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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと最後の季節、春

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細工の日々




 教会から戻ってきた私は早速、細工に取り掛かる。


「まずはおじさんに頼まれてた魔道具の件からだよね。先に作っておけば冒険に出る時にも問題にならないから、優先して作らないと」


 確か対になっていて、お互いの位置が分かる魔道具を作って欲しいってことだったよね。


「う~ん。だけど、同じ物をもう一回作ってもつまらないなぁ。そうだ! 家族みんなの居場所が分かるようなものにしよう」


 私が思いついたのは電話をヒントにしたものだ。親機があって四つぐらい子機がある。親機は子機に対して送受信を行えるけど、子機は魔力を吸って現在地を示す機能だけ。こうすれば魔石も子機の方はあまりコストを掛けなくても済む。


「後はデザインを決めないと。まずは子機の方だけど作りも簡単な方がいいし、一つずつデザインを変えない方がいいよね。じゃあ、ひし形に六角錐をあしらって、そこに魔石を埋め込む感じでと。

 親機の方は水晶を半分に割って片側をくりぬいて魔石を入れて。居場所の表示はソナーみたいなのでいいかな? 後は、半円になった水晶でふたをできるように止めを作れば完成だね」


 デザインがどんどん思い浮かんでいくのでそれに合わせて、絵を描いていく。とりあえず描き出した段階では問題がないから後はこれを元に作っていこう。


「まずは子機からだね。細工の経験は上がらないけどデザイン性もないから楽でいいや。全部、形も一緒だしね。続いては親機だね。こっちもいつものに比べたら簡単簡単」


 大体、一時間ぐらいで魔道具の制作が終わった。過去最速の魔道具制作速度かもしれない。


「う~ん。今回作った魔道具でも良いって言われたらちょっと楽かも。作るのも材料費もそこまでかからないし。特に子機の材料は魔力を吸う魔石ぐらいだから安いしね。親機の方はちょっと高いけど形も簡単だし、水晶とかもストックから出せるし、今の所持金からするともう二セットぐらいあってもいいかな? 納品に行った時におじさんに聞いてみよう」


 そうしたらこの魔道具だけで結構稼げるし、ムルムルたちとブレスレットを作る約束もしてるし、期間もお金も節約できるかも!


「さあ、時間も結構余ったし後は新作に取り掛からないとね」


 前回は帝国の図鑑からバラを選んだから、今回もバラを選ぶのはやめておこう。次何にしようかな?


「前回がバラ、ユリはもう作ったし……。そうだ! リンドウにしよう。花のところに色違いの部分もあって見た目にも映えるだろうし。そうと決まれば早速検索だ」


 私はパラパラと図鑑をめくっていく。するとリンドウに似た植物のページを見つけた。


「うん。これならそのまま作ってもいいね。後は細工にするためにデザイン画を起こさなきゃ。花の数は……三つぐらいかな? 花の咲き方はと」


 悩んだ末に私は七分咲きの花が三つのデザインに決めた。最初の段階では満開の花を考えていたんだけど、三つ並べると中央部に重なりが出来てしまうし、外側の花びらは開きいているしで違和感があったのだ。


「外側もそうだけど、重なり合った部分の細工の手間を考えたらねぇ。七分咲きぐらいなら銀貨一枚ぐらいの値段で出来そうだけど、満開のなら銀貨二枚半から三枚分は手間がかかりそうだもんね。そうなったら売価は銀貨三枚から四枚ぐらいだろうし、そこまで高くなっちゃうとね」


 街の人にはちょっと高すぎるって思ってしまう。


「アスカ商店のモットーは良い出来をそこそこの値段で! だからね」


 とはいえ、今回作ってみたリンドウはちょっと問題がある。


「う~ん。これだと花を立体にし過ぎたせいでふわっとした髪の人につけるのは良いんだけど、ショートカットやストレートの人だと浮いちゃうな」


 結構奥行きがある作品になってしまったので、どうしても髪のボリュームに見栄えが左右されてしまう。


「みんなにストレートをやめてウェーブにしてとは言えないしね」


 何とか髪形を誰かに真似してもらえればなぁ。私がベルネスで買った服を身につけて街を歩くようにモデルさんがいてくれたらいいんだけど。


「エステルさんは……あんまり街を歩きそうにないし、エレンちゃんは年がね~。ベルネスのお姉さんとかも商売してて駄目だし……あっ!」


 いる。モデルが出来そうな綺麗なお姉さんがいるにはいるんだけど……。


「さすがに水の巫女のテルンさんにやってもらうわけにはいかないよね。巫女様の身につけてるやつだ! ってなっても大変そうだし」


 ひとまずは新作が完成したということで良しとしておこう。後はいつものように五個ぐらい在庫として作っておけばいいかな?


「それじゃあ、量産に入ろう」


 私はこの細工をしている瞬間が結構好きだ。程よい緊張感で作業が行えて、気付いたら時間も経っている。終わった時は疲れもあって料理も美味しく食べられるし、お風呂に入った後は気持ちよく眠れる。そう思ったら休日でもやっちゃうんだよね。そんなことを思いながら作業を続けていく。


「あ、は~い」


 作業を進めているとドアがノックされたので返事をする。


「おねえちゃんお昼食べないの~?」


「えっ、まだお昼前でしょ?」


「もう十四時頃だよ」


「嘘っ!」


「ホント」


「ほら、ティタも言ってるでしょ。早く下りて来てね」


「は~い。それじゃ、行こっか! ミネル、レダ……あれ?」


「ミネル、レダ、デテッタ」


「いつの間に……。またライズの所かな? じゃあ、行こうティタ」


「ウン」


 ティタと連れ立って食堂に下りるとエレンちゃんの言う通り、お客さんはほとんどいない。いても大体は宿泊客だ。


「おや、アスカちゃんまた細工かい? 精が出るねぇ」


「エレンちゃんから聞いたんですか?」


「何言ってんだよ! アスカちゃんがこの時間に下りてくる時は大体そうだろ?」


「そ、そうでしたっけ?」


 ううむ。宿に泊まってる人には私の行動パターンが簡単に読めるみたいだ。さすが冒険者ってことなのかな。


「ほら、おねえちゃんこっちこっち」


「ちゃんと食ってきなよ」


「はい」


 おじさんと別れてエレンちゃんに言われた席に座る。


「はいど~ぞ」


「ありがと。エレンちゃんはもう食べたの?」


「ちょっと待ってたんだけど、全然下りてこないから先に食べちゃった」


「そうだったのごめんね」


「だから言ったじゃない。アスカが十三時までに来ない時は諦めた方がいいって」


「おねえちゃんだって日々成長してるんだから、そろそろ時間の概念を覚えてくれるかもしれないよ?」


「それが出来たら苦労しないわよ。付き合いの長いエレンの方が分かってるでしょ」


「でも、ちょっとぐらい期待してもいいかなって」


 エステルさんとエレンちゃんの言葉の応酬の中に、なんだか聞きたくない言葉が飛び交ってるなぁ。どっちかというと無茶してるのはエステルさんなのに。


「ほら、アスカ。ぼーっとしてないで早く食べなさい。そうしないと夜ご飯食べられないわよ」


「そんなことありませんよ。それに私は元から量を食べませんし」


「何を言ってるのよ。あなた昨日ライギルさんにフィアルさんの店の料理教えたでしょ? あのおかげで夜はやる気よ」


 ええ~。そういうつもりであのメモ渡したんじゃないんだけどな~。


「そういうエステルさんは特に焦った様子がないですね」


「私は自分でも無理しちゃったって分かったから。今は肉を柔らかくする工程までしたら、串屋のおじさんに納品するところまでしかやらないわ」


 やらないわって、結局してると思うんだけど……。まあ、無茶しないなら一先ずは良いかな。それにしても串屋のおじさんのところに納品ってことはハイロックリザードの串焼きが食べられるんだね。じゅるり。


「おねえちゃん、きたな~い」


「へっ? あ、いや、これは違うの」


「全く、エステルさんやお父さんが無理して作るなら、おねえちゃんは無理して食べる側だね」


「そ、そこまで食い意地張ってないよ!」


「ほんと? じゃあ、おねえちゃんはおじさんの店の串焼き我慢できる?」


「いや、それとこれとは……」


 だってあの店の味付けはシンプルだけど美味しいんだもん。あっ、また涎が。


「ほら!」


「ふふっ。この宿で一番強いのはエレンかもね」


「任せてといてよ、エステルさん!」


 わいわい言いながらも食事を済ませる。ちなみにティタの食事はずっとミーシャさんがあげていた。最近はミーシャさんがご飯をあげるのを、ディースさんが見てる感じだ。

 ディースさんはあれからティタの研究のために数日に一度宿にやってくる。その時はミーシャさんに魔石を渡して、食事風景を眺めている。多分今日の食事もディースさんが持ってきたものだろう。


「ごちそうさまでした」


「はい、それじゃ片付けちゃうね」


「アスカはこの後どうするの?」


「進みもいいし、また細工の続きですね」


「そう、無理しないでね」


「は~い。そうだ! ティタ、せっかくだからディースさんのところに行ってくる? 私は相手してあげられないし」


「ワカッタ」


 そうと決まればティタを送り届けてあげないと。私は一度、部屋に戻って外出着に着替えたら再び食堂に下りる。


「さあ、行こうティタ!」



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