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巫女の役割

セティちゃんが落ち着いてきたところで、今回の訪問の目的を果たすためテルンさんが話し始める。私は声が漏れないようにこそっと結界を張って大事なところは音が漏れないようにする。会話の全部が漏れるのは困るけど、全部聞こえないのも不自然だからね。


「セティちゃんはシェルレーネ様にあったことがありますか?」


「ど、どうしてそれを、誰にも話してないのに…」


「ふふっ、私たちにも神託があったのです。新しい仲間が増えると」


「なかま…私みたいな子が」


「ええ。セティはとても元気な子だと聞いていますよ」


「そ、そうなんだ、ですね。女神さまから?」


「ええ。話しにくいならいつもの話し方でいいですよ。まだまだ子供ですから」


「そ、そんな。私ももう12歳です」


「なら、頑張りましょうか。ムルムルも巫女になったばかりの時は同じぐらいの年でがんばってましたから」


「はい!」


「テ、テルン様。余計な話は…」


「ほら、ねえちゃんこっちこっち」


「わっ、押さないでよ。危ないでしょ!」


「わりぃ…」


「仕方ないわね」


ムルムルは心配も何のその。すぐに子どもたちと打ち解けたみたいで、今は一人で相手をしている。と言っても子どもたちは護衛の人も珍しいみたいで、実質3人で相手をしてもらってるけど。


「ムルムル様すごい。あの子たちの面倒を一人で…」


「まあ、彼女も水の巫女として立派に成長していますからね。もちろんあなたも将来はあんな風になりますよ」


「わ、私もですか?でも…」


「心配はいりません。セティも神託を受けているなら知っているかもしれませんが、あなたはしばらくはここで過ごすのですから。それに、そこにいるラーナさんと一緒に学ぶのですよ」


「ラーナと?でもラーナは巫女じゃ…」


「ラーナ、アラシェル様の巫女」


「ええっ!?そ、そうだったの。だから、シェルレーネ様、ラーナを守ってって言ってたんだ」


「うん。ちょっと前に聞いた」


セティちゃんは結構巫女だってことに悩んでたみたいだけど、反対にラーナちゃんはあんまり巫女だってことを意識してないみたい。自覚はあるみたいだから理解はしてるようだけど。


「ラーナ。それってすごいことだよ?」


「そうなの?アラシェル様は今のままでいいって言ってたから、私は祈りをささげるだけ。おねえちゃんと一緒に」


「えっ、私?」


そこでギュっと袖口をつかまれる。ま、まあ、一応立場としては一緒だから合ってると言えば合ってるんだけど。


「アスカねぇと?」


「セティは知らなかったでしょうが、アスカ様もアラシェル様の巫女なのですよ。つまりは私たち水の巫女と同じ立場ですね」


「そうなんだ…。通りで」


「そうなの。もちろん、水の巫女様とは規模が違うけどね。一番に思う神様は違うけどよろしくねセティちゃん」


「よろしくセティ」


「アスカねぇもラーナもよろしく?」


ちょっとまだ混乱してるセティちゃんだったみたいだけど、何とか理解しようと努めてるみたい。


「お話はもうよろしいのですか?」


「シスターさん」


「ええ。セティさん紹介しますわね。私たちの代わりに普段、シェルレーネ教のことについて教えてくださるシスターさんですわ。これからは週に何度か訪れると思いますからよろしくお願いしますね」


「よ、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いいたします。セティ様、ラーナ様」


「わたしも?」


「はい。シェルレーネ様より、あなたのことも見るように神託がありますので。もちろん、シェルレーネ教の教え方となってしまいますが…」


「頑張る」


「ラーナちゃんよかったね。セティお姉さんと一緒に学べて」


「うん」


「でも、教えてもらってる間、他の子たちはどうすれば?」


セティちゃんが気にしているのは自分がシスターさんと勉強しているときの子供たちの面倒のようだ。孤児院は15歳までの子たちだから、12歳のセティちゃんはそこが気になるみたい。


「では、私の他にも1名教会から連れて来ますわ。その方に子どもたちと遊んでもらいましょう」


「シスター、良いのですか?」


「ええ。教会の奉仕活動の一環として申請できますし、何よりシェルレーネ教の教会として、巫女様の懸念事ですもの」


「では、お願いいたします」


おおっ、大人の会話だ。なんだかこんなやり取りこっちに来て初めて聞いた気がする。私もあんな会話ができるようになりたいなぁ。


「懸念事項もなくなったことですし、セティが普段何をしているのかが気になりますわ。お話ししましょう?」


「わたしなんかの話でいいんですか?」


「ええ。気になるのでしたら私の話もしますよ?代わりばんこでもいいですし」


「じゃ、じゃあ…」


セティちゃんはテルンさんに言われるままどんどん話していく。テルンさんとの相性というか、元々お話しが好きなんだろうな。ちょっと後からシスターさんも加わって、にぎやかだ。


「セティ楽しそう」


「うん。良かったね。ラーナちゃん」


私とラーナちゃんはというと、ラーナちゃんが時たま足をぶらぶらさせるのに合わせて、体を左右に動かしたりしているだけだ。特に会話したりすることもなくのんびりしている。それからしばらくするとふいにシスターさんがつぶやく。


「そろそろでしょうか?」


「そろそろ?」


「多分、もうすぐ料理が運ばれてくると思います。一応本日のメインはお食事を含めた慰問ですから」


「言われてみれば少し前に18時の鐘が鳴りましたし、いい時間ですわね」


ぐぅ~


「そ、そうですね」


「アスカねぇお腹減った?」


「ちょ、ちょっとだけね。普段はもうちょっと遅く食べてるから、ちょっとだけだよ」


最近は依頼を受けてないから実際はもう食べてる時間なんだけど、年長者としての見栄があるからね。


「じゃあ、ラーナの後で食べる?」


「う~ん。折角だから一緒に食べよう?」


「わかった。お腹空いてるもんね」


「そうそう!あっ…」


「アスカ様は食事がお好きですものね」


「えへへ…」


「こんばんは~」


みんなで会話していると本当に食事を持ってきてくれたみたいだ。今回は教会の人が作ったものかな?


「あれ?エステルさん」


「アスカ!ここに居たのね」


「エステルさんこそどうしてここに?」


「出前よ、特別にね。折角だから孤児院の子たちにも、ハイロックリザードの料理を振舞いたいって依頼で」


「そうだったんですか」


「急に頼んで申し訳ないです。ですが、街の一員として孤児院の子たちにも食べてもらいたくて」


「いいえ。ライギルさんも私も水の巫女様のお役に立てて、うれしいです。それにここは私の家でもありますから」


「ありがとうございます」


「ではこちらに置かせてもらいますね。鍋の方はまた明日の夕方に取りに来ますから、余ったら翌日に食べてください」


「エステル。ありがとう」


「いいえ、院長先生もきちんと食べてくださいよ!」


「ええ。あなたの作ったものですから」


「あと、試作になってしまうんですが、串屋のおじさんに串焼きを作ってもらったので、そちらもどうぞ。明日発売予定の新商品ですよ」


「新商品…じゅるり」


「アスカ、わかってると思うけど子どもたち優先よ?」


「わ、わ、わかってますよ~」


「頼むわよ、お姉さん」


宿の方が忙しいのだろう。バイバイといって簡単に子どもたちに挨拶しながら、エステルさんは帰って行った。残された私たちは料理の匂いにひかれていく。さっきまで遊んでいた子どもたちも一気に集まってきた。


「うわぁ~、すごく良いにおい」


「早く食べようぜ!」


「そうそう~」


「ほら、みんな。食べたいなら準備をしないとね」


「「は~い」」


院長先生の掛け声で一気に子どもたちが席に着いたり、机の準備をする。


「現金ねぇ~」


「ムルムル」


子どもたちから解放されたムルムルは微笑ましくその様子を見ている。ちょっとだけ寂しそうだけど。


「では、私たちも準備をしましょうか」


「そうですね」


「巫女様方はお待ちいただいて…」


「いいえ、今回は慰問なのですから院長先生こそお休みください。また、明日から忙しいでしょうし」


「ありがとうございます」


テルンさんにそう言われては院長先生も引き下がるしかなく、中央の席に着く。


「じゃあ、私たちで準備しちゃいましょう!」


「ええ」


私は以前にも準備をしたことがあるので、奥に行ってお皿やスプーンなどを準備していく。


「これは何に使うの?」


「そっちは煮物とかスープ用。こっちがサラダだね」


「並べるのだけでも大変ね」


「そうだね。あっ、じゃあちょっと待ってね」


私は食器棚に風の魔法を使い、必要な数の食器を一気に準備用のテーブルに乗せていく。


「はいっ!これで後はよそうだけだよ」


「あら、アスカ様は魔法がお上手ですね。普段から?」


「あ~、忙しい時とかは洗濯とか洗い物もこうしちゃいますね」


「へ~、便利ね。神殿の厨房にも風魔法が使える人、ひとり入れてもらおうかしら」


「でも、慣れてないと割っちゃったり落としたりするかも」


「アスカもそんな経験あるの?」


「私はないけど…」


「アスカおねえちゃんと一緒に考えるのだめ。エステルおねえちゃんが言ってた」


「そっか。やめとくわ、ありがとラーナ」


「うん」


今、私褒められたよね?


「それじゃ、私はスープを入れていくわね」


「では、私は串を小皿に入れていきますわ。まずは串を抜いてと…」


「じゃあ、私はパンを切っていこうかな。ちょっと子どもたちには大きいだろうし、食べやすいサイズがいいよね」


それに、スープといっても今回のものはとろっとろに煮込んであるので、とろみがある。小さく切ったパンを浸けて食べてもおいしそうだ。パン切り包丁?そんなものなくても大丈夫。風の魔法で包丁を作り出せばスパッと切れる。


「また、つまらぬものを…」


「何やってるのアスカ?出来たやつから早く持って行ってよね」


「は~い」


決めポーズもそこそこに切ったパンを食堂に運んでいく。


「な~んだ。パンだけか~」


「もうちょっと待っててね。すぐにメインも持ってくるからね」


それから、何往復もしてみんなに料理が行き渡る。席がちょっと足りないので、セティちゃんはテルンさんとラーナちゃんは私と、シスターさんも小さい子と一緒に座った。



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