これが至高か究極か
「さあ、いよいよアスカのお部屋ご開帳ね」
「そんないいものでもないけどね」
実際、服以外はほとんど物がないわけだし、後あるとしたら本ぐらいかな?
ガチャリ
「ただいま~」
と言っても、ミネルたちはまだ帰って来てないみたいだ。部屋のライトをつけて迎え入れる。
「椅子は一つしかないから、どちらかで使ってください。もう一人は申し訳ないですけど、ベッドで」
「なら、私がベッドね」
「では、私は椅子に失礼します」
2人が座ったところでお部屋案内だ。
「こっちが服を掛けるハンガー掛けで、こっちが服入れ」
「ふぅん。よく出来てるわね。この箱は?」
「そっちがミネルたちの巣箱で、そっちのはティタの家なんだけどまだ作ってる最中なんだ。いい石がなくてね」
いい石と言うのはティタが前にいたところのではだめなのだ。なんでかって?ティタが食べちゃうから。魔力のない岩を探さないといけないんだよね…。
「こんなものまで作ってたのね。ほんとよくやるわ」
「ですが、このようなものがあれば、ラネー様も落ち着かれるのではないでしょうか?今は巣箱のようなところではなくバスケットの上に敷物を敷いた上におられますし」
「あ~、多分ですけどあんまりそういうのはよくないんじゃないかと…。折角ですから新しいのを作ってプレゼントします」
「いいの?時間とか掛からない?」
「これを参考にすればいいんだから大丈夫!ちょっと待っててね」
私はテルンさんにベッドへ移ってもらうと、いつものようにシートを取り出し、細工道具を出して作っていく。
まずは屋根だけど、結構神聖視されてるから簡単に屋根を外せる作りもまずいよね。寝室のところは鍵付きにしてと。それからそこへの入り口には綿を敷く。これはちょっと余ったライズの毛を使おう。ラネーは会ったことないけど、新しい仲間が増えたよって教えてあげたいしね。
「上は結構薄暗いのね」
「ここは寝室とかリラックスするところだから。下は逆に生活空間で、食事台とか人と触れ合う時用のリビングみたいな作りだよ」
そう言いながら、リビング周りを作っていく。前は普通に長方形の箱だったけど、せっかく新しく作るんだからちょっと良いものにしてあげたい。奥側はスロープにして。手前側は水飲み場で寝室下から手前に伸ばした1階部分は人と触れ合えるようにする。屋根のところは小さいけれど止まり木を作って、帰って来た時にわかりやすくしておこうかな。お水と餌箱に関しては取り替えやすいように溝を作ってそこにおけるよう着脱式だ。
「へぇ~、スイスイ進んでいくのね」
「うん。一応前回作ってるしね。少し気になるところとかもあったし、後はそれに合わせるだけから」
「そうは言われても、よどみなく作業を行われているようですが…」
「う~ん。そこは慣れですかね?簡単な作りのものなら考えながらでも出来ます。細かい細工とかになると絵を描きますけど」
「絵にかいてるの?」
「うん。暇だろうし見とく?」
「見る見る!」
私がスケッチブックを取り出すと、すぐにムルムルはそれを開いて見ていく。テルンさんも気になるようで横で見ている様だ。
「色々書いてんのね。しかも、結構綺麗に書けてるわ」
「ありがとう」
「確かにかなりの画力です。花なども特徴をよく捉えられておりますし、そこからデザインによく落とし込まれております」
「そ、そうですか?」
「はい。私たちも巫女の服をよく見ますから、こういうことに関しては見る機会が多いのですが、良いものだと思います」
「そうね。いっそのこと今度依頼出してみる?3人分」
「ええっ!」
「いいかもしれませんね。丁寧な細工物でしたし、カレンさまも喜ばれるのでは?」
「うん。じゃあ、今度また出すわね」
「ちなみにどんなのを…」
「う~ん、そうねぇ。ネックレスはあるし、腕輪にしましょう!それなら結構宝石とかも使えるでしょ?」
「いや、まあ使えるとは思うけど…」
「じゃあ、決まり!よろしくね」
「因みにご予算は?」
「値段?まあ、金貨5枚ぐらいで作ってね!」
「それは予算を取り過ぎではありませんか、ムルムル様?」
「へ~きよ。私ってお金の使い道ないんだから、足りない分はちょっと足しとくわ」
「いけません!きちんとご自分の分はお使いにならないと…」
「まあまあ、それに出すって言っても、ちょっとだけだから」
「はぁ…この話は帰ってから改めて致しましょう。では、アスカ様。依頼を受けていただけますか?素材費が金貨5枚まで、成功報酬は物を確認してからですが、恐らく金貨4枚前後になるかと」
「わ、私は構いませんけど…」
「アスカ、ある程度はデザイン同じにしてね」
「うん」
その後も3人でずっと話をしていた。今まであんまり神殿での生活について聞くことがなかったけど、ムルムルからもテルンさんからも聞けたのがうれしかった。こういうことが聞けたのも部屋だからかもしれない。すごく、リラックスして話が出来たしね。
コンコン
「は~い」
「おねえちゃんいる~」
「どうしたのエレンちゃん?」
「ちょっと早いけど、テーブルに座ってくれる?開店後に座っちゃうと目立つから」
「了解~。それじゃあ行きましょう」
「ええ」
部屋を出て隣の部屋で待機している護衛の人にも知らせる。
「いよいよ、食べられるのか…」
「護衛をしてからね」
「わ、わかっている」
護衛の二人も交えて食堂に下りる。場所は宿でも一番奥のテーブルだ。いつもは4人掛けなんだけど、ちょっと席を追加して5人掛けになっている。おかげでちょっと狭い。ちなみに奥側が私とムルムルとテルンさん。食堂側に護衛の2人だ。
「それじゃあ、もうちょっとだけ待っててね。開店したらすぐに持ってくるから!」
「ごめんねエレンちゃん。大変な時に」
「ううん。今日も助かっちゃったしいいよ。そういえば、お母さんに用事だったよね。今呼んでくるから」
そういえば、まだ話してなかったな。帰ってきた時もまだ掃除中だったし。
「アスカちゃん。お話って何かしら?」
「ミーシャさん、こっちこっち」
あまり人に聞かれたい話しでもないので、耳元でこそこそと話をする。
「…で、あんまり寝てないと思うので、今日あたり…」
「そうね。主人もちょっと心配なのよね。でも、どうやって?」
「これを…」
私はジェーンさんから貰った薬を見せる。二人でOKと合図をする。決行は今日の仕事の後、ジュースを出してそこに混ぜるように決まった。何でもエステルさんも夜は23時まで、ライギルさんに至っては日を超えるぐらい料理に打ち込んでいるらしい。もう3日目なのでちょうどいいかもしれない。
「それじゃあ、後でね」
「はい!」
準備は出来てるし、後は料理を待つだけだ。数分後、ドアが開かれて開店する。いつもにも増してドドッと人がやってくる。みんな席を探しているので、特に私たちは目立たないようだ。テルンさんも奥にいて、人目に付かないのも大きいと思う。入口から一緒に入ってたら大変だったな。
「お待たせいたしました」
「はい。ってライギルさん!目立つ目立つ!」
「え、ああ、すまん。つい巫女様に食べてもらえると思うとな。メインの煮込みはやや濃いめ、スープは薄味です。塩気が足りなければこちらで…」
「はい。ご丁寧に有難うございます」
ライギルさんもそういえば行く暇はないけど、シェルレーネ教徒だっけ?そりゃ出てくるか。
「ふふっ、こちらがそうなのね」
「では、護衛の私が毒味を…」
「止めなよ。ただ、早く食べたいだけだろう君は」
「いやしかし…」
「ここはお付きの私からということで」
「あっ、ずるい!」
「では、アスカ様。ご一緒に食べましょう」
「あっ、はい。頂きます」
ぱくっ
んんん。ふわぁ~と口の中で煮込まれたソースの味とハイロックリザードの肉の味が広がる。固い固いと言われていた肉も、筋繊維にそって食べるとスッと食べられる。
「お、美味しい~!」
「ほ、本当?もう、食べていいわよね!?」
「もうしばらくお待ちください」
「いいでしょ!」
「仕方ありませんね」
「やった!」
「では、私めも」
「俺も」
お許しが出たようなので、みんな一斉に食べ始める。後はと…。
「テルンさん。パンも付けてみましょう」
「パンですか?」
「はい!」
私達はパンにつけて食べる。もちろん小さい肉をのせて。
「ん~~。美味しい!パンのサクサク感が加わって、また違う感触だ!」
「本当ですわね。エスリンには悪いですが、今回来れて良かったですわ」
「本当ですな。貴族の身で地方ばかりと思って居ましたが、こんなものに出会えるとは!!」
「ちょ、おい!」
「あっ、いえ…」
やっぱり、ストレスだったんだね。普通貴族の人なら、神官騎士として神殿勤めだよね。
「あらあら、まあ、いつも付いていってくれてますし、聞かなかったことにしましょう」
「は、はい!」
おお~、実はテルンさん結構偉いひとなのかな?それはさておき、次はスープだ。こっちはどうかな~。
ずずっ
おおお、わずかな塩っ気に野菜の甘味と、小さくしてあるハイロックリザードの肉。んん~、こっちもこっちで美味しい!
がつがつ
ん?なんの音だろう?
「こら、シャティス!あんた貴族でしょ!もうちょっと静かに食べなさい!!」
「はっ!あまりに美味しかったのでつい…」
ううん。実は食いしん坊さんだったのか。評価を改めとこう。
結局、護衛の人たちは二人ともパンをおかわりしていた。私達はそこまで大食いでもないので十分だ。食べすぎちゃって嫌な思い出にしたくないしね。
「ん~。美味しかったわね。カレンさんにも食べさせてあげたかったわね」
「それでしたら少しお時間いただけますか?」
おや、ライギルさんが来て気になる発言だ。あの固い肉をどうにか出来るのだろうか?
「お土産といっても固いとうかがっておりますが?」
「今、厨房の者で何とか出来ないか思案中です。3、4日頂けたら、きっと作って見せます!」
「ご無理なさらないようにお願い致します。ですが、もし出来たときはお手数ですが教会までお願い致します。お礼を致しますので…」
「はい!」
ライギルさんの元気のいい挨拶で、食事は一区切りとなった。