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歓談

護衛と騒がしく話した後にムルムルが戻ってきた。ついでにと、簡単な食事も持ってきてくれる。


「きちんと話をしてきたわ。OKだって!」


ほんとかなぁ?無理やりな気もするけど…。


「大丈夫よ。彼らにも食べさせるということで納得してもらったから。特にうるさい方は貴族でしょ?件の肉が食べられるだけで簡単に落ちたわ」


なるほど!貴族は珍しいものや変わったものを集めるって言うけど、真面目そうなあの護衛の人もそういう弱点があるんだな。


「そういえば気になってたんだけど、ラネーは連れて来てないんだね」


「ああ、本当はラネーも連れてくるつもりだったんだけど、今は神殿のマスコットになっててね。ある意味巫女以上かも。外出というかどこに飛んで行くとかも把握してるのよ。全く!」


「ええっ、なんでそんなまた…」


「ラネー様たちはバーナン鳥であり、我らがシェルレーネ様を祭る教会では神聖な鳥とされております。それゆえ、神殿から離れるということが、信心深い人たちからは凶事の前触れではないかと言われるのです。ですから、長期離れることに関しては中央神殿の許可がいりまして…」


ラネー夫妻はとんでもないところに輿入りしちゃったみたいだな。窮屈にしてないといいけど。


「あっ、心配しないでね。教会とその下の街ぐらいなら自由に動けるから。ちゃんと神官騎士がついてるしね」


「そ、それはそれでいいんだろうか…」


機会があったら私からも会いに行ってみよう。話の通りなら向こうからは来られないみたいだし。


「ごめんねアスカ。私もあそこまでみんながこだわるだなんて思っても見なくて」


「ううん。ムルムルの所為じゃないよ。ラネーたちだって、自分から行きたいって言ったんだし。それに、きっとムルムルを気に入ったから行くのを決めたんだよ。戻ったらお世話してくれたらいいから」


「うん。それはもう。と言っても、今残ってる巫女の子が普段見てくれてるんだけどね。私はどうしても地方行きが多くて…」


「相変わらず大変なんだね」


「まあ、頻繁に旅行に行ってると思うしかないわね。仕事だと思ったらやってらんないわ」


「よそではそのようなことを言ってはいけませんよムルムル様。皆様来られるのを心待ちにしておられるのですから」


「それは分かってるんですけど…あっ、いや、わかってるわ」


「それじゃあ、この街にいる間だけでも羽目を外して遊ばないとね。明日からは忙しいの?」


「ううん。簡単に街を見て、人々が問題なく暮らせていることを確認出来たら、明後日か3日後ぐらいにここで話しをして終りね。まあ、今日見た感じだと特に問題はなさそうだけど…」


「ですが、私たちの滞在時間は短いですからなかなか見きれないことも多いのです。アスカ様から見て何か気付くことはありませんか?」


「私からですか?う~ん…一応この街にも小さいですが、スラムがあるのでそれぐらいですね」


「スラム…ですか?この街は比較的治安もいいように思えますが?」


「私もそれは間違いないと思うんですけど、15人ぐらい住んでるみたいです。元々は流れ着いた人たちらしいですけど、今はそのお子さんとかもいるみたいで…」


「そうなの?司祭様からはそんな話は聞いてないわね…明日シスターにでも聞こうかな?」


「ええ。ムルムル様、そうされた方がよろしいかと。あまりに安全な街ですので、逆に言いづらいのかもしれませんわね」


因みにレディトはその倍以上の40人ぐらいがスラムにいるみたいだ。あっちの方が人口が多いので人数が多いのも当然なんだけどね。


「でも、これぐらいの街なら安全で仕事もありそうだけどね」


「それが…」


私は孤児院出身のノヴァやリュート、エステルさんのこれまでの就業状態について伝える。


「まあ、孤児院を出てそうなのであれば、スラム出身者はさらに難しいですわね」


「私も知り合いはいませんが多分難しいんだと思います。安全な分、そういうことに余計に敏感なのかもしれません」


「では、明日の街の見学はそこを重点に置きましょう。ムルムル様」


「そうね。ありがとう、アスカ」


「ううん。自分の住んでる街なのにムルムル達に助けてもらって悪い気がするぐらいだよ」


「いいえ。教会は慈愛の女神としてシェルレーネ様を祭る以上、こういうことを見て見ぬ振りができないだけですよ。アスカ様こそ、そのように捉えられるだけで十分な優しさをお持ちです。どうですか?アスカ様も入信しては?」


「あ、あ~、そのね。アスカは間に合ってるから…」


「間に合っている?ああ!冒険者ですしグリディア様でしょうか。確かにかの聖霊様を祭る方も冒険者には多いと聞きます」


「ん~、なんていうか…ああ~、アスカ!パスっ!」


そんな急にパスされても。でも、全部は言わないとしてあの事をテルンさんに言うべきだろうか?ムルムルもかなり信頼してる様子だし、大丈夫かな?ん~。でも、もうちょっとだけ様子見だ。


「その、地方神を信仰してるんです。アラシェル様って言うんですけど…こんな像も作ったりしてるんですけど」


そう言いながら、バッグからアラシェル様の木像を取り出す。


「これはアラシェル様!?ああ、ではあなたが?あの!すみません。作られたのは細工師ということで、てっきり同名の別人だと…」


「あれ?私みんなに言ってなかったっけ?」


「ムルムル様から聞いたのは冒険者で友人のアスカ様と、啓示でシェルレーネ様の神像やアラシェル様の像を作られた、細工師のアスカ様ということはお聞きしましたけど…」


「ひょっとしてカレンさんもそう思っているのかしら?」


「カレンさん?」


「ああ、私と一緒で巫女なの。さっき言ってたラネーの世話を普段してくれてる巫女よ。あまり体が強くないから、基本的には神殿で信者の相手をしているのよ」


「へ~。でも、神殿にずっといるなんて大変そう」


「まあね。でもたまには外出できるわよ。ちょっと仰々しくなるけどね」


「出かけるのにも外出日の告知がありまして、さながら小さいパレードのようなものですから」


「じゃあ、今回もそうだったの?」


「残念ながら違うわ。私は普段からよく出かけるからみんなも飽きちゃったみたいなのよ」


「お言葉ですが、普段から街に繰り出されているからですよ。巫女の神秘さを皆が感じにくくなってしまっているのです」


「だって、神殿にあるものは経典と絵画と神像ぐらいだもの!」


「そんなに娯楽が少ないんだ…」


「そうなのよ!もっと、色々あった方がいいと思うんだけど中々入れてくれないのよ」


「まあ、神殿におられる枢機卿様は生真面目な方ですからね」


「あれは堅物って言うのよ絶対!」


ん~、神殿は神聖なものか生活空間かか…。なんだか難しい問題だね。


「アスカ!いま、関わらないでおこうって思ったでしょ!もう~」


「オチツク」


「ほら、ティタもこう言ってるよ。そうそう、予定なんだけど1日ぐらい暇だったりしないの?」


「うん?そりゃあ、そのぐらいは大丈夫だけど…」


「なら、出来たらでいいんだけど街の北東に行かない?」


「北東ってもしかして街を出るの?」


「そうだけど…やっぱりだめ?」


「そこに何かあるのでしょうか?護衛の方の都合もありますし、私たちも安易には決められませんので…」


「実はね。そこにミネルの住んでいた巣があるの。あんまり人には言えないんだけど、ムルムルたちならどうかなって思って」


「本当に?それなら何とかなるかもしれないわ。ヴィルン鳥の出身地でしょ」


「うん。そういうことなら護衛の方たちには私からも頼んでみましょう。危険はありますが、幸運を呼ぶ鳥については、神殿関係者にも信奉者がおりますので、良いお話が出来ます」


「でも、場所は秘密にしてくださいね」


「もちろんでございます」


「じゃあ、2日後にしましょう!先に予定を決めておけば都合も付けやすいでしょ?」


「そうだね。ならそうしよう」


「では、一旦それで予定を組むとして、一度宿の方にお邪魔させていただきましょうか」


「テルン、なんで…?」


「なんでも何も、お忙しいときに貴重な料理と場を提供していただくのですよ。当然ではありませんか、ムルムル様」


「ん~、確かにね。それじゃあ早速行きましょうか!」


そういうとムルムルは奥に行ってすぐに着替える。


「ほらほら、テルンも早く早く!」


「はいはい、では少々お待ちください」


テルンさんも奥に入って着替えてくる。ムルムルは私と一緒のような街娘的恰好だったけど、テルンさんは思いっきり貴族のお嬢様的な格好だ。


「テルンさん、その恰好はちょっと…」


「目立ち過ぎでしょうか?神殿の関係者としてご挨拶に行くのですから変ではないと思うのですが…」


「変よ!変も変。そんな恰好されたら私はどうなるの。侍女以下になっちゃうじゃない!」


確かに。これではいくらムルムルが巫女ですって言っても、影武者か?大変だなの一言だろう。それぐらい差がある。元々、大人のお姉さんなテルンさんだけど、この恰好をされては神々しいとまで思えてしまう。


「では、皆様もご一緒に…」


「絶対に嫌!ここまで来て堅苦しい格好なんて御免です!」


「残念」


もっと食い下がるかと思ったけど、すぐにテルンさんはあきらめて普通の恰好に変えてきた。普通といってもやっぱりそこはかとなく、お嬢様だ。うう~ん、教養レベルも高そうだしほんとにどこかの貴族の人かもしれないな。護衛の人だって貴族なんだし。


「それじゃあ、準備もできたみたいだし案内するね。ほらティタつかまって」


「ウン」


ついて来たものは仕方ないので、バッグから『ティターニア』を出して、ティタを乗せる。


「何それ?」


「ティタを身近に感じられるように作ったの」


「細工や神像だけかと思いましたら、こういうものも作られるのですね」


「はい!色々出来れば将来役に立つと思って」


「なるほど、さぞかし大きな目標をお持ちなのですね」


「もちろんです!なんてったって、地方の街で一軒家を建てて住むんですから!」


「そ、そうですか…それは大変ですね」


「でしょう?何かお金を稼ぐ手段でもないとやっていけませんよね」


「…ですね」


「テルンさんがそう言ってくれてはっきり目標が出来ました。ありがとうございます!」


「あ~あ、私は知らないわよ」


「私の所為でしょうか?」


「間違いなくね」


準備も整ったので、いざ宿に向けて出発だ!




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