ちび女神像アラシェルちゃん誕生
「まずは、使う材料の幅を書き出して、次に頭の大きさだよね」
材料通りにすることで、イメージを形にする時にサイズがずれて形が狂うのを防ぐ。頭のサイズはミニキャラを見てきたけど割と大きいシリーズから、ちょっと控えめで半分リアルな等身のものまであるからだ。
「やっぱり大きすぎるとバランス悪いし、あんまり好みじゃないんだよね~」
自分が製作する以上は自分の趣味に合ったものを作りたい。そう思ってちょっと頭は控えめのサイズで首下から腰と腰から足のサイズが同じぐらいになるようにする。
「こっちのアラシェル様はいわば私の願望も入るわけだから、ちょっとぐらい元と違っててもいいよね」
私が作るのはアレンジバージョンだ。衣も白いローブから天女の衣のように変えて手には銅鏡をセットできるようにする。さらにオプションとして頭には太陽の冠とユリの飾りをチョイス。手は胸の前に持ってきて、はすの花を中央に持てるようにする。足もサンダルをつけられるようにして、腕にはヒスイの腕輪だ。
「オプションは個別に作らないとね。一緒にイメージしたら持てなくなっちゃうかもだし。でも、こうなってきたら色も塗りたいな~」
おじさんに聞いてこういう木彫り細工に色が塗れないか聞いてみようかな?木そのままでも味があっていいんだけど、ミニキャラなら彩色済みの方が合ってる気がする。そんなこんなで描いているとドアがノックされた。
コンコン
「は~い」
「アスカおねえちゃん、お昼だよ~」
「ありがと~、すぐ行く~」
私はとりあえず完成した像を机の上に、絵をベッドの上においてごみだけ処分して食堂に向かった。
「ん~」
「おねえちゃん急に腕伸ばしてどうしたの?」
「ずっと同じ態勢で作業してたから体が硬くならないように」
「もう13時半なのにずっとやってたの?」
「そんな時間だったんだ…全く気付かなかった」
「だめだよ~、ちゃんと間に休まなきゃ」
「でも、今日中に完成させたかったから。このあとも続けて夜までには終わる予定」
「へ~、出来上がったら見せてくれる?」
「いいよ~。夜の仕事が終わったら部屋においで」
「わ~楽しみ!」
閑散としてきた食堂でエレンちゃんと話しながら食べる。そうと決まればますます手を抜けないね。エレンちゃんに変なものを見せられないもん。
「あら、もう作業は終わったの?」
「目的のはできたんですけど、時間がまだあるのでもう一つ作りたくて…」
「無理しないでね。いつも魔道具を使っている人でも使い過ぎで倒れる人もいるみたいよ」
「あはは…気をつけます」
まさに、前回そうなりかけましたとは言えない。お昼ご飯も食べ終わり、エレンちゃんと別れて再び自室へ。
「さて、再開再開」
途中になっていた絵に手を付ける。ベッドの上で暇つぶしに描いていた絵が本当に役に立ってる。あの時は暇だし絵でも描くかなんて思ってたけど、それを生かせるなんて嬉しい限りだ。
「う~ん。はすってやっぱり難しいなぁ」
シャッシャと絵を描いていく私だが、さすがに花を描くのは難しい。何せ本当に記憶が頼りだし。
「でも、ここでくじけるわけにはいかない」
ぺちぺち
気合を入れるため頬を叩く。勿論ポーズだけど。それからもひたすら集中して描いていく。1時間ほど粘ったところでようやくすべてのパーツが描き終わった。
「よ~し、あとは作るだけだ。ちょっとだけ休もう」
ずっと集中しっぱなしだったので、ここで一休みする。だけどこういう時にあまり時間を使えないことがつらい。
「やっぱり本が欲しい…。街に売ってるか聞いて明日買いに行こう」
生活の中心にあったものだから余計に手放すと欲しくなってしまう。今日のところはとりあえず、キノコのすゝめを読み進める。ただし、あんまり読んで今ある知識の妨げにならないようなところだけ。実物も見たことないのにこれはこうと決めつけるのはよくない。
「相手は生ものだからね。そろそろ休憩もいいかな?」
ベッドから降りて私は再び作業をするためにシートの上に座る。絵を横においていよいよミニキャラの作成に入る。
「…発動!」
シュルシュルシュル
サイズが小さい分、今回の作業は一気にやってしまう。イメージがぶれない様に少しずつ形作るように削いでいく。頭の輪郭から続いて体の部分が作られる。さらに腕・足・手と順番に先の方まで作られていく。そこから折り返すようにきれいに手から形作られる。そして最後に頭に戻って後ろ髪の部分が出来上がり…。
「完成した~!ミニキャラ版アラシェル様。題して女神アラシェルちゃん」
不敬だとは思うけど、この姿のアラシェル様はとってもかわいくできていて様付けで呼ぶことは難しい。きちんとした方はちゃんと呼ぶので許していただけますように…。
「はっ!感動してる場合じゃない。ちゃんとオプションも作らなきゃ!」
再度、魔道具を発動させ今度は練りに練ったオプションパーツを作成する。こっちも女神さまの身に付けるものになるのだから手抜きは許されない。
シュルル
ひとつずつ丁寧に作っていく。やがてすべてのオプションパーツを作り終えた。最初は腕とか手を付け替え用にしようとも思ったんだけど、キャラクターならともかく女神さまの体を付け替えるなんて失礼なことはできないと思ってやめた。
「代わりに私が2体3体と作っていけばいいだけだし」
ふんふ~んと鼻歌交じりに出来上がったアラシェル様とアラシェルちゃんを眺める。どちらも神々しいのだけどやっぱりアラシェルちゃんは愛嬌があって可愛い。女神さまだけあってアラシェル様は美人だからね~。
「明日、買い物ついでにおじさんのところに持っていく時は壊さないようにしないと…」
どうするのがいいかな~。やっぱり簡単なのは木箱にでも入れることだろうけど、ごろごろ動いちゃうよね。
「なんとか箱の中で動かないようになればな~。…そうだ!でっぱりを箱に作ってはめ込むようにしよう」
フィギュアとかの台座にでっぱりがあってそこにはめ込む方式を採用しよう。そうすればちょっとの衝撃だと動かないし安心だ。
「そうと決まれば、ちょっと薪分けてもらおっと」
大きめの薪を分けてもらいにライギルさんのところへと向かう。
「ライギルさん、ちょっと薪貰っていいですか?」
「薪?別にいいけどアスカは火の魔法使えるだろ?」
「ちょっと、今作ってるのに使いたいので…お願いします!」
「あ、ああ。分かった。そこに積んであるのならどれでもいいぞ。まだ割る前だからな」
「ありがとうございます!」
私は遠慮なくそこで目についた一番大きい薪を1本取る。これなら2体分の箱が作れそうだ。
「ありがとうございます。お礼にお湯沸かしますのでまた呼んでください」
「ああ、助かる。じゃあ、時間になったらエレンを呼びに行かせるから」
「はい、それじゃ」
ぱたぱたぱた
「えらく急いでたけど何だったんだ薪なんか使うって?」
不思議そうに見るライギルさんをよそに私は急ぎ足で部屋に戻る。
「材料も手に入れたし早速、形を考えないと」
まずは寸法を図って、それぞれの大きさに応じた長さに切り落とす。造りは普通の木箱だけどでっぱりの分だけ厚みを残して作らないとね。あとはでっぱりも細いと折れないように気をつけて、高さは像を傷つけないように1cmぐらいかな?考え付いたイメージを元にスケッチする。そして実際に魔道具を使って削っていく。そこでふと思いついた。
「でっぱりとかはずれると困るから魔道具を使うとして、他の部分は細工のスキルもあることだし、最初に買った道具にしよう」
MPだって有限だし。細かい細工物以外は今のレベルでも作れるんだから、こういうおおざっぱなものを作る時はなるべく普通の道具にしよう。将来何かの時に役に立つかもしれないし。
「そうと決まればこっちに持ち替えて、とりあえず中身をくり抜くところからだね」
でっぱりの部分以外は残して他のところのくりぬき作業や角を丸める作業など、基本の作業については通常の道具を使って仕上げていく。当然ながら出来は悪くなるものの、要するにある程度平面にして傷がつかないようにするだけなのでさほど難しくはない。
「大きい方、完~成!」
後は小さい方だけどこっちの方が難しい。途中で折れたりしないように筋に沿ってある程度やらないといけないし、力の入れ方も気を遣う。やや手間取りながらもなんとか完成した。後はオプションなのだが…。
「これを固定するとかってできないよね流石に…」
針金入りの紐なんかがあれば別だろうけど流石にそんな便利なものはないし。針金だけだと傷がついちゃう。
「う~ん…」
悩んだ末に私がたどり着いたのは、コの字に木を彫ってそれを箱の中に開けた穴に差し込んで固定するという形だ。木材同士ならそこまで傷がつかないという考えだ。だけど、穴の大きさやコの字の作成にもかなりの集中力がいるだろう。
「頑張ろう」
ここまで来たらできるところまでやる。そう決意して材料に向かい合う。
「発動!」
「はぁ~、疲れたよ~」
あれから穴を8か所作り、対応する部品も8つ作った。それを実際に使ってパーツが固定できることを確かめる。
「これで全部終了かな?ほんとに今日は疲れたよ」
そういえば、かなり魔力を使っている気がするのだが今の残りはいくつぐらいだろう?
「…ステータス」
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:冒険者
HP:64
MP:243/1250
力:11
体力:22
早さ:26
器用さ:65
魔力:295
運:50
スキル:魔力操作、火魔法LV2、風魔法LV3、薬学LV2、細工LV1、魔道具使用LV1、(隠ぺい)
「うそっ!1000も使ってるの!そりゃ疲れるわけだよ~」
使いっぱなしという事もあるんだろうけど、この調子だとすぐに次というわけにはいかなさそうだ。とりあえず、今日はこのままで明日は朝一にどれぐらい回復したかを見てから隠ぺいしよう。そう思った私は今日出たごみを集めて掃除をした。今日はほんとに疲れたので、あとはご飯までおやすみなさい。