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アルバと買取

見張りも終えて一夜明けた朝。


「アスカ、オキル」


ドスン


「うっ!」


は、早くティタに目覚めさせる方法を教えないと…。


「おはよう、アスカ」


「おはよう、リュート。ご飯の準備は?」


「もう終わってるよ。あっちに水がためてあるから、顔洗ってきたら?」


「そうする」


ああ~顔を洗うって気持ちいい。旅先で水が豊富にあるのっていいな~。


「おや、目覚めましたか?朝食はあっちです」


「はい~」


簡易テーブルの上にはすでに昨日の夜のスープが温められて置いてあった。ずず~、ふぅ。このスープも割と贅沢なもので作られてるんだよね。一つ一つは余りものかもしれないけど、塊で買うと高いものばかりだ。


「あまり長居もできませんから、準備が出来たら言ってください」


私たちはそれから20分後に出発した。食事はゆっくり食べれたし、片付けもノヴァたちがやってくれたし言われたよりもゆっくりできた気がする。


「はぁ~。後は帰るだけだな!というか木がなぎ倒されてるな」


「ここまではまだ街からも整備の人が来てないみたいだね」


「まあ、元々こちらは街道からも離れていますからね。危険度も上がりますし、巡回依頼のパーティーに少しずつ片付けてもらうか、一緒に誰かが付いて行くでしょう」


「これなんか建材とかに使えそうなんだけどね。ノヴァはどう思う?」


「ん?まあ、細い木は難しいだろうけど、半分ぐらいは使えそうだな。ただ、本格的な柱より木枠とかテーブルとか家具向きかも」


「なら、来てもらっても難しいかな?」


「値段によるな。普段の木は西側から仕入れてるし、こっちのを使う場合は護衛料とかがかかるから、割高なんだよ。それより安くなるなら仕入れるかもな~」


「では、アスカの名前でギルドへ提案してみてはどうです?小遣い程度でも貰えるかもしれませんよ」


「ほ、ほんとですか?今の状況だと助かります!」


ギルドに着いたら依頼報告と合わせて言わなくちゃ!


「アスカなんか変わったね」


「まあ、これまでお金に追われる生活をして来なかったようですし、反動なのでしょう。ただ、正常値に近づいたとも言えますね」


「みんな聞こえてるよ!」


わいわい言いながら進んでいく。昨日感じた通り、こちら側はかなり安全な区域のようだ。他の魔物もまだハイロックリザードの匂いに怯えているのか、姿も見せない。


「よっしゃ!予定より早く着いたな」


「そうだね。薬草も取る前に地形がボロボロで取れないし、この辺りも復興はかなりかかりそうだね」


「残念だよ。はぁ~、生息する薬草変わっちゃわないかなぁ…」


「それは心配だよね。変な草が生えるようになっても困るし」


「でも、悩んでても仕方ないし、気を取り直してギルドへ行こう!」


私たちは門を通って、ギルドへ入る。まだ昼前に帰ってきたということで、ギルドはとても空いていた。


「こんにちわ~」


「アスカちゃん、どうしたの?依頼ならもうないけど?」


「私たち、レディトに行っていて依頼の帰りなんです。という訳でこれお願いします」


「そうだったのね。それじゃ預かります」


ホルンさんにカードを渡して依頼内容を確認してもらう。


「ん、今回の依頼は調査なのね。こっちで報告してもいいって聞いてるかしら?」


「はい。報告書はこれです。書き留めておいたものを、フィアルさんが夜中にまとめてくれたんです!」


「そうなの。それじゃちょっと見せてもらうわね…」


そういうとホルンさんは真剣な目つきで報告書を見ていく。


「へぇ~あそこがね…あっ、やっぱりここまでは無理なのね。マスターにも話をしないと…」


報告書の中身で報酬も変わるのが調査依頼の特徴だ。中には数日かかって決まるものもあるので、金欠時には注意が必要だ。


「大体のことは分かりました。精査して追加の報酬を出すでしょうけれど、今のところは成功報酬の金貨1枚ね。特にサンドリザードの巣の位置がおおよそ把握できたのは大きいわ。これまでは生息数が多くて全く手が出せなかったから」


「Aランクの人たちでもですか?」


私たちよりはるかに強い人たちなら出来そうなんだけどな。


「残念ながら、数が多すぎてそこにたどり着くのが困難なの。それに、対応できる魔物のために貴重なAランクを失うわけにはいかないということもあってね」


たしかに普段のサンドリザードならそこまで手強い訳じゃないし、Cランクの資金稼ぎにちょうどだってみんなも言ってたな。冒険者ランクはピラミッド構造だし、依頼も単純じゃないんだ。


「とりあえず報酬を渡すわね。4等分?」


「それでお願いします」


「はい。かしこまりました」


皆を呼ぶと一度清算してもらう。


「後、提案があるんですけど…」


「提案?分かったわ、周りに聞こえないようにするから奥に来てね」


ホルンさんに連れられて小部屋に入る。


「それで提案の中身は何なの?」


「今ハイロックリザードが壊した街道を直してますよね?」


「そうね。今日もEランクの人が何人も出ているわ」


「その修復の依頼ですけど、岩場側ってまだ手付かずなんですよね?」


「ええ。あっちは元々アルバからの地図作成の時に切り開いたものらしいから、後回しになってるわね」


「私たち帰りに通ってきたんですが、木がたくさん倒れてるんです。その木を街道の修復とか家の建材とかに利用できないかなって思って…」


「なるほど。確かにそっち側に魔物はいないって書いてあったわね。今なら護衛ではなくて調査依頼の冒険者と一緒に木こりや大工を連れていって持って帰ろうってことね」


「流石ホルンさんです!どうでしょうか?」


「一応提案はしてみるわ。ただ、街道の破損が大きいからすぐに出来ない可能性が高いわ。あまり期待しないでね」


「分かりました…」


そんなにうまくいく訳ないか…当てが外れちゃったな。


「ま、まあ、手の空いてる冒険者も今ならいるし、きちんと話しておくから!」


「そうですか!ぜひ、お願いしますね!」


「ええ」


必要な話は終わったので、ホルンさんに挨拶をした後はクラウスさんのところだ。


「クラウスさん居ますか?」


「おう!アスカか」


「はい!今日はこれをお願いします」


私たちはサンドリザードを置いていく。


「あれだけ倒したのにまだ居たのか…」


「今回のは幼体とみられるものもいました」


「そうか…こっちも打撃を受けたが、相手も相当に損害を受けた訳だな。良かったぜ。これであいつらも少しは浮かばれるな」


「クラウスさん…」


「おっと、悪いな。買取だが…幼体は1体俺に売ってくれねぇか?」


「いいですけど…どうしてです?」


「実はな。幼体と出会うことは普段ないんだ。ずっと奥に生息しているらしくてな。俺も肉とかをいくらで買取していいか判断が付かん。もちろん皮についてもだ」


「分かりました。ではいくらで?」


「とりあえず銀貨4枚だな」


「高っ!いいのか!?」


「まあ、希少性から味とかはどうあれおかしくはないからな。では、とりあえずもらうぞ」


「はい…」


そういうとクラウスさんは瞬く間に幼体のサンドリザードを解体してしまった。


「ここからが本番だな。フィアル、何か料理してくれ。味を見たい」


「分かりました。報酬は感想でいいですよ」


「ちゃっかりしてるな」


「まあ、商売してますから」


なるほど、フィアルさんは肉の感想をもらって、店で仕入れるかを確認してるんだ。流石は料理人且つ経営者だ。


横に移動して、たれを取り出したフィアルさんは肉の各部分を少しずつ切り出して漬けていく。少し待って私に声がかかった。


「オーソドックスに焼いてみたいのでアスカ、お願いできますか?感想はあなたにも聞かせてあげますよ」


「ほんとですか!珍しいと聞いて気になってたんです」


えへへ、おいしかったらこの肉こそ買わないとね!鉄板を持ってきてもらって即席のバーベキュー会場だ。野菜とかはないけどね。


ジュ~


いいにおいと焦げ方だ。もうそろそろかな?


「フィアルさん、クラウスさん」


「おお、それじゃ食べるぞ…ゴクン」


クラウスさんの大きい口に小さい肉が放り込まれた。


「ん…うまい!なんといってもやわらかいな。それと幼体は余り肉などを食べないようだ。臭みもまるでない。煮込みも焼きも何でもいけるぞ!」


「本当ですか?味見しても…」


「ああ」


パクリとフィアルさんも食べる。いいな~~~。


「これは確かに…。味も濃厚ではないですがどんな味付けでも肉本来の味が残りますね。このたれは少し濃いのですが、それでも負けていません。買いです!」


「じーー、じーーー」


「ア、アスカ、流石にその顔はまずいよ」


「へっ!?何か変な顔だった?」


「思いっきり変な顔だったぞ。後、涎たれてるぞ」


「うそっ!」


手であわてて口元を拭く。あっ、ほんとだ…。気を付けよう。


「後は皮だな。ちょっと伸ばすか…」


鉄の棒を使ってクラウスさんが皮を伸ばしていく。すると、簡単に皮が伸びた。サンドリザードの皮も幼体の時は柔らかいようだ。


「ほう?中々柔らかいな。次は衝撃だな」


ゴンッ


クラウスさんが鉄の棒を皮にたたきつける。皮はちょっと傷がつくけど破れない。


「続いて斬撃と刺突だな」


ナイフでスッと皮を切る。今度は切れてしまった。成体は簡単には切れないから、これはダメかなぁ…。突いても簡単に刺さるようだ。


「後は手触りか…おっ!」


ずっとクラウスさんがさわさわと皮を触っている。どうしたんだろ?


「ふむ。使い道がありそうだ。衝撃にしか強くないが傷は付きにくい。冒険者にとっては実用的ではないが、中々の手触りだ。バッグや財布などに加工するといいだろうな」


なんと!クラウスさんの口から出たのは庶民的な使い道だった。クロコダイルの皮とかの扱いになるのかな?


「しかし、困ったな…」


「どうしてですか?」


リュートが質問する。私にも何が困るのかがわからない。利用できるなら買取価格も上がるしいいことなんでは?


「これが、今後も獲れるのか分からんし、買い手が見つかるかも分からん。値段を決められんな」


肉ならある程度代用も利くので何とか決められるけど、加工素材だとそうもいかないから簡単には決められないらしい。


「安く買って、高く売るとギルドが利益を追求してると言われちまうし、高く買って売れないと不正かと言われかねんしな」


「特例買取を行っては?」


「おおっ、そうか!それにするか!」


「「特例買取?」」


私とノヴァとリュートは聞きなれない言葉に3人で同時に発言した。


「特例買取と言うのは買取基準がないものに対して、ギルド支部ごとにギルドマスターの署名で掲示板へ張り出され、その掲示価格で買い取りをするというものです。レアな物や新たに生息した魔物などの買取に対して臨時に適応されるのです。めったにありませんが」


「それなら、価格を決めても冒険者から反発は出ないだろう。出した時点で事情を察せるからな」


「で、いくらになりそうなんですか?」


「ううむ、それは…」


結局そこで振出しに戻ってしまった。それから5分ほど話したけれど答えは出ず、一応銀貨4枚で買取になった。


「では、素材を売りに出して肉屋と加工品を取り扱っている店に見てもらってから、ジュールに掲示を出してもらうぞ」


「差額が出れば、その分は後日ですね」


「うむ」


「でも、ここで決めちまってもいいのか?」


「構わん。どうせ買取に関しては解体場の責任だしここが一番詳しい。そのわしらでも判断できんのだから、ジュールにもできん。先に話すか後に話すかだ」


「では、皆さん。このお金は使い切らないように気を付けてください。減額もあり得ますから」


「ひとまず肉が銀貨2枚。皮が銀貨2枚だな」


「じゃあ、肉!肉ください!」


「お、おう」


時間がかかったけどお肉を手に入れてほくほくな私だった。



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