃあ、また来るからよろしくね」
「うん。いつか私からも行くからね」
「そういえばアスカは旅に出るんだったわね。その時は必ず寄りなさいよ」
「うん!」
今日はムルムルたちの帰る日だ。結局、滞在日数は十日程となり、終わってみれば長い滞在だった。通常は五日ぐらいで帰るから倍近い長さだ。
「さ、テルン様もムルムル様もお乗りください」
「はい。アスカ様、それではまた……」
「はい。テルン様もまた会いましょう!」
順番に水の巫女の二人から馬車に乗って行く。
「はっ!」
御者役の護衛の人が一声かけると、馬車が進んでいく。進み始めると早いもので、馬車はあっという間に教会を離れ見えなくなってしまった。
「寂しくなりますわね」
「そうですね。でも、もう一人の巫女様はひとりきりですし、喜ぶと思います」
「……そうですわね。ああ、これをどうぞ」
「これは?」
「ムルムル様からここを立ったら渡して欲しいと」
なんだろう? ひょっとして恥ずかしいから渡せなかったけど、お手紙とかかな?
「もう~、ムルムルったら……えっ!?」
そう思って開けるとそこに入ってたのは……。
「どうかしましたか?」
「これ、細工の依頼書だ」
中に入っていたのは、三人お揃いのブレスレットよろしく! と備考欄に書かれた、ギルドへの依頼書だった。
「仕方ないな。頑張って作りますか」
シスターさんと別れた後で私はギルドに行き、正式に依頼を受ける。今回は来訪機会がないから納品はギルドで、ギルド経由で教会から神殿に送ってもらえるそうだ。
「それにしても依頼料が金貨六枚だなんて……」
もっと安くしても良いのに。今回ばかりは助かるけど、もうちょっと安くしてもらわないとね。依頼料を上げてもらっても良いのが作れるわけじゃないし。
「まあでも、受けた以上は最大限努力しますか!」
依頼の中で費用後払いの予算は特に問わないって書いてあるし、今できる最高の物を作ろう。
「そうと決まれば早速おじさんの店に行って材料を揃えないとね」
まず必要なのは銀と魔石だ。今回は水の巫女用ってことだし水色の魔石を使おう。
「こんにちは」
「アスカか。もう見送りは良いのか?」
「うん。それより、材料をお願いします。銀と水色の魔石と……後はウィンドウルフの魔石を」
「銀とウィンドウルフの魔石はともかく、水色の魔石か……数は?」
「三つですね」
「ちょっと待ってろ」
奥に行っておじさんはガサゴソし始める。いつもは奥の棚に置いてあるんだけど、どうしたんだろ?
「ん~、ここだったか? いや、こっちか。あった!」
三分ほど探して目的の物は見つかったみたいだ。
「ほら、これでどうだ? ユニコーンの涙だ」
「ユニコーンの涙?」
「嘘かほんとかは知らんが、ユニコーンの流した涙が結晶化した物らしい」
「へ~、珍しいですね。おじさんがよく分からない物を買うなんて」
今まで出してもらった物は全部、実用的だったりどんな物か説明してくれたものばっかりだったのに。
「あ~、まあな。これは店を開いてすぐぐらいの頃に買った物で、あん時は若かったからな」
「えっと、何年ぐらい前の何ですか?」
「……十年ぐらい」
十年も持ってるおじさんもすごいけど、結局使わなかったんだ。
「いやな、仕入れた以上は使いたかったんだが、中々踏ん切りがつかなくてな」
「ちなみに一個いくらですか?」
「金貨三枚だ」
高っ! いや、おじさんの話が本当なら安いのかな? 綺麗な物であることは確かだしいいか。
「じゃあ、下さい」
「なら、合計で金貨十三枚だな」
「はい……」
分かっていたけど高い。これは早々に作って依頼料をもらわないといけないなぁ。そう思いながら宿へと戻っていった。




