テルンさん
「ん~、美味しかった。ライズもよく食べたね」
《ミェ~》
ライズと一緒にちょっとずつだけど結構食べたと思う。このままベッドにダイブしたいぐらいだ。
「はい、アスカちゃんお茶よ。ライズも」
「ありがとうございます」
《ミェ》
食後のお茶をいただいて、お礼を言ってカウンターに行く。
「アスカちゃん。お代は結構だから、ライズを送って行ってもらえる? 店長もすぐに戻るから」
「あ、はい」
宿でもご飯代は無料だったし、みんなサービス中なのかな? さて、ライズを送って行かないとね。
「ほら、行こう」
《ミェ~》
ライズをフィアルさんの家に送っていく。
「すぐにフィアルさんも戻ってくるからね」
そう言ってその場を後にしたけど、ちょっとライズはさみしそうだった。せめてミネルたちみたいに同種の生き物がいたらなぁ。後ろ髪を引かれる思いで帰った私はそう思ったのだった。
「ただいま~」
「おう、アスカ。どうだった?」
「ライギルさん、どうして食堂に?」
「ああ、たまにはこっち側も手伝おうと思ってな。厨房ばかりじゃ、中々気づけないこともあるだろ?」
「そうなんですね。頑張ってください」
「おねえちゃん、騙されちゃだめだよ。向こうの料理が気になるからなんだから」
「そうなの?」
「いや、まあ、気になると言えば気になるが、手伝いたいのも本当だぞ」
「だったら手を動かしてください、あなた。次の料理できてますよ」
「お、おう。アスカ、後で感想聞かせてくれよ」
「は~い……」
これはエレンちゃんの言う通り、手伝いたいというのは建前かも。でも、エレンちゃんも一緒に働けて嬉しそうだしいっか。部屋に戻るとさっき食べた料理の簡単なメモを書く。直接話に行ったら、家族の時間を邪魔しちゃうし、こういう時ぐらいは気を使ってあげないとね。書き終えたらこっそりミーシャさんに渡しておく。
「じゃあ、確かに渡しました」
「はい、受け取ったわ。ごめんなさい、気を使わせてばかりで……」
「いいえ。私、ここが好きですから。じゃあ、お風呂入ってきます」
私はパッとお湯を沸かしてお風呂に入る。ちょっと悪いけど今日は先に入らせてもらおう。お姉さんには後で熱くなったお湯を提供してあげないと。
「ん~気持ちよかった。お風呂でリフレッシュした後は続きだ~!」
途中になっていた細工を再開させる。
「アスカ、ガンバル?」
「うん。しばらくやってなかったしそろそろね。ティタたちは食事貰った?」
「エレン、モテキタ」
「良かったね。さあ、それじゃ再開しよう」
木を削って像を仕上げていく。最終的に追加で三体の像を作った。これで、アラシェル様の像は4種類とも完成したし、月の制作数を考えれば十分かな? 明日からは新作と補充を何にするかおじさんに聞こうかな。
「それじゃ、おやすみなさい」
もろもろの日課を終えて、今日はお休みだ。明日はムルムルの晴れ舞台もあるし、あんまり根を詰めてもいけないしね。
てしっ
「アスカ、オキル」
「う、う~ん。てぃた~? おはよ~」
あれから、ティタには優しい起こし方を教えて実践してもらっている。これなら、どこでも大丈夫だろう。起きたら着替えて朝食を取る。やっぱりあまりものとはいえ、あのスープは美味しいなぁ。部屋に戻るともう一度服装を確認する。よし! 普通の街行きの格好だ。
「ちょっと早いけど、みんなも行くだろうし出発しよう」
「ミンナ、イク」
「ティタたちも行くの? じゃあ、肩に乗って」
ミネルとレダが右肩にティタを左肩に乗せて出発する。教会に着くとみんな神妙な顔をしている。舞が見られるとはいえ慰霊祭だもんね。ちらほらと見知った人も見える。前の方には冒険者の姿が見えるから、きっとあの人たちは関係者なんだろう。それから、二十分ほど待つと開会の挨拶が行われた。挨拶は司祭様だ。シスターさんも隣で立っている。
「……では、これより慰霊祭を執り行いたいと思います。今回は中央神殿より異例ながらも二名の巫女様に来ていただいております。きっと、魂は荒ぶることなく休まるでしょう」
そういうと袖口から巫女の衣装に身を包んだ二人が登場する。二人? もう一人は誰だろう?
「ただいま紹介を頂きました水の巫女のテルンです」
「同じくムルムルです。本日はこの慰霊祭にお越しいただきありがとうございます。亡くなられた方のため、残された方のため、精一杯のことをしたいと思い来させていただきました。皆様の心が休まればと思います」
そういうと二人はシャランとかすかに音のなる楽器を鳴らすと舞を始めた。ええっ!? テルンさん巫女だったの!? 思い返せば護衛の人が丁寧にしてると思った。そういえば時たまムルムルも遠慮してた気がする。
「おおっ!」
「なんと美しい」
そんなことを考えている間にも舞は流れていく。私に教えてくれたものよりもっと動きは複雑だし、衣装的にも難しそうだ。それに手に持った楽器を要所で鳴らしていたりするし、本当に普段から頑張ってるんだなってことが分かる。
「後、ムルムルには悪いけどテルンさんの完成度すごい……」
ムルムルも確かに綺麗なんだけど、見ている方からだとテルンさんが動くのに合わせて動く妖精のような感じだ。どちらかというとテルンさんが舞っていて、ムルムルは補助する感じだ。それぐらいテルンさんは動きも大きくて美しい。練習も厳しいと思ったけど、あれだけ舞えるなら当然だね。
シャラン
最後に一つ大きい音を立てると二人は舞を終えて、スッと退出していく。
ぱち……ぱちぱちぱち
自然と拍手が起きる。そして、それが止むと再び司祭様が話し始める。内容は亡くなった人の家族のためのものと、この町の住民たちの不安を和らげるものだった。先ほどの舞の効果もあり、みんな聞き入っている。
「ちょっとうらやましいな。あれだけの人の心を動かせるなんて……」
同じ巫女と言う立場でも規模が違うのは分かってるけど、同じ立場だからこそ悔しいとも思う。時間を見つけて舞を教えてもらおうかな?
「汝らの行く末に輝かしい未来があることを祈ります」
司祭様のお話も終盤に差し掛かる。たまに会うと、気の良いおじさんみたいだけど、こういう場所ではすごいんだなって思った。
「アスカどうだった?」
その時小声で話しかけられた。横を見るとムルムルだった。すごく地味な格好をしているけど大丈夫なんだろうか?
「ど、どうって?」
「さっき見てたんでしょ。舞」
「すごいと思ったよ。私に教えてくれたのとは全く違うし、難しい動きもあったし、頑張ってるんだなってすぐわかったよ」
「そ、そう」
「後、テルンさんが巫女だってことも」
「ふふっ。じゃあ、理由を聞かせてあげるからこっちに来て」
「ちょ、ちょっと」
ムルムルに手を引かれてこそっと礼拝堂から外を回り裏口から入っていく。
「おや、アスカ様。どうでしたか?」
部屋に着くなりテルンさんに話しかけられる。
「とても、すごかったです。なんていうか動きも大きくて、でも繊細で……とっても綺麗でした」
「それはありがとうございます。ムルムルも頑張っていたでしょう?」
「はい! でも、どうして付き人の振りをしたんですか?」
「ごめんなさい。ムルムルが地方から帰ってやけにご機嫌だし、定期的に手紙まで書いてるから気になってしまって。いい子だとは思っていたんだけど、巫女ですって紹介されてしまうとよく姿が見えないと思ったの」
確かに巫女ですってテルンさんを紹介されてたら、綺麗だし大人びてて身構えてたかも。いまだと巫女って分かってもムルムルのお姉さんって感じがして、ちょっと近い感じだ。
「何となく分かりましたけど、護衛の人も大変だったんじゃないですか?」
「まあ、そうだとは思います。敬語を思いっきり使ってしまっては変だし、だからと言って呼び捨てにもできないでしょうし」
「とか言って楽しんでましたよね?」
「滅多にない機会だもの」
素の状態になったのか、ムルムルが丁寧にしゃべって逆にテルンさんがちょっと砕けた物言いになっている。普段はこんな感じなんだな。
《チッ》
「あら、ミネルちゃんはなんて?」
「サクシ、サクシ」
「策士ですって、そんなこと言われたことないわ。ありがとうミネルちゃん」
「まあ、言えないだけだと思いますけど……」
「さ、もっと話していたいけど、訪問もあるしここまでね。来てくれてありがとうアスカちゃん」
「いえ。二人の舞が見られてよかったです。機会があったら教えてくださいね!」
「ええ、明日にでも……」
ふふっ、テルンさんたらそんな冗談まで言うなんて。昨日も司祭様たちとの食事もあって忙しいはずなのに。
「その時はよろしくお願いしますね。ムルムルもさよなら」
「……ええ」
別れ際になぜかムルムルは目をひそめてたけどどうしたんだろうか? とりあえず、預かってもらっていたレダを迎えに行こう。バーナン鳥は神聖な鳥ということで、巫女の一団の中にも一目見たいという人がいたので預けたのだ。
「レダ~」
《チュン》
「アスカ様、お帰りですか?」
「はい。面倒見てもらってありがとうございます」
「いいえ。街でもたまにお見掛けしていましたが、今回こうして触れ合えて嬉しいですわ」
そういえばレダたちも食事は貰っているけど、そこは小鳥。近くに人がいると寄り付かないんだよね。
「それじゃあ、お世話になりました」
教会を出て宿に帰る。今日はこれから何もないので、細工の続きだ。新作もあるけどまずは冒険に出る前に魔道具を作っちゃわないとね。




