睡眠と里帰り
食事も終わり、少し休憩ということで部屋に戻る。
「ふぅ~美味しかったわね!」
「そうですわね。神殿でもたまに信徒の方が持ってきたものでパーティーを開いたりもしますけれど、今までで一番だったかもしれませんわね」
「でも、あの肉本当に硬かったんですよ。剣も刺さらないぐらいですし」
「そっちの話。でも、あの肉は持って帰られないとしてもあの鍋は欲しいわね。固い肉でも柔らかくできるんでしょ? お留守番してるエスリンにもお土産をあげないとね」
「それは良い考えですね。これまでもずっとお付きで苦労したでしょうし、日頃の感謝の意を伝えてはどうです?」
「むっ、そんなに手間はかけてないわ!」
「そうでしたでしょうか?」
「二人とも。それより、ライギルさんたちが持ち帰られるものを作るって言ってたけど、どんなのかなぁ」
「それよね。最低限、柔らかくしてもらわないとどうしようもないのよね。でも、煮込んじゃったら日にち持つのかしら?」
「料理好きが二人もいるんだから、大丈夫だとは思うけど……。とりあえず今日のところは休んでもらおう」
「そうですわね。顔色もあまりよくない様でしたし、魔法で緩和できないわけではありませんが、それで無理されてもいけませんもの」
「確かにね。私たちのせいで無理させるのはダメよね」
《チチッ》
「あっ、おかえりミネル、レダ」
どうやら、二羽がライズのところから帰ってきたようだ。
「あら、こちらの方たちがミネル様たちですね。こんにちは、テルンと申します」
《チッ》
「ヨロシクネ」
「よろしくねって言ってるみたいです。最近はティタが通訳してくれてるんですよ」
「えっ、ティタってそんなことも出来るの?」
「元々魔物だし」
「そういえばそうね」
「はい。よろしくお願いいたします」
挨拶代わりにミネルたちはテルンさんの肩や腕に飛び乗る。テルンさんもラネーで慣れているのか、特に気にした感じもなくされるがままだ。
ふわ~
「あら? なんだか髪が流れていきますわ」
「こら、ミネル。人に魔法使っちゃ駄目でしょ」
「ミネル様は魔法も使われるのですか?」
「はい。気づいたら使えるようになってたので、いつからかは分からないんですけど……」
「従魔が魔法を使えるのは知ってるけど、結構便利そうね。他には何が使えるの?」
「どうだろ? ミネルは従魔じゃないから、私も何ができるか知らないんだ」
「えっ、従魔ではないのですか?」
「はい。うちに住んでるだけなので。明日行くところに巣があったみたいなんですけど、そこから付いて来たんです」
「普通なら我先に従魔にすると思うけどね。あなたもそれでいいの?」
《チッ》
「別にいいみたいだよ」
「ふ~ん。ティタ通訳してみて」
「アスカ、ジュウマ、キョウミナイ」
「ほら、アスカが興味ないからなってないだけじゃない」
「あはは……。確かにミネルが従魔になっても特に何か変わりそうにないかな? ずっと一緒にいるから。あたっ」
そんなことを言っていると、ミネルにつんつんされてしまった。
「だけど、珍しい鳥ですし大丈夫でしょうか? 居場所を分かるようにした方がよいのでは?」
「やっぱり、そうなんですかね。ただ、従魔にすると毎日MPを持って行かれるので、それがどれぐらいになるか分からないんですよ。こう見えてティタが結構持っていってるんです」
「へぇ~、ゴーレムなのに魔力が高いのね。ちなみにどのぐらいなの?」
「多い時だと100ぐらいかな?」
「そんなにですか。神殿にいる方は30程度だと言われてましたが……」
「じゃあ、ティタは本当に魔力が高いんだね」
「ティタ、アスカノマリョク」
「自業自得だって」
「おかげでかわいいティタと一緒に居られるけどね。おいで~」
ティタを膝に乗せる。それに対抗してかミネルたちも私に飛び乗ってきた。
「本当に仲がよろしいのですね」
「はい。もう長いこと一緒ですし。そうそう、ミネル。明日は里帰りだよ。久し振りに巣へ帰ろうね~」
《チッ》
ミネルが嬉しそうに部屋を飛び回る。やっぱり、寂しかったんだね、定期的に連れていってあげなきゃ。
コンコン
「は~い」
「おねえちゃん。お母さんが呼んでるよ」
「は~い。それじゃあ、ちょっと用事があるので……」
「さっきの女の子ね。それじゃ、私たちも今日は帰りましょうか」
「そうですね。長い時間お世話になりました。明日は何時ぐらいでしょうか?」
「ん~と、十時ぐらいでどうでしょうか? 食事も向こうで軽く食べるということで」
「分かりました。では……」
あんまり一緒にいて騒ぎになってもいけないので、別々に下りていく。下りたところで軽く手を振って別れる。
「さあ、私は食堂だな」
食堂には食事を済ませたライギルさんたちがいる。早速、料理の話みたいだ。気のせいか、水の巫女へのお土産だと意気込んでいる感じがある。
「アスカちゃん、来てくれたのね。もう食事は終わってるから、エステルの方お願いね」
「了解です」
ミーシャさんが二人の分のジュースを持ってくる。二人とも熱心に話をしているせいか、自然にジュースを手に取り飲む。数分後、効き目が表れたみたいで、二人とも寝てしまった。
「はぁ、全く手がかかるんだから」
「まあ、おかげで私たちは美味しい料理を食べられるんですけどね」
「だけど、限度があるよ~」
「そうだね」
「でも、本当におねえちゃん、エステルさん持って上がれる?」
「大丈夫。魔法使うから。そうだ! ライギルさんの方はティタお願いね」
「ワカッタ」
ティタがライギルさんに魔法をかけて、重量を軽くする。
「ティタちゃん、ありがとう。さあ、さっさと寝かせに行くとしましょう」
「あっ、おかあさ~ん。私も」
「エレンは悪いけど、先に洗い物をお願い。今日は一人だけだから……」
「……は~い」
私はエステルさんをさっきまで護衛の人がいた部屋に運ぶ。ここは今日、宿泊済みになってるからちょうどなんだよね。
「ふぅ、ベッドには寝かせたし後は出るだけなんだけど……私は鍵の操作とかできないからな~」
仕方なく、鍵を閉めると窓を開けてそこから飛んで出る。窓の鍵なら何とか魔法で閉められるだろう。
「よし! じゃあ、後は厨房だね」
私は入口から宿に戻ると厨房に向かう。
「エレンちゃ~ん。手伝いに来たよ」
「おねえちゃん良いの?」
「うん。私が発案者だからね。それぐらいは責任持つよ。というわけで、洗い物は任せてね。エレンちゃんは鍋をお願い」
「は~い!」
私は風の魔法を使って水をお皿にかけながら、洗剤と混ぜる。洗い終わる時も魔法でぐるぐる回し洗って、綺麗に洗い流す。それが終わったら、温風をかけて乾燥させておしまい! 後は……食器棚はあそこか。
ヒュンヒュンヒュン
これも風の魔法でお皿を綺麗に重ねてしまっていく。金属のナイフやフォークなどもまとめてしまう。
「あら、アスカちゃんどうしたの?」
「一応発案者なんで後始末をと」
「悪いわね」
「いえ、洗い物は終わりましたから後は鍋の方だけです」
「こっちも終わったよ~」
「エレンもお疲れ様。それじゃあ、今日は久し振りに早めに寝ましょうか」
「わ~い!」
ミーシャさんには改めてお礼を言われ、エレンちゃんと一緒に家へ戻っていった。いつもエレンちゃんだけ先に帰っていたから、こういう日もあってよかった。ライギルさんは寝ちゃってるけどね。
「それじゃ、私も明日に向けて寝よう」
私もティタを肩に乗せて、部屋に戻ったのだった。
「ふわぁ~、昨日はちょっと頑張ったけどおかげでよく眠れた~」
《チッ》
「ん~、ミネルってばまだ行く時間じゃないよ。もうちょっと待っててね~」
ミネルたちのご飯を用意して、私は朝食を食べに食堂に下りる。
「おはようございま~す」
「おはようおねえちゃん」
「うん。あれ? ミーシャさんは?」
「お父さんがまだ寝てるから厨房だよ」
「なるほど。じゃあ、エステルさんもまだ寝てるんだね」
「多分ね。それじゃ、朝ご飯持ってくるね~」
「お願い」
今日の朝食は昨日のスープとパンだ。パンはいつもこの時間には焼き上がってるんだけど、さすがに今日はライギルさんが寝ているので、作り置きの分だ。久し振りの堅パンだけど、これで休めるならしょうがないかな。
「ん~、ご馳走さま」
さて、まだ八時だけどどうしようかな~。
ドタドタ
「悪い! 寝坊した!!」
ライギルさんが起きてきちゃった。ずいぶん慌ててたみたいで、髪もボサボサだ。
「お父さん。まだ、寝てていいのに……」
「何を言ってるんだ。朝のパンまだできてないだろう?」
「それなら大丈夫だよ。宿のお客さんには説明したから」
「そうなのか? いや、でもな……」
「ライギルさんもたまにはゆっくりしないと駄目ですよ」
「ん? アスカも噛んでるのか?」
「詳しいことはミーシャさんに聞いてくださいね」
「分かったよ……」
ライギルさんは説明を求めてミーシャさんのところに向かっていった。ちなみに、奥からちょっと大きいミーシャさんの声が聞こえてきたのは言うまでもない。
「悪かった。心配かけたみたいだな」
「それを言うなら二人にですよ。私が気づいたぐらいですから、もっと心配してたと思いますから」
「ああ、さっきも休みを取るように言われたよ」
「また、飲みたくなったら言ってくださいよ。まだありますからね」
「遠慮しとく」
ライギルさんはその後もエレンちゃんのところに行って謝っていた。ちなみにエステルさんは効き目が良く、十一時頃まで寝てたらしい。
「さて、そろそろ時間だし行こうかな」
そうだ! せっかくだしフィアルさんの店に寄ってライズも連れていこう! 最近は人にも慣れたし、ミネルもずっと会いに行ってるしね。
「じゃ、先に教会に行くよ~」
私はティタを肩にミネルとレダを連れて店に向かった。




