仕入れ再開
「おはよ~」
「おはよう」
子どもたちの声が聞こえる。宿ってそんなに子どもいたっけ?
「おはようアスカおねえちゃん」
「ん?この声はラーナちゃん?」
そっか、昨日は孤児院に泊まったんだった。ということは…。
「朝ご飯だ!」
昨日みんなと約束したし、今日の朝もバターパンを食べなきゃ!じゃない、作らなきゃ。ばっと布団をめくりすぐに食堂横にあるキッチンに向かう。
「おはようございます」
「おはようアスカちゃん。よく眠れた?」
「はい。ベッドに入ったらすぐでした」
「よかったわ。昨日はみんなはしゃいでたから心配で…」
「元気があってびっくりしました」
「本当に」
「それじゃあ、朝ご飯作っちゃいますね。といってもパンを焼くだけですけど」
「じゃあ、少し待ってちょうだいね。まだ、スープの方が温まっていないの」
「それなら、そっちも任せてください!」
私は火の魔法ですぐに鍋を温めると、昨日と同じ要領で器を並べてよそっていく。
「わたしも手伝います」
「セティちゃん。じゃあ、セティちゃんはパンをお願い。私と院長先生がスープを持って行くから」
「はい!」
「セティも巫女様とお話しして、何かを吹っ切ったようで元気になったみたいですね」
「何か悩んでたんですか?」
「ええ。年明けぐらいから考え込むことが度々あったのですが、元通りというか少し大人びた気がします」
まあ、昨日は巫女のことについても話をしたし、整理が出来たんだろうな。院長先生も今後シスターさんと話をする機会があるだろうから、帰るまでに説明してもらわないとね。今回は確認だけだからまだ事情を話してないって言ってたし。
「他の子たちもきっとすぐにそうなりますよ」
「そうですわね」
「それじゃ、運んじゃいましょう!」
私たちは何往復かして料理を運び終える。子どもたちはパンが焼けるのをまだかまだかと待っている。
「さあ、ちょっとだけ待っててね。先にパンを温めるから」
私は濡れた布でパンをくるんで一気に暖めていく。すぐに湯気が隙間から上がっていく。
「さあ、布を外して」
「うわ~、ふわふわだ」
「そうでしょ?さあ、今から切って焼いていくからちょっと離れててよ」
「「は~い」」
スパッとパンを切って、バターを年長の子たちに塗ってもらって昨日のように焼いていく。焦げ目が少しついてきつね色になってきたら火を消してと。
「はい、完成~」
「うわ~、昨日と一緒だ!」
「いただき~」
「ほら、いただきますは?」
「「いただきま~す」」
こうして始まった賑やかな朝食は大盛況!私も合間を縫って食べてたんだけど、あんまり食べられなかった。まあ、パンも宿でいつでも食べられるし、ここは我慢だ。
「「ごちそうさまでした」」
「は~い。それじゃ、私もちょっと用事があるから帰るけど、みんな元気でね~」
「「は~い」」
よしよし。おいしいものを食べて満足なのかいい返事だ。さあ、帰ろう…ん?
「また来てね。アスカおねえちゃん」
「うん。また、ラーナちゃんやみんなに会いに来るよ」
「やくそく」
「約束だね」
ぎゅっと小指同士を絡めるとラーナちゃんと約束の指切りだ。向こうは意味分からないと思うけど、気持ちは伝わるよね。指切りを済ませて私は孤児院を出た。
「ただいま~」
「あっ、おねえちゃんおはよう。やっぱり昨日は泊まっていったんだね」
「えっ!?分かってたの?」
「うん。エステルさんがみんな楽しそうにしてるから、多分泊まってくるだろうって」
「じゃあ、ティタは?」
「ディースさんがうちで夕食を食べてから、それだったらってもう一日預かってるよ。今日の夕方にまた来るって」
「う~ん。悪いことしちゃったな。ディースさんも冒険者なんだし、困ってたよね」
「連日研究できるって喜んでたよ?」
「ならいいんだけど。急だったから。そういえばエステルさんは?」
「今日はお休みだよ。さすがにここ数日毎日来てたから、お父さんが休むようにって」
そういえばエステルさんって週5ぐらいのはずなのに、最近は毎日見てたな。それに時間も最終までいたし。
「じゃあ、今日は家でゆっくりしてるんだね」
「たぶんね。この前もそうだったけど、毎晩研究漬けであんまり寝てなかったみたいだし」
「そっか…。そうだ!また後で串屋のおじさんのところに串を買いに行くんだけど、エレンちゃんも食べる?」
「いいの?じゃあお願いおねえちゃん」
「は~い。それじゃ、私は細工物してるからね~」
「うん。お昼になったら呼びに行くよ!」
部屋に戻って細工を作り始める。昨日は結局出来なかったし、頑張らないとね。
キンキン カン カコン
一心不乱に細工に打ち込む。う~ん、新作のストックは後2つぐらいでいいかな?もしも足りなくなった時のために多めの方がいいだろうし。そういえばおじさんの店も行きそびれてるから、在庫何を足せばいいんだろ?
「まあ、適当に作ればいっか。串を買いに行くついでに寄ろう」
とりあえず作るものとしては気まぐれに作ったリボン型の髪留めかな?リボン状に作ってあるので、結ばずに髪をまとめることが出来る。ワンポイントでむすび目のところに色んな魔石をはめ込むことで、簡単アレンジが出来る。買っていった人も、何種類か持っていて服に合わせて変えているようだ。
「ちょっとだけ、工夫してみようかな?」
この前、仕入れた魔石に面白いのがあったんだ。何でも魔力を吸収すると、吸収した魔力によって色が変わるというものだ。前に手に入れたのは隕鉄らしかったけど、今度は普通の魔石みたい。ほんとに色が変わるだけで、他には何も効果がないので、一つ大銅貨3枚だったから幾つか買っておいたんだ。
「金欠になる前に買っておいてよかったよ。今だったら絶対に無駄遣いって思ってただろうし」
小さい魔石はリボンの中央の部分に使って、大きい魔石は縁取ってこっちはブローチやペンダントにしていく。こうすれば既存のデザインでも、別物のようになって新商品として売れるのだ。
「今はあんまりお金もないし、物珍しさとかで売っていくのも大事だね。早く、装備の加工費用を貯めちゃわないと」
明日にでも商会の人が来て、鍛冶屋を見つけたので行きましょう!っていわれるかもしれないし。そんなこんなで細工を進めていく。
コンコン
「は~い」
「おねえちゃん、お昼だよ~」
「分かった~」
エレンちゃんに返事を返して、パッと着替えて食堂に向かう。おっと、買い物に出るから完成した分とマジックバッグも持ってと。
「「いただきま~す」」
エレンちゃんと一緒にお昼ご飯だ。呼びに来るのをずらしてくれて、今は13時半頃。お客さんも落ち着いてきた。
「ん~、このパンって昨日お昼に出してくれたやつ?」
「そうだよ。ハイロックリザードの肉入りで、ちょっとだけ高いやつ」
「あ~、まああの肉高いからね」
「おかげでうちももうかってるって。ただ、ちょっとだけ落ち着いてきたけどね」
「まあ、普段宿の食事は大銅貨1枚ぐらいだけど、今回のは大銅貨2枚以上するんでしょ?」
「そうだね~。それでも連日入ってきてたからすごいんだけどね」
などと話しているうちに食事も終わって、エレンちゃんも仕事に戻って行ってしまった。
「さあ、私もおじさんのところに行って打ち合わせしないとね」
宿を出ていざ、おじさんの細工屋へ。
「こんにちわ~」
「ん?アスカかもう大丈夫なのか?」
「はい。おかげさまでゆっくり出来ましたし、大丈夫です。それで今日は補充の件なんですけど…」
「ああ、リストだな。これだ」
ふむふむ。受け取ったリストを見てみるとそこには意外な結果が。
「結構、魚シリーズ売れてるんだ。後は定番だね」
「そうだな。そういえば、細工は再開したのか?」
「うん。ちょっと待っててくださいね」
私はマジックバッグから作ったものを取り出していく。
「こっちがリボン状の髪留めにこっちが新作ですね。後この魔道具何ですけど…」
「どうかしたのか?」
「これって売れますかね?」
おじさんに家族の居場所が分かる魔道具の効果を話す。
「あ、ああ、売れはするな。売れるが…」
「どうかしましたか?」
「うん。これは売れる先に当てがあるから任せてくれないか?」
「いいですけど…店には出さないんですか?」
「ああ。こういうのを欲しがるやつがいてな。いくつか作っても大丈夫だ」
「ほんとですか!デザインも単純だしそこそこ儲けにつながるので嬉しいです!」
「あと、価格なんだが向こうと相談してからでいいか?いいものにするから」
「いいですよ。でも、なるべく早くお願いしますね!」
「おう!」
私は売れると分かったので、笑顔で先に一部を卸して、その分の仕入れも済ませ宿に帰っていった。
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「はあ、ジャネットが出かけてるのがつらいな。これは完全に軍事用品だろ?」
アスカは気づいていなかったが、司令塔から部下への連絡用に最適な効果を持っていた。なるべくしてこれは軍事転用されるだろう。似たようなものも見たことはあったが、大きくて持ち運びに不便な魔道具だった。
「周知させれば大人気だろうが、得意先に少し流す程度にするか。こういう時は貴族の知り合いがいて助かる。流石に一介の商人では手に余るからな」
急いで店を閉めて、ラスターク家へ手紙を書く。
「今回は目玉品だ。しばらくの間はこれ以外必要ないと思うから他の魔道具は書かんぞ。必要な数を書いて送れと。これで良し。そうそう、値段はそちらで決めるようにと書き足さんとな」
アイデアがいいのは認めるが、良過ぎるものも困りものだとため息をついた。