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お食事会

テーブルに並べられた、パンとスープと串にサラダ。子どもたちも今か今かとじーっと皿を見ている。


「それでは揃いましたので、折角ですから巫女様の方から…」


「では、失礼します。本日は街の方の協力により、大変素晴らしい料理をいただけることになりました。皆様楽しんでいただけたら、うれしく思います」


「「いただきま~す」」


テルンさんの言葉が終わると、みんな返事をして食べ始める。でも、ちょっとテルンさんは困惑している。


「どうしました?」


「いえ、先ほどの挨拶は何なのかと思いまして…」


「ああ~、あれは私の地方の食べるときの合図みたいなものです。私がしているのを見てエステルさんが広めたみたいで…」


私は簡単にいただきますの意味を教える。


「なるほど、料理人と食材への感謝ですか。大変よい考え方だと思います。ぜひ、神殿でも広めたいですね」


「そんな大げさなものではないんですが…」


「いいえ。ものを大切にすることにも通じますし、よい教育になると思います」


「そんなことよりテルン様も早く食べたら?セティも待ってるわよ」


「そうでしたわね」


「ラーナちゃんもあ~ん」


「あ~ん」


私も一口食べてみる。う~ん、柔らかい。とろっとしてるしこれはパンにも合いそうだ。


「では失礼して…」


ぱくっ


ビーフシチューとも違う味だけど、パンの味とスープの味が合わさっておいしい。


「でも、もうちょっと香ばしい方がいいかな?」


私はパンを一切れずつ平たく並べていくと、風の魔法で水分を少し抜き、熱風で表面をちょっとこんがり焼く。


「裏側も同様に…」


焼き終わったら手に取ってもう一度、スープに浸けて食べる。


サクッ


「おお~、さっきとは違ってサクッとした食感のパンにとろっとしたスープが合う!これはいい組み合わせだね」


「あんた、いっつもそんなことしてんの?」


「まさか~、おいしい料理とかだとどうしてもやりたくなっちゃって…」


あれ?みんなの視線が私に集中してる気がするんだけど。


「すげ~うまそう!俺のもやって!」


「あたしも!」


「わたしも~」


次々と子どもたちから焼きパン作りをせがまれる。しまった、いつもだと宿の奥でひっそりしてるから同じようにやっちゃった。


「はいはい。じゃあ、順番にね~」


「え~、一緒がいい~」


「…しょうがないなぁ。リベレーション」


こっそり能力を解放して、全員分のパンを並べて一気に行う。まあ、これだけ魔力があれば楽勝だね!


「さあ、みんな試してみて」


「うお~すげぇ~」


「さすが、アスカだ~」


「アスカおねえちゃんすごい。私もガンバル」


「あはは、ラーナちゃんはゆっくりでいいよ。急ぐと大変だよ」


「はぁ~、また見て見ぬふりか」


「え?」


「いや、こっちの話よ。おおよそアスカのスキルが分かったから」


「そうですわね。これだけ、細かく魔法を操るとなると…」


「あ~」


そういえば魔力操作ってレアスキルだったっけ。意識しないで使うスキルだから忘れてたけど、割と貴重なんだった。スキル持ちの人も魔力がほとんどなかったりするし、私みたいに魔法使い系で持ってるのって少ないんだった。あっ、護衛の貴族の人も固まってる。そういえば実際に魔法使うところって崖登るぐらいだったもんね。


「元気出しなよ。剣なら上だから」


「うるさい。あれは父上にも…う~む」


ああ、なんだか考え込ませちゃったみたいだ。悪気はないから許してね。


「うめぇ~」


「おいし~」


サクッという音とともに子どもたちから歓喜の声が上がる。よかった、みんなもおいしかったみたいだ。


「まあ、このパンならバターとか塗って焼くだけでもおいしいからね」


「あ~あ」


じーっ。再び子どもたちの目がこちらを向く。


「で、でも、ほら、もうパンは全部焼いちゃったし…」


「それが…不足してはいけないと多めにありまして」


「えっ、でも準備の時はありませんでしたよね?」


院長先生はそう言うけど、食堂に運び込むときも見てたんだけど。


「はい。分量を間違えて出してもいけないのでとエステルが玄関先に置いていてくれたのです」


「そんな馬鹿な…」


「「じーっ」」


「わかった、口で言わなくても分かったから」


圧倒的な目線の前に屈した私は、予備のパンを4つほど取り出して焼いていく。だって、テルンさんたちもすごく興味深げに見てるんだもん。


カリッ


「なるほどね。柔らかいパンをあえてカリッと焼くのね。中はまだもっちりしてるし、確かにおいしいわ」


「ええ、私もパン作りを学ぶのによい調理法を教えてもらいました」


「そ、そうですか。それは何よりです」


というか、テルンさんのパンを作るっていうの建前じゃなくてほんとなんだ。後、数日は滞在するって言ってたしそれも込みなのかな?


「うまうま」


「はぐっ」


子どもたちも気に入ったみたいでみんな勢いよく食べてる。にしてもみんなよく食べるんだな。


「アスカおねえちゃん食べないの?」


「うん?私はいいかな、そんなに普段から食べないし」


「じゃ、あ~ん」


「は~い」


ラーナちゃんは見かけによらず健啖家みたいで、割とよく食べてる。テルンさんやムルムルもそうだけど、みんな結構食べるなぁ。


「いやぁ~アスカは食の女神様だぜ!リュート兄ちゃんとかもアスカと知り合ってからいろいろ持ってくるようになったしな」


「こら!失礼ですよ」


「あははは。でも、リュートたちも危険を冒して持ってきてくれるんだから、感謝しないとだめだよ」


「分かってるよ」


よかった本人たちがいなくて。さすがにさっきの表現だとへこんじゃうよね。子どもは正直だと言うけど、遠慮がないからなぁ。


「でも、あんたもそう言うんなら将来ちゃんとしなさいよ」


「そうだな~。俺はどうしようかな~」


見た感じ、男の子は12、13歳ぐらいだ。後数年でここを出て行くから漠然とだけど色々考えているのだろう。


「ほら、それより今は食べることですよ。でないと立派に大きくなれませんよ」


「「は~い」」


テルンさんの言葉で再び男の子も食べ始める。というか、この調子だとバターパンが足りなくなりそう。


「あれ?もうない」


ああ、とうとうポテチの袋を逆さ向けるかのように、残りを探す仕草を。


じーっ。思わず院長先生に目を向けてしまう。


「皆。今日は他にも一杯あるのだから、無理をしてはだめよ。残りは明日の朝食べましょう」


「「は~い…」」


未練たらたらにこっちを見てるけどなんとかなったみたい。さすがは院長先生だ。だけど、明日の朝とかどうするんだろ?そう思いながらみんなと一緒に食事をする。


「おっ、こっちの焼いた肉もうめぇ」


「それは串焼き屋さんのだね。どんな感じなの?」


「アスカも食べたことないのか?しょうがないな~。外はいいにおいで、中は食べやすいな。でもタレがしみててうまいぜ!」


そっか…。おいしいよねそりゃ。残念ながら串はあまり数がないので、私は明日以降に持ち越しだ。

それからもわいわいガヤガヤとした食事だったけど、みんな笑顔で楽しい食事だった。


「さ、そろそろお暇いたしましょう」


「そうね」


「え~、もうちょっと~」


「いけませんよ。巫女様たちは時間を作って来てくださっているのですから」


「え~、仕方ないなぁ。じゃあ、アスカ残ってよ!」


「そうだ。アスカねえちゃんなら暇だろ?」


いや、暇かと言われれば暇ではないんだけど、自営業なので時間は作れるだけで…。


「アスカおねえちゃんは忙しいから…」


「ラーナちゃん…」


うん。折角だし今日ぐらいはいいよね?ティタのことだって、きっとミーシャさんたちがなんとかしてくれるよ。


「分かった。ムルムルたちは忙しいから無理だけど、代わりに私が残るよ」


「やったぜ!」


「うれしい」


「アスカは甘いわねぇ。それじゃ、私たちの分まで子どもたちをお願いね」


「うん!」


「ム、ムルムル様もまたな!」


「ええ。またね」


護衛の人たちと一緒にムルムルたちは帰っていく。慌ただしかった食堂も時間が過ぎてきたので、眠そうな子どもたちで一杯だ。よ~し、寝るまでの少しの時間だけど頑張るぞ!


「ほらこっち~」


「次はこっち」


と思っていたんだけど、まだ寝ないの?もう多分、22時ぐらいだと思うんだけど、みんな一向に寝る気配がない。年少の子たちはさすがに寝に行ったけどね。院長先生に無理矢理だけど。


「そ、そろそろ寝よう?」


「え~、もう?」


「ほら、早く寝ないと明日の朝ご飯に起きられないよ」


「なら寝る!」


ええっ!そんなにすぐにやめるの?私の2時間は一体…。一度決めたら子どもたちの行動は早い。すぐにベッドに潜り込んで眠り始める。寝付きがよくてうらやましい。


「ほら、アスカおねえちゃんも」


ラーナちゃんに手招きされて一緒のベッドに潜り込む。暖かくはなってきたけど、人肌がぬくくて気持ちいい。

その前に簡単だけど2人でお祈りをする。みんなも寝てるし、今日は二人とも像を手に持って祈るだけだけどね。


「「アラシェル様、本日も何事もなく過ごせました。それではまた明日…」」


時間も時間なのでラーナちゃんも目をしばたかせている。もう寝ないとね。


「おやすみ」


「おやすみなさいラーナちゃん…」




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